ロバート・シラー(Robert Shiller)がニューヨーク・タイムズ紙に記事を寄稿している。
“Today’s Inequality Could Easily Become Tomorrow’s Catastrophe” by Robert Shiller, New York Times:
経済面の格差の拡大が懸念されて久しいが、数十年後には悪夢になってしまっているかもしれない。我々の社会には、格差の拡大をいなす機能が欠けているかもしれないのだ。
・・・(中略)・・・
どういう結果になりそうかを判断するための方法の一つが、過去に何が起こったかを振り返ることだ。・・・(略)・・・ケネス・シーヴ(Kenneth Scheve)と、・・・(略)・・・デイヴィッド・スタサヴェージ(David Stasavage)の二人の共同研究の成果がまとめられた『Taxing the Rich:A History of Fiscal Fairness in the United States and Europe』(邦訳『金持ち課税』)で、恵まれない境遇にある人たちに対して社会がどういう対応を見せたかが探られている――分析の対象になっている国の数は20カ国で、分析の対象になっている期間は200年を超える――。彼らが見出した主要な発見にはガッカリさせられるかもしれない。格差が拡大したり経済的な苦境が厳しさを増したりしても、富裕層への課税は概して強化されずにいたというのだ。
・・・(中略)・・・
シーヴ&スタサヴェージの二人が見出しているように、民主主義国では、租税政策の中身が再分配を強化する方向に一貫して向かっているわけではないし、大半の有権者は自分の利益を最優先して票を投じているわけでもないようなのだ。
・・・(中略)・・・
私が過去に行った聞き取り調査の結果とも整合的だ。その調査では、相続税に焦点が置かれているが、・・・(略)・・・多くの人は、相続財産の3割くらいを税金として徴収するのが公正と判断しているようなのだ。抽象論としては、妥当な線でもあるかもしれない。しかしながら、貧困層だけでなく疲弊する中流層を救う上で、相続財産に30%の税率を課して確保できる税収では足りないようだとしたら、どんな展開が待っているだろう? どんなリアクションが起こるだろうか?
・・・(中略)・・・
アンガス・ディートン(Angus Deaton)は、・・・(略)・・・、 「過去30年にわたる格差のグロテスクな拡大」に言及する中で悲観的な予測をしている。「順風満帆な一部の面々は、己の蓄え(財産)を守るために団結するだろう。己の得になるようなら、大多数を犠牲にしてでも」というのだ。 ロバート・ソロー(Robert M. Solow)は、・・・(略)・・・次のように述べている。「私たちは、所得をがっつりと再分配するのが得意ではないのです」。
・・・(中略)・・・
格差のさらなる拡大に備えるための有効なプランを誰も持ち合わせていないように思える。
・・・(中略)・・・
我々には、世の中を良くする能力が備わっている。これまでに犯した失敗にもかかわらず、希望を失うべきではないのだ。
〔原文:“Today’s Inequality Could Easily Become Tomorrow’s Catastrophe”(Economist’s View, August 26, 2016)〕