ノア・スミス「東京は新しいパリだ」(2023年7月17日)

「しあわせに暮らせる場所は,この世に2つだけ.我が家と,パリだ.」――アーネスト・ヘミングウェイ

地上で最高の都市はどこだろう? 「ニューヨーク市」って答える人がいても,笑い飛ばしたりはしない.いまなお名目上は世界最大の経済大国で金融ハブの役回りをしているニューヨーク市は,他のどこの都市でもかなわないほどの経済力を有しているし,地球上の名もなき数百万もの人々にとって,いまでもあそこは夢の都市だ.「上海」って答えが返ってきたら,ぼくとしては懐疑的になってちょっと口を「へ」の字に曲げてしまうかもしれない.とはいえ,富と権力の中心としていずれ中国が先進諸国を圧倒する定めにあると思ってる人にとっては,上海はなるほど論理的な選択だろうね.

でも,実のところ,最高の都市といったら東京だ.

かくいうぼくは,またまた東京にいくべく支度を調えてるところだ.今年は,これで三度目になる.今度はじめて東京を訪れるっていう友人たちがいて,ちょっと案内してくれないかって頼まれてしまった.そんなの断れっこない.ぼく自身がまるではじめて東京にいくような魔法の体験をちょっとばかり味わうには,これはいい機会だ.一度も東京に行ったことがないって読者は,そろそろ行ってみよう.

言葉を連ねてみても,東京で実際にすごす感覚をぎこちなく手探りしてもらう程度にしかならない.語ろうと思えば,語れなくはない.表参道の静かなバーでココアを頼むと,工芸品みたいなココアが出てくる.その情景は,まるで暖色フィルターでもかけられたかのようだ.桜の花々が咲き誇る神社に隣接した静謐な公園をぶらぶらと散歩してみたり,中年の常連客たちが十八番を熱唱するなか,小さなパブでぎとぎとのフライドチキンにかぶりつきつつ安ビールをすすったり,無料のギャラリーを訪れてみたら多くのプロの展覧会が恥じ入りそうなほど見事な芸術作品をどこかの大学生が展示しているのを見つけたり,静かな花壇を埋め尽くすような花々のカーペットのなかに立って遠くに目をやると木々が立ち並ぶシルエットの向こうに真新しい摩天楼がそびえていたり, ランタンに照らされ丸石で舗装された狭い路地裏をどうにかこうにか通り抜けた先で,〔立ち飲み居酒屋によくあるスタイルで〕樽の上で食事したり――そういう経験を語ってもいい.

いま挙げたのは,どれもぼくが前回の旅行でやったことだ.べつに,とりたてて珍しい体験でも特筆すべき経験でもない.どれも,東京で暮らす日々のほんの一端だ.そして,東京での生活は,なんだかプカプカと流れていくように感じられることもある.1981年のとある小説のタイトルにあるように,「なんとなく,クリスタル」だ (“inexplicably crystalline“).

いまの東京は1981年の頃とはちがうし,20年ほど前に大学生だったぼくがはじめて東京に来て目を見開いて口をぽかんとさせてた頃からも変わってる.東京は生きた結晶で,新たな物体がひっきりなしに継ぎ足されていく塊だ――新しいビル,新しい文化,新しい体験が,絶えず現れては東京という塊にびたびたくっついていく.前に,春の東京を訪れたとき,友人の住宅の近くに新しい摩天楼が建設中だった.そのときは10階ほどの高さだったのが,秋にまたやってきたときにはもう完成していて,営業を開始してまだ汚れ一つないそこで紅茶を飲んでるぼくがいた.

ひとつチャートを見てもらうと役立つかもしれない:

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Source: James Gleeson

多くの大都市は,みずからを展示物にした博物館になっていく.新しい変化・発展がないことが,かつての栄華の日々へのオマージュになる.東京は,いっこうにそんな様子を見せない.高齢化が進み経済の停滞した国にありながら,東京はみずからを鼓舞して,東京だからこそできることを次々に切り開いていく.

東京のすばらしいところはたくさんあるけれど,その筆頭は,建築環境だ.

【続きは『ウィーブが日本を救うーー日本大好きエコノミストの経済論』でご覧ください。】

[Noah Smith, “Tokyo is the new Paris,” Noahpinion, July 17, 2023; translation by optical_frog]

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