アラン・ファースト(Alan Furst)の件で、ポール・クルーグマン(Paul Krugman)から唐突にメールが送られてきた。
3年か4年くらい前に、(ニュージャージー州の)トレントン駅の売店(ニューススタンド)でアラン・ファーストの作品に出くわしたことがある。あの時の経験を踏まえて、いくつか教訓を引き出せると思う。
背景情報:トレントン駅は、惨(みじ)めなほどオンボロでちっぽけな場所だけれど、僕にとっては世界への入り口になっている。アムトラック(全米鉄道旅客公社)の電車の多くがトレントン駅では停まるけど、プリンストン・ジャンクション駅では停まってくれないからだ。駅の売店(ニューススタンド)もこれまたちっぽけで、売られている本は精々(せいぜい)50冊くらい。 でも、誰が選んでるのかわからないけど、奇抜な品揃えでかなりいいセンスなんだ。2002年頃だったと思うけど、発売されたばかりってわけでもないのに、 (アラン・ファーストの)『Dark Star』も売られてたんだ。
自分の力だけでは、ファーストの作品には絶対に巡り合えなかったと思う。あの時は、スパイスリラーものにハマってさえいなかったし。Amazonで検索していてファーストに辿り着くってことも絶対にあり得なかったと思う。Amazonを(ブラウザで)開いたって、自分の好みの幅は広がりやしない。自分の好みを再確認して終わるだけだ。
教訓を二つほど:セレンディピティ(幸運な偶然)を求めて、たまにはデタラメに本を選んでみるといい。トレントン駅に寄る機会があったら、売店を覗いてみるといい。たぶん嬉しい驚きが待っているだろうから。
社会学者のマーク・グラノヴェッター(Mark Granovetter)が言うところの「弱い紐帯の強さ」ともつながってきそうな話だ。グラノヴェッターによると、深い仲の誰かを経由して新たな働き口が見つかる可能性は低いという。なぜなら、あなたはその仲がいい誰かが知っているあれこれについてよく知っているし、その誰かはあなたが知っているあれこれについてよく知っているからだ。お互いに持っている知識や情報が被(かぶ)りに被っているからだ。新たな働き口に関する有益な情報は、(友人の友人とかいう)そこまで深い仲じゃない相手から得られる可能性が高いのだ。なぜなら、お互いに持っている知識や情報がそこまで被っていないからだ。
〔原文:“Weaknesses of Collaborative Distributed Filtering, Espionage Novels, and the Trenton Train Station”(Grasping Reality on TypePad, June 7, 2005)〕