●Tyler Cowen, “What is the biggest breakthrough in economics over the last fifty years?”(Marginal Revolution, September 14, 2004)
過去50年における経済学上の一番のブレイクスルーは何だろう? ノーベル経済学賞受賞者の面々の回答はこちら [1] 訳注;リンク切れ。。一部を紹介しておくと、ミルトン・フリードマンは、「インフレーションは貨幣的な現象である」という考えが広く受け入れられたことを候補に挙げている。バーノン・スミスは、ハイエクの業績に言及している。
私なりの意見を述べさせてもらうと、「インセンティブ」というアイデアの厳密にして徹底的な応用が試みられたことが一番のブレイクスルーだと思う。公共選択論「革命」しかり。プリンシパル=エージェント理論しかり。「法と経済学」(の大部分)しかり。計画経済の破綻(pdf)にしたって無関係じゃないというのが私の考えだ(「知識」の問題よりも「インセンティブ」の問題の方が重要度が高いのだ)。「インセンティブ」というアイデアの核となる部分については、アダム・スミスやアリストテレスにまで遡れるのは間違いないが、1950年以降のアメリカン・エコノミック・レビュー(AER)誌を年代順に読んでいったら、どれほど遠くまでやってきたかがわかるだろう。
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●Tyler Cowen, “Best economics paper of 1958”(Marginal Revolution, June 17, 2008)
レオナルド・モナステリオ(Leonardo Monasterio)が問うている。
出版(あるいは、学術誌に掲載)されてから今年(2008年)で50周年を迎える書籍ないしは論文の中で――ただし、経済学の分野に限定――、「これこそ真っ先に讃えるべき偉業」と呼べるのはどれだろうか? 計量経済史が専門の私が選ぶとすれば、もちろんあの論文だ。「クリオメトリックス(計量経済史)革命」の端緒を開いたコンラッド&メイヤー論文だ。
●Alfred H. Conrad&John R. Meyer, “The Economics of Slavery in the Ante Bellum South”(The Journal of Political Economy, Vol. 66, No. 2 (Apr., 1958), pp. 95-130)
他にライバルはいるだろうか?
ライバルの筆頭は、「資本構成の無関連命題」――いわゆる「モジリアーニ=ミラー定理」――を提唱したモジリアーニ&ミラー論文(AER誌に掲載)か、サミュエルソンの「世代重複モデル」論文(JPE誌に掲載)だろう。個人的に順位をつけるなら、一位はモジリアーニ&ミラー論文で、二位はコンラッド&メイヤー論文だ。他に何か見逃してないだろうか? ゲーム理論に関するトーマス・シェリングの有名な論文のどれかが学術誌に掲載されたのも1958年だったような気もするが、どうだったろうか?
戦後のアメリカ経済学が積み上げた成果は、あっぱれと言うしかない。第二次世界大戦を目の前にして、多くの思想家たち(フリードマン、サミュエルソン、シェリング等々)は、世の大問題(big problems)と格闘した。そのようにして、実社会と触れ合う機会を得た。それと同時に、定量的にものを考える傾向が強まって、テクニカルな分析手法の開発が進められた。とは言え、(「狭く深く」一辺倒だったわけではなく)「広さ」もある程度は尊重されていたのだ。
References
↑1 | 訳注;リンク切れ。 |
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