タイラー・コーエン 「休暇の行動経済学」(2010年6月29日)

●Tyler Cowen, “What is vacation good for?”(Marginal Revolution, June 29, 2010)


ドレイク・ベネット(Drake Bennett)が興味深い記事を書いている。

トンプソン&ミッチェルの二人の調査結果によると [1] … Continue reading、3タイプの体験のいずれについても、満足度が一番低かったのは「休暇の最中(休暇に入ってそのことを体験している最中)」であることが判明した。休暇に入る前は、この先に待っている休みが楽しみでならずワクワクする一方で、休暇が終わってから数日間は、休みの間に体験したことが好意的に思い出されたのだ。しかしながら、休暇を過ごしている最中は、期待が外れて失望したり、どこに行って何をしたらいいか頭を悩ましたり、休みを楽しまなくちゃいけないとプレッシャーを感じたりして、泥沼にハマってしまうのだ。

つい最近オランダで行われたばかりの研究 [2]訳注;おそらく次の論文がそれ。 ●Jeroen Nawijn&Miquelle A. Marchand&Ruut Veenhoven&Ad J. Vingerhoets, “Vacationers Happier, but Most not Happier After a Holiday”(Applied … Continue readingでは、もっと目を見張るような結果が見出されている。休暇をとって旅行に行くことが幸福度にいかなる影響を及ぼすかがシンプルな3つの質問への答えに照らして測られているが、旅行に出かける前はどうかというと、幸福度が大きく高まることが見出されている。その一方で、旅行から戻ってきた後はどうかというと、幸福度にこれといった影響はないようだという。つまりは、記憶(memory) [3] 訳注;体験した出来事を想起すること よりも予想(anticipation) [4] 訳注;これから起こる出来事に思いを巡らすこと の方が強い力を持っている可能性があるようなのだ。

個人的にお気に入りの箇所も引用しておこう。

環境にいとも容易(たやす)く適応してしまう傾向 [5] 訳注;快適そのものな休暇を過ごしていても、すぐにそのことに慣れてしまって喜びを感じられなくなる、という意味。に対抗するための最も効果的な手というのは、この上なく直観に反するように思える手でもある。休みを細かく切り刻むのだ。日常を持ち込んできて、休みを中断するのだ。

言い換えると、休みに仕事を持ち込むわけだ。私もかねてより実践していて、「仕事付きの休みをとる」(“taking a work vacation”)と命名している。

情報を寄せてくれた David Archer に感謝。

References

References
1 訳注;この前段の文章を以下に訳しておく。「休暇に対してどのような感情が抱かれているかを調査した研究によると、休暇中の体験は、好意的に――それも、休暇の最中に感じられていたよりも好意的に――思い出される傾向にあるという。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で心理学を研究するレイ・トンプソン(Leigh Thompson)と、ワシントン大学フォスター経営大学院で心理学を研究するテレンス・ミッチェル(Terence Mitchell)の二人が1997年に行った研究がそれだが、トンプソン&ミッチェルの二人は、3タイプの体験――ヨーロッパへの旅行、感謝祭、カリフォルニアで行われた自転車レースへの参加――を対象にして、休暇に入る前/休暇の最中/休暇が終わった後にそれぞれどんな感情が抱かれたかを調査している」。
2 訳注;おそらく次の論文がそれ。 ●Jeroen Nawijn&Miquelle A. Marchand&Ruut Veenhoven&Ad J. Vingerhoets, “Vacationers Happier, but Most not Happier After a Holiday”(Applied Research in Quality of Life, March 2010, Volume 5, Issue 1, pp. 35-47)
3 訳注;体験した出来事を想起すること
4 訳注;これから起こる出来事に思いを巡らすこと
5 訳注;快適そのものな休暇を過ごしていても、すぐにそのことに慣れてしまって喜びを感じられなくなる、という意味。
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