タイラー・コーエン 「良い知らせを周囲に明かすと損することがある?」(2006年2月17日)

良い知らせを周囲に漏らさずに隠しておいた方がいい場合もある。

リック・ハーボー(Rick Harbaugh)&セオドア・トー(Theodore To)の二人の共著論文のアブストラクト(要旨)より [1]訳注;コーエンは、この話題を2007年に上梓した『Discover Your Inner Economist』でも取り上げている。該当箇所(pp. … Continue reading

自らに関する良い知らせを周囲に明かすのは、いつだって賢明な策なのだろうか? 逆説的な話だが、良い知らせを周囲に明かすと、能力の低い人と見られてしまう可能性がある。本稿で得られた分析結果によると、能力の低い人ほど、良い知らせを周囲に明かそうとしたがる傾向にあるからだ。能力がそこまで高くなくても良い知らせにありつけたり、誰が高い能力の持ち主であるかが周り(情報の受け手)にあらかじめ知られているようであれば、良い知らせが本人の口から一切明かされずにいるのが均衡になる。良い知らせを言い触らすのに必死であるかのように見られるのを恐れるのは、おかしくなんかないのだ。そんな恐れを和(やわ)らげる一助として、第三者に代わりに情報を明かしてもらうようにしたり、情報の開示を全員に義務付けたりするという手があろう。大学の経済学部で教えている教員が留守番電話の応答メッセージやシラバス(講義要綱)で「博士」や「教授」という肩書を使っているのはどんな時かを調査して、理論的な予測が妥当かどうかの検証も試みている。

論文はこちら(pdf)。ハーボーのホームページには、興味深い論文がたくさんアップされている。その中でも一番目を引かれるのが、 「学校なんてくだらねえ」(“Too Cool for School”)と題された論文で、 「カウンター・シグナリング」がテーマになっている(「カウンター・シグナリング」については、研究があまり進んでいない)。ハーボーが他の論文で取り組んでいる問いの一部を以下に挙げておこう。強豪チームがトーナメント戦で最終ラウンドまで全力を出さずにいるのはなぜなのか? ステータスをめぐる競争(他人よりも高い地位を目指す競争)が繰り広げられると、利得が見込める局面ではリスク回避的な振る舞いが目に付き、損失が見込まれる局面ではリスク愛好的な振る舞いが目に付く可能性があるのはなぜなのか?

ハーボーは、過小評価されている経済学者の一人と言えよう。「ハーボーっていう経済学者がいて、こんな研究をやってるよ」って教えてくれたのはロビン・ハンソン(Robin Hanson)だ。感謝する次第。

結論:著者の名前の隣に(博士号取得者であることを示す)「Ph.D.」という肩書が並記してあるを見かけたら、その場から立ち去るように。グレゴリー・ストック(Gregory Stock)の『The Book of Questions』は、珍しい例外 [2] 訳注;著者の名前の隣に「Ph.D.」という肩書が並記されているにもかかわらず、良書という意味。なのだ。


〔原文:“When is it bad to disclose good news?”(Marginal Revolution, February 17, 2006)〕

References

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1 訳注;コーエンは、この話題を2007年に上梓した『Discover Your Inner Economist』でも取り上げている。該当箇所(pp. 109)を引用しておこう(以下は拙訳)。

「良い知らせを周囲に明かすのは、どんな時でも得策だとは限らない。私の話になるが、この本を書かないかと出版社から連絡が来た時に、そのことを触れ回ったかというと、そうじゃなかった。ほんの一握りの人にしか伝えなかったのだ。

逆説的な話だが、良い知らせを周りに明かすと、能力の低い人と見られてしまう可能性がある。良い知らせを言い触らすのに必死であるかのように周りの人の目に映ってしまうと、『あの人が良い知らせに巡り合えるのは滅多にないんだろうな』、『あの人にとって良い知らせっていうのは、思いがけない幸運なんだろうな』なんていう風に思われてしまうおそれがある。マイケル・ジョーダンが試合で30点取るたびに友人にそのことを伝えなきゃって思うだろうか? そうする必要があるだろうか? チームから追い出されそうな選手だったり、今にもトレードに出されそうな選手だったら、試合で30点取ったことをコーチやGM(ゼネラルマネージャー)に何度も繰り返し伝えるかもしれない。ビル・ゲイツが仕事を終えて夜に帰宅したら、『今日はたくさん稼いだよ』って奥さんに伝えるだろうか? 伝えないだろうね。

良い知らせがあるたびに一つ残らず明かしたりするべきじゃないのだ。少なくともしばらく黙っていられる余裕があるようなら――例えば、明日にも首を切られそうとかいう状況に置かれていないようなら――、隠しておく(周りに明かさずにいる)べきなのだ。本人が黙っていても、その知らせはどっちみち明らかになる。必要とあらば、公平な第三者に代わりに明かしてもらえばいい。あなたの良い知らせを第三者の口から聞いた面々は、ひどく驚くことだろう。『あいつは、なんて謙虚なんだ!』とか、『あいつは、他にどんな良い知らせを隠し持っているんだろう?』とかって思われることだろう。」

2 訳注;著者の名前の隣に「Ph.D.」という肩書が並記されているにもかかわらず、良書という意味。
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