Why Are Democrats Bragging About Plunging the Private Sector into Deficit?
Posted by Stephanie Kelton
Aug 2, 2022
民主党はインフレと戦うために財政赤字を削り続けようとしているが、景気後退を防ごうともしている。頑張ってね。
先週、私は偶然にも、CNBCのSquawk Boxでバイデン大統領の経済顧問の一人、ジャレッド・バーンスタインのインタビューを目にした。インタビュー内容の大半は、最近発表された景気後退に関するホワイトハウスの声明ーー現状は景気後退に陥っているのか、それとも景気後退に向かっているのか、あるいは景気後退を回避できる立場にあるのかーーに終始していたが、番組のホストの一人が、あなたや政権の他のメンバーは、民主党内の「極左」議員を政策運営にもうこれ以上参加させるつもりはないですよね? と訪ねたことで、議論はなんとも奇怪な内容にそれていった。
バーンスタインは、興味深いを回答を行っている。
彼は、バイデン政権は“ウォーク”政治〔過激なポリコレ活動〕として非常に話題となっているものに傾倒しておらず、党内異端派に積極的に対抗し、極左ではない一例として、財政赤字の削減を挙げたのだ。
バーンスタインは、今年度の政府赤字が77%(1兆7000億ドル)減少したことをアピールし、党内の一部エコノミストの助言に反して、ホワイトハウスはさらに大きな財政赤字削減を目指していると付け加えた。彼が、どのエコノミストを念頭に置いているのかを推測するつもりはないし、それはどうでもいい。私は、財政赤字を削減しようとする政権には批判的だ。そして、これは政治的イデオロギーの問題ではないし、そうすべきでないと考えている。
民主党による歴史的な財政赤字縮小の自慢を、見当違いだと私が考えている理由を説明するために、部門別財政収支という政治と関係のないレンズを通して、考察してみよう。
部門別財政収支
部門別財政収支(sector financial balances:SFB)は、MMTに不可欠なものだ。このフレームワークは、かつてケンブリッジ大学応用経済学部の学部長だった永遠の異端派、ウェイン・ゴドリーによって有名となった。ゴドリーは、1992年の英ポンドの暴落を正確に予測したことで、イギリス財務省に助言を行う「6人の賢者」と呼ばれるグループのメンバーに任命された。その後、彼はレヴィ経済研究所の特別研究員となり、アメリカ経済の分析に関心を移し、〔専門家としての〕長いキャリアをアメリカで終えた。私は、幸運にも、レヴィ研究所に在籍していた時期があり、博士論文の指導者をゴドリーとする幸運に恵まれた。
ゴドリーは、経済はバランスシート(賃借対照表)によって連動するシステムとしてモデル化できるとの考えに基づいて、経済モデルを構築した。経済についての完全で首尾一貫した話をするには、あらゆる部門間での支払いの流れ(そしてその流れが金融資産のストックとして蓄積されること)を説明することが重要であると彼は考えたのだ。
ストックー・フロー一貫モデルというレンズを通して経済を見ることで、ゴドリーは、他人には見えない問題をよく予測した。たとえば、1990年年代の後半に、民主党と共和党は財政黒字の実現を喜び、議会予算局(CBO)が将来黒字を予測していた時、ゴドリーは財政黒字に伴う民間部門の金融ポジションの悪化を指摘し、CBO予測の整合性に疑問を投げかけた。
ゴドリーのモデルを理解するための最も簡単な方法は、経済をぴったりと組み合うパズルのピースのように考えることだ。まず、大きな3つのピースを見てみよう。経済を明確に3つの「部門(セクター)」にすると以下となる。
1.アメリカの民間部門
2.米国政府部門
3.海外部門
各部門は、ある一定期間において、(収入が支出より大きい)純流入だと金融黒字、(収入より支出が大きい)純流出だと金融赤字となる。ゴドリーがよく私に言っていたように、「あらゆる支払いは、どこからから来なければならないし、どこかに行かなければならない」。
この「行き(to)」と「来る(from)」の両方を計算すれば、最終的に全てがゼロとなる。ある部門の黒字は、どんなことがあっても他の部門の赤字によって相殺されなければならないからだ。地球上全ての国が、同時に貿易黒字(あるいは赤字)になることがありえないように、3つの部門全てが同時に黒字(あるいは赤字)になることはできない
部門別収支モデルの利点は、事実上あらゆるマクロ経済学の教科書に載っている会計上の恒等式から導けることにある。
(民間貯蓄-投資)=(政府支出-課税)+(輸出-輸入) [1] … Continue reading
簡略化すると以下となる
(S — I) = (G — T) + (X — M)
下の図は、MMT派の経済学者スコット・フルワイラーによるもので、ゴドリーの3部門モデルを視覚化したものだ。これがどのように成り立っているのかを理解するために、以下のように考えてみてほしい。ストップウォッチを片手に、ボタンを押してタイマーをスタートさせる。記録を開始した瞬間から、ドル建ての金融資産は〔部門間で〕入れ替わりを繰り返す。ストップウォッチを止めると、その間の、(各)部門の純流出入を計算し、それぞれが純流入(黒字)となったのか、純流出(赤字)となったのかがわかる。
上式の左辺(S-I)は、「民間部門の純貯蓄」となる。この項目が、正であれば、民間部門は純貯蓄であることを意味している。つまり黒字であり、純金融資産を増やしている状態となる。負であれば、民間部門は純借入であることを意味している。つまり、赤字であり、純金融資産を減らしている状態となる。
ゴドリーは、このフレームワークを使って、二つの重要な見解を示した。第一に、国内の民間部門、つまりアメリカ経済の家計と企業の合計は、通常は黒字状態にある事実だ。これは、民間部門は、大抵の場合で収入よりも支出を少なくすることを選好する事実と、民間部門で債務が増加する期間は良くない結果となる傾向に起因している。つまり、民間部門の赤字は稀で短命に終わる傾向があるということだ。
MMTのレンズに親しんでいる人なら、ゴドリーが民間部門の赤字について何を考えていたか分かるだろう。通貨発行主体である政府は、財政の維持において手持ちの金融資産の蓄積を心配する必要はないが、通貨のユーザーは心配しなければならない。重要なのが、民間部門は、〔他の部門の〕財政黒字の源泉となりえない事実だ。
民間部門である商業銀行は、家計や民間企業に融資することができる。そして、その融資によって、新たな銀行預金が創出され、マネーサプライ(M1)は増加する。しかし、融資は、(銀行のバランスシート上の)資産と、(借り手のバランスシート上の)負債の両方として存在する。同じように、預金は(銀行のバランスシート上の)負債と、(借り手のバランスシート上の)資産の両方として存在する。これら全ては「相殺」されるため、〔民間部門での融資から〕純金融資産は発生しない。
アメリカの民間部門が純金融資産の獲得、つまり金融黒字を達成するには、「外部」からの純金融支出を受け取らなければならない。理論的には、民間部門は、政府部門か海外部門(あるいは両者の組み合わせ)からの純資金流入によって、黒字化を達成できる。もっとも、現実的には、政府の財政赤字でしか達成できない。
なぜなら、アメリカは世界の他の国々との恒常的な経常収支赤字を抱えているからだ。つまり、アメリカの貿易相手国の経常収支は黒字となっている(下図緑色)。過去の数十年間、アメリカの貿易赤字は拡大、縮小、拡大を経てきている。貿易赤字は縮小することもあるが、黒字になったことはない。また、赤字の解消は当分はありそうにない。アメリカは何世代にもわたって経常赤字を続けている。これが変わらない限り、アメリカでは、民間部門が赤字にならないようにするには、政府部門は経常赤字より巨額の赤字を出し続けるしかない。
民間部門の金融黒字は不況リスクを軽減する
ストック・フロー一貫モデルのフレームワークは、会計による恒等式から生まれたものだが、単に過去のデータをストック・フローで一貫的に提示する以上に有用なものとなっている。ゴドリーは、このフレームワークを用いて、経済が時間の経過とともに、どのように変化するかを予測することでキャリアを積んできた。ゴールドマン・サックスのチーフ・エコノミスト、ヤン・ハッツィアスなども同じ予測を行っている。以下は、そのハッツィアスのコメントだ。
私は長い間、特に民間部門の金融収支を見ることに魅了されてきました。何年か前に亡くなったウェイン・ゴドリーというケンブリッジ大学経済学部の教授がいたのですが、彼は、基本的にこの種のフレームワークを使って、長年に渡ってイギリスやアメリカの景気循環を調べていました。私たちは、1990年代後半からゴドリーの研究に着目し、彼の研究は世界を理解するのに非常に有用だと分かりました。
彼の分析フレームワークには、不確実な情報が多く含まれているため、全てを正確に理解するための秘策を教えてくれるものではありませんが、短期・中期の景気変動を理解するための合理的に組織化されたフレームワークだと私は考えています。
どの場合でも、循環を後押しする金融黒字を削減したい部門や、もっと金融赤字をもっと拡大した部門を必要としています。
これは非常に重要なポイントであり、ほとんどの経済学者(言うまでもなくほとんどの政策立案者)が、端的に理解していない事実ではないかと思う。もう一度言うが、強い経済を維持するには、少なくとも1つの部門は、継続的に収入よりも多くを支出する意志と能力を行使しなければならない。
これが勘所だ。
アメリカでは、その〔赤字主体となる〕「誰か」は、ほとんどの場合で基本的に連邦政府でなければならない。ところが、誰もそれを理解していないようだ!
先週の月曜、ジャレド・バーンスタインは、政府赤字の歴史的な収縮を自慢した。水曜には、ジョー・マンチン上院議員(民主党、ウェストバージニア州選出)と、チャック・シューマー上院議員(民主党、ニューヨーク州選出)が、財政赤字を3000億ドル以上縮小する計画に合意したと報じられた。木曜には、イエレン財務長官が記者会見し、「私たちは非常に大きな財政的歯止めを実施する時期にいます」と宣言した。その一方で、政府は景気後退のリスクを軽視しようとしている。
いつも短い白髪を引っ張っていたゴドリーが生きていて、この状況を見れば、〔呆れて〕自毛を引き千切っていたに違いない。1990年代、政府の財政収支が〔財政黒字を達成し〕極めて悪い方向に向かっている事実を指摘したのは、ほぼゴドリーだけだった。ウォーレン・モズラーが常々言っているように、政府の赤字は、民間部門の信用構造を支えるのに十分な規模でなければならない。上記で引用したハッツィアスによる投資家向けの記事を読めば、彼も全く同じ指摘をしていることがわかるだろう。
他にも、〔格付会社〕フィッチ・レーティングの短いが非常に優れた(パンデミック前の)記事を読めば、ストック・フロー一貫モデルのフレームワークで不況リスクをどう考えればよいか分かるだろう。以下はその抜粋だ。
戦後、アメリカの景気後退のほとんどで、民間部門での金融不均衡が悪化が先行として起こっている…。
現在アメリカの長期にかけてのGDPの拡大は、目前の景気後退リスクが拡大している事実についての、重要な市場の声を生み出している。
過去のアメリカでの景気後退の前兆では、基本的に企業部門か家計部門のいずれかが大幅に金融赤字となることが典型例となっている。
MMTがよくやるように、フィッチ社は民間部門を家計(青)と非金融法人(赤)に分解している。フィッチ社の主張は、MMT派の経済学者が何十年も前から主張した事実と同じだ。景気後退の前には、民間部門の金融ポジションが悪化〔赤字化〕する傾向にあるのだ。
以上のグラフを見てみると、1960年代後半、1980年代前半、2001年の景気後退は、非金融法人部門の大幅な悪化が先行していること、2008年の景気後退の前には、家計部門が前例のない規模での赤字に転じていることが分かる
では、現状はどうなっているのだろうか?
目を凝らしてみれば、アメリカの民間部門は2022年の第1四半期に赤字に転落していることがわかる。目を凝らしたくない人は、画像をクリックすると拡大表示できる。民間部門の金融ポジションが急速に悪化している事実に着目してほしい。
2021年の初頭では、3部門の収支は以下のようになっていた。
政府部門全体(連邦/州/地方)は大幅な赤字で、民間部門は(全体では)GDPの16.5%に相当する巨額の財政黒字を計上している。これは歴史的に見ても「正常」な数字ではなかった。コロナウイルスのパンデミックによる、貯蓄需要パターンの変化に、家計や企業への何兆ドルもの財政支援策が組み合わされ、貯蓄率を大幅に押し上げたことで生じている。
しかし、この1年間で何が起こったか見てみてほしい。2022年の第1四半期には、政府の赤字は、もはや民間部門の黒字を支えられるほどの規模でなくなってしまっている。政府の財政収支は、景気拡大期には税収が増え、景気後退期には税収が減るという、景気循環的な傾向があるため、財政赤字の大幅縮小はある程度までは自然に起こった現象だ。しかし、その縮小のほとんどは、2021年のパンデミック対策としての財政支援が大幅に打ち切られた結果に起因している。
確かに、2022年の第1四半期のデータまでしか入手できていない。しかし、ゴドリー、ハッツィアス、フィッチと同じように、ストック・フロー一貫モデルのフレームワークを使ってみれば、今後数年間にかけて、さらなる財政赤字の削減によって引き起こされるであろう結果を推察することができる。ホワイトハウスによると、今年度の連邦政府の赤字は1兆7000億ドル減少する見込みだ。さらに、2022年のインフレ抑制法がこのままの形で可決されれば、さらなる財政引き締め政策が実施されるだろう。
バイデン大統領や民主党議員の多くは、「財政赤字を削減すれば、インフレを抑制できる」と主張している。しかし、民間部門の金融ポジションに悪影響を与えることなく、赤字削減によるインフレ抑制が可能だと主張するのは困難だと思われる。
実質GDPはすでに2四半期連続で減少している。そして、最近の景気後退の1/3は、政府支出の減少によってもたらされている。
民主党(と政治評論家)は、インフレと戦うための、財政赤字の急速な減少を誇っており、さらなる赤字削減を受け入れる用意もあるとしている。しかし、民間部門を金融赤字に転落させるリスクを考慮せずに行うべきではない。
References
↑1 | 原注1:正確には、貿易収支ではなく、経常収支を用いる。国によっては、この違いが重要になっている場合がある。通常、アメリカではこの差はそれほど重要ではないので、ストック・フロー一貫モデルの方程式を書く際に簡略化することがある。モデルの完全なバージョンは以下のように記述できる。
民間部門の黒字または純貯蓄=政府赤字+経常収支 |
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