ジェイソン・コリンズ 「長い目で見ると、労働時間が減っているのはなぜ?」(2012年4月20日)

「地位財」の獲得を通じた張り合いが繰り広げられていたら労働時間も長くなりそうなのに、過去150年を通じて労働時間は減少傾向にある。それはなぜなのだろう?
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/24535084

「地位財」の獲得を通じた張り合いが人間の行動を突き動かしている主要な原動力だというロバート・フランク(Robert Frank)らの説には、好意的なつもりだ。ところで、「地位財」の獲得を通じた張り合いが繰り広げられていたら、(周りに負けない「地位財」を手に入れるためにはそれなりに収入を稼がなくてはならないので)いきおい労働時間も長くなる――少なくとも、周りよりも労働時間が長くなる――・・・はずなのだが、このところの労働時間のトレンドは、フランクらの説とうまく嚙(か)み合わないようだ。

ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)が「 人類が犯した史上最大の過ちは『農業』」と語る理由に絡んでくるのが労働時間だ。ダイアモンド曰く、

〔南アフリカのカラハリ砂漠に住む狩猟採集民の〕ブッシュマンは、食べ物を探すために、週に平均で12~19時間だけしかかけない。タンザニアのハヅァ族だと、食べ物を探すために費やす時間は、週に平均で14時間未満だ。農業を営んでいる近隣の部族を真似ないのはなぜなのかと問われたブッシュマンの一人は、「モンゴンゴの実がそこら中になっているっていうのに、どうして農業なんてやらなきゃいけないんだ?」と答えたという。

ダイアモンドの言い分を裏付ける研究はたくさんある。ハンス=ヨアキム・ボス(Hans-Joachim Voth)が『Time and Work in England 1750-1830』で要約しているように、狩猟採集時代の1日の平均労働時間は4.9時間だったが、狩猟採集と農業が掛け持ちされるようになると、1日の平均労働時間は7.4時間になり、定住農業が普及すると1日の平均労働時間は10.9時間へと伸びている。狩猟採集から農業に移行するのに伴って、1日の労働時間が長くなっているのだ。

ボスも指摘しているように、産業革命の近辺で労働時間はさらに伸びている。ロンドン民を例にとると、1750年代においては一年間の平均労働時間は2,288時間だったが、1800~1803年および1830年においては一年間の平均労働時間は3,366時間に伸びている。一年間の労働時間が3,366時間ということは、週に64時間くらい働いている計算になる。

ところが、それが労働時間のピーク(頂点)だったようだ。今の時点でアメリカの労働者がどのくらい長く働いているかというと、週の平均労働時間は35時間くらいだ。韓国を例外として、先進国で週の平均労働時間が40時間を超えている国はない。労働時間は、過去150年を通じて概して減少傾向にあるのだ。

「地位財」の獲得を通じた張り合い――我が子をいい学校に入れるとか、高級住宅街に家を建てるとか――が繰り広げられているのに、長い目で見て労働時間が減っているのはなぜなのだろう? 「地位財」の獲得を通じた張り合い説に拘(こだわ)るのであれば、今の我々が狩猟採集民よりも長い時間働いている事実だけに目を向けるのではなく、労働時間が過去150年を通じて減少傾向にある事実にも真っ向から向き合う必要があろう。


〔原文:“Why do we work less?”(Jason Collins blog,  April 20, 2012)〕

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