タイラー・コーエン 「大部(たいぶ)の本がこんなにもたくさん出回っているのはなぜ?」(2006年12月15日)

●Tyler Cowen, “Why so many long books?”(Marginal Revolution, December 15, 2006)


本ブログの熱心な読者の一人が次のように問うている

肉付きがいい本――さぞかし麗(うるわ)しくて、中身もぎっしり詰まっているに違いない本――がこんなにもたくさん出回っているのは、なぜなのだろうか?

デビッド・サッチャーからも、別の機会に似たような質問が寄せられたことがある。答えは至ってシンプルだ。大抵の人は、買った本を読んだりしない。本を手にするのに伴って醸成される(「私は知的な人間だ」とかいう〕セルフイメージ(自己像)が目当てで、本を買っているのだ [1]訳注;この点については、本サイトで訳出されている次の記事も参照されたい。 ●タイラー・コーエン … Continue reading。お金を出す(本を買う)のと引き換えに、セルフイメージの構築に役立つ何かを得ている気でいるのだ。そんな顧客の需要に応じるために、出版社も著者に対してそれなりの分量の本を書くように求める。その結果として、時として「肉付きがいい本」が生まれることになるわけだ。

ところで、最近の見逃せない傾向として、本の分量が削られつつあるようだ。ブログもそんな「短めの本」のうちの一つだ。値段もずっと安い。本ブログの熱心な読者の一人から、次のような称賛の言葉が寄せられたことがある。「こちらのブログで読めるよりも長い文章に浸りたいと思ったら、本か何かを読むことでしょう」。場合によっては、「何も読まない」のもありかもしれない。

(追記)マーケティング(本の宣伝・広告)にかかる費用は、本のサイズ(分量)にかかわらず、大体同じで変わらないこともおさえておくべきだろう。出版社がマーケティングにかける費用は、趨勢として昔よりも増えているようだが、そうなるとアルチャン=アレン定理(pdf)が説くように [2] … Continue reading、高い利幅(マージン)を求めて本のサイズ(分量)もデカくなるだろう(わずか1ペニーの値段の本を売るために、巨額の広告宣伝費をかける阿呆がどこにいる?)。

References

References
1 訳注;この点については、本サイトで訳出されている次の記事も参照されたい。 ●タイラー・コーエン 「本を買う理由は?【イギリス版】」(2017年12月12日)
2 訳注;「アルチャン=アレン定理」というのは、輸送費などの「固定費」が質の異なる二つの財(高品質と低品質)に対する消費者の選択に及ぼす意外な影響に関する定理。例えば、ブドウの産地であるカリフォルニアでは、高品質(選りすぐり)のブドウが1ポンドあたり10セントで売られている一方で、低品質(標準)のブドウが1ポンドあたり5セントで売られているとしよう。この場合、カリフォルニアでは、高品質のブドウは、低品質のブドウの2倍の値段ということになる。ところで、ブドウは、産地だけで味わわれるとは限らない。ニューヨークにブドウを輸送して売ろうという動きも出てくるかもしれない。ブドウをカリフォルニアからニューヨークまで輸送するためには1ポンドあたり5セントの費用(輸送費)がかかるとして、輸送費はブドウの売値にそのまま上乗せされるとすると、ニューヨークでは、高品質のブドウは1ポンドあたり15セント、低品質のブドウは1ポンドあたり10セントで売られることになる。つまりは、ニューヨークでは、高品質のブドウは、低品質のブドウの1.5倍の値段ということになる。言い換えると、ニューヨークでは、カリフォルニアにおいてよりも、高品質のブドウの相対価格が低くなり(低品質のブドウに比べての割高感が薄く)、その結果として、高品質のブドウの売れ行きは、産地であるカリフォルニアにおいてよりもニューヨークにおいての方がいいもしれない。本文では、アルチャン=アレン定理を応用して、(輸送費ではなく)マーケティング費用が本のサイズ(および、本の価格)に及ぼす影響が論じられている。
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