本稿では、女性の労働参加(労働供給)に起きた変化が ①労働生産性(労働者1人あたりの生産量)の伸び率、②TFP(全要素生産性)の伸び率 [1] 訳注;実質GDP(生産量)の伸び率のうち、労働や資本といった生産要素の投入量の変化によって説明できない部分。、③景気循環の特徴にいかなる影響を及ぼしたかを検証した。まずはじめに、女性の労働供給の増加(労働参加率の上昇、労働時間の増加)は、1970年代に関しては一国全体の労働生産性の伸びの鈍化に一役買うことなったようだ。しかしながら、1980年代初頭以降になると、(女性の教育水準が上がり、女性が仕事の経験を積むにつれて)女性の労働生産性が男性の労働生産性に近づいたおかげもあって、女性の労働供給の増加はTFP(全要素生産性)の伸び率を引き上げるのに大いに貢献したようである。次に、「大平穏期」に景気と総労働時間の連動性が弱まった [2] 訳注;景気が良くても悪くても総労働時間がそんなに変わらなくなった、という意味。だけでなく、労働生産性と総労働時間の連動性が弱まった原因の多くは、女性の労働時間が総労働時間に占める割合が高まったおかげである可能性がある。というのも、女性の労働時間は、景気との連動性が薄いからである。最後に、1990年~1991年の不況、2001年の不況、2007年~2009年の不況の後に続いた景気回復が「雇用なき景気回復」となったのも、1990年代後半および2000年代半ばの景気回復局面で総労働時間/GDP成長率/男性の賃金が伸び悩んだのも、1990年代初頭に女性の労働参加率の伸びが止まったことが大いに関係しているようである。1990年代初頭に女性の労働参加率の伸びが止まっていなかったとしたら、米国のマクロ経済のパフォーマンスに大きな違いが生まれていた(もっと良好な結果が得られていた)可能性があるのだ。
ステファニア・アルバネシ(Stefania Albanesi)の最近の論文(NBERワーキングペーパー)のアブストラクト(要旨)より。
〔原文:“Women’s employment has shaped the course of recent business cycles”(Marginal Revolution, March 19, 2019)〕