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キャロル・グラハム 「アメリカの希望の欠如」

アメリカの希望の欠如:豊かな国の貧しさは高くつく

Lack of hope in America: The high costs of being poor in a rich land from VoxEU

2017年7月28日

キャロル・グラハム(Carol Graham)

ブルッキングス研究所のLeo Pasvolskyシニアー

メリーランド大学カレッジパーク校School of Public Policy教授

合衆国の分裂はかつてない程になっています。それを一番分かりやすく表している指標について経済学者は長年にわたって議論してきましたが、それは所得と機会の両方の不平等の急激な増加でしょう。合衆国の不平等の高さは将来の機会(の多さ)を意味しているのだという長く信じられてきた信念がありますが、多くの研究がそれはもはや事実ではない事を示す有力な証拠を提供しています。Chetty et al. (2017)は、両親の所得レベルよりも上へ行ける子供の比率が1940年生まれのコーホートの90%から、1980年生まれについての50%まで低下した事を発見しています。しかし、ジニ係数などの数値指標に基づいた経済学者内部の技術的な議論は一般の議論の中には浸透してはいないようです。

合衆国内の分裂は所得の領域をはるかに越えたものになっており、その幾つかには特に不安を感じさせられます。新著において、私は生活水準(well-bing)の面から不平等の趨勢をかたりました。通常の指標から出発して、厚生の非経済的側面に関する指標、たとえば幸福、ストレス、怒り、そしてもっとも重要である希望などについてのものを利用しています(Graham 2017)。

希望は人々が将来の為の投資を行う動機となる重要なものです。生活水準についての私の以前の研究は、経済的余裕のない人達にとってそれがとりわけ重要である事に光をあてました。彼らにとってそういった投資を行うことは富裕層にとって以上の現在時点での消費の犠牲を必要とします(Grapham et al. 2004)。機会についてのギャップの拡大に加えて、合衆国の豊かさのギャップは信念、希望、そして願望についての不平等の拡大につながってきており、経済的に取り残された人達こそがもっとも希望を持たず、その将来の為の投資を最も行わない人達となるわけです。

二つのアメリカの物語

アメリカには、実のところ、二つあります。所得分布の上層の人達(中産階級のトップも含みます)は次第に異なった生活を送るようになってきており、上流階級へ辿り着く事への障壁は、はっきり目に見える事はなくとも現実に存在しています(Reeves 2017)。上層の人達は未来への高い期待を持ち、自分達や、その子供たちの健康、教育、そして知識の為の投資をより広範に行っています。下層の人達はずっと低い希望を持ち、その日、その日を過ごす生活を送りがちで、日々の苦労、高いストレス、そして貧弱な健康状態に消耗しています。

この二つのアメリカの間の違いを表す指標は多くあります。たとえば教育水準や仕事の質から結婚や投獄の割合、そして寿命。実のところ、将来への信頼の欠如のもっとも明確な証拠は、早すぎる死の顕著な増加です。その唯一ではないものの大きな原因は、Case and Deaton (2017)が説明しているように、中年で教育のない白人の間の避けられたはずの死(自殺や薬品の過剰摂取などによる)の増加です。

これら二つのアメリカの間では使う言葉にすら違いがあります。豊かなアメリカでの一般的な語彙は健康、知識の取得、そして未来への投資を反映しています:iPad、Baby Bjornsフォームローラーベビージョガー、カメラ、そしてマチュピチュのようなエキゾティックな旅行先。貧しいアメリカでの一般的な言葉は、地獄、ストレス、糖尿病、銃、ビデオゲーム、そして非科学的なダイエット(fad diets)といったもので、短期的な視野、日々の苦労、希望の欠如を反映しています(Leonhardt 2015)。

詳細なギャロップデータに基いて、我々は合衆国内の人々、人種、土地の間の顕著な違いを発見しました。驚いたことに、貧しいマイノリティ、特に黒人は貧しい白人よりもずっと希望をもっていました。貧しい黒人は、10ポイントの楽観主義スケールで一ポイント高い確率が貧しい白人よりも三倍ほど高くなっています1 。し、ヒスパニックは貧しい白人よりも1.5倍ほど高くなっています。貧しい黒人は厳しい生活状態を顕著に表す指標であるストレスを日々経験する可能性が貧しい白人の半分ほどであり、貧しいヒスパニックは3分の2ほどになっています。

図1   (白人との対比で)より高い楽観主義レベルとなる可能性、各所得区分内での人種ごとの比較

図2

人種間でのこういった違いについてはいくつかの説明が考えられます。中でも重要なのは、大きな障害があったものの、マイノリティは徐々に白人との差を、少なくとも教育と余命の差について縮めてきた事でしょう。マイノリティが自分達と比べるのは彼らよりも辛い暮らしをしていた両親たちとである可能性が高いのに、ブルーカラーの白人が比べるのは自分達よりもよい暮らしをしていた両親とである可能性が高いということもあります。Cherlin(2016)によると、これは過去十年で増加している傾向です。2016年には、非ヒスパニックの白人の26%がその両親よりも生活水準が悪くなっていると報告していますが、黒人とヒスパニックではそれぞれ16%と14%となります。Cherlinはまた、両親よりも生活水準が低下していると報告した人達はその人生であまり幸せを感じておらず、他者をあまり信頼しないと報告しています。

心理学分野での研究は、白人と比べたマイノリティのより高い回復力を示しています。Assari et al.(2016)は、ネガティブなショックに直面した時に鬱になったと告白したり、自殺に及んだり、そしてその両方を行ったりするのが黒人やヒスパニックでは白人よりも少ない事を発見しています。我々の研究は加齢の効果もあることを示唆しています。若い黒人、とくに男性は若い白人よりも怒りを持つことが多いのですが(それでもまだ希望をより多くもっていますが)、高齢の黒人は怒りを持つことが白人よりも遥かにすくなくなります。

更に一般的に、都市部は田舎よりも希望が多く、多様性の高い地域もまた同様になっています。最近の研究で、Sergio Pintoと私はそういう地域では健全な行動がより多くなる事を発見しています。より多くの人々が運動を行ったり、喫煙がより少なくなったりと(Graham and Pinto 2017)。対照的に、未来への希望を欠くと報告する人達が多い地域では「絶望からの死」、つまり自殺や、薬物・アルコール中毒による早すぎる死が多くなる傾向もまた発見しました。

こういった違いは多くの相互に関連する、そしてまた教育のない白人の間でより顕著である趨勢においても現れています。痛みの報告、これはオピオイド中毒((鎮痛の為に使い始めて中毒となり、中毒死する事件がアメリカで増加している。))と自殺の両方への入り口になっていますが、これは黒人よりも白人において高く、田舎の白人においてもっとも高くなっています。障害年金(disability insurance)への依存は、多くのブルーカラー職の負傷による報告された痛みと関連があります。過去数十年、その割合は男性に関して生産年齢人口の3%弱からほぼ5%にまで上昇してきました。早すぎる死は教育のない白人層、とくに田舎や小さな町に住む白人の中で、黒人やヒスパニックと比べて劇的に増加してきました。最近のとある研究によると、すべてのタイプの市民的活動で田舎の方が参加の比率が非常に低くい上に、これらはブロードバンドインタネットへのアクセスが非常に低い地域でもあったりします(Kawashi-Ginsberg and Sullivan 2017)。こういった都市部‐田舎の傾向は、同時にまた、合衆国における政治的分裂、投票パターン、そしてニュースのソースが何であるかにすら驚くほど密接に関わっています。

下の図は、州ごとの平均をもとに、貧しい白人回答者からのストレス、報告された痛み、障害年金への依存度、そして早死にについての分布における大まかに安定した地域的パターンを見せています(貧しい白人は絶望のサインを最も鮮明にしているコーホートです)。上記の我々の計量的分析は、この悪循環の中で希望の欠如がはたしている特有な役割を同定しています

図3 貧しい白人の中での、州ごとの平均ストレス発生率 (2015-15 の平均)

図4 貧しい白人の中での、州ごとの平均の痛みの発生率 (2015-15の平均)

図5 州ごとの障害年金の多さ (20歳以上の成人の中での%、2010−15の平均)

図6 45歳-54歳の白人の中での州ごとの死亡者数(全ての死因)(10万人あたり、 2010−2015の平均)

絶望を減らすために何ができるか?

残念ながら、この拡散された絶望とその負の現れを解決する魔法の弾丸はありません。日々の危機とスキャンダルにまみれた政治サイクルの中で解決を見出すのは更に難しい事です。驚くことではありませんが、現在の政権から出てくる提案は単純に社会プログラム全体を削減しようというもので、こういったプログラムを解決の一部とするのに必要な創造的発想からは程遠いものです。短期的には、解決策は断片的でボトムアップのもの、地域レベルの政治アクターや組織からの支援を受けてコミュニティ自体から出てくるものとなるのでしょう。

もちろん、長期的には助けとなりえる大きな政策変更があります。まず最初に、絶望からの死はその名が表す通りのものではありますが、オピオイドやその他の中毒性の薬品があまりにも手軽に入手できることは、政策が生産的に対処できる問題です。別の重要な政策としては、これは私が本で取り上げたものですが、合衆国のセーフティネットについて再考することが必要です。たとえばフードスタンプは利用者にスティグマを与えがちですし、働いていない貧困層に金銭補助を提供するプログラムは縮小してきています。とりわけ共和党州ではそうです。働き盛りの年代の男性の15%が労働人口から脱落している現状、そして世紀の半ばまでにはこれが25%へと増加すると推測されていることからして、異なるアプローチが明らかに必要です。

技術進歩による低スキル職の喪失は今後も起こり続けます。そしてこれは合衆国を越えて、多くの国々にとっての重要な問題です。この問題に対処するには長期的な変化、教育や、経済的砂漠にすむ若者に新しい職がある場所へと向かう為の手段が提供されるようなインセンティブといったものが必要になります。労働人口から脱落してしまった高齢の労働者はより大きな困難となります。生活水準についての研究はいくつかの知見を与えてくれています。ボランティアや地域活動への参加、そしてその他の、失業にともなう孤独や自暴自棄を避ける各種の方法の恩恵などです。

最後になりますが、希望を取り戻す事は不可能ではありません。その為にはまず手始めに、苦しんでいる人達に未来へのポジティブな戦略をもって手を差し伸べる事が必要です。Hall and Shafir (2014)やHaushofer and Fehr (2014)といった実験による研究は、余裕のない貧困層へ希望の根拠となるものを提供する介入は彼らの行動を変えて、より良い将来の結果へつなげられる事を明らかにしています。これの代わりとなるものは、絶望が分断と排除、そして過去への不可能な復帰を売り物にする政治家達へのさらなる後押しをはたすというものです。それによる混乱は、合衆国や英国での最近の選挙や騒動がしめすように、全ての人にとって反生産的であり、とりわけ最も困窮している人達にとってそうなのです。

参照文献

Assari, S and M Lankharani (2016), “Depressive Symptoms Are Associated with More Hopelessness Among White than Black Older Adults”, Frontiers in Public Health 4.

Case, A and A Deaton (2017). “Mortality and Morbidity in the 21st Century”, Brookings Papers on Economic Activity, March.

Cherlin, A (2016). “Why Are White Death Rates Rising?” New York Times, 22 February.

Chetty, R, M Hell, N Hendren, R Manduc and J and Nang (2017). “The Fading American Dream: Trends in Absolute Mobility Since 1940”, Science 24.

Graham, C (2017), Happiness for All? Unequal Hopes and Lives in Pursuit of the American Dream,Princeton, NJ: Princeton University Press.

Graham, C, A Eggers and S Sukhtankar (2004), “Does Happiness Pay? Some Insights from Panel Data for Russia”, Journal of Economic Behavior and Organization 55: 319-42.

Graham, C and S Pinto (2017). “Unequal Hopes and Lives in the U.S.: Optimism (or Lack Thereof), Race, and Premature Mortality”, Global Economy and Development Working Paper 104, The Brookings Institution.

Hall, C, J Zhao and E Shafir (2014), “Self-Affirmation among the Poor: Cognitive and Behavioral Implications.” Psychological Science 25(2): 619–625.

Haushofer, J and E Fehr (2014), “On the Psychology of Poverty”, Science 344(6186): 862-867.

Kawashi-Ginsberg, K and F Sullivan (2017), “Sixty-Percent of Millennials Lack Access to a Political Life”, The Conversation, 27 March.

Leonhardt, D (2015), “In One America, Cameras. In the Other, Guns and Diets,” New York Times, 19 August 19.

Reeves, R (2017), Dream Hoarders: How the American Upper Middle Class is Leaving Everyone Else in the Dust, Washington, D.C.: The Brookings Institution Press.

  1. 訳注:意味がよく分かりません。多分、著者の本には詳しい説明があるのでしょうが、おそらくは全体の楽観主義の度合いの平均に対して、ランダムに選んだ黒人の楽観主義の度合いがその平均よりも1ポイント高い確率が、ランダムに選んだ白人がそうなる確率の三倍ほどあるという事なんでしょう。 []

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