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クルーグマン「右派妨害工作員閣下の哀しいけどすごくマジメな話」

Paul Krugman, “The Sad, but Very Serious, Tale of the Right Honorable Saboteur”, October 4, 2013.


右派妨害工作員閣下の哀しいけどすごくマジメな話

by ポール・クルーグマン

Stephen Crowley/The New York Times Syndicate

Stephen Crowley/The New York Times Syndicate

むかしむかし,ある政府高官が一計を案じました.経済を立て直すには,国中で体系的に生産を妨害する工作員のチームをあちこちに送ってやればいいのだ,と彼は信じ込みました.

どうしてそんなことを信じたのかって?

そんなこたぁどうでもいいのよ.どういうわけだか,ともかく,いま真面目ぶったエライ人がそろって口にしてるのはそういうことなんだ.

そして,この案は実行に移されて,徐々に手はずが整っていった.やがて,工作員たちはめざましい打撃をもたらした――最善の推測としては,彼らは全国の産出の約3パーセントを破壊していたと考えられる.でも,それから3年後,2つのことが起き始めた.第一に,右派工作員閣下はこの工作の手はずを整えるのをやめ,さらには,ちょっとばかり手をゆるめさえした.第二に,民間部門は工作員チームに対処するのがちょっと上手になって,受ける打撃は軽減された.

その結果,経済はふたたび成長をはじめた――それどころか,通例よりもいくぶん速い成長すらみせた.稼働停止になっていた工場が,あちこちでふたたびラインを動かすことができるまでになった.すると,右派の工作員閣下は勝ち誇ってふんぞり返った.「みたかね」と閣下.「わが政策が大勝利したのだ.批判した者どもは間違っていたと証明されたぞ」

アホな物語だよね.

でも,『フィナンシャル・タイムズ』のコラムニストであるマーティン・ウルフが解説してるように,これこそ,まさにイギリスの財務大臣ジョージ・オズボーンがやったことに他ならない.

で,それはいったいどういうことなの?

オックスフォードの経済学教授サイモン・レン=ルイスが,ついこの前,ウェブ上で「緊縮の欺瞞」についてちょっと論評する文章を投稿した.そのきっかけになったのは,『テレグラフ』でジェレミー・ワーナーが書いた論説だ.ワーナーはビジネスと経済の評論家で,緊縮をめぐる論争全体は「大きな政府」論と「小さな政府」論の対立だと特徴づけた.

レン=ルイス氏の眼目は,この対立軸は論争のほんの一側面でしかない,という点にある.不況下の緊縮に反対の人たちは,この政策によって不況がますます悪化するだろうと信じたから反対した――そして,彼らは正しかった.ところが,緊縮策の支持者たちは,自分の動機についてうそをついてる.「うそ」なんてキツイ言い方だけど,でも,このところ彼らが見せてる反応に目を向ければ,彼らが拡張的緊縮策について主張してることはなにもかも――「債務比率90パーセントの崖」とかその手の主張は――彼らの目標に役立つ言い訳でしかないのがはっきりわかる:福祉国家を葬ろうという目標のための言い訳なんだ.

そうとわかると,今度は,緊縮支持者たちの論証とされるものが知的に崩壊しても政策上の立場がなんら変わらない理由も説明がつく.

1つ,面白い点がある.これはレン=ルイス氏がよくつかんでいて,また,ぼくもときおり指摘してきた点だ.この論争で緊縮側にたっている人たちは,不誠実なだけじゃなくって,他の人たちはほんとに誠心誠意から論じているかもしれないってことが理解できないらしいんだよ.刺激策について議論してた頃,右派の人たちの多くは――ロバート・ルーカスみたいな経済学者も含めて――大統領経済諮問委員会の委員長をつとめたクリスティ・ローマーのような人たちは,なにか政治的な目標があってそれに役立つ材料をでっちあげているんだろうと決めつけていた.いまとなっては,なんで彼らがそんな風に決めつけていたのかわかる――なにしろ,自分たちがそうしてたんだもの.

というわけで,この論争は双方が対等なかたちをとったものじゃあなかった.だからこそ,ぼくらの側が事実をめぐって完勝しながらも,いまだに政界では負け続けてるわけだ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

緊縮の成果をめぐる論争

by ショーン・トレイナー

9月9日に,イギリスの財務大臣ジョージ・オズボーンは,演説でこう主張した――このところイギリスの経済実績が上向いているのは,数年前に実施された緊縮策が成功した証である.オズボーン氏によれば,彼が支持した支出削減と増税は,イギリス経済に最小限の影響しかもたらさなかった:彼はイギリス経済がこのところ減速していることの多くを,ユーロ圏の危機のせいだと述べた.また,オズボーン氏は,緊縮政策はイギリスの国家財政に対する投資家の信頼を保持し,それによって金利は低く抑えられているのだと強く主張した.

多くの経済学者は,このオズボーン氏の分析に異論を唱えた.コラムニストのマーティン・ウルフは,『フィナンシャル・タイムズ』でこう論じている――緊縮策はイギリス経済を不必要に弱めた,しかも,経済情勢がすでに不安定なときにそうしたのだ.「緊縮のもとでは景気回復など起こりっこない,と考えた人は一人もいなかった.たんに,それでは回復が遅れて打撃を受ける,と考えたんだ」とウルフ氏は述べる.「ここで1点,よくよくはっきりさせておかなきゃいけない:それは,結局のところ経済が成長してるという事実は,景気回復を不必要に弱めるのはいい考えだってあかしにはならないってことだ」

ウェブ上の投稿で,経済学者サイモン・レン=ルイスは,多くの緊縮支持者は,隠れた同期をもっていると論じた:彼らは,政府規模を永続的に縮小したいと望んでいるのだ,と.

「調子がいいときには,人々は自分たちがもっている政府の規模に満足している」とレン=ルイス氏は述べる.「そして,政府の規模を縮小しようとねらう政権は選挙で選ばない.じゃあ,危機において事情がちがってるのはどういうわけだろう? 対GDP比での政府規模に関する人々の選好は,景気後退のときには変わってしまうんだろうか? それとも,いまの危機において政府の債務が「手のつけようがなくなっている」ので国の財政を正常にするには政府支出の削減が必要不可欠だと聞かされているからだろうか?」

© The New York Times News Service


Comments

  1. 「自分の同期についてうそをついてる」→「動機」だと思います.

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