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グレートリセッション、されど変動為替(の根拠)は健在なり

グレートリセッションにおいても変動為替レート支持の根拠は健在なり

From VoxEU

2017年9月16日
Giancarlo Corsetti、ケンブリッジ大学マクロ経済学教授; ケンブリッジ-INET、ディレクター
Gernot Müller、テュービンゲン大学経済学教授
Keith Kuester、ボン大学マクロ経済学教授

 

概要: 変動相場制支持の昔からの根拠は、政策決定者が通貨のターゲットによって制約されないというものである。しかし先のグレートリセッションにおいては、数多くの中央銀行がその代わりにゼロ金利制約によって制約されてしまった。このコラムは、世界的不況下では小さな開放経済にとってどういう為替制度がベストなのかを考察する。モデルは、もしショックの震源地が国外であり、外国の金利がそのゼロ金利制約によって縛られているのならば、変動為替は自国経済を大きく隔離してくれる事を示唆している。

変動相場制支持の古典的な根拠は、通貨ターゲットからの制約がなければ政策決定者たちはビジネスサイクルの攪乱に対応して効果的に金融政策のスタンスを変更し、独自のインフレターゲットを選ぶ自由があるという議論によっている。高度な資本移動の世界において、もし逆に為替レートのペッグにコミットしていたり通貨同盟に参加している国は、そういった選択肢を諦めなければならない。

(この主張における)変動相場制においては金融政策は国内でのそのスタンスを自由に変更できインフレをコントロールできるというその前提を、グレートリセッションによって非常にはっきりと浮き彫りにされた。グレートリセッションの間、多くの中央銀行が見出したのは、自分たちが金利についてのゼロ金利制約(Zero lower bound, ZLB)によって制約を受けてしまっている事だったからだ。これにより変動相場制支持の根拠を再考する文献が生み出され始めた(たとえば、Galí and Monacelli 2016, Cook and Devereux 2016, Schmitt-Grohé and Uribe 2016). 特にCook and Devereux (2016) は、通貨ターゲットがあれば、国内のインフレは外国のインフレから大きくは乖離しえないという主張を打ち出した。大きな負のショック(変動相場制において利子率をZLBまで落とすような)への反応においても、インフレ期待はつなぎ留められ、害をもたらすデフレーションダイナミクスを防ぐと。われらの(先進)経済がZLBの問題に対して脆弱であるように思われることからすると、固定相場制の「拘束服」は結局、有害なものではなかった、という事なのだろうか。

 

図1 スカンジナビア4カ国の実質GDP (上の図) と為替レートの変化(下の図)

ノート: サンプルの期間=2007Q4-2012Q4。GDPは2007Q4を100%として正規化、為替レートは2007Q4と比較してのパーセンテージで表している。
ソース: OECD Economic Outlook および Bundesbank。

 

この議論は理論的なだけのものでは全くないし、この主張は反論を呼ばないものでも全くない。議論の中心にある問題を明らかにするために、図1ではグレートリセッションの間のスカンジナビア4カ国の産出と為替レートの推移を表している。世界的なショックへの反応の違いには各国固有の要素もあるだろうが、この四か国は所得、文化、そして制度について比較可能な類似性をもった国々である。この諸国は、しかしながら、為替制度の仕組みにおいて異なっている。これらのうち2か国は為替レートの柔軟さ放棄している:フィンランドはユーロゾーンのメンバーであり、デンマークは独自通貨を使っているもののユーロへの狭いペッグを維持している。他の二国、スウェーデンとノルウェーはインフレターゲットを行っているが、しかし2009‐10年に政策金利がZLBまで低下したのはスウェーデンだけだった。図のaはフィンランドとデンマークにおいて相当の産出低下があったが、ノルウェーにはなかった事をしめしている。逆に、スウェーデンにおける低下はノルウェーよりも大きく、実のところそのインパクトはデンマークやフィンランドと同様の大きなものだった。しかし、スウェーデンはその後、素早く回復を果たした。われわれの目的にとって最も重要なのは、図bがノルウェー・クローネがこの危機の最初の年に大きく減価した事を示している事、だけではない。これは金融政策上の制約に直面しておらず政策金利を操作する余地に恵まれている国については予想されることだ。それだけではなく、スウェーデン・クローネも減価した事を示していることだ。もっとも、当初はノルウェーの通貨ほどではなかったが。この証拠は変動相場制支持の根拠が残っている事を示唆している(( このコラムで論じられている問題に付け加えて、近年の文献は大規模な資本移動の潜在的な不安定化効果(たとえば Obstfeld et al. 2017)や通貨戦争(たとえば Caballero et al. 2015)に関しての変動相場制の再検討 を行っている))。

世界的グレートリセッションにおいては、小さな開放経済にとってどの為替制度がベストなのか?

最近の論文において、我々はこの問題を再考察し、理論的結果と政策への提言はこれまでのところ文献が示唆してきている(Corsetti et al. 2017)よりも、より微妙なものである事を示している。変動為替レートは、ZLB突入のリスクにさらされている経済においてすら、まだ重要な厚生上の特徴を有している。

可能な限り明瞭にするために、文献中の既存の結果を取り込んで、そしていくつか新しい結果を提出した。統一フレームワークとしてNew-Open-Macroeconomicsモデルを、つまり小さな開放経済についての解ける(tractable)解析的数式を利用した。三つの金融制度を考察した:制約なしの変動為替相場制で、金融政策は常に自然利子率をターゲットとする伝統的なテイラータイプのルールを実行しようとする;変動為替相場制であり金融政策はテイラールールを実現しようとするが、相当の期間に渡って金利を変更できない;そして、信用できる恒久的な為替レートペッグ。つまり、制約のない金融制度を、二つの制約された制度、つまり通貨ペッグによるものと、利子率がZLBにぶちあったっているものと対比したわけである。

そうして、グレートリセッションに直面した時にどの為替相場制度がより良いマクロ経済的な、そして厚生面でのパフォーマンスを実現できるのかを問うた。もし経済がZLBにあるならば、どういった条件の下でならそれでも変動為替レートは「隔離」を提供できるだろうか?どの制度の下で、財政政策は金融政策の良い代りとなりえるだろうか?

我々の議論の出発点は、ZLBは一国だけのものでも世界的なものでもありうるという認識である(言い換えると、不況を引き起こす大きな需要ショックは自国でだけ発生したものでも、国外から伝わってきたものでもありうるという事)。その後に続く不況が自国固有なものか国際的(システマティック)なものであるかの性質は大きな違いを生むことが分かった。

われわれが発見したことは、ショックのソースが外国であり、外国の利子率がそのZLBにおいて制約されていて外国の金融政策が負の需要ショックを和らげる事ができないのならば、変動為替レートが国内経済へのかなりの程度の隔離を提供するという事だ。これは国内の金融政策がZLBにつきあたる事なく適切な強度で利用できる場合だけでなく、(ある程度弱くはなるが)国内の金融政策がZLBによって制約されている時にもそうである。その理由は、そしてこれが我々の分析の最も革新的な結果であるが、効率的なレベルでの金融刺激がない中においても自国通貨が先行して減価するからだ((もし外国の金融政策がZLBに陥っていないならばこうはならないが。言い換えると、世界的なリセッションのショックを効果的に安定化させることができるならば、「グレートリセッション」はない事になる。この場合、自国経済がZLBに突き当たっているならば、自国の為替レートは増価する。))(図1のスウェーデンのケースを思い出してもらいたい)。先行した減価が自国生産製品に対する外需と内需双方の需要を安定させ、我々のシナリオにおいて諸外国を這いより襲うどんなデフレーションから国内価格をある程度切り離してくれる。

世界規模の不況などと対面すると、対して通貨ペッグはかなり悪いパフォーマンスを示す。そういった制度においては、国は現在の需要を安定化させる恩恵をあきらめるので、国内経済は国際的な需要の低下に全面的に晒される事になる。しかしまた、より重要なことに、信頼できるペッグは自国価格を外国価格のレベルに据付させる。もし(流動性の罠のグローバルリセッションの渦中にあることの結果として)諸外国がデフレの波に襲われているならば、国内経済はそれを輸入してしまうことになる。さらに酷いことに、これは為替レートが実質値で増価するほどまでなのだ。これはつまり、上昇する実質利子率が自国の消費需要を低下させ、外需低下の負の効果と競争力の低下を悪化させるという事を意味する。さらに、こういった効果は長くつづく。通貨をペッグした国は将来の需要を安定化させる恩恵もあきらめたわけだから。

こういった結果の重要性は強調しすぎるということはない。先のグローバルクライシスの発生から10年、世界経済は大きな世界的ショックが大規模な不況を再び引き起こすリスクに晒されたままとなっている。これは小さな開放経済の政策決定者にとって難しい問題である。開放経済はまさにその開放性ゆえに、外部の展開に特に晒されるわけだから。我々の発見からすると、そういった世界において、変動為替レート支持の根拠は健在である。内部の論理的には、効果的な金融安定化を行えなくする一時的な流動性の罠のリスクは、広く認められた知見を覆すのには充分な理由ではないということになる((セキュラー・スタグネーションのコンテクストにおいての関連した議論については、Corsetti et al. (2017a)を参照。))

バランスの取れた政策の教訓を

文献で強調されるように、需要低下のショックが諸外国を襲ってない場合、結果は非常に違ったものになる。芯となる違いは世界価格の反応である。もしショックが世界的なものでなく、その小さな開放経済の中で発生したものならば、インフレを嫌う外国の金融当局は世界価格を安定させる事ができる。そうならばペッグは安定した世界価格のレベルへ向けて、国内経済を膨張させることへのコミットメントを提供する。そして、信頼できる安定した名目アンカーは小さな開放経済において有益なものでとなる。もし逆に、通貨の制約がなく、自国の利子率がZLBにあるならば、経済活動は低下して国内価格が低下し始める。

しかし、まさに変動為替レート下でこのZLB問題が起こる(たとえば、大規模な国内需要へのショックによって)というような状況こそが、「幸運な組み合わせ」でもある―財政政策が遥かに効果的な安定化のツールとなる事が期待できるからだ。財政政策の強いインフレ―ショナルなインパクトはZLBにおいて乗数のサイズをふくらませる(たとえば、Woodford 2011, Fahri and Werning 2017)。重要なことに、これはショックの発生場所(国内か外国か)にかかわらず真実だ。逆に、我々の以前の研究において明らかにしたように(Corsetti et al. 2013)、価格レベルの長期的予想を一定の世界価格へ固定する事により、為替レートターゲットは公共支出のインフレ―ショナルなインパクトを制限するので、財政政策はペッグにおいてある程度非効果的となる。この結果は、ZLB問題が小さな開放経済における変動為替レート支持の理由を必然的に弱めるわけではない更なる理由とみなせるものだ。

勿論、財政政策に頼ることは経済的なり制度的な制約によって限られる事もあるだろう((モデルはカントリーリスクの要素を組み込むことでより豊かなものとなり得たが、これは安定化政策に制約を追加する。Krugman (2014)やわれわれの以前の研究(Corsetti et al. 2016)の両方が強調したように、変動レートの比較的有益さを必然的に減ずるというわけではないのだが。))。この意味において、我々の結論はPoole (1970)の古典となる研究のロジックに準じたものと理解する事が出来る。ZLB問題のリスクの直面しての変動為替レートとペッグの間の選択は、最終的には経済がどういったタイプのショックにもっとも晒されやすいか、そして政策決定者が効果的に利用できる制作手段のセットによって定まる。

参照文献

Caballero R, E Farhi and P O Gourinchas (2015), “On the global ZLB economy”, VoxEU.org, 5 November.

Cook, D and M Devereux (2016), “Exchange rate flexibility under the zero lower bound”, Journal of International Economics 101: 52-69.

Corsetti, G, K Kuester and G J Müller (2013), “Floats, pegs and the transmission of fiscal policy”, L F Cespedes and J Gali (eds), Fiscal Policy and Macroeconomic Performance, vol 17, Central banking, analysis, and economic policies book series, Central Bank of Chile, Chapter 7: 235-281.

Corsetti, G, K Kuester and G J Müller (2016), “The case for flexible exchange rates in a Great Recession”, CEPR, Discussion Paper 11432.

Corsetti, G, K Kuester and G J Müller (2017), “Fixed on flexible: Rethinking exchange rate regimes after the Great Recession”, CEPR, Discussion Paper 12197.

Corsetti, G, E Mavroeidi, G Thwaites and M Wolf (2017a), “Step away from the zero lower bound: Small open economies in a world of secular stagnation”, CEPR, Discussion Paper 12187.

Farhi, E and I Werning (2017), “Fiscal multipliers: Liquidity traps and currency unions”, Handbook of Macroeconomics 2: 2417-2492.

Galí, J and T Monacelli (2016), “Understanding the gains from wage flexibility: The exchange rate connection”, American Economic Review 106(12): 3829-68.

Krugman, P (2014), “Currency regimes, capital flows, and crises”, IMF Economic Review 62(4): 470-493.

Obstfeld, M, J D Ostry and M S Qureshi (2017), “Trilemma redux: New evidence from emerging market economies”, VoxEU.org, 11 August.

Poole, W (1970), “Optimal choice of monetary policy instruments in a simple stochastic macro model”, Quarterly Journal of Economics 84(2): 197-216.

Schmitt-Grohé, S and M Uribe (2016), “Downward nominal wage rigidity, currency pegs, and involuntary unemployment”, Journal of Political Economy 124(5):

1466-1514.

Woodford, M (2011), “Simple analytics of the government expenditure multiplier”, American Economic Journal: Macroeconomics 3(1): 1-35.


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