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サイモン・レン=ルイス「イギリスで利上げすべきでない理由: 手短に」

[Simon Wren-Lewis, “A short guide to why we should not raise UK interest rates,” Mainly Macro, October 30, 2017]

木曜に金融政策委員会が利上げするだろうと誰もが予想している.そんなことをすれば,失敗になるだろう.金利変動をめぐる報道の議論は,通例,経済状況に関する大量のデータやグラフが盛り込まれる.ここでは,その反対のことをやりたい:つまり,イギリスでいますぐ利上げするのが過ちだということを理解するのに必要最小限のことだけを提示したい.

目下イギリスのインフレ率がだいたい 3% になっているのは EU離脱によるポンド安が理由だという点は,誰もが知っておくべきだ.ただ,賃金インフレ率がずっと平坦なまま推移すれば,通貨安が物価インフレ率におよぼす影響は一時的なものとなる.このため,イングランド銀行はこの一時的な上昇を無視すると言っている.ここで大事なのは,平均収入のインフレ率が,それよりもっと高い消費者物価インフレ率に反応しているかどうかに目を向けることだ.答えは,「反応していない」:つまり,平均収入の伸びは今年全体で 2% をわずかに上回っているだけで,2016年の平均を少し下回っている.

42年ぶりの最低水準となった失業率はどうだろう? もちろん,これだけ失業率が低くなっているということは,これから収入の伸びがいよいよはじまろうとしているということだ.ここでいちばん重要なのは,「目下,失業率は労働市場の好調・低調をはかるよい指標ではない」という点だ.それよりもっといい指標に,Resolution Foundation が公表している失業インデックスがある.こちらは,グローバル金融危機以前の水準をいまだに上回っている.「だけど,その当時は好況だったでしょ」という向きに申し上げると,当時は好況ではなかった.イギリスのコアインフレ率はずっと2% 台を下回りつづけている状況だったし,収入の伸びもこれと合致していた.

もうひとつ,こちらも言っておかねばならない――どれくらい好調な水準に労働市場がなれば収入が伸びるようになるのか(経済学者のいう NAIRU〔インフレを加速しない失業率〕)すでにわかっていると決めてかかるのはかなり間違っている.NAIRU は時間経過につれて変動する.どうして変動するかもしれないのか,ほんの一例だけ挙げれば,持ち家のある労働力に比べて賃貸にくらす労働力は流動的になりやすく,そのため,賃貸が増える傾向が強まれば NAIRU は下がる.

というわけで,労働市場に目を向けると,収入インフレ率がまもなく上昇し始める間際にあるという兆候は見当たらない.さて,中期的にインフレ率が 2% を超えるためには,収入インフレの上昇がかなり重要な前提条件となる.みんなが知る必要のあることは,これですべてだ.金融政策委員会がおそらく金利を引き上げるだろう理由を知りたいなら,この先も読んでほしい.

いまイングランド銀行が懸念しているだろうと私がにらんでいるのは,「EU 離脱によって,経済学者のいう『負の供給ショック』がうみだされた」という点だ.とくに,投資も生産性成長も,EU 離脱以前にイングランド銀行が予想していたのよりずっと低い状況にある.イングランド銀行は,「企業にいま余剰生産能力がない」ことを示すいろんな調査指標を参照するだろう.だが,私見では,この推論は概念的な弱さを示している.

生産能力が足りないとき,企業は2とおりの対応がとれる:価格を上げるか,〔設備などに〕投資するか,この2つだ.企業の生産能力が限界まできたときに金利を引き上げて需要を締め付けることで,イングランド銀行は投資を抑制する.さて,いままさにイギリス経済が心底必要としているのは,さらなる投資とそれがもたらす生産性の改善だ.イングランド銀行は投資の増加にともなう少しばかりのインフレを懸念するべきではない.なぜなら,2% の収入増加は,インフレ率が目標水準から逸脱するのをふせぐアンカーだからだ.

これでもう十分のはずだが,イングランド銀行が利上げすべきでない理由はほかにも2つある.第一に,目下,EU 離脱による需要側の下降リスクは上昇リスクをまちがいなく上回っている.第二に,*ここ* のOBR チャートをみると(オレンジ色のバーに注目),2017年に小休止したあと,緊縮は 2018年と2019年に舞い戻ってくるのがわかる.好況時に財政と金融の両面で引き締めを行るのは理にかなっているが,いまイギリスは経済的な下降局面にあって,今年の一人当たり GDP は2009年の景気後退時いらい,平均の3分の1になっている.[1]

最後に,もろもろのリスクを考慮するのはいつでも必須だ.かりに,金融政策委員会の月例会合後に収入の伸びが急激に高まったとしよう.イングランド銀行は,いつも決まって「変化の先手を取る」のがのぞましいと言う.あまりに急激に金利を上げてしまうのは避けるべきだと言う.このメンタリティこそ,景気後退以後のアメリカやユーロ圏でインフレ率が目標値を下回るのにつながったのだ.GDP デフレータに目を向けて通貨安の影響を除外すれば,同じことがイギリスにも成り立つ.景気後退いらいのイギリス経済にとって問題なのは,インフレ率が高すぎることではなく,需要があまりに少なすぎることだ.

[1] 具体的には,2017年の平均成長率は四半期当たり 0.1% なのに対し, 2010年Q1 から 2016年 Q4 まで四半期ごとの成長率を平均すると四半期当たり 0.3% という数字になる.


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