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サイモン・レン=ルイス「イギリス右派系新聞の影響力」

[Simon Wren-Lewis, “The persuasive power of the UK right wing press,” Mainly Macro, February 23, 2018]

「政権をとれたのも、ああして権力を使えたのも、ラジオなしには不可能だっただろう」――ヨーゼフ・ゲッペルス

イギリスの党派的な右派系新聞(『メール』『サン』『テレグラフ』)擁護論の第一陣は、「ああした新聞はどうということもない」という言い分だ。右派系新聞が表明している意見やおいかけている新聞報道は、たんに読者たちの意見・関心を反映しているにすぎない、というわけだ。アメリカのフォックスニュースに関しては、これはたんに事実でないという明快な証拠がある。ここで述べているように、フォックスニュースの生産するおよそ真実とかけはなれたニュースは、みずからの説得力を最大限に大きくすべく意図されている。オバマはこの点をなかなか明快に要約してこう言った――もしもフォックスニュースの視聴者だったらじぶんに投票しなかっただろうね。

右派系新聞の潜在的な力にも同じことが当てはまるにちがいない、というのがここでの見込みだ。大半の有権者は政治なんかに興味ない。そこで、限られた情報源をもとに政治家や政党についてじぶんなりの見解をつくる。とはいえ、これがイギリスで成立しているという経済計量的・統計的な研究はまだなかったように思う。イギリスのそれにくらべてスコットランドの新聞は EU離脱支持色がずっと薄いという話は前に書いたことがある。ただ、これは国境の北側では EU離脱への態度がちがっているのを反映していただけかもしれない。それにしても疑問だったのは、リバプールと『サン』紙(もっと具体的に言えばヒルズボロ〔の悲劇(1989年)に関する報道が2016年春に大きく取りあげられたこと〕によるその不在)は経済学者のいう自然実験になりうるかどうかという点だ。リバプールの選挙区でEU離脱を支持する投票率はなるほど例外的に低かったように思える。(Ian Gordon に感謝)。とはいえ、もちろん、伝えるべきニュースはいつでも他にいくらでもある。

ところが、そこに誰だったかが(いやはや、どうにも思い出せないのですよ)「こんな論文があるよ」と教えてくれた。Jonathan Ladd & Gabriel Lenz による、『アメリカ政治学ジャーナル』(American Journal of Political Science) に掲載された2009年の論文だ。引用しよう――

「公式の支持政党を〔労働党に〕切り替えた新聞各紙の読者たちとそうした新聞を購読していなかった人々を比較することで行った推定では、支持を切り替えた新聞は読者の相当な割合を労働党支持票へと説得している。統計的アプローチしだいで、推定ポイントは読者の約 10% から最高で 25% まで変動する。こうした発見は、ニュースメディアが大衆の政治行動に強力な影響を及ぼしているという稀少な証拠を提供するものである。

というわけで、 フォックスニュースの場合と同様に、こうした新聞がもちうる影響力の強さについての証拠はある。新聞各紙の公式支持政党そのものはべつにここでは作用していなくて、支持政党の切り替えにともなう〔労働党に〕好意的な論説文や報道が作用しているのではないかと思う。〔ステファン・〕キノックや〔エド・〕ミリバンドのような扱いをブレアは一度も受けなかった。

旧メディアのいろんな問題点が量的に増していると見込まれるときに我々が新しいソーシャルメディアにどれほど首ったけになっているか、なんとも皮肉なことだ。ひとたびこの点を認めると、緊縮に対する国民の態度〔の変化〕のような重大な政治の展開を説明するのは、ずっとかんたんになる(たとえば Timothy Hicks & Lucy Barnes によるこの論文を参照)。政治学者その他が多大な時間を投じてあれほどいろんなことを分析しているなかで、右派系出版メディアは見て見ぬふりをされている「部屋のなかの象」になっている。

このところ出版メディアでなされている、ジェレミー・コービンの評判を落とそうとする試みや保守党大臣たちがその唱和に乗ろうとしている試みは、この文脈で考えるべきだ。(〔コービンへの〕罵倒がどんなたわごとで保守党大臣たちが何者なのかを説明するのは Andrew Neil にまかせるとして、スティーブ・ベイカーがお決まりの手管(e.g.「質問に質問でこたえる」)を駆使して無からなにかをつくりだそうとしている様を注視するとしよう。) 2017年の選挙で、保守系新聞がすべてではないことはわかったものの、それでもテレサ・メイは勝利した:とくに年配の有権者に対する保守系新聞はいまなお強い。読者数は減少しているものの、新聞は報道メディアの方針に相当の影響力をふるっている。

だったら、こうした罵倒へのコービンの反応を「身の毛がよだつ」「遺憾だ」と言っている一部ジャーナリストがいる状況で、こうしたコメントを考えるべきはこの文脈においてだ。「それは報道の自由に対する攻撃ではないか」と言うのは的外れだ。イギリスの圧倒的に右寄りの新聞はまともな意味では自由ではないからだ。こうした新聞各紙を所有しているのは大富豪たちであり、彼らは所有する新聞の政治的指針を意のままにできる。これは、民主制に深刻な歪みをもたらす。また、それは、こうした新聞が政府に相当なを及ぼしているということでもある。イギリスの新聞は保守党政権下では改革されないだろう:〔新聞業界の慣例などの公的調査である〕第2回レヴェソン調査は棚上げにされてしまった。

EU離脱やトランプのない世界にもどりたいと望む人たちは、どうして EU離脱やトランプが生じたのかを問わなくてはならない。症状を扱いながら病気を処置しないのでは意味がない。アメリカでトランプや今日の共和党が存在している大きな理由はフォックスニュースだ。イギリスで EU離脱が起こり、大臣たちが対立政党の指導者を裏切り者よばわりしている大きな理由は右派系新聞だ。


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