金融政策について,ぼくはライアン・アヴェントとよく似た見解をとっている.でも,次の点について,ちょっとばかり細かい文句をつけておこう.
同時に,連銀の2パーセント目標をインフレ率が上回っている期間には,中央銀行が政策金利を上げる余地がもっと大きくなる.長期的名目金利の水準が高ければ高いほど,次に問題が生じたときに金利をゼロまで下げねばならなくなる見込みは薄くなる.
2009年,2010年,2011年だったら,2パーセントインフレ目標を超過しようとするのは意味があっただろう.でも,失業率が 4.6 パーセントになっている今日では話がちがう.経済が堅調なときにインフレ率を2パーセントを超えるところまで押し上げれば,経済が低調になったときに2パーセントインフレ率の下を狙わなければならなくなる.次にゼロまで引き下げねばならなくなる見込みはむしろ強まる.
というか,これこそ,2008年に間違ってしまったことだ.住宅ブームのあいだにインフレ率は2パーセントを超過していた.このため,2008年に政策を積極的に緩和する手をうつ必要が生じたとき,(2008年のあいだ2パーセントを超えていた)インフレの昂進を恐れて連銀は手控えてしまった.景気過熱期に2パーセントインフレを下回っていて,景気後退局面で2パーセントインフレを上回るのなら,理にかなっている.
ライアンはもっと高いインフレ率を支持する力のこもった論証を他にも提示しているけれど,インフレ目標の変更という観点でとらえた方がもっと有効だろうと思う.2パーセント目標を 0.5 パーセント超過するのを支持するかわりに,もっと高い3パーセントインフレ目標を 0.5 パーセント下回るのを求める方が理にかなう.インフレ目標を3パーセントまで引き上げることで,次に景気後退が訪れたときに連銀が金利を引き下げられる余地は大きくなる.2パーセント目標の超過では,そうはいかない.それに加えて,景気過熱期に目標未達でいる方が,ライアンも以前から支持している名目GDP 目標の精神と整合する.
こういう話は,意味のない難癖に思えるかもしれない.「2.5パーセントインフレ率になるんだったら,〔超過か未達かで〕目標をどうするかって話になんかちがいがでてくるの」と思うかもしれない.ごく短期的には,なんのちがいもないかもしれない.でも,明確に定義された政策レジームの文脈で金融政策の意思決定をしなかったら,経済は安定しなくなる見込みが大きい.とくに,景気循環のターニングポイントに達したときにはなおさらだ.
例によって,この3パーセントインフレ目標はぼくが優先する選択肢ではない(ぼくが推すのは名目GDP水準目標だ).ここでは,たんに「ハト派的」とでも言えそうな現行の政策論をとる人たちにとっていちばん有益な選択肢だとじぶんが考えるものを例解しようと試みてるにすぎない.