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スコット・サムナー 「マネタリズムは日銀の中で生きている!」

●Scott Sumner, “Monetarism lives!”(TheMoneyIllusion, September 2, 2013)


ケインジアンはしばしばマネタリズムのことを1970年代の遺物と見なし、現代ではその姿を確認することもできないと考える傾向にある。そのような理解はある意味では正しいが、別の意味ではこれほど間違った認識もない。コメント欄でH_Wasshoiが教えてくれたのだが、今年4月に開催された日本銀行の金融政策決定会合の議事要旨(pdf)には次のような記述がある1

Ⅵ.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、委員は、金融市場調節方針を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更したうえで、マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行うことが適当である、との見解で一致した。

議長からは、このような見解を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

1.金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更すること。
2.金融市場調節方針を下記のとおりとすること。
マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。
3.対外公表文は別途決定すること。

採決の結果

賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、宮尾委員、森本委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、木内委員
反対:なし

年間約60~70兆円というのはドルに換算するとおよそ6000億~7000億ドルということになる。アメリカの3分の1の経済規模の国でこれだけの金融緩和が実施されるわけである。

また、金融市場調節の操作目標を金利(オーバーナイト金利)からマネタリーベースに変更する旨も語られている。この変更を後押ししたアイデアは一体何だったのだろうか? おそらくその背後には様々なアイデアが控えていたのであろうが、議事要旨(p.17)2 には(金融市場調節の方針変更のきっかけとなった)ある特定の人物の名前が挙げられている。

ある委員は、マネタリーベースと期待インフレ率の中長期的な関係やマッカラムルールからみたマネタリーベースの伸び率について見解を述べた。次に、委員は、オペレーション上の対応可能性も踏まえる必要があるとの認識に立って、長期国債の買入れ対象を全銘柄に拡げることを前提にすれば、月7兆円程度の買入れが可能であるとの見解で一致した。

ベネット・マッカラム(Bennett McCallum)と言えば、名目GDPの安定的な成長の達成に向けてマネタリーベースを調整するよう求める政策ルールを長年にわたって説き続けてきた人物である。 今回の件は、アイデアは重要である(Ideas have consequences)ということの実例の一つだと言えるだろう。マッカラムが先に触れた政策ルールを提唱したのは1980年のことであり、今ではかなり古びたものではある。だがしかし、マッカラムの例が示しているように、「あなたのプラン(政策提案)は政治的に見て現実的ではない」などと誰にも言わせてはならない。自らの提案が正しいと思うのであれば、その提案の実現に向けて徹底的に闘い続けなければならない。死の床に際して私の口から発せられる最期の言葉は「バラのつぼみ」(“Rosebud”)3 ではなく、「名目GDP先物ターゲッティング」ということになるだろう。

ところで、ここ最近の日本の名目GDP成長率は過去20年のトレンドを大きく上回っているが、私が思うにそのような結果を残しているのは先進国の中では日本だけである(確かに、日本の名目GDP成長率の過去20年のトレンドはマイナス(マイナス成長)だったのだから、低いハードルではある)。

日本銀行の首脳陣が景気の拡張に向けて取り組むにあたっては、これら一連の写真が何らかのインスパイアになるかもしれない。聞いたところでは、彼女はうまく撮れるまでカメラのシャッターを200回も切るということだ。そこまでこだわりつつも、これまでに何百枚もの写真を撮っているという。日本の文化は完璧主義(perfectionism)を強調する傾向にある。日銀による金融政策も同様に完璧主義を貫いてもらいたいものだ。

  1. 訳注;議事要旨からの引用はここで新たに訳したわけではなく、日本語の議事要旨(pdf)の文章をそのまま転載している点にご注意ください。 []
  2. 訳注;日本語の議事要旨ではp.12 []
  3. 訳注;映画『市民ケーン』で新聞王ケーンが死の床で言い残した言葉 []

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