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ソーシエ他「目指せ単一雇用契約? 長所、短所、複雑な感触」

●Nicolas Lepage-Saucier, Juliette Schleich, Étienne Wasmer, “Moving towards a single contract? Pros, cons and mixed feelings”(VOX, July 29, 2013)


<要約>

不況時の企業は、より安定した長期雇用契約よりも、不安定な一時雇用契約1を提供する傾向がある。このコラムでは、その見地から雇用保護改革について検討する。経済学者の議論は、総じてこのニ種類の契約の一元化に重きを置きすぎている。政策担当者は、他のより魅力的で実現しやすい選択肢に目を向けた方が賢明かもしれない。

安定した職に就く高給の一次労働者2と不安定な地位の薄給の二次労働者3との間の、労働市場の分裂による二重構造は、ヨーロッパに広く蔓延しており、公論の的となってきた。ヨーロッパ諸国(デンマークを除く)では、1985~2008年の間に一時雇用契約比率の増加(OECD各国平均で12%)を経験している。特にスペイン(EU統計局4によれば2010年で24.9%)やオランダ(EU統計局によれば2010年で18.5%)の増加は多かった。

このことが1980年代や1990年代の度重なる労働市場改革につながった。フランス、ドイツ、スペインでは、有期雇用契約の利用を制限することに努力を集中したが、イギリス、イタリア、デンマーク、フィンランドでは、より柔軟な雇用保護法制を目指した。二重構造の主犯は雇用保護であり、これが雇用者の解雇の決断を制限する。景気動向の変化に直面して、労働者の解雇を決断した雇用者は、重いコストを負担する可能性が高い。このことが雇用者にとって、代わりに一時雇用契約を提供するインセンティブになる。もっと最近(2005年以降)になると、二重構造の悪影響を解消することをはっきりと目指して、単一雇用契約5の論理にヒントを得た新たな実験がいくつか行われた。しかし、このような改革は政治的に功罪半ばするものであった。6

単一雇用契約

単一雇用契約には一般に、段階的先任権7付きの契約と、長期試用期間8付きの契約の、2種類の形式がある。この2種類の形式は、自由に組み合わせることができる。重要な問題は、単一雇用契約による改革の恩恵より、その政治的コストの方が大きいかもしれないということだ。

雇用保護改革に関する新研究

筆者たちは最近の研究で、雇用保護の抜本的な改革を伴わない単一雇用契約は、二重構造の悪影響を取り除くどころか、失業を増やす可能性がある、と主張している(Lepage-Saucier, Schleich and Wasmer 2013)。したがって、単一雇用契約の導入にばかり議論を集中すると、真の問題である雇用保護改革から目を逸らされる、と筆者たちは信じている。

単一雇用契約は、二重構造に起因する不平等を緩和するツールとして提示されている。実際、二種類の異なる雇用形態の存在は、労働市場の二重構造を可視化する。そして、雇用者や家主や銀行に、異なる労働者グループを合法的に差別する手段を与える。一時雇用契約の労働者が不安定な雇用に直面するのに対し、常用雇用契約9の労働者は解雇から固く守られ、より安定したキャリアを歩む可能性が高くなっている。

借金や教育の機会

カユックとクラマール(2004)によれば、30歳までにマイホームを持つ比率は、常用雇用労働者の方が10~15パーセント・ポイント高い。これは、常用雇用労働者の方が借金をしやすく、その恩恵を受けるためである。銀行は、一時雇用労働者を経済的に不安定と見なしているため、相対的に融資に消極的になる。このことが、一時雇用労働者のマイホーム購入をさらに難しくしている。この観点で見ると、長期試用期間付きの単一雇用契約の導入は、効果的でない可能性が高い。試用期間中の労働者や先任権の低い労働者は、やはり差別されるだろうし、労働者間の格差はなくならないだろう。また、賃貸住宅市場の部分的な規制緩和のような他の改革の方が、より効果的な可能性がある。

一時雇用労働者と常用雇用労働者の格差がもたらすもう一つの帰結は、研修機会の不平等である。企業が研修に投資するのは、研修よって労働者が身に付けるスキルが利益に結びつくからだ。したがって、常用雇用労働者は他の者より研修を受ける機会が多くなる。そしてここでも、試用期間の労働者や先任権の低い労働者は、研修機会の不平等に直面する。しかし、このような不平等な扱いを避けるためには、もっと効果的な解決策がある。たとえば、ルモワンとヴァスマー(2010)は、特殊なピグー的インセンティブをフランス企業に導入して、より多くの労働者研修を行った企業の税金やレイオフのコストを減らすことを提案している。その目標は、ブランシャールやティロールの経験料率方式10と同じようなロジックを利用して、一般研修によって生み出される正の外部効果を内部化することである。

単一労働契約下でレイオフ労働者が受けるスティグマ効果

一時雇用契約は、労働者にとってスティグマとなる可能性がある。実際、正規雇用契約の下で労働者を解雇する難しさに気がついた雇用者は、一時雇用を選別装置として利用する。契約を更新されなかったからと言って、その労働者が必ずしも意欲や技能に劣るとは限らない。経済情勢の悪化が、正規雇用契約を提示するインセンティブを低下させた可能性もある。しかし、段階的先任権や長期試用期間付き契約下での労働者の解雇は、その企業の個性や契約更新が形式的に不可能だったためではなく、単にその労働者の技能や意欲の欠如によるものでしかありえないので、その労働者に対する否定的なシグナルを強化する。また、長期試用期間付きの単一労働契約は、濫用の温床となる可能性もある。ほとんどの国では一時雇用契約の打ち切りが禁止されているので、試用期間の方が、現在の一時雇用契約より規制がゆるく、労働者保護の程度が低いのだが、一時雇用契約の代わりとして使われる可能性がある。

単一労働契約は、雇用の不安定性を減らす可能性がある

一時雇用契約と常用雇用契約の間の解雇要件に起因するコストの差は、一時雇用契約を経済危機の調整変数として利用することを企業に促す。好況時には、常用雇用契約に伴う高コストが、新たに従業員を雇おうとする際に、(規制の弱い)一時雇用契約を利用することを企業に促す。危機の際には、既存の規制が、職場組織の変更のような他の方法ではなく、労働回転によって景気変動に対応することを企業に強いる。これが労働市場の過剰な回転率(一時雇用も増えるが解雇も増える)につながる。

この直観を確かめるために、筆者たちは、労働者の生産性に対する期待が一律ではなく、可能な契約の種類が二種類ある(そして一時雇用契約は、より生産性の高い労働者の選別に使われる)モデルを構築した。その結果は、生産性の不確実性が、一時雇用労働者をより多く雇うという意思決定の主な要因であることを示している。

だが、単に一時雇用を減らすだけでは雇用も減る

また、筆者たちのモデルは、雇用保護の抜本的な改革を行うことなく、一時雇用契約だけを廃止すると、雇用自体が減ることも示している。労働市場の異質性が、生産性が低いと思われる労働者を雇うリスクを企業に回避させる傾向があるからである。図1にまとめられた分析からは、以下の結論が導かれる。

  • 正規雇用の雇用保護の水準が変わらない場合、一時雇用契約を廃止すると、雇用は最高で7パーセント・ポイント低下する可能性がある。
  • 雇用保護を減らすと、雇用は増える。この増加は、一時雇用契約が存在しない場合の方が大きくなる。
  • 一時雇用が存在しない場合の雇用水準を、常用雇用と一時雇用の両方が存在する場合の雇用水準に戻すには、常用雇用のレイオフ・コストを、初期値の三分の一程度まで大幅に削減する必要がある。

図1 二重構造経済および正規雇用契約のみの経済における、雇用保護(F:年間生産性に対するコストの比率)の雇用に対する影響。

雇用保護が雇用に与える影響問題は、二重構造そのものというよりも、解雇のコストから生まれる。多くの国では、このような側面以上に、「経済的人員削減」の裏にある法的要件が不確実性を生み出している。逆説的だが、もっとも強い国こそ、実は労働者が雇用をより不安定に感じもっともストレスに苦しんでいる国でもある。経済的人員削減は、企業が労働者により強いプレッシャーをかけて生産性を上げたり、低コストで解雇を実現したりすることにつながる可能性がある。

最後に付け加えると、雇用保護は、生産単位の配置にも悪影響を与えることが知られている。雇用保護は、生産性の低い構造を有利にし、生産性の高い活動に労働者を配置する過程を遅らせ、資本蓄積の歪みを生み出す。

結論

雇用を保護しつつ二重構造を緩和する方法に関する議論の大部分は、単一雇用契約の導入に重点を置いていた。これは、異なる種類の労働契約を一元化しようという主張の一つであり、一見すると、最も低コストのソリューションに見える。しかし、単一労働契約の提唱者の間には見解の相違があり、その性格についても合意がない。「単一労働契約」の狙いは「代償」(全当事者の合意の下で、何かを他の何かと交換すること)である。この政策の支持者はおそらく、単一労働契約により雇用保護を削減する代わりに、常用雇用契約の大胆な改革を狙っている。しかし、これが一時雇用契約の消滅と長期試用期間の導入につながれば、この部分が「代償」になるかもしれない(この概念の恣意的な曖昧さによる誤解)。しかも、有期雇用契約の保護はそれなりに強固で、それに代わる選択肢は、試用期間の延長とか、常用雇用契約下ですらスキルの不十分な個人の解雇を増やすとか、労働者をより不安定にする選択肢ばかりなので、このようなソリューションを労働組合が歓迎する可能性は低い。

雇用契約の一元化ばかりに重点を置くことは、より気前のよい失業保険やより効率的で積極的な労働市場政策と引きかえに、レイオフ・コストを削減する、いわゆる「フレキシキュリティ・モデル」11のような、他のより透明性の高い改革の機会を損ねることになる。12

編集部注: このコラムは、次のより広範な分析の要約である: Moving towards a single contract? Pros, cons and mixed feelings, OECD Economics Department Working Paper 1026, Feb. 2013, by the three authors, and of LIEPP policy brief No. 8。


参考文献

●Blanchard, O and J Tirole (2003), “Protection de l’emploi et procédures de licenciement”, Conseil d’Analyse Economique et La Documentation Française, October.

●Cahuc, P and F Kramarz (2004), “De la Précarité à la Mobilité : vers une Sécurité Sociale Professionnelle”, Rapport au Ministre de l’Economie, des Finances et de l’Industrie et au Ministre de l’Emploi, du Travail et de la Cohésion Sociale.

●Lemoine, M et E Wasmer (2010), “Rapport no 90 du Conseil d’Analyse Economique avec Mathilde Lemoine. Les mobilités des salariés”, Conseil d’Analyse Economique et La Documentation Française, May.

●Lepage-Saucier N, J Schleich and E Wasmer (2013), “Pros, cons and mixed feelings”, OECD Economics Department Working Paper 1026, February.

  1. 訳注: 「emporary contracts」の訳。 []
  2. 訳注: 「primary workers」の訳。 []
  3. 訳注: 「secondary workers」の訳。 []
  4. 訳注: 「Eurostat」の訳。 []
  5. 訳注: 「single employment contract」の訳。 []
  6. 原注: 2005年のフランスの「Contrat Nouvelle Embauche」(新雇用契約)を含む近年の改革は、法的な要請によって破棄された(国際労働条約第158号に反していたため)。2012年のイタリア の改革は、契約の種類を減らすことにより労働法を単純化することを意図していたが、議会での議論を経て、その野心的な部分は大幅に削られた。そして 2012年のスペインでは、中小企業向けの新たな変更可能契約が導入された。 []
  7. 訳注: 「Progressive Seniority Rights」の訳。 []
  8. 訳注: 「Long Probationary Periods」の訳。 []
  9. 訳注: 「permanent contracts」の訳。 []
  10. 訳注: 「experience rating system」の訳。 []
  11. 訳注: 「flexi-security model」の訳。意味はこちらなどを参照。フレキシキュリティの綴りは普通 “flexicurity” なのだが、ここではスペルミスで同じ意味と解釈した。 []
  12. 訳注: 雇用保護法制や単一雇用契約については、よろしかったらこちらの翻訳もどうぞ。 []

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