経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

タイラー・コーエン 「イッたふりの経済学」

●Tyler Cowen, “The Economics of Orgasm”(Marginal Revolution, January 31, 2004)


経済学者になってからもうかなり長い歳月が経っており、これまでに(風変わりな論文も含めて)それなりの数の論文を目にしてきた。そのため、次のような要約(アブストラクト)で始まる論文に出くわしたところで決してたじろぐようなことはない1

この論文では男女のセックス(love-making)に関するシグナリングモデルを提示する。セックスを通じて互いの愛を確かめ合う過程では、男性も女性も自らのオーガズムの程度について相手に偽りの(実際に体感しているのとは異なる)シグナルを送る可能性がある。例えば、絶頂に達していないにもかかわらずイッたふりをするかもしれない。本論文のモデルでは男女ともに相手のオーガズムの程度に関する事前確率に基づいて愛の営みに励むものと想定されるが、その事前確率は年齢をはじめとした相手の属性と関連付けられることになる。

これだけではまだ物足りないという読者のためにもう少しだけ引用することにしよう。

本論文では、「愛」(love)は相手への思いやり(caring)と相手との一体感への希求(demand for togetherness)とから成り立っているものと見なした上でフォーマルなかたちで定義付けを行う。我々のモデルによると、愛の存在は男女双方の利得関数に影響を及ぼし、均衡下におけるイッたふりの確率を高める効果を持つことが示されるであろう。また、その効果は男性よりも女性においてより強く表れることが予測される2

肝心の論文はこちら(“The Economics of Faking Ecstasy”)である。さらに引用を続けてもよいのだが、読者としても実証結果が気になることだろう。そこで論文の中から各種データと聞き取り調査の結果(ならびにそれら一連のデータに基づく計量経済学的な検証結果)を以下にいくつか列挙しておこう。

1. 女性のうちで74%は今現在のパートナーあるいは一番最近のパートナーとの愛の営みにおいてイッたふりをしたことがあるという。一方で、男性の場合は27%がイッたふりをしたことがあるということだ3

2. 相手を愛しているほどイッたふりをする可能性が高い。「私が一番嘘をついた男、そうそれは私の最愛の人だった。」(“It was the men I deceived the most that I loved the most”)と語ったマルグリット・デュラス(Marguerite Duras)の言う通りというわけだ。

3. 相手を愛しているほどイッたふりをする可能性は高まるとは言え、その効果は男性よりも女性においてより強く表れる。男性は相手との交際をどれだけ真剣に考えているかにかかわらず絶倫だと思われたいということなのかもしれない。

4. 女性は相手のイッたふりに気付いても(男性と比べると)それほど気分を害することはない(事を終えて心地よい気持ちに浸っているということもあるのだろうか?)

5. イッたふりをするかどうかは年齢とも関わってくる。しかし、その関係は多少込み入ったものだ4。イッたふりをするかどうかは愛の有無(相手を愛しているかどうか)や性別の違い(男性かそれとも女性か)だけではなく年齢(何歳か)によっても左右されるというわけだ。

6. 高学歴であるほどイッたふりをする可能性が高い。個人的に最も興味深かったのはこの結果だ。

この論文の著者であるユーゴ・ミアロン(Hugo Mialon)は研究機関でのポストを得るために就職活動の真っ只中にあり5、 AER(American Economic Review)に掲載された共著論文RAND Journal of Economicsに掲載された単著論文がある6。なお、彼の博士論文(pdf)のタイトルは「法と言語の経済学に関するエッセイ三題」(“Three Essays in the Economics of Law and Language”)である。

この「イッたふりの経済学」論文は彼にとって一番のウリというわけではないだろうが、ともあれミアロンは豊かなアイデアと洗練されたテクニカルスキルを備えた若者だとは言えそうである。さあ、彼を雇う気のある機関はどこか無いものか? 無事ポストを手に入れることができたら彼は嬉しくて有頂天になる・・・いや、おそらく有頂天の「フリ」をするに違いないとしても、我がジョージ・メイソン大学にポストの空きがあるようなら彼を是非とも迎え入れたいところなのだが。

この論文の存在に気付かせてくれたNewmark’s Doorブログに感謝する。

  1. 訳注;ネット上で閲覧が可能なこの論文の最新版は2010年のものであり、コーエンがこのエントリーを執筆した当時(2004年)の版と比べるとかなり修正が加えられている。そのため、以下の引用では最新版での修正を可能な限り反映させるために元の文章にこちら側で若干手を加えた上で訳出していることを断わっておく。ちなみに、この論文は2012年に無事専門ジャーナル(Economic Inquiry)に掲載されたようである。 []
  2. 訳注;相手への愛が強いほど(ゲームの均衡においては)男女ともにイッたふりをする可能性が高まるが、男性以上に女性の方がそのように振る舞う可能性が高くなるということ []
  3. 訳注;最新版の論文にあわせて数値を修正してある []
  4. 訳注;男性の場合は年齢が高くなるほどイッたふりをする可能性が高まる。一方で、女性の場合はパートナーに対する愛の有無によってイッたふりと年齢の関係に若干の違いが出てくる。パートナーを愛していない場合では、30歳近辺の女性はそれよりも若い女性と比べて(あるいは30歳に近付くにつれて)イッたふりをする可能性は高くなる。その一方でパートナーを愛している場合では、30歳近辺の女性ほどイッたふりをする可能性が低く、30歳から離れるほど(30歳よりも若くなるほど/30歳よりも年配であるほど)その可能性は高くなる。言い換えると、女性の場合、相手への愛がイッたふりをする可能性を高める効果は年齢が30歳から(若い方向、年配な方向のどちらであれ)離れているほど強く表れるとも言える。 []
  5. 訳注;現在はエモリー大学でAssociate Professorの地位にある []
  6. 訳注;このエントリーが執筆された2004年当時はどちらの論文も掲載「予定」だったが、現在では既にどちらも掲載されているのでそのように修正した上で訳してある。 []

コメントを残す