タイラー・コーエン 「ケインズが注目される一つの理由 ~戦略としての曖昧さ~」(2006年6月28日)

●Tyler Cowen, “Nicolai Foss has kind words for me”(Marginal Revolution, June 28, 2006)


ニコライ・フォス(Nicolai Foss)が、経営学の分野でポストモダン哲学に注目が寄せられているのはなぜなのか、その理由を探っている。「その答えとなるかもしれない」として、2000年に刊行された拙著の『What Price Fame?』の中から一部の文章が引用されている。ここでもそっくりそのまま引用(孫引き)しておこう。

「パフォーマーの中には、批評家の注目を自らの作品に引き寄せるために、作品のスタイルにあれこれ手を加えようと試みる者もいることだろう。・・・(略)・・・曖昧ではっきりしない文章を書く作家(や学者)は――内容が伴っていれば、という条件は付くが――、批評家から注目を集めやすく、文章が曖昧であればあるほど、テキスト解釈の必要性も増すことになる。批評家は批評家で、そのような曖昧な(文章を書く)作家を研究することを通じて、数ある解釈の中でも自らの解釈が一番優れていると喧伝することを通じて、自らの(批評家としての)評判を確立することが可能となる。また、批評家は、自らの解釈の重要性を高めるためにも、自らが研究対象としている作家の作品を、その分野の古典の一つに加えるように訴えることだろう。・・・(略)・・・経済学の分野を例にとると、ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes)の『一般理論』に多くの注目が寄せられている。曖昧かつ難解で知られるあの本だ。貨幣をテーマとした作品ということで言えば、ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)やアーヴィング・フィッシャー(Irving Fisher)の作品の方がずっとわかりやすい文章で書かれているし、金融政策に対する実践的な指針を与える上でも、二人の作品はケインズの作品に決して劣っていない。しかし、彼らの作品は、経済思想史の研究者の間で、ケインズの作品ほどには注目されていないのだ。」(pp. 34~35)

 

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