タイラー・コーエン 「トランプを支持しているのはどんな層?(その1)」(2016年3月17日、5月8日)

●Tyler Cowen, “Is culture or economy behind the rise of Donald Trump?” (Marginal Revolution, March 17, 2016)


「アメリカが抱えている課題の中でも最優先課題は経済だ」(「経済が一番大事だ」)。そのように考える(共和党員の)有権者の割合が最も高かった州の予備選挙でとりわけトランプの成績がよかったかというとそういうわけでもない。そのような(「経済が一番大事だ」と考える(共和党員の)有権者の割合が最も高かった)州の数は出口調査が行われた15の州のうちで10の州に上るが、トランプはそのうち8つの州で勝利を収めている。勝率は8割だ。残りの5つの州においては「経済が一番大事だ」と考える(共和党員の)有権者の割合はいずれも2番目に高かったが、トランプはそのうち4つの州で勝利を収めている。やはり勝率は8割だ。「経済が一番大事だ」と考える(共和党員の)有権者の割合が2番目に高かった州ではトランプとその他の候補者との得票率差は平均すると7.8ポイントだが、「経済が一番大事だ」と考える(共和党員の)有権者の割合が最も高かった州ではその差(トランプと第2位の候補者との得票率差)は平均すると6.9ポイントに過ぎないという結果になっている。

・・・(中略)・・・

トランプは「経済が一番大事だ」と考える(共和党員の)有権者よりもそれ以外の問題を優先課題と考える(共和党員の)有権者の方と反りが合うことも見えてくる。「経済が一番大事だ」と考える有権者がどの候補者に票を投じたかを調べてみると、トランプがそのように考える有権者から一番多くの票を集めたのは15の州のうち10の州。その一方で、「移民問題が一番大事だ」と考える有権者がどの候補者に票を投じたかを調べてみると、15の州のうち12の州で(「移民問題が一番大事だ」と考える有権者から)トランプに一番多くの票が集まっている。「テロの問題が一番大事だ」と考える有権者についても同様だ(15の州のうち12の州で「テロの問題が一番大事だ」と考える有権者からトランプのもとに一番多くの票が集まった)。有権者の(どの問題を一番大事だと考えるかに応じて区別される)カテゴリーごとに得票率差を見てみると、トランプとその他の候補者との得票率差は15の州のいずれについても「経済が一番大事だ」と考える有権者のカテゴリーにおいてよりもその他の(それ以外の問題を一番大事と考える)有権者のカテゴリーのいずれか一つにおいての方が大きい(トランプが第2位の候補者をより大きく引き離している)という結果になっている。8つの州では「経済が一番大事だ」と考える有権者のカテゴリーにおいてよりも得票率差が大きい有権者のカテゴリーは少なくとも2つは見つかり、2つの州では(トランプとその他の候補者との)得票率差は「経済が一番大事だ」と考える有権者のカテゴリーで最低を記録している。

・・・(略)・・・トランプ現象は(経済面での不安ではなく)主に文化面での不安によって突き動かされているのではないか。文化の変容に対する不満、文化が衰退しつつあるのではないかという不安。トランプ現象の背後にはそのような文化面での不安があるのではないかと私には思われるのだ。

詳しくはスコット・ウィンシップ(Scott Winship)が執筆してるナショナル・レビュー誌のこちらの記事を参照されたい。

ところで、「トランプの躍進を許した責任は共和党内部のエリート層にある」と語る記事をここのところよく目にするものだ。そのような記事では確かにもっともな批判が展開されてはいるのだが、私は密かにそれとは別の理論あるいは補完するような理論を持ち合わせている。トランプの躍進を許した責任はトランプに投票した人たちにある、というのがそれだ。因果関係だとか責任の所在だとかを説明するこれほどまでに複雑な理論が他にあるだろうか?

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●Tyler Cowen, “Trump voters are fairly well off”(Marginal Revolution, May 8, 2016)


予備選挙でトランプに票を投じた(共和党員の)有権者の中位所得は(出口調査が行われた)23の州全体の家計所得の中位値(中位所得)を上回っている。州ごとに細かく見ていくと、ニューハンプシャー州やミズーリ州に関してはその差はそれほど大きくはないが、それ以外の州ではその差はかなりのものになる。例えば、フロリダ州のケースがそうだ。フロリダ州で行われた共和党の予備選挙でトランプに票を投じた(共和党員の)有権者の家計所得(年収)の中位値(中央値)はおよそ7万ドル [1] 訳注;1ドル=100円で計算すると700万円だが、フロリダ州全体の家計所得(年収)の中位値は4万8千ドル [2] 訳注;1ドル=100円で計算すると480万円だ。その差(トランプに投票した有権者の中位所得と州全体の中位所得との差)は非白人層が多い州ほど大きい傾向にある。黒人やヒスパニック系の有権者は民主党員だというケースが大半であり、所得も低い傾向にあるということも関係しているが、例えばノースカロライナ州がそうだ。ノースカロライナ州で行われた共和党の予備選挙でトランプに票を投じた(共和党員の)有権者の家計所得(年収)の中位値は7万2千ドルだが、ノースカロライナ州で行われた民主党の予備選挙でヒラリー・クリントンに票を投じた(民主党員の)有権者の家計所得の中位値は3万9千ドルという結果になっているのだ。

さらにもう一丁。

〔共和党員は民主党員に比べて概して裕福であり、裕福な層はとりわけ予備選挙で投票に向かう傾向が高いということも確かに関係してはいる〕。しかしながら、共和党員の投票率は4年前の予備選挙時に比べると大きく上昇しているのは確かだが、「労働者階級」(“working-class”)や低所得層の共和党員の投票率が特に高まっているという証拠は見られない。今回だけではなく4年前の予備選挙時にも出口調査が行われた州全体の平均で見ると、今回の予備選挙で投票を行った共和党員のうちで家計所得(年収)が5万ドルを下回っているのは(投票した共和党員)全体の29%、翻って4年前の予備選挙時にはその割合(予備選挙で投票した共和党員のうちで家計所得(年収)が5万ドルを下回っている割合)は31%だったのだ。

さらには、予備選挙でトランプに票を投じた有権者のうちおよそ44%が大学の学位を持っているということだ。ちなみに、アメリカ全体で見るとその割合(大学の学位取得者が成人人口に占める割合)は29%ということだ。

今回引用したのはこちらのネイト・シルバーの記事だ。ところで、ネイト・シルバーとはつい最近対談したばかりだ。その時の模様を収めた音源やビデオ、対談の文字起こしをご覧になりたい方はこちらのリンクを辿っていただきたい。

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1 訳注;1ドル=100円で計算すると700万円
2 訳注;1ドル=100円で計算すると480万円
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