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タイラー・コーエン 「世界を変えた知識人たち」

●Tyler Cowen, “Which intellectuals have influence?”(Marginal Revolution, August 9, 2011)


影響力のある知識人として一体誰の名前を挙げることができるだろうか? ベン・カスノーカ(Ben Casnocha)によると、どうやら私の判断基準は彼の目には厳しく映るらしい。ただここで注意してもらいたいのは、「多くの人々の考えに影響を及ぼした」という意味ではなく、「現実の世界を変えた」という意味で「影響力のある」との表現を用いていることである。そのような意味でこれまでに(過去に)真の影響力を発揮してきた(真に影響力のあった)知識人を数人列挙すると以下のようになるだろう。

1. ジェイン・ジェイコブズ(Jane Jacobs): 今では数多くの都市プランナー(都市計画家)が彼女の批判を心に留めている。時に行き過ぎなこともあるくらいだ

2. レイチェル・カーソン(Rachel Carson)をはじめとした多くの環境保護主義者 その影響は明らかだろう。

3. ミルトン・フリードマン(Milton Friedman): 彼が現実の世界に及ぼした影響は多岐にわたっているが、中でも世界中における市場経済化・経済の自由化に向けた改革運動を鼓舞し、変動為替相場制度への移行を後押しし、初期のデリバティブ取引の知的裏付けを与えた点を挙げることができるだろう。また、マクロ経済政策の主軸が財政政策から金融政策へとシフトする上で大きな役割を果たしたのも彼であった。

それでは現時点で真の影響力を発揮している知識人は誰になるだろうか? 先ほどと同様に、以下に数人だけ列挙することにしよう。

1. ピーター・シンガー(Peter Singer): 肉食を拒否する人が増え動物の権利(アニマル・ライツ)の擁護を求める運動がこれまで以上に知的に信頼の置けるものと見なされるようになったのは、彼の力によるところが大きい。

2. ムハマド・ユヌス(Muhammad Yunnus): 彼自身がマイクロクレジットの発案者というわけではないものの、彼のおかげでマイクロクレジットが有名になり、このアイデアが多くの国々に広まることになった。

3. リチャード・ポズナー(Richard Posner): 判決を下し、自らの意見を述べるにあたって経済学の概念に依拠する裁判官の数が多くなっているが、それは彼のおかげである。

真の影響力を備えている知識人の大半は、自らの人生のかなり多くの時間を単一の非常に限定された課題や手法に費やしている傾向にある。他にもバーナンキ(Ben Bernanke)(確かに特殊な例ではあるが、真の影響力を備えていることは疑い得ない) や(貧困問題との絡みで)チャールズ・マレー(Charles Murray)、(フェミニズム運動との絡みで)ジャーメイン・グリア(Germaine Greer)の名前を付け足すことができるだろう。アーサー・ラッファー(Arthur Laffer)もある意味そうなのかもしれない。ジェネラリスト(generalist)が大きな影響力を持ち得た時代がかつてはあったわけだが、フリードマンはそういった意味で1 先祖返りの稀有な例だと言えよう。

反対に、これまでに現実の出来事にそれほど影響を及ぼしてはいない人物をこのリストの中からピックアップすると次のようになるだろう。ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)、リチャード・ドーキンス(Richard Dawkins)、スラヴォイ・ジジェク(Slavoj Žižek)、クリストファー・ヒッチンズ(Christopher Hitchens)、ポール・クルーグマン(Paul Krugman)、トニー・ジャット(Tony Judt)、ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)、フランシス・フクヤマ(Francis Fukuyama)、チャールズ・テイラー(Charles Taylor)、スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)、ナオミ・クライン(Naomi Klein)、ニーアル・ファーガソン(Niall Ferguson)、そして事実上すべての経済学者。

おそらく上で列挙した人物は人々の全般的なものの見方に対して長期的な影響を及ぼし、その結果として長期的には現実の出来事に影響を及ぼすことになるだろうが、そうとも言い切れないところがある。というのも、ある人物のあれもこれもがすべてその人物の備える影響力として時とともに蓄積されるわけではなく、また仮に影響力が徐々に高まりを見せたとしてもそれがリセットされるという場合もあるからである。具体的にどうなるかはわからないが、限定された問題に焦点を絞って取り組んできた人物こそがこれまでに真の影響力を発揮してきたということだけは確かである。

「今後大きな影響力を発揮するかなり高い可能性を秘めている」知識人としては、エスター・デュフロ(Esther Duflo)やジェフリー・サックス(Jeffrey Sachs)、ポール・ローマー(Paul Romer)、そして(医療保険制度改革の一つであるパブリックオプションとの絡みで)ジェイコブ・ハッカー(Jacob Hacker)の名前を挙げておきたいと思う。

「むなしい改革運動家」( “futile crusaders” )とでも呼べるような知識人としては、例えば、グリーン・エネルギー革命の実現に向けて中道的な政治運動の高まりを求めるトーマス・フリードマン(Thomas Friedman) や現状の知的財産権や政治資金調達プロセスの改革を求めるローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)を挙げることができるだろう。勿論、今後の展開次第では彼らが大きな影響力を発揮する可能性もあるにはある。だが個人的な見解としては、今後仮にグリーン・エネルギーの活用が進んだり、知的財産権の改革が実現したとしても、知的論争の場で勝利が収められた結果としてではなく、テクノロジーや価格の変化の結果としてそうなる可能性が高いと思われる。

総評すると、知識人が現実の世界に対して大きな影響を及ぼすことは非常に難しいということだ。

  1. 訳注;ジェネラリストであったにもかかわらず大きな影響力を発揮したという意味で []

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