●Nick Rowe, “How markets convert meat into vegetables”(Worthwhile Canadian Initiative, February 10, 2015)
今年も冬がやってきました。季節的に食物はもう作れません。食べられるのは前もって溜め込んである分だけです。「肉食主義者が溜め込んでいる食物の一部をベジタリアンの面々にくれてやりたいものだな」。王様はそう思われました。肉食主義者に税金を課そう。そうすれば肉食主義者による食物の消費量も減るだろう。そしてベジタリアンには(肉食主義者が支払う税金を財源として)給付金を支給するとしよう。そうすればベジタリアンによる食物の消費量も増えるだろう。そうお考えになった王様は財務大臣にすぐさま行動に移るように命じました。
「肉食主義者が溜め込んでいる食物の一部をベジタリアンに分け与えよと仰るのでしょうか? 残念ながらそれはできません」と財務大臣。肉食主義者はお肉だけを溜め込んでいて野菜は一切溜め込んでいないというのです(ベジタリアンは野菜しか食べません)。そしてベジタリアンは野菜だけを溜め込んでいるとのこと。お肉を野菜に変える機械でもあればいいのですが、そんなものはありません。
しかし、王様は経済学なんてわかりもしないシンプルな頭の持ち主でいらっしゃいます。財務大臣の言うことなんかには耳を貸さずに初心を貫きました。肉食主義者には税金が課され、ベジタリアンには給付金が支給されることになったのです。そしてその結果はというと・・・、王様の仰った通りになったのでした。
一体何があったのでしょう? 肉食主義者は溜め込んでいたお肉の一部を雑食主義者 [1] 訳注;雑食主義者はその名の通りお肉も野菜も嗜む人種であり、冬に備えてお肉も野菜もどちらとも溜め込んでいると想定されている。に売りました。その売上金を税金の支払いに回したのです。一方で、ベジタリアンは給付金を使って雑食主義者から野菜を買いました。さて、どういうことになったでしょう? 肉食主義者に関しては(税金を支払う必要もあって)溜め込んでいたお肉を売ってしまったために食物(お肉)の消費量は減ることに。ベジタリアンに関しては給付金のおかげで野菜を買い入れることができたために食物(野菜)の消費量は増えることに。そして雑食主義者に関しては(肉食主義者からお肉を買ったことで)お肉の消費量は増える一方で、(ベジタリアンに野菜を売ったことで)野菜の消費量は減ることになったのです。
しばらくして財務大臣も自分の間違いに気付きました。世代重複(OLG)モデルを勉強し出してから間もない財務大臣の頭の中ではこんな考えが駆け巡っていました。「王様はこうもできたはずだ。『第三世代』に税金を課して『第一世代』に給付金を支払う財源とする。『第一世代』は給付金のおかげで食物の消費量を増やせる一方で、『第三世代』は税金をとられるために食物の消費量を抑えないといけなくなる。『第三世代』がこの世に誕生した時には『第一世代』は既にこの世から去っていたとしてもそれは変わらない。ただし、それには『第二世代』が必要だ。『第一世代』とも『第三世代』とも生きている時期が重なるそんな『第二世代』 [2] … Continue readingが必要だ [3] … Continue reading。『第三世代』は肉食主義者、『第一世代』はベジタリアン、そして『第二世代』は・・・雑食主義者か!」
そろそろいつもの調子に戻らせてもらうが、(世代重複モデルのアナロジーを引き続き使わせてもらうと)雑食主義者は肉食主義者とベジタリアンという二つの世代をつなぎ合わせる「環」の役割を果たしているわけだ。世代の連鎖を(「第三世代」までで終わりにするのではなく)さらに延ばしたいようであれば「環」の数を増やしさえすればその望みも叶うことだろう。
市場は魔法のような働きをやってのける力を秘めている。お肉を野菜に変えたり、食べ物を未来から現在へと運んできたり。市場にはまるでそんな働きをやってのける魔力が秘められているかのようなのだ。
References
↑1 | 訳注;雑食主義者はその名の通りお肉も野菜も嗜む人種であり、冬に備えてお肉も野菜もどちらとも溜め込んでいると想定されている。 |
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↑2 | 訳注;「第二世代」は「第一世代」が老境に入る頃には働き盛りの真っ只中にあり、「第一世代」の面々がこの世から去って下の世代である「第三世代」が働き盛りになる頃には老境に入ることになる。 |
↑3 | 訳注;例えばこういうことだ。王様が「第一世代」(ベジタリアンの老人)に給付金を支給しようと思い立ち、その財源を調達するために国債を発行。「第二世代」(雑食主義者の若者)の一部がその国債を購入し、無事「第一世代」に給付金が支払われることに。「第一世代」の老人(でベジタリアン)たちは給付金を使って「第二世代」の若者たちから野菜を購入(「第一世代」による野菜の消費量が増加)。時が経つにつれて「第一世代」の面々は一人また一人とこの世から去っていきやがては全員が他界。「第二世代」も老境に入り、代わって「第三世代」(肉食主義者の若者)が社会を担う立場になる。やがて「第二世代」が若者だった時代に発行された国債の満期が到来。王様は国債を償還するために「第三世代」に課税を行って資金を捻出。「第三世代」は税金の支払いにより可処分所得が減り、それに伴い食物の消費量も減らさざるを得なくなる。 |