ポール・クルーグマン「不運な失業者たち」

Paul Krugman, “The Unlucky Unemployed,” Krugman & Co., May 30, 2014.
[“Unemployment: It’s Not Personal,” May 17, 2014.]


不運な失業者たち

by ポール・クルーグマン

VAN DAM/The New York Times Syndicate
VAN DAM/The New York Times Syndicate

先日,『ワシントン・ポスト』の記者マット・オブライエンがアメリカの長期失業について書いた記事は,興味深くもあるし,気持ちが落ち込みもする.それによると,長期失業は基本的に不運の問題だという:不景気なときに誰かがレイオフされたとして,その人は新しい職を見つけるまで苦しい時期を過ごすことになる;しかも,失業が長引けば長引くほど,仕事を見つけるのは難しくなる.

この分析には同意するしかない――1つ付け加えるなら,オブライエン氏の取材結果は,これと別の筋書きをおおむね決定的に反駁している.その筋書きっていうのは,「長期失業者は(6ヶ月以上にわたって失業している人たちは)問題のある労働者だ」っていうもの.

この筋書きがどういう仕組みになってるか,みんなにはわかるはずだ.かりに,労働者たちにはとある性質があるとしよう――「ガンバルマン性」だとかなんとか,そんなやつがあるとしよう.その性質は,公式の技能尺度には表れないものの,彼らを雇用するかどうか考えてる雇用主にはなぜか直観的にピンとくるとする.すると,このいわく言い難い性質を持ち合わせていない労働者は,仕事をなくしたり新しい勤め先を見つけるのに苦労しやすくなる.長期失業してる人たちが仕事を見つけるのに苦労してるのは,この個人的な資質の足りなさを反映してるってことになる.

失業に関するいろんな論評の行間を読んでみると――とくに失業手当を削減したがってる連中の書いたものを読んでみると――これに似た理論が土台になってるのがわかるはずだ.

ただ,大事なのは次の点だ:労働者の資質と失業のつながりは,景気がわるいときよりもいいときの方が強くなるはずなんだよ.2000年,労働力が不足してたときには,おそらく,レイオフされてた人たちにはなにか問題があったんだろう.2009年の場合は,たんにいた場所がわるかったって話だ.かりに失業してるかどうかが個人の資質の問題だとしたら,失業は大不況以後よりも以前の方が問題になっていたはずだよね.

もちろん,いまぼくらが経験してるのはその真逆だ.

言い換えると,失業は個人の問題なんかじゃないってこと.「経済が問題なんですよ,おばかさん」.オブライエン氏が指摘しているように,経済刺激策を打てないでいるのはアメリカの労働者たちに対する罪だと考えるべき理由が,これでもう1つ増えたわけだ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

根づよい問題

by ショーン・トレイナー

アメリカの失業率はこの4月に 6.3 パーセントにまで下がった.これは2008年以来最低の水準だ.だが,その一方で,アナリストのなかには,「その数字は実際の状態を反映していない」と考える人たちがいる.

そう懸念する主な理由は,失業率を計測する政府の方法にある.失業している労働者が,意欲を失って仕事を探すのをやめてしまうと,彼はもはや労働力ではないと考えられ,失業率には含まれなくなる.これを補うため,労働統計局は代替の失業率計測値を(公式の失業率と併せて)公表している.「U-6」と呼ばれるこの数値には,求職意欲をなくした潜在的労働者とできればフルタイム雇用につきたいと考えているパートタイム労働者を失業率に含めている.今日,この U-6 は約 12.3 パーセントだ.

U-6 失業率と公式の失業率の落差はいっそう大きくなっている.このことから,アメリカの長期失業者のうち,仕事探しをやめてしまった人たちは多数にのぼることがうかがえる.

研究で明らかになっているように,6ヶ月以上にわたって失業した人たちは,さらに複合的な問題に直面する.というのも,その資質がどうであろうと,経歴に長期の空白がある労働者を多くの雇用主は雇いたがらないからだ.

また,長期的な失業には技能の喪失がともなううえに,鬱病にかかる率も上昇する.

「長期失業は,仕事を探さず失業給付でぬくぬく暮らすのを選んだ怠け者の話ではない」とオブライエン記者は5月16日付けの『ワシントン・ポスト』に記している.「失業は,就業をのぞんでいながらも,仕事が十分にないために見つけられずにいる人々の話なのだ――そして,この人々は,やがて雇用戦線の後方に退いていく憂き目を味わっている」

© The New York Times News Service

Total
0
Shares
0 comments
  1. いつもお疲れ様です。
    スティコトイティブ性は”stick to it”でお前らの頑張りが足りないんじゃーっていうシバキを揶揄してるんですね。蛇足ですが。

  2. …being unemployed should have mattered less for job search after the Great Recession than before.
    これは
    「・・・失業は大不況以前よりも以後の方が問題になっていたはずだよね.」
    と訳されておりますが、本来は
    「失業は大不況以前よりも、以後により問題視されなくなるはず」と言う意味ではないでしょうか。なぜなら should have mattered “less” for job search after the…とlessがあるからです。間違いだったらごめんなさい。気になったので。。

    1. 「大不況以前には問題となって、大不況以後にはあまり問題にはならない」という意味だと「もちろん,いまぼくらが経験してるのはその真逆だ」の意味も通るようになりますね

      1. ご指摘のとおりです.頭のなかではそう思っていたはずなのに,訳文の方はちぐはぐになっていました.修正しました.ありがとうございます.

コメントを残す

Related Posts