●Mark Thoma, “Does a Higher Minimum Wage Reduce Jobs?”(Economist’s View, October 12, 2010)
アリン・デューベ(Arindrajit Dube)が最低賃金の効果に焦点を当てた自らの研究――その論文はこちら――の件で、インタビューを受けている [1] … Continue reading。以下に、インタビューの動画を貼り付けておこう。
インタビューの内容をまとめた記事の一部も引用しておこう。
“Does Higher Minimum Wage Reduce Jobs?”:
・・・(略)・・・マサチューセッツ大学アマースト校の助教授で、労働経済学が専門のアリン・デューベが、リアル・ニュースの取材に応じた。デューベによると、これまでに最低賃金が引き上げられたいくつかの地域では、雇用量は減っていないようだという。従来の理論から導き出される予測と食い違う結果になっているという。
デューベの研究では、州境を挟んで隣り合っていて最低賃金の水準に違いがある郡のペアに着目して、最低賃金の水準の違いがそれぞれの郡の雇用量にどんな影響を及ぼしているかが探られている。レストランをはじめとするサービス業に焦点が当てられているが、デューベによると、この部門で雇われている従業員の大多数が最低賃金と同額の時給で働いているという。最低賃金の引き上げは、サービス業の雇用量に対して短期的にも長期的にも無視しても差し支えないほどの影響しか及ぼしていないというのが、彼が見出している結果である。
「政策当局者が最低賃金の引き上げを検討する際には、この結果を重要なポイントとして心に留めておいてもらいたいと思います」とデューベ。
デューベによると、最低賃金の効果についての通念――最低賃金の引き上げは、雇用量を減らすに違いないという広く流布している考え――の出所を探ると、1990年代初頭以前に手掛けられた研究に辿り着くという。・・・(略)・・・従来の研究が大きな欠陥を抱えていることに気付いて、国レベルではなくもっとローカルなレベルの証拠に目を向ける研究が登場してきたのが、1990年代の初頭から半ばにかけてだという。 その中でも有名なのが、デービッド・カード(David Card)&アラン・クルーガー(Alan Krueger)の二人による共同研究である。彼らの研究では、ニュージャージー州での最低賃金の引き上げがどういう影響を及ぼしたかを調べるために、ニュージャージー州とペンシルベニア州の境界を間に挟んで隣り合っている郡に目が向けられている。最低賃金が引き上げられてから1年の間に、ニュージャージー州での雇用量は減らなかったばかりか、雇用量が増えた部門さえあったことが、カード&クルーガーの二人によって見出されたという。
カード&クルーガーの共同研究の成果が論文として発表されると、その他の経済学者たちから激しい批判が寄せられたという。デューベの研究は、カード&クルーガーの二人と同じ手法を使っているが、州境を挟んで隣り合っているあらゆる郡が対象になっているだけでなく、最低賃金の引き上げがどういう影響を及ぼしたかが20年ないしはそれよりも長い期間にわたって追跡されている。
デューベは語る。「そういう意味では、カードとクルーガーの共同研究が私の研究の礎になっているわけですが、むしろ彼らの手法を一般化したと言うべきかもしれません。さらには、カードとクルーガーの共同研究に向けられた真っ当な批判のいくつかにも応えています。カードとクルーガーの共同研究とは違って、私の研究については、単一の事例だけを取り上げたケース・スタディーに付き纏う批判がどれも当てはまらないのです。とは言え、私が見出した結果とカード&クルーガーの二人が見出した結果は、驚くほど似通っているのです」 。
最低賃金が引き上げられると、サービス業への求職者が増えるだけでなく、従業員の離職が抑制されて、職場の生産性が高まることも、デューベは見出している。さらには、例えばレストランのうちいずれか1社だけが賃金を引き上げる場合には、それに伴って従業員の数が減らされる(誰かしらがクビになる)可能性が高いが、(最低賃金が引き上げられることで)同業他社の多くが一斉に賃金を引き上げる場合には、人件費の上昇が顧客(消費者)に転嫁される可能性が高いという。つまりは、メニューの価格が引き上げられるわけだが、そうなっても需要が減るとは限らないという。
デューベが見出している発見は、あくまでもサービス業――特定の地域に住む顧客をターゲットにしていて、製造業のように職場があちこち移動しない部門――だけに当てはまる。とは言え、アメリカ国内で製造業部門で働いている労働者のうちで、その時給が最低賃金と同額というケースはごく少数だという。
・・・(中略)・・・
デューベは、「スピルオーバー効果」についても語った。スピルオーバー効果というのは、最低賃金の引き上げに伴って、最低賃金以外の賃金も押し上げられる効果を指しているが、押し上げられるのは最低賃金を若干(25%程度)上回る賃金だけであることが見出されているという。
最低賃金が引き上げられると、耐久消費財の需要が大幅に増えることを見出しているのが、Fed(連邦準備制度)のエコノミストたちが手掛けている研究 [2]訳注;おそらくは次の論文だと思われる。 ●Daniel Aaronson&Sumit Agarwal&Eric French (2012), “The Spending and Debt Response to Minimum Wage Hikes”(The American Economic … Continue readingである。テューベは語る。「最低賃金が引き上げられると、最低賃金と同額の時給で働く人たちの購買力が高まって、そのおかげで総需要が刺激される傾向にあるわけです」。
References
↑1 | 訳注;デューベは、2013年3月に米上院委員会(上院保健・教育・労働・年金委員会)で、最低賃金をテーマに証言(pdf)を行っている。デューベがニューヨーク・タイムズ紙に寄稿している次の記事もあわせて参照されたい。 ●Arindrajit Dube, “The Minimum We Can Do”(New York Times, Great Divide Series, November 30, 2013) |
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↑2 | 訳注;おそらくは次の論文だと思われる。 ●Daniel Aaronson&Sumit Agarwal&Eric French (2012), “The Spending and Debt Response to Minimum Wage Hikes”(The American Economic Review, vol. 102 (7), pp. 3111-3139) |
「複数の州にまたがっている郡の中には同じ郡内にもかかわらず」の部分はいずれの部分の訳でしょうか?Dubeが分析で用いているのは「contiguous counties, counties on either side of a state border, where one side the minimum wage is higher than the other」で示されるように,「一方の側の最低賃金が他方よりも高いような州境のいずれかの側に位置する『隣接郡』」のことであり,郡そのものが州境をまたがっているというわけではないかと思います。また米国の地方自治制度上そのような郡は寡聞にして聞いたことがありません。
コメントありがとうございます。
私もインタビュー記事をはじめて読んだ時は「州境を挟んで隣り合っている郡」のことだろうと思ったのですが、念のために論文を確認すると”straddle a state border”という表現が目に付いたので「1つの郡が複数の州に跨っているということか?」と考えて、読者の便宜を考えてこちらの判断で「複数の州にまたがっている郡の中には同じ郡内にもかかわらず云々」という文章を挿入したのですが、umedamさんの仰るとおりのようですね(インタビューでも『隣り合う郡』の具体的な事例を尋ねられて、「ワシントン州のスポケーン郡」と「アイダホ州のコー・ダリーン(クートニー郡)」をあげていますね)。どうやら余計なお世話をしてしまったようです。
というわけで、ご指摘を参考にして修正させていただきます。間違いに気付かせていただき感謝いたします。今回の記事に限らず何かお気付きの点がございましたら心置きなくご指摘いただけたらと思います。そうしていただけたら幸甚です。