ラルス・クリステンセン 「名目GDPが急落すると、経済的な自由が損なわれる?」(2015年10月29日)

●Lars Christensen, “A sharp drop in Nominal GDP will cause a drop in Economic Freedom”(The Market Monetarist, October 29, 2015)


先週の話になるが、テキサス州ダラスにある南メソジスト大学に招待されて、計2回の講演を行ってきた。色々と貴重な体験をさせてもらったが、ライアン・マーフィー(Ryan Murphy)と一緒に過ごした時間はとりわけ有意義なものだった。マーフィーは、南メソジスト大学付属の「グローバル市場&自由の先端研究のためのオニールセンター」で助教(Research Assistant Professor)を務めているが、彼も共著者の一人に名を連ねている論文をネタにして話が盛り上がった。

その論文とは、“Aggregate Demand Shortfalls and Economic Institutions”(「総需要不足と経済制度」)。「総需要の急落は、経済的な自由の縮小を招く」というのが、この論文で提示されている仮説である。すなわち、総需要の急落が続くと、国民感情が変化して、それに応じるようにして政策当局者が経済的な自由の縮小につながる一連の政策に踏み切るに至る、というのである。

かねてから私も似通ったことを主張してきた。中央銀行が名目支出(総需要)の伸びを「正常な軌道」に乗せるのに失敗してしまうと、その結果として国民の間でポピュリストを待望する感情が高まりかねない。そうなると、筋悪な政策が矢継ぎ早に採用されて、マクロ経済の供給サイド(潜在的な生産能力)によからぬ影響が及びかねないのだ。

既に指摘したように、この論文の著者の一人はマーフィーだが、残すもう一人の著者はテイラー・リーランド・スミス(テキサス工科大学)だ。論文のアブストラクト(要旨)を引用しておこう。

総需要の不足が続くと、政治情勢が不安定になりがちだが、政治情勢が不安定になると、短期的にとどまらず長期的にも経済制度に何らかの影響が及ぶ可能性がある。景気後退への対応に誤ってしまうと、自由な経済制度に有害な影響が及んでしまいかねないと懸念する声はかねてからある。本稿では、経済制度の自由度を測る指標として「世界における経済的自由度指数」(EFW)を利用して、総需要の不足が経済制度の自由度に及ぼす影響を検証した。その結果、総需要が不足して名目GDP成長率がマイナスを記録すると、その後の5年間、10年間、15年間のいずれの期間をとっても、(EFWで測った)経済的自由度が低下する(経済的な自由が損なわれる)傾向にあることが見出された。EFWの中から金融政策絡みの変数(インフレ率が低位で安定しているかどうかを測る「健全通貨度」)を取り除いても同様の傾向が依然として(概ね)成り立つ一方で、経済制度の自由度を測る指標としてEFWの代わりに貿易開放度を測る指標を用いると、総需要の不足が経済制度の自由度(貿易の開放度)を低下させるという関係は成り立たないことも見出されている。

「金融政策の失敗」と「経済的な自由」とのつながりを分析するための斬新なアプローチが提案されている大変優れた論文だと思う。

マーフィーにも直接伝えたが、1930年代も分析対象に加えるべきだろう。1930年代にもまったく同じようなメカニズムが働いていたことが見出されるに違いないだろうからだ。とは言え、一つだけ問題がある。「世界における経済的自由度指数」(EFW)では、1930年代がカバーされていないのだ。

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