経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

世界の貿易とドル

Emine Boz、IMFリサーチ部門シニア経済学者

Gita Gopinath、ハーバード大学国際学部・経済学部教授

Mikkel Plagborg-Moller、プリンストン大学経済学部助教授

2018年2月11日  VoxEU原文

国際マクロ経済学では通常、貿易パートナー間の為替レートこそが貿易価格、数量、そして交易条件についてもっとも重要であると仮定されている。このコラムでは別の考え、つまりアメリカドルに対しての為替レートこそが最も重要であるというものを支持する証拠を提示する。これは、合衆国が貿易に関わっていない場合ですら請求はドルで行われるのが一般的である為だ。この発見には金融と為替レートについての政策の運営に関する重要な含意がある。

国際マクロ経済学における主導的なパラダイムでは、貿易パートナー間での為替レートの変化は両国の交易条件の変化と結びつけられている。ミルトン・フリードマン(1953)が、価格が生産国通貨では粘着的であったとしても、変動相場制は完全雇用を維持する為のその国の輸入と輸出価格の丁度「正しい」変化を生み出すと主張したことは有名だ。この洞察は、標準的なマンデル-フレミング・パラダイム(Mundell 1963, Fleming 1962, Obstfeld and Rogoff 1995)における中心的な予測でもあって、それにおいては名目為替の減価はその国の交易条件(つまり、輸入価格の輸出価格に対する比率である輸入価格/輸出価格)の悪化へ繋がると仮定されている。つまり、名目為替レートが減価すると、輸入品価格の輸出品価格への比率は上昇すると。これと競っている別の影響力をもったパラダイムの一つ(Betts and Devereux 2000, Devereux and Engel 2003)では、地元(あるいは輸出先)通貨での価格づけを仮定しており、その核心部においては真逆の予測をしている-名目為替レートの減価はその国の交易条件の改善と繋がる、と。そして全世界的にはこれらのパラダイムはその国の為替レートの重要さは世界の貿易におけるその国のシェアに応じたものになっているとしており、それを超えた過大な役割を持つ為替レートは存在しないとなっている。

しかし、最近の証拠は貿易の大部分は明らかに少数の「支配的通貨」において請求されており、アメリカドルが特大サイズの役割を果たしている事を明らかにしている(Goldberg and Tille 2008, Gopinath 2015)。それゆえにCasas et al.(2016)が開発したのが「支配的通貨パラダイム」である。これは、貿易価格はドルにおいて粘着的であり、貿易国のドルに対しての為替レートがその貿易価格、数量、そして交易条件の中心的な要素であるというものだ。コロンビアのマイクロデータを利用して彼らが示した証拠は、その予測に強い支持を与えている。

この三つの価格パラダイムの世界的な重要性を測る為、我々は新しい研究において、世界の大半から取ったサンプルについての調和の取れた輸輸出双方向の各年ごとの単位あたり価値と数量の指標を作った(Boz et al. 2017)。我々の指標は55ヶ国についてのもので、2015年から国によっては1989年までに遡る非常に細分化された国連Comtradeのデータに関する2500 dyads (これは貿易ペアを意味する)以上の貿易の組み合わせを扱っている。我々のサンプルの中の国々は2015年の世界全体の輸出と輸入の91%を占めている。一つ重要な点として、我々はこの指標から一次産品1 を除外している。これはこのパラダイムが粘着的な価格の財にだけ関わるものだからだ。

我々は、生産者通貨や現地通貨による価格付けパラダイムは世界貿易で観測されるパターンと整合的ではない事、しかしデータは支配的的通貨パラダイムをかなり支持している事を発見した。我々のデータは、貿易の価格と数量に大きく影響するのはアメリカドルに対してのその国の為替レートである事を示唆している。これは合衆国が貿易取引に関わっているかどうかとは関係無しに起こっている。貿易のドルでの請求がこれについての説明の重要な部分となっている。

以下では、我々の結論を導いた4つの鍵となる事実について詳細していく。

1.交易条件の二国間の為替レートに対する反応は鈍い

我々は、二国間での為替レートの1%の減価による二国間(非一次産品)交易条件の悪化はわずか0.04%であること事を発見した。その95%信頼区間が[0.02%,0.05%]となるように、これのインパクトはほぼゼロであると推定される。この発見は主要なベンチマーク・パラダイムの予測とは非常に異なったものとなっている。マンデル-フレミング・パラダイムでは交易条件がほぼ1%悪化すると予測するし、現地通貨価格パラダイムなら完全に硬直的な名目価格を前提にして同規模の改善を予想する。しかしこれは、支配的通貨パラダイムとは完全に整合的である。大半の輸入と輸出がドルで請求されるので、一国の交易条件はその為替レートから切り離されているわけだ。

2.  ドルの為替レートの変化は、輸入価格と数量の動きの説明において貿易パートナー間での二国間為替レートの変化を圧倒している。

我々は次に、国々のペアごとでの二国間為替レートの輸入価格と量へのパススルーを推定した。貿易パートナーに対する輸入国の為替レートの1%の減価は、輸入価格の0.76%の上昇につながる(図1)。これは1年の間でのほぼ完全なパススルーを示唆している。しかし、ドルに対しての輸入国の為替レートを加えると、二国間為替レートのインパクトは0.76%から0.16%へ低下する。逆にドルは輸入価格への0.78%のインパクトによって支配的な要因となる。

_図1 為替レートに対する二国間価格レベルのインパルス応答

:図は、輸入国が報告するデータを用いた二国間価格レベルの二国間為替レートと米ドル為替レートに対するインパルス応答の推定をプロットしている。左の推定は、二国間輸入価格の変化を二国間為替レートの変化で回帰する通常のモデルからのもの。右の推定は、説明変数として輸入国のだけでなく米ドルの為替レートを付け加えたもの。エラーバーはdyadでクラスター化した標準誤差による95%信頼区間を表している。

更に、ドルの変動の役割は、ドルでの請求が多い国ほど大きくなる。我々の貿易データをGopinath (2015)による輸入国の国レベルでのドル請求シェアと突き合わせて、輸入の中でのドル請求シェアの10%ポイントの上昇はドルのパススルーの3.5%ポイントの上昇につながる事を発見した。このドルでのパススルーの数字はその国の輸入価格のドル価値に対しての感応度の上昇を表している。

同様に、ドルの為替レートを二国間の貿易数量予測の回帰に加えると、二国間為替レートの係数が大幅に低下する。ドル為替レートの同一期間での数量弾力性は-0.19であるが、二国間為替レートの弾力性は一桁小さい-0.03となっている。請求通貨としてのドルの役割はほんとうに特別であって、価格と数量の回帰においてユーロの説明力にも容易に打ち勝っている。

3. アメリカドルの強さは、アメリカ以外の国々の集計貿易数量とインフレーションの予測の鍵となる要因である。

アメリカドルの世界の他の通貨全てに対する1%の増価は、世界の景気変動を調整した上で、アメリカ以外の世界の国々の間での全貿易数量の一年以内での0.6から0.8%の低下を予測する。

更に、ドルでの輸入請求シェアの大きい国ほど、ドル為替レートから消費者そして生産者価格インフレーションへの高いパススルーを経験する。この発見は伝統的なマンデル-フレミングモデルの観点からではその二国間為替レートの強調故に理解しがたいが、支配的通貨パラダイムにおいては自然に発生するものである。

4. 輸入国の輸入のうちドルで請求されるシェアが国々のペアにおけるドル・パススルー/弾力性の変動の15%を説明する。

我々は次に、パススルー係数におけるクロスdyadでの不均一性が輸入のうちのドルでの請求の比率によってどの程度説明できるのかをみるために、フレキシブル階層ベイズフレームワークを組み立てた。平均のパススルーと不均一なパススルーの要因の統計的有意性についての情報を提供してくれる通常のパネルデータ回帰とは違い、ベイジアンアプローチは為替レートパススルー/弾力性のクロスセクション全体での不均一さと、この不均一性のドル請求との関係を数値化させてくれる。

我々の推定によると、輸入国のドルでの請求シェアが、ドル為替レートの価格へのパススルーのクロスdyadでの変動の15%を説明する。我々はまた、輸入国のドル請求シェアが貿易数量の為替レート弾力性に影響を与える事も発見した。これらの発見は、支配的通貨パラダイムの鍵となるコンセプトである請求に使われる世界的通貨の数値的な重要性を確認している。

結論

我々の発見は、交易条件は為替レートにはわずかしか反応しない事、ドルに対する通貨の価値がどこの国から輸入しているのかとは関係なしにその国の輸入価格と数量についての第一の決定要因である事、そしてドルでの請求の程度がドルの為替レートに対する価格と数量の反応の重要な予測要因である事を明らかにした。我々の推定値の大きさや、我々のデータが世界経済をカバーする程度からして、ショックの国際的伝播や金融や為替レートの最適な政策を分析する際には、支配的通貨パラダイムこそが伝統的なモデリングアプローチよりも実証的により意味のあるベンチマークであろう。

参照文献

Betts, C and M Devereux (2000), “Exchange rate dynamics in a model of pricing-to-market”, Journal of International Economics 50(1): 215-44.

Boz, E, G Gopinath and M Plagborg-Møller (2017), “Global trade and the dollar”, NBER Working Paper 23988.

Casas, C, F Diez, G Gopinath and P-O Gourinchas (2016), “Dominant currency paradigm”, NBER Working Paper 22943.

Devereux, M and C Engel (2003), “Monetary policy in the open economy revisited: Price setting and exchange rate flexibility, Review of Economic Studies 70(4): 765-84.

Fleming, M (1962), “Domestic financial policies under fixed and floating exchange rates”, IMF Staff Papers 9: 369-79.

Friedman, M (1953), Essays in Positive Economics, University of Chicago Press.

Goldberg, L and C Tille (2008), “Vehicle currency use in international trade”, Journal of International Economics 76(2): 177-92.

Gopinath, G (2015), “The international price system”, Jackson Hole Symposium, volume 27, Federal Reserve Bank of Kansas City.

Mundell, R (1963), “Capital mobility and stabilization policy under fixed and flexible exchange rates”, Canadian Journal of Economic and Political Science 29(4): 475-85.

Obstfeld, M and K Rogoff (1995), “Exchange rate dynamics redux”, Journal of Political Economy 103(3): 456-72.

  1. 原文では”commodities”。Commoditiesは必ずしも一次産品を意味するわけではないですが、元の論文のBoz et al. 2017をあたると”we define commodities fairly broadly as HS chapters 1–27 and 72–83 which comprise animal, vegetable, food, mineral, and metal products”とあり、動物、野菜、食品、鉱物、金属となっていますのでわかりやすく一次産品にしています。 []

コメントを残す