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ジャネット・イエレン「困難な10年間と今後の課題」

Jenet L. Yellen ”A Challenging Decade and a Question for the FutureAt the 2017 Herbert Stein Memorial Lecture, National Economists Club, Washington, D.C.,October 20, 2017


ナショナル・エコノミスト・クラブでお話しさせて頂くのを大変うれしく思います。また,慎重な分析,研ぎ澄まされたプラグマティズム,冴えた機転を特徴とするハーバート・スタインの公職や学業における功績は,私たち経済学者の中でも最高の事例であり,彼の名を冠した場にいられることを光栄に思います。ハーバートは,政府の政策に対する新たなアイデアやアプローチの着想に積極的でしたが,彼のそうした開明性は本日の私の講演の主題に沿うものです。というのも,本日は金融危機と大不況の勃発以降に連邦準備制度(Fed)が用いた非伝統的な金融政策ツールとそれらツールが将来の経済的課題において果たす可能性のある役割についてお話ししようと思います。

10年近く前,アメリカは大不況以来最悪の経済金融危機のぬかるみに陥り,連邦公開市場委員会(FOMC)は雇用最大化と価格の安定という議会より課せられた目標を追求するにあたり,ある大きな課題に直面することとなりました。すなわち,私たちの主要な伝統的ツールであるフェデラルファンド・レートが実質的にゼロにまで下がっている中,弱体化するアメリカ経済をどのように支えるかというものです。そして,この課題への対処によって2つ目の課題が沸き起こりました。それは,金融緩和策が必要なくなった場合に,それを秩序ある形で縮小できるということをどのように保証するかということでした。いずれの課題も,それに失敗していれば雇用最大化と価格の安定を促進するための私たちの能力を毀損し,数百万もの国民の生活に深刻な影響をもたらしたでしょう。

本日は,私たちが1つ目の課題を解決したということと,2つ目の課題の解決にも良い進展が得られているということをお伝えしたいと思います。 [Read more…]

ジョン・コクラン「イエレン議長を振り返る」

John Cochraine “Yellen Retrospective” The Grumpy Economist, November 2, 2017


本日の新聞報道によれば,トランプ大統領はジャネット・イエレンの後任としてジェローム・パウエルをFed議長に任命することを決定した。

Fedの責務は「雇用最大化,価格の安定,長期金利の安定を促進する」ことだ。彼女の任期におけるこれらの結果について,イエレン女史は胸を張って良いだろう。

全都市消費者物価指数(除食料及びエネルギー)

文民失業率

10年物財務証券満期利回り

これら3つの変数すべてが過去50年において最良となっている。私を含め,多くの人が多くのことについてFedに文句を言うが,Fedに課せられた責務に関していえば,彼女が上の3つのチャートを次の職場の壁に飾るのを咎める人はいないだろう。

イエレン女史が特段課題に見舞われることがなかったと言う人もいるかもしれない。大統領が戦時において試されるがごとく,Fed議長は出来事によって試されるというわけだ。イエレン女史が不況や金融危機に見舞われることはなかった。この晩夏の静けさ漂う景気循環の中で,彼女の仕事の大部分は何もしないこと,そして彼女に大きなことをさせようとする人々の呼びかけに抵抗することだった。Fedの主要なツールであるフェデラルファンド・レートはほとんど動かなかった。

実効フェデラルファンド・レート

彼女が何もしなかったというのは正しいが,彼女は状況をめちゃくちゃにすることもなかった。金融政策の歴史の多くは凡ミスで構成されており,うまく業績を上げてきたわけではない。歴史的には,中央銀行家は晩夏のような景気循環の時に過剰ないし過少に反応してきた。緊縮・緩和を問わず,劇的な行動をとるよう大きな声で求める人がいないということもなかった。Fedが株式と住宅価格を操作すべきという「マクロプルーデンス政策」という誘惑の声はとりわけ強かった。彼女の前任であるベン・バーナンキは,2008年の危機と不況に対するFedの対応,そして2007年に危機が来ることをFedが見通せなかったという失敗について,彼女よりもはるかに多くの紙幅を割かれるだろう。状況をめちゃくちゃにしなかったということが歴史において大きな位置づけを与えられることはないが,おそらくはそうした位置づけを与えられるべきだ。

金融政策について,そしてより重要な問題である(と私が考えている)Fedの金融規制についての各人の考えはどうあれ,トランプ大統領は彼女を再任命しないという伝統破りを行った。Fed議長が順当な仕事を行った場合,彼あるいは彼女は再任されるという伝統はFedの独立性を保つための良い方策だ。この伝統がなくなってしまわないことを祈ろう。

イエレン女史の新たな旅立ちと,パウエル氏のFed議長就任に幸いあれ。

ジョン・コクラン「付加価値税」

John Cochrane ”VAT — full textThe Grumpy Economist, October 4, 2017


掲載から30日経ったので,ほかのすべての連邦税に代えて付加価値税を勧めるという趣旨でWall Street Journalに掲載した論説をここにも掲載しよう。前回のブログポストにはさらなる補足がある。
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ジョン・H・コクラン
2017年9月4日東部標準時 2:38 pm

トランプ政権と有力議員たちはまもなく税制改革提案を明らかにするだろう。報道では,この提案には法人税と所得税の引き下げのほか,一部の税額控除の終了が含まれている。しかし,優遇された(あるいは冷遇された)集団に(あるいは集団から)所得を移転する手段として主に税法を捉える人々や,控除,特例,補助金を支持者に与える政治家たちの普通の利益によって真の改革は阻害されることが多い。

したがって物事が常の通りに動くならば,アメリカの複雑で機能不全な税法が大きく変わることは期待できない。しかし,この国の指導者たちが本当に抜本的な改革を行おうとしていたならば,彼らはこの政治的行き詰まりを打開することもできた。変化は有権者にとって簡単で分かりやすく魅力的なものでなければならない。そして規制改革を伴った抜本的な改革だけが経済成長を3%あるいはそれ以上に引き上げることができる。 [Read more…]

世界銀行eMBeDチーム「誰もが誤りを犯す:2017年ノーベル経済学賞を開発事業に生かす」

eMBeD “Everyone misbehaves: Putting the 2017 Economics Nobel Prize to work for developmentblogs.worldbank.org, 10 october, 2017


2017年のノーベル経済学賞がリチャード・セイラーの経済理論への心理学の導入という革新的業績に対して授与されたというニュースは,シカゴ大教授であるセイラーや「実践 行動経済学 健康,富,幸福への聡明な選択(原題:Nudge)」の共著者にとっての勝利に留まらず,行動経済学の知見を用いた世界中の政策にとっての勝利でもある。

ダニエル・カーネマンの(アモス・トベルスキーとの)判断と意思決定に関する研究は,彼に2002年のノーベル賞をもたらした。2002年のノーベル賞が行動経済学に対するもの,あるいは経済理論および研究における心理学の利用に対するものであるとするならば,今年2017年の賞は行動公共政策に対するものと言えるかもしれない。セイラーの主要な研究はトベルスキーとカーネマンの研究の拡張だが,特筆すべきことはこの研究を政策決定にまで拡張したことだ。セイラーのおかげで,行動経済学はすべての人々にとって便利なものになった。とある人が書いたように,「今や我々はみな行動経済学者だ。」 [Read more…]

タイラー・コーエン「ノーベル賞はリチャード・セイラーに」

Tyler Cowen “Nobel Prize awarded to Richard ThalerMarginal Revolution, October 9, 2017


この授賞は納得だね。これは行動経済学,経済的意思決定における心理学の現在の重要性,そしてキャス・サンスティーンとの共著による彼の名高いベストセラー「実践 行動経済学 健康,富,幸福への聡明な選択(原題:Nudge)」への授与だ。

セイラーに関する過去記事はこちら。僕らはこれまでも彼の研究を何度も取り上げてきている。彼のTwitterアカウントはこれグーグルスカラーはこちらノーベル賞の記者発表はこれで,ここにはたくさんのエッセイや諸々も載っている。キャス・サンスティーンによるセイラーの業績の概説はこちら

多くの人は知らないかもしれないけど, [Read more…]

アレックス・タバロック「リチャード・セイラーがノーベル賞を獲得!」

Alex Tabarrok “Richard Thaler Wins Nobel!Marginal Revolution, October 9, 2017


リチャード・セイラーが行動経済学によりノーベル賞を受賞した!非常に素晴らしいというだけでなく,私の人生をより快適にしてくれる決定だ。その理由を読者諸兄もおそらくは知っているだろう。というのも,みんながどれだけ定年のために貯蓄をするか,どのように税金を払うか,腎臓をドナー提供するかどうかは,彼の業績の影響を既に受けている可能性があるからだ。イギリスでは,セイラーの業績は行動経済学を公共政策に応用しているBehavioral Insights Teamの着想の基ひとつとなった。2010年にこの団体が設立されて以降,アメリカを含む多くの国で同様の団体が結成されている。 [Read more…]

タイラー・コーエン「今年のノーベル経済学賞の受賞者は誰?」

●Tyler Cowen, “Who will win Monday’s Nobel Prize in economic science?”(Marginal Revolution, October 7, 2017)


以下はウォールストリートジャーナルより。

トムソン・ロイターから独立したクラリベート・アナリティクスは,研究論文の引用数に基づいてノーベル賞を受賞する可能性のある候補のリストを作成している。そのリストに今年新たに加わったのは,カリフォルニア工科大学のコリン・カメラーとカーネギー・メロン大学のジョージ・ローウェンシュタイン(行動経済学と神経経済学に関する先駆研究),スタンフォード大学のロバート・ホール(労働者生産性の分析,景気後退と失業に関する研究),ハーバード大学のマイケル・ジェンセンとMITステュワート・メイヤーとラグフラム・ラジャン(企業融資における意思決定局面に対する着目への貢献)だ。

クラリベートのリストには,ほかにも数十名のノーベル経済学賞候補の名前が挙げられており,ドナルド・トランプ大統領がFED議長への任命を検討していたと言われている金融政策の研究者であるジョン・テイラー,経済成長の専門家であり,世銀のチーフエコノミストであるニューヨーク大学のポール・ローマー,ロナルド・レーガン時代の大統領経済諮問委員会委員長で,年金,税などの財政分野について研究を行っているマーティン・フェルドシュタイン,気候変動について研究しているイエール大学のウィリアム・ノードハウス,生産性について研究している ハーバード大学の デイル・ジョルゲンソン,経済成長について研究しているハーバード大学のロバート・バロー,元IMFチーフエコノミストであるピーターソン国際経済研究所のオリビエ・ブランシャール,行動経済学を研究しているシカゴ大学のリチャード・セイラーなど,アメリカの経済学界の著名人もそこには含まれている。

大恐慌に関する研究業績から,過去には元FED議長であるベン・バーナンキの名前も過去に挙がったことがあり,バーナンキの古くからの共同研究者であるニューヨーク大学のマーク・ガートラーもクラリベートのリストに記載されている。法と経済学の関係についての研究家であり,最近連邦裁判所判事を引退したリチャード・ポズナーもまたリストに含まれている。

僕の予想は当たったことがないけど1 ,今年はウィリアム・ノードハウス(「環境会計」)とマーティン・ワイツマン(気候変動とリスクの経済学)と予想しよう。

  1. 訳注;2015年の予想(拙訳)と2016年の予想(hicksianさんによる訳) []

タイラー・コーエン「2016年のノーベル経済学賞受賞者オリバー・ハートとベングト・ホルムストロム(2/2)」

●Tyler Cowen “Bengt Holmström, Nobel Laureate” (Marginal Revolution, October 10, 2016)

(訳者注:本記事はホルムストロムについての紹介となります。共同受賞者であるハートについてはこちらをご参照ください。)


ベングト・ホルストロムのホームページはここで、彼のCVや簡単な経歴、研究論文へのリンクが掲載されている。Wikipediaの彼のページはここ。彼は長い間MITで教鞭をとっているけれど生まれはフィンランドで、契約や産業組織論において最も有名で影響力のある経済学者の一人だ。スウェーデン中銀による紹介文はここ動画による説明はここ。彼が民間部門における自分の経験からいかに影響を受けたかついてのナイスな説明はここから読める。彼についてのちょっと変わった紹介としてお勧めしておきたい。

彼が研究を行ってきた重要な問題の一つは、どのようなときに強い動機付けを行い、どのようなときには動機付けを弱めるべきなのかというものだ。 [Read more…]

タイラー・コーエン「2016年のノーベル経済学賞受賞者オリバー・ハートとベングト・ホルムストロム(1/2)」

●Tyler Cowen “Oliver Hart, Nobel Laureate” (Marginal Revolution, October 10, 2016)

(訳者注:本記事はハートについての紹介となります。共同受賞者であるホルムストロムについてはこちらをご参照ください。)


ハートの一番有名な論文は、1986年のグロスマンとの共著「所有権の費用と便益(The Costs and Benefits of Ownership.)」だ。これは同じくノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースとオリバー・ウィリアムソンの業績の拡張にあたる(一つの分野にノーベル賞多いなあ…)。

そもそもなぜある主体は別の主体の資産の残余コントロール権を買うのだろうか。 [Read more…]

メンジー・チン「選挙と資産価格」

●Menzie Chinn, “Elections and Asset Prices” (Econbrowser, October 8, 2016)


米ドルに対するメキシコペソの価格と、市場評価によるドナルド・トランプが大統領選で勝利する確率の間の興味深い相関について、ニューヨーク・タイムズ紙上でクラインズが指摘している。 [Read more…]