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スコット・サムナー「2.9%!(イェレンに朗報)」

[Scott Sumner, “2.9%! (Good news for Yellen),” Money Illusion, October 6, 2017]

最新の賃金レポートはジャネット・イェレンにとってすごい朗報だ:
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スコット・サムナー「大不況はアメリカの出生率を低下させたか」

[Scott Sumner, “Did the Great Recession reduce the US birth rate?” Money Illusion, September 22, 2017]

2~3年前,「大不況でアメリカ人の出生率が低下した」というのは通説だった.ありえる話ではあるけど,その主張を支える証拠の乏しさには目を見張るものがあった.たしかに2007年から2010年のあいだに出生率は下がったけれど,誰もが知っているとおり,相関は因果関係の証明にならない.しかも,逆方向を指し示す証拠はたくさんある.出生率の数字として広く受け入れられているものはこんな具合だ:
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スコット・サムナー「賃金の伸びが遅い? 説明すべき謎なんてないよ」

[Scott Sumner, “Slow wage growth? There’s no mystery to explain,” Money Illusion, August 28, 2017]

『エコノミスト』誌から:

2007年序盤も,最近と同じくらいアメリカの失業率は低かった.当時,賃金は年率およそ 3.5% で成長していた.今日の賃金の伸びは約 2.5% だ.これに経済学者は首をかしげている.「失業率から示唆されるほど労働市場は堅調ではないのだ」と言う人たちもいれば,生産性成長が低調なのを指摘したりインフレ予想が低いのを指摘したりする人たちもいる.最新の説は,ベビーブーマー世代の退職が犯人だと説く.

ホントのところ,ここには説明すべき謎なんてない.低調な賃金成長を引き起こしているのは低調な名目 GDP 成長である,まる.一件落着.

すると,今度はもしかすると名目 GDP が謎になるかもしれない――ここ2年の名目 GDP 成長がかろうじて年率 3% を超える程度でどうして失業率がこうも低くなりうるんだろう? マイルス・キンボールから引用しよう:

ますます,各国の中央銀行はこんな状況に直面するようになってきている――彼らが見ている産出ギャップがゼロに近づいているように見えるのに,インフレ率が目標を下回っているのだ.おそらくこれは,たとえば日本・スウェーデン・アメリカに当てはまる.ユーロ圏すら,この状況にだんだん近づいてきている.ときに,ジャーナリストたちは産出ギャップゼロとあまりに低いインフレ率の組み合わせをみて,あたかもそんな状況が奇妙なものであるかのように議論する.だが,産出ギャップゼロがどの一定のインフレ率とも整合するのは多様なマクロ経済理論がそろって認めているところだ.(これは「金融の超中立性」(“monetary superneutrality“) の一側面だ.)

メディアは金融の超中立性という概念を理解するのに困っているらしい.1970年代から,経済学者たちはインフレ率と失業率に長期的なトレードオフがないことを理解している.だが,インフレ率を 1.5% から 2% に上げられるのであればさらにもっと大勢の人たちが労働力に参入するだろうと人々はいまなお考えている.そういうことはありそうにないのだが.

PS. 最近のポストで指摘したように,政治的正しさに関する世間の人たちの見解は,みんなが想定しているものとちがっているかもしれない.新しい世論調査によると,アフリカ系アメリカ人の多くが南部軍記念像〔リー将軍・ジャクソン将軍の銅像;南北戦争時代の奴隷制度支持の象徴として撤去すべきという運動とこれへの抗議があり死者がでたシャーロッツビル事件につながった〕をそのままにする方がいいと考えている.この世論調査が多少かたよったものだとしても(標本サイズが小さいので),黒人のあいだで10対1で像をそのままにしておくのに賛成する人が多数派だというのはぼくには驚きだ.また,ヒスパニック系は3対1近くで像の維持に賛成している.白人も同様だ.レインボウ連合はこんなところだろう.

「リベラルの指導者が一般庶民のリベラルを代弁している」とも,「黒人指導者が黒人コミュニティ全体を代弁している」とも想定するべきでない.

スコット・サムナー「政治的正しさはおろか者の考えだ」

[Scott Sumner, “Political correctness is a stupid idea,” Money Illusion, August 27, 2017]

数週間まえにも書いた論点だけど,この主張をうらづける実証的な証拠がでてきた.ラジブ・カーンが下記のグラフを示している.これを見ると,知能テストで高いスコアをとっている人たちの方が,不人気な言葉遣いをはるかに許容しやすいのがわかる.


【▲ ムスリムの説教師がコミュニティでアメリカ憎悪を説教するのを許容する割合を語彙テストのスコア別にみたグラフ】
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スコット・サムナー 「劉暁波と零八憲章」(2010年10月8日)

●Scott Sumner, “Congratulations to Liu Xiaobo”(TheMoneyIllusion, October 08, 2010)


劉暁波(リウ・シャオポー)に今年度(2010年度)のノーベル平和賞が授与される運びとなったが、実は私は劉暁波および(彼が中心となってその起草にあたった)零八憲章の大ファンの一人だ。零八憲章では主に政治的自由の拡大が求められているわけだが、以下の引用1をご覧いただければわかるように経済政策と関わりのある記述もいくらか目に付く。

8. 都市と農村との間における平等の確保: 現行の二元的な戸籍制度は撤廃すべきである。現行の戸籍制度は都市の居住者(都市戸籍の持ち主)に有利に働く一方で、農村の居住者(農村戸籍の持ち主)には不利に働く格好となっている。すべての国民に同等の憲法上の権利を保障して誰もが同じように居住移転の自由を享受できる制度への転換を図るべきである。

14. 私的財産の保護: 私的財産に対する所有権(私的所有権)を確立・保護し、自由で開かれた市場に基づく経済制度の発展を促すべきである。商工業の国家独占は取り止め、創業の自由を保障すべきである。立法機関(議会)に対して報告義務を負う国有財産管理委員会を設置して国営事業の民営化(国有財産の民間への委譲)が公平かつ開かれた条件の下で混乱なく進むように監視すべきである。土地の私有化を促すとともに土地を自由に売買する権利を保障するために土地改革にも乗り出すべきであり、そうすることで私的財産(土地)の価値が市場で適切に評価される(市場価格に的確に反映される)ように図るべきである。

15. 財政・税制改革: 行政府が国民に対して説明責任を負う民主的なコントロールの行き届いた財政制度を確立して納税者の権利を保障すべきである2。さらには、(租税の賦課・徴収をはじめとした)財政上の決定は(国民の代表によって構成される)立法機関(議会)が定めた法律に則って行われるべきである3。中央政府と地方政府(省、地区級市、県、鎮、郷)との間で財政運営を分担し、それぞれの政府に帰属する税収の使い道はそれぞれの政府が各自の判断で自由に決められるようにすべきである4。大規模な税制改革を通じて税率の軽減、税制の簡素化、税負担の公平性の担保を図るべきである。議会での審議や議会の同意もなしに税金が引き上げられたり新税が導入されるようなことがあってはならない。金融業への新規参入を後押しして金融機関相互間での競争を促すべきである。そのために所有権制度の改革に乗り出すべきである。

16. 社会保障制度の整備: 国民全体をカバーする公平で適切な社会保障制度を整備して教育や医療、年金、失業保険といった基本的な社会保障サービスを誰もが享受できるように図るべきである。

(追記)コメントを少々。ノーベル「平和」賞という賞自体に賛成する気はない。というのも、ノーベル平和賞は世界平和の推進ということとはほとんど何の関係もないことは明らかだからだ。劉暁波にノーベル平和賞が授与されることによって零八憲章の存在が広く知れ渡ることになる。今回の決定が持つ意味はむしろその点にこそあると言えるだろう。零八憲章は古典的自由主義の最良の部分を体現したものだというのが私なりの見立てだ。零八憲章にはエコノミスト誌に見られるようなプラグマティックな新自由主義イデオロギーが反映されているのだ。今回の決定にはおかしなところがあるかもしれないが、仮にそうであったとしても零八憲章のいい宣伝にはなるだろう。

  1. 訳注;零八憲章の英訳は複数出回っているようだが、サムナーはペリー・リンク(Perry Link)の英訳から引用している。基本的にはリンクの英訳に照らして和訳を試みたが、所々その他の英訳(例えばこちら)も参考にしつつ訳してあることを断っておく。 []
  2. 訳注;いわゆる「財政民主主義」の要求 []
  3. 訳注;いわゆる「租税法律主義」の要求 []
  4. 訳注;いわゆる「財政連邦主義」の要求 []

スコット・サムナー 「『誰かを讃える』ってどういう意味?」(2015年2月15日)

●Scott Sumner, “What does it mean to admire someone?”(TheMoneyIllusion, February 15, 2015)


本当にひどい日曜日だ。あと18インチほど雪かきをしなければいけない(その他にも強風に極寒に屋根が凍結して水漏れがしてと問題は山積している)のだがちょいと一休みしてタイラー・コーエンのつい最近のブログエントリー〔拙訳はこちら〕に絡めて私見を述べさせてもらうとしよう。存命中の人物のうちでこの人をこそ讃えるべきだ。そういう人物は誰だろうか? コーエンはそのように問いかけているわけだが、私としては「誰かを讃える」とはどういう意味なのかという点にまずもって興味が惹かれる。「誰か」とはどういう意味なのかという点についても同じく気になるところだ。

「私」の腕だとか「私」の腎臓だとか「私」の左足だとかと言われるが、そのように語られる背後では腕だとか腎臓だとかといったパーツを所有する何かしらの一つの人格――「私」――の存在が暗黙のうちに想定されている。話は体のパーツ(部位)だけに限られない。手で触れることのできない属性にしてもそうだ。例えば、ポール・クルーグマンの鋭敏な分析力、トム・クルーズのカリスマ性、ラッセル・ウェストブルックの身体能力(運動神経)。私の記憶や私の意識などなど。つまりは、体のパーツだとか手で触れることのできない属性だとかのすべてを束ねる核となる人格の存在が想定されているわけだが、個人的にはそのような見方には懐疑的だ。一人ひとりの人間は色んな属性の単なる寄せ集めでしかないのではないかというのが私の考えだ。さらには、どこまでが「スコット・サムナー」であり、どこからが「スコット・サムナー以外」のはじまりなのかさえはっきりしないところがある。歯の詰め物は私の一部なのだろうか? 仮に義肢をはめているとしたら義肢はどうなのだろうか? 私の一部なのだろうか? ゆくゆくは私の脳にマイクロチップが埋め込まれることになるかもしれない。そうなったとしたらマイクロチップは私の一部と言えるのだろうか? 身に着けている衣服はどうなのだろうか?

コーエンの問いかけに対する一般読者の反応を眺めていると一つのことに気付かされる。多くの人々は「勇気」や「勤勉さ」といった多大な自己犠牲が伴うように思える属性の持ち主を讃えるのにはこれといって抵抗を感じないようなのだが、アーティストやアスリートとしての優れたスキルのような遺伝的な面をある程度備えている属性の持ち主を讃えるのには少々気が進まないところがあるようなのだ。「勇気」にしても「勤勉さ」にしても遺伝的な面をある程度備えている可能性はもちろんあるのだが、どうやらそのようなのだ。

他にも気になることがある。誰か(何か)について詳しくなればなるほどその誰か(何か)を称賛したくなる(非難したくなる)気持ちは弱まっていく。そうなる可能性は果たしてあるだろうか? 稀代の善人(例えば、ガンジー)や稀代の悪漢(例えば、ヒトラー)の振る舞いにはミステリアスな(謎めいた)ところがあるように思えるが、実のところは誰もがそうあって欲しいと願っているのではないか。私にはそう思える。古い格言に「すべてを知る(理解する)ことはすべてを許すことになる」(“to understand all is to forgive all”)というのがある。「ヒトラーのあの時の感情は私にもわかる」。誰もそう言えるようになりたくはないだろう。ヒトラーを許したくなんかないからだ。誰かの良さ(邪悪さ)に詳しくなるとその良さ(邪悪さ)は褪せてしまうかのように考えるのは筋の通らないところがあるのは確かにその通りだが、多くの人々はどうもそのような見方をしているように私には思えるのだ。

今回の件に関しては天邪鬼(あまのじゃく)的な態度を貫きたいと思う。どういうことかというと、自由意志の存在は信じてはいないのだが、善人は褒め称えて悪人は貶すべきだと思うのだ。それもこれも人はインセンティブに反応するからというのが理由だ。善い行いに身を捧げる人物を褒め称えることによって(称賛という名の非金銭的なインセンティブが誘い水となって)善い行いが引き出されることになるわけだ。多くの人々は本音のところではトム・クルーズに張り切ってもらう(笑顔を振りまく時にカリスマ性を発揮してもらう)よりはアウンサンスーチーに張り切ってもらう(ミャンマーの地に自由をもたらすために戦ってもらう)ためにこそ一段の後押しをすべきだと感じているのだろう。その結果として(アーティストやアスリートといった「皮相的」に見える活動に従事している面々が我々を楽しませてくれている度合いを過小評価することになるおそれはあっても)アウンサンスーチーのような英雄こそが誰にもまして称賛を受けるにふさわしいとの考えに傾くことになるのであろう。 [Read more…]

スコット・サムナー「デイヴィッド・ベックワースのクルーグマンインタビュー」

[Scott Sumner, “David Beckworth interviews Paul Krugman,” TheMoneyIllusion, May 16, 2017]

好きな人だろうと嫌いな人だろうと,クルーグマンがすぐれた経済学者だというのは否定しようがない.デイヴィッド・ベックワースによるクルーグマンのインタビューはこのシリーズでいまのところお気に入りの回だ.もっとも,以前に登場したバラードのようなインタビュー対象の方が政策問題については同意するところが多いけれど.(おもしろいことに,この2人は政治のスペクトラムでは遠くかけ離れているけれど,いくつもの点で同じ見解をとっている.)
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スコット・サムナー「日本の名目GDP上昇イコール雇用,雇用,さらなる雇用」

[Scott Sumner, “Rising NGDP in Japan equals jobs, jobs, and more jobs,” MoneyIllusion, May 18, 2017]

今度でてきた日本の労働市場データは見どころ満載だ.最新データを見ると,失業率は 2.8% にまで下がっている.この数十年で最低の率だ:

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アメリカのデータに関して主張されているのとちがって,これはたんに人々が就労をあきらめているためだけではない.まずアメリカと対比される点として,人口に占める就労者の割合がかつてないほど高い水準に急上昇している.下記は,マット・オブライエンの『ワシントンポスト』記事からの引用だ:
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スコット・サムナー「言語と失業の件の追記」

[Scott Sumner, “A follow-up on language and unemployment,” MoneyIllusion, May 3, 2017]

前記事に Vaidas Urba がこんなコメントをつけてくれた:

もう1つデータポイントを増やしてみよう――ドイツ語が主流をしめるイタリアの南チロル自治州 (アルト・アディジェ自治州)はこの地図では青くなっている.

http://names.mongabay.com/ancestry/st-German.html
これをきっけかに,この問題に関わる他の証拠について疑問がわいてきた.そこで,ドイツ系の祖先をもつ住人が占める割合を州べつに調べてみた.上位10州はこうなってる:
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スコット・サムナー「言語と失業」

[Scott Sumner, “Language and unemployment,” Money Illusion, May 2, 2017]

地図はぼくの好物だ.先日,ランディ・オルセンがヨーロッパの失業を示すおもしろい地図にリンクを貼っていた:

Screen-Shot-2017-05-01-at-9.24.57-PM-e1493688405321

この地図を見る前から,フランスよりドイツの方が失業率が低いのは知っていた.そしてやっぱり,失業率は両国の境界で劇的な変化を見せている――ライン川流域がそれだ.
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