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アレックス・タバロック 「バーナンキ議長が大暴露 ~紙幣なんてただの紙切れに過ぎないんです~」(2010年2月17日)/タイラー・コーエン 「『ジ・オニオン』の記事を真に受けた例 ~うそはうそであると見抜ける人でないと・・・~」(2012年9月30日)

●Alex Tabarrok, “The Dangers of Common Knowledge”(Marginal Revolution, February 17, 2010)


【ワシントン】今週に入ってアメリカ経済はその機能を完全に停止するに至った。そのきっかけはベン・バーナンキFRB議長(2010年当時)による「『貨幣』という存在の根源にまつわる」思いもよらない発言にある。貨幣なんていうのは無価値な存在であり、社会的に構築された幻想に過ぎない。バーナンキ議長の発言をきっかけにアメリカ国民はそう気付かされたのだ。

・・・(略)・・・「現段階では政策金利を引き上げる予定はありませんが、もちろん状況に応じて適切に対応するつもりです。具体的にどういう状況かといいますとですね、・・ええと、・・・」。そこまで言い及ぶとバーナンキ議長はしばらく口をつぐみ、用意してきた原稿に目を落とした。そして何もかも信じられないといった様子で頭を左右に振りつつゆっくりと語り始めた。「ご理解されていますかね? 気にする必要なんて無いんですよ。こいつ、いわゆる『お金』と呼ばれてるこいつですがね、こいつには何の重要性もないんですよ」。 

両目をクワッと大きく見開いたバーナンキ議長は自分の財布の中から紙幣を取り出し、ゆっくりと目の前に掲げた。そしてこう続けたのである。「幻想に過ぎないんですよ。こいつらを見てください。何の変哲もないただの紙切れに数字が書き込まれているだけです。何の価値もないんですよ」。

その場に居合わせた目撃者の証言によると、上院財政委員会の面々は雷に打たれたような衝撃を受け、しばらく口を開くこともできなかったそうだ。その静寂を破ったのはオリン・ハッチ上院議員(ユタ州選出の上院議員。共和党所属)の叫び声。「何てことだ! 議長の言う通りだ。何もかもが幻影なんだ。お金にしても経済にしてもすべてがまやかしなんだ」。

それから間もなくして議事堂には金切り声が響き渡ることになった。その場にいた上院議員にメディア関係者を加えた面々が一目散に出口に向けて駆け出したのだ。誰もいなくなった議事堂にはビリビリに破れた紙幣があちこちに残されていたという。

と、『ジ・オニオン』が報じている。全文はこちらだ。

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●Tyler Cowen, “Fooled by satire”(Marginal Revolution, September 30, 2012)


「バラク・オバマとマフムード・アフマディーネジャード(イラン大統領)が選挙で争ったとしたらどちらに票を投じるかを尋ねたところ、アメリカ国内の田舎に暮らす白人の大半がアフマディーネジャードに票を投じると答えた」。『ジ・オニオン』が拵(こしら)えたそのような架空の調査結果をイランの通信社が事実として報じた。

『ジ・オニオン』の偽記事を一言一句違わずにそっくりそのまま報じたのはイランの半国営通信社Farsの英語版サイト。

『ジ・オニオン』の記事ではアフマディーネジャードとなら一緒に野球の試合を見に行ってもいいと語る架空の人物(ウェストバージニア在住のデール・スウィデルスク氏)が拵えられているが、Farsの英語版サイトではその架空の人物の発言――「アフマディーネジャードは国防というものを真剣に考えています。オバマはゲイのデモ隊が国防問題に口出しするのを容認していましたが、アフマディーネジャードならそんなこと絶対に許さないでしょうからね」――もそっくりそのまま引用されている。

全文はこちらだ。

タイラー・コーエン 「紋切型辞典」(2010年7月9日)

●Tyler Cowen, “Dictionary of Received Ideas”(Marginal Revolution, July 9, 2010)


つい最近刊行が始まったばかりの雑誌である『The Point』(第2号、2010年冬)にジャスティン・エヴァンズ(Justin Evans)が特集記事を寄稿している。そのタイトルは「紋切型辞典」(Dictionary of Received Ideas)1。アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』と少し似たところがあるが、今年に入ってこれまでに読んだ中で一番笑えた記事だ。一例を引用しておこう。

経済学:何もかも余すところなく説明する学問

経済:全く理解不能な対象

次も好きだ。

債務: i) 公的債務2 — 許しがたい過ち

民間債務3 — 経済を牽引する役割を果たすもの

ii) 公的債務 — 経済を牽引する役割を果たすもの

民間債務 — (社会的な)セーフティーネットに綻(ほころ)びが生じている結果として累積するもの

念のために注意しておくと、経済学方面の話は(エヴァンズの「紋切型辞典」の)メインの話題ではないということは付け加えておこう。大半の雑誌――とりわけ妙に芸術作品を気取っていたり衒学的だったりする雑誌――は読んでいて退屈することが多いのだが、『The Point』は半分ほど立ち読みした感じでは好感触だ。定期購読を申し込もうかと思っているところだ。

  1. 訳注;このタイトルはフローベールの同名の書からとられている。 []
  2. 訳注;政府が背負う借金 []
  3. 訳注;家計や企業といった民間の経済主体が背負う借金 []

タイラー・コーエン 「『お金』の使い方を学ぶサル」(2005年6月8日)

●Tyler Cowen, “Dubner and Levitt on monkey monies”(Marginal Revolution, June 8, 2005)


サルに「お金」の使い方を教えることはどうやら可能なようだ。ダブナー&レヴィットの『ヤバい経済学』コンビがサルを被験者とする興味深い実験結果を紹介している。

・・・(略)・・・オマキザルたちは「お金」というものを本当に理解してると言えるんだろうか? それともオマキザルたちの食欲が凄すぎてたまたまそう見えちゃってる(「お金」の何たるかを理解しているように見える)だけに過ぎないんだろうか?

どうやら前者が正しいらしいことを示唆するいくつかの事実がある。おやつにキュウリを使った実験でのことだ。キュウリはサイコロ状に切って出す予定だったのだが、リサーチアシスタントを務めた大学院生の一人がキュウリをついいつもの感じで円形にスライスしてしまったのだ。キュウリのスライスを手に取った一匹のオマキザルが一口かじったかと思うと研究者のところまで走ってやってきた。これ(円形に切られたキュウリのスライス)でもっと甘いおやつが「買える」? そう確認しにきたのだ。円形にスライスされたキュウリのかたちが(キース・チェン(研究者の名前)がかつての実験で「お金」として渡した)銀色の円盤とあまりにそっくりだったので「これも『お金』に違いない」と思ってしまったようなのだ。

(オマキザルたちが「お金」の何たるかを理解していることを仄めかす)別の証拠は「盗み」だ。ロウリー・サントス(研究者の名前)はオマキザルたちが「お金」を貯める姿を一度として目にしたことはなかったが、実験の最中に(お金の)円盤を一つか二つ「盗む」ことがあるのには気付いていた。オマキザルは全部で7匹いて750立方フィートくらいの檻(生活用の檻)の中で共同生活しており、その隣に実験の時に使う小さな檻があった。ある時のことだ。一匹のオマキザルがいつものように実験用の檻に入れられたのだが、檻の中に入るやいなやお盆の上にある円盤を一つ残らずかき集めた。何をするかと思ったら他のみんながいるデカい(生活用の)檻目掛けて円盤を残らず放り投げ、空飛ぶ円盤を追って大急ぎで駆け出したのだ。「脱獄」と「銀行強盗」の合わせ技というわけだが、待っていたのはてんやわんやの大騒ぎ。(人間の)研究者たちも急いで生活用の檻に走り寄ったが、食べ物の賄賂と引き換えにやっとのことで円盤を返してもらえたのだった。「盗み」をすれば賄賂をもらえるということでその後「盗み」はさらに加速する一方となった。

生活用の檻の中でてんやわんやの大騒ぎが続いている最中にちょっとした出来事が起こった。オマキザルたちは「お金」の何たるかを理解しているに違いないとチェンが確信するに至った出来事だ。「お金」とそれ以外を分ける一番の特徴はおそらく「代替可能性」(fungibility)だろう。つまりは、「お金」は食べ物だけじゃなくてそれ以外のあらゆるものを買うのにも使えるわけだが、檻の中で大騒ぎが続いている最中にチェンは視界の隅で「お金」のその特徴(代替可能性)をまざまざと知らしめる光景を捉えた。後になって「いや、そんなはずはない」と否定しようとしたものの、チェンも心の奥底ではわかっていた。「あれは現実なのだ」、と。チェンが目撃したもの、それはサルの歴史上でおそらくはじめて観測された「売春」の光景――オスのサルがメスのサルに(お金の)円盤を渡し、その後に男女の営みがおっぱじまった光景――だったのだ(オマキザルたちが「お金」の何たるかを理解しているに違いないことを裏付ける証拠がもう一つある。事が終わった直後のことだ。メスのサルが「稼いだ円盤」を持ってチェンのところまでやってきてぶどうと交換してくれと願い出たのだ)。

全文はこちらだ。

タイラー・コーエン 「狡猾なケリー ~水の中の『経済人』?~」(2009年11月4日)

●Tyler Cowen, “Dolphin markets in everything, Gresham’s Law edition”(Marginal Revolution, November 4, 2009)


実に面白い話だ。

ケリー(イルカの名前。メス)は他のイルカたちよりもさらにもう一歩先を行っている。誰か(人間)がプールに紙を投げ入れるとそれを口でくわえて下に潜り、プールの底にある岩の下に隠しておくのだ。そしてトレーナーの姿が見えるとプールの底にある岩のところまで潜っていき、 先ほど隠しておいた紙の一部を噛み切ってトレーナーに渡すのだ。トレーナーから(紙切れと引き換えに)ご褒美として魚を与えられると、ケリーは再び下に潜っていく。岩の下に隠しておいた紙の一部を噛み切って再びトレーナーに渡すためだ。めでたく魚をもう一匹頂戴すると、再び下に潜っていき・・・ということが何度も繰り返されることになる。ケリーのこの行動は実に興味深いものだ。というのも、ケリーは「未来」という感覚を備えていて楽しみを先延ばししていることがこの行動から示唆されるからである。また、ケリーはトレーナーに渡す紙のサイズの大小にかかわらずもらえる報酬(魚)の量は同じということも経験を通じて学んだようだ。その結果として岩の下に隠してある紙をそのまますべてトレーナーに渡すのではなくわざわざ小さく噛み切って持っていき、できるだけたくさんの魚を頂戴しようとしているわけなのだ。人間がケリーを訓練しているというよりもケリーが人間を訓練している面があるわけだ。

ケリーの狡猾さはそれだけにとどまらない。ある日のことだ。一羽のカモメがケリーのいるプールに飛び込んできた。そのカモメをすかさず捕まえるケリー。トレーナーがやってくるのを待ち構え、トレーナーが姿を現すと捕まえたカモメを差し出す。ケリーが捕まえたカモメは体が大きく、ご褒美の魚もそれに応じてたくさんもらえた。この経験をきっかけにケリーには新しい考えが浮かんだようだ。その考えが実行に移されたのは次の食事タイムの時だ。ケリーは食事の魚をすべて平らげずに一匹だけ残しておき、その魚をプールの底にある岩の下――紙を隠しておいたのと同じ場所――に隠しておいた。そしてトレーナーが近くにいないタイミングを見計らってその(岩の下に隠しておいた)魚をプールの表面まで口でくわえて持って行き、カモメを誘い出す餌に使ったのだ。カモメを捕まえて(トレーナーからご褒美として)大量の魚をゲットしようと企んだわけだ。ケリーはこの旨みのある戦略をすっかり体得すると自分の子供にもそのやり方を伝授し、その妙技はそこからさらに他のイルカたちにも伝わっていく。その結果イルカたちの間では「カモメ釣り」が流行のゲームとなるに至ったのだった。

全文はこちらだ。この話題を教えてくれたDavid Curranに感謝。

ところで、イルカ界におけるバイメタリズム(複本位制)にはどんな展開が待っているだろうか? どうなるかはおわかりだろう1

  1. 訳注;「グレシャムの法則」が発動して「悪貨が良貨を駆逐する」。 []

タイラー・コーエン 「大学のキャンパスを駆け回るちっちゃな銀行員」(2012年10月6日)

●Tyler Cowen, “Study of investment diversification on the UC-Berkeley campus”(Marginal Revolution, October 6, 2012)


「カリフォルニア大学バークレー校のキャンパスを舞台とする分散投資に関する研究」。かねてから有益な情報を教えてくれるMark Thorsonがそんなタイトルを冠してまたもや耳寄りな情報を知らせてくれた。

「彼らはちっちゃな銀行員みたいだと考えてもいいかもしれませんね。お金(木の実)を蓄えるだけではなく、その蓄えを色んな資産に分散投資して(色んな場所に分けて隠しておいて)管理しているようなものですから」。そう語るのはカリフォルニア大学バークレー校の博士課程で心理学を学ぶミケル・デルガド(Mikel Delgado)。心理学者のルシア・ジェイコブス(Lucia Jacobs)が責任者を務める実験室の一員でリス研究チームのリーダーに選ばれた人物だ。

他にもいくつか引用しておこう。

デルガドは語る。「彼女(メスのリス。名前はピーター)は体にハンデを負っているんですが(脚が3本しかなくしっぽも無い)、それにもかかわらず木の実をへそくりする(蓄えてどこかに隠しておく)1のに非常に長けているんです」。

もう一丁。

・・・(略)・・・リスたちは木の実の「質」を評価する(品定めする)時に頭を振るわけだが、頭を振る動作が特に激しくなるのは見つけたばかりの木の実を今すぐに食べてしまうのではなく後々のために蓄えておこうと算段している時だという。

最後だ。どうやらリスたちは我ら(人間)の多くとは違うようだ。

木の実を隠しておいた場所を再び見つけ出す時にリスたちは一体どのような認知スキルを使っているのか? その謎を解き明かしたいというのがデルガドの願いだが、今の時点でも確実に断言できることが一つあるという。「彼ら(リスたち)は将来に備えて蓄財しているんです。それも非常に賢くやっているんです」。

全文はこちらだ。

  1. 訳注;それに加えて、木の実の隠し場所を後々ちゃんと見つけ出す []

タイラー・コーエン 「ギルダー ~絶滅種の一時的な復活?~」(2011年12月20日)/「ヤギ銀行 ~ヤギ借りませんか?~」(2010年11月10日)

●Tyler Cowen, “Only joking”(Marginal Revolution, December 20, 2011)


たいした話じゃない。気にしないでいい。

9頭のライオンに13頭のキリン、そして30頭近くに及ぶシマウマの群れ。オランダはティルブルフ市の近くにあるサファリパーク「ベークセベルゲン」(Beekse Bergen)自慢の動物たちだ。ところで、そんな自慢の動物たちよりもずっと物珍しい動物をサファリパーク内で目撃したとの情報が今月に入って相次いでいるという。絶滅したと思われていたその「動物」の名はギルダー。オランダの旧通貨である。

「今週一週間に限り旧通貨での支払いを受け付けます」。そう発表されるや瞬く間に「ベークセベルゲン」のレジには大量のギルダーがなだれ込むことになった。今月(2011年12月)始めに行われたEUサミットと連携したプロモーションの一環として一週間に限り入場料の支払いを旧通貨のギルダーでも受け付けることにしたのだ。入場券売り場でコートのポケットを漁る「倹約家」な地元の人々。その手に握られているのは色褪せた10ギルダー紙幣にジャラジャラ音を鳴らすギルダー銀貨。

今回のプロモーションはEUサミットに伴うお祭り騒ぎに乗じた「コミカルな注目集め」(軽い冗談)みたいなもの。「ベークセベルゲン」の親会社にあたる「リベーマ」(Libéma)のスポークスマンはそう語っているが、それだけにとどまらずオランダ国内に広がるユーロへの幻滅と旧通貨(ギルダー)へのノスタルジー(懐旧の念、懐かしみ)を巧みに利用している面もある。

と、フィナンシャル・タイムズ紙の報道。全文はこちらだ。

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●Tyler Cowen, “Loan markets in everything”(Marginal Revolution, November 10, 2010)


アラーハーバードから70キロ離れた辺鄙な村コラワン。そこに暮らす女性たちが今までにない銀行業を考え付いた。取り扱うのは「ヤギ」のみ。ヤギを預金として預かり、ヤギを貸し付けるのである。

「コラワン村に住むプレマさんと彼女の友人でアフロジ村出身の女性たちがヤギだけを取り扱う銀行を立ち上げたんです」。現地のコーディネーターであるスーバダール・シン氏はPTI通信の取材にそう答えた。

ミールザープル県の中でも荒れた土地に暮らしている人々はその多くが岩を砕く仕事で生計を立てている。

「奥さん方も旦那さんの岩砕きの仕事を手伝いますが、ヤギを育てるのも奥さん方の仕事ですね。2~3頭のヤギを育てて収入の足しにするんです」。シン氏はそう語る。

「このあたりはヤギを育てるのにはもってこいなんですが、ヤギをビジネスに利用してみようじゃないかという話はこれまでに一度として耳にしませんでしたね」。シン氏はそう語る。

プレマ氏は立ち上げたばかりの銀行の業務内容について次のように説明する。「ヤギの飼育にすべての時間を捧げたい。そう考える女性にヤギを貸し付けるのが私たちの狙いとするところです。ヤギは大体2~3頭の子供を産みますが、私たちの銀行からヤギを借りた女性にはそのヤギが産んだ子供を1頭だけ私たちの銀行に預けていただくんです」。

銀行に預けられたヤギは銀行側の責任で毎週ごとに健康チェックを行うという。

「ヤギが死んでしまった場合はどこかから買い入れて補充するか、銀行に預けられている他のヤギと置き換える予定です。その時々で柔軟に対応するつもりです」。プレマ氏はそう語る。

シン氏が語るところによると、銀行が立ち上げられてからまだ6ヶ月ほどしか経っていないにもかかわらず、現在までに6ヶ所以上の村から40名を超す女性が会員として参加するに至っているという。

「プレマさんたちの新事業はまだ産声を上げたばかりの段階に過ぎませんが、この先会員の数がますます増える可能性もあります。そういうことになれば、つつましい暮らしを余儀なくされている女性たちの収入と生計を支える強力な後ろ盾になれるのではないかと期待しているんです」。シン氏はそう語る。

「銀行の会員一人ひとりが少なくとも20頭のヤギを資本として持てるようにする。そして経済的に自立できるようにする。それが私たちの目標なのです」。プレマ氏はそう語る。

全文はこちら。このニュースはポール・シェイ(Paul Hsieh)に教えてもらったものだが、ジェフリー・ウィリアムズ(Jeffrey Williams)がこのニュースを聞いたらきっと喜ぶに違いない。そうそう。舞台はインドだ。

タイラー・コーエン 「『ミツバチの会議』 ~ミツバチに学ぶ集団的な意思決定のノウハウ~」(2010年12月3日)

●Tyler Cowen, “Are bees more Bayesian?”(Marginal Revolution, December 3, 2010)


どうやらミツバチ(偵察蜂)たちは仲間内での議論を通じて総意に至るまでに人間とは大違いのやり方を用いているようだ。各自が自分の案に拘泥する事態を避けるためには集団での議論が必要になる点はミツバチであろうと人間であろうと変わりはない。しかしながら、人間であれば自らの案に見切りをつけるに至るのは他に優れた案があることを悟った後になってはじめてというのが大抵の場合(だし、それは賢明な判断でもあるの)だが、新しい巣の候補地を提案する偵察蜂たちはしばらくすると自分の案(自分が見つけてきた候補地)を売り込むのを自然とやめる(身を引く)のだ。図6.5と図6.9をご覧いただきたいが、新しい巣の候補地を見つけてきた偵察蜂たちはいずれもしばらくすると口をつぐみ(自分が見つけてきた候補地の前で8の字ダンスをするのやめ)、後からやってきた仲間のハチたちに議論の続きを委ねるのである。図6.7に示されているように、そのおかげでミツバチたちは速やかに総意に至ることができるのだ。1

言い換えると、ミツバチたちには「議論の場からの退出」(科学者間での議論の質を高める(科学の進歩を促す)手立てとして由緒あるもの)を急き立てるアルゴリズムが埋め込まれているというわけだ。

冒頭の文章は魅力溢れる一冊である『Honeybee Democracy』(邦訳『ミツバチの会議』)から引用したものだ。著者はトーマス・シーリー(Thomas D. Seeley)。本のホームページはこちらだ。優れた書評がこちらで読めるが、その一部を引用しておこう。

シーリーは最終章で人間がミツバチから学べる「5つの教訓」を次のようにまとめている。

共通の利害を有する面々を集団のメンバーとして招集すべし:この点に関しては人間よりもミツバチたちの方がかかっているものが大きくて切実だ。同じコロニーに属するミツバチたちはどれもが姉妹同士であり、単独では(集団としてでなければ)生きてはいけないのだ。

上に立つリーダーが集団に及ぼす影響力をできるだけ小さくすべし:この点から人間が学べることは多い。

問題に対する多様な解決策を模索すべし:多様性が集団に対して持つ意義は人間がやっと最近になって気付き始めてきたものだ。

集団内での議論を通じて知識の更新を図るべし:この点に関してもミツバチたちは人間よりも秀でている。偵察蜂たちは自分が見つけてきた(新しい巣の)候補地がどんなに優れものであっても徐々に「ダンス」する(自分の案を売り込む)のを抑えるが、人間同士の議論では誰もが自分の案を押し通そうと頑固になっていつまでも結論(集団としての総意)にたどり着かない可能性があるのだ。

正確な総意にできるだけ迅速に至るために「定数制度」(特定の案に対する支持者の数が定数を超えたらその案を集団の総意とする)を利用せよ:ミツバチたちはギリシャ人よりもずっと早い段階でこの考えに思い至っていたようだ。感心するばかりだ。

シーリーはコーネル大学で学部長を務めており、学部長という立場で大学内での会議に出席する際には以上の「5つの教訓」を実践するように心掛けているという。かなりの成果を挙げているらしい。

必読の一冊だ。

  1. 訳注;この後に次のような文章が続く(第6章, 原書pp.144~145;以下は拙訳)。「人間による集団的な意思決定の中にも巣探しをめぐるミツバチたちの議論と似たパターンを辿る重要なケースが一つある。科学理論の取捨選択をめぐる科学者たちの集団的な意思決定がそれである。新しくて優れたアイデアが科学者の間で受け入れられていくとすれば、それは「退出」というメカニズム――古い世代の科学者たちの引退ないしは死去――を通じてである、とはよく指摘されるところだ。旧世代の科学者たちは議論の場から「退出」する前に実に色んな意見を述べ合うが、新世代の科学者たちはその一つひとつの意見に慎重に耳を傾けている。そしてその中から一番説得的に思える(一番真相を捉えているように思える)意見を選び出す。こうして新しい理論が勝ち名乗りを上げるわけである。世代の交代に伴って新しくて優れた理論(例. コペルニクス&ガリレオによる地動説)への支持が広まり、それと引き換えに古くて疑わしい理論(例. プトレマイオスによる天動説)は切り捨てられていくわけだ。このようなプロセスを的確に要約している言葉としてよく引用されるのがマックス・プランクの次の言葉である。「新しい科学上の真理が勝ち名乗りを上げるのはその真理に異を唱える者たちも説き伏せられてその真理に賛同するようになるからではない。新しい真理に異を唱える者たちが一人ずつこの世から去っていくからである。新しい真理に慣れ親しんだ新しい世代が成長してきて古い世代に取って代わるからである」。年老いた科学者と年老いた偵察蜂の間には違いもある。年老いた科学者は議論の場から嫌々ながらに去っていく傾向にあるが(時には死ぬまで去ろうとしない)、偵察蜂たちは議論の場からあっさりと去っていくという点である。この点で人間がほんの少しでもミツバチのように振る舞うようになれば科学の進歩ももっと早まるのではないかとふと思わずにはいられない」。本文中でのコーエンのコメント(ミツバチたちには「議論の場からの退出」(科学者間での議論の質を高める(科学の進歩を促す)手立てとして由緒あるもの)を急き立てるアルゴリズムが埋め込まれているというわけだ)は以上の文章に感化されてのものと思われる。 []

タイラー・コーエン 「『蜂の寓話』再訪」(2012年10月4日)/「絶滅の危機に瀕しているのはミツバチではなく養蜂家?」(2015年8月9日)

●Tyler Cowen, “The new Fable of the Bees”(Marginal Revolution, October 4, 2012)1


今回取り上げるのはAmerican Journal of Agricultural Economics誌に掲載されたばかりの論文だ。著者はランダル・ラッカー(Randal R. Rucker)&ウォルター・サーマン(Walter N. Thurman)&マイケル・バーゲット(Michael Burgett)の三人。論文のアブストラクト(要約)を引用しておこう。

送粉サービス「市場」の中でも世界で最も広大な規模を誇るのはアメリカ国内における(養蜂家に飼育されている)ミツバチによる送粉サービス「市場」2である。転地養蜂業者は蜂蜜の生産(採蜜)を目的として各地を転々とするが、それと同時に「野生の花粉媒介者」の代わりとなる送粉サービス(飼育しているミツバチによる送粉)も移動する先々で提供することになる。(養蜂家に飼育されている)ミツバチの送粉サービス「市場」は数多くの転地養蜂業者たちの行動(いつ、どの地を採蜜の場所(養蜂場)に定めるか、という意思決定)のコーディネーションを図る上で重要な役割を果たしている。本論文では転地養蜂業者の行動を突き動かす経済的な要因を分析し、送粉代(農家がミツバチによる「送粉サービス」を享受するのと引き換えに転地養蜂業者に対して支払う代金)の決定要因(蜂蜜の市場価格、ミツバチに寄生するダニ(ミツバチヘギイタダニ)の襲来、ディーゼル燃料の価格等々)について理論的および実証的な観点から考察を加える。本論文では従来の研究よりも大規模で豊富なデータを利用して実証分析を行っているが、その分析結果は送粉サービス「市場」の働きと「外部性の内部化」を可能にする(市場を支える)制度についての理解を深める一助となるであろう。

この論文はスティーブン・チュン(Steven Cheung)が先鞭をつけた一群の研究の流れに連なるものであり、その伝統のさらなる発展に寄与する試みだ。実に入念で深みのある分析が加えられている。こちらの記事で論文の内容が的確に要約されているのであわせて参照されたい。

関連する論文としてこちら(pdf)やこちら(pdf)も参考になるだろう。

情報を提供してくれたMichelle Dawsonに感謝。

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●Tyler Cowen, “The new Fable of the Bees”(Marginal Revolution, August 9, 2015)


リア・ソティーレ(Leah Sottile)がワシントン・ポスト紙に寄稿している記事は色んな意味で優れものだ。所々引用してみるとしよう。

しかしながら、フロリダ州やオクラホマ州といった一部の州では今もなおミツバチの大量死が尋常ならざるペースで続いている最中だ。・・・(略)・・・オハイオ州立大学(のハチ研究所)が発表しているHoney Bee Update(「ミツバチ最新情報」)によると、オハイオ州では昨年の冬の間に手持ちの(ミツバチの)コロニー3の80%を失った養蜂家もいたという。

・・・(略)・・・この悪い流れを断ち切る(ミツバチの数の急減を食いとどめる)には創造力に富んだ養蜂家(innovative beekeepers)の存在が決定的に重要になってくる。研究者たちの間ではそのような声も聞かれる。

オレゴン州立大学ミツバチ研究所で主任研究員を務めるラメッシュ・サギリ氏は語る。「『ミツバチってもうすぐいなくなっちゃうんでしょうか?』と会う人会う人に尋ねられるものです。私としてはミツバチが絶滅する可能性については心配していません。それよりも養蜂家がいなくなってしまうんじゃないかと心配なんです」。

養蜂を生業とするプロの養蜂家の数は減る一方。それに伴ってますます大きな役割を果たすようになってきているのがミツバチの飼育を趣味とする創造力に富んだ「ミツバチ愛好家」だという。

デヴォン・プレスコット(21歳)は語る。「ミツバチを立派に育て上げるのが僕の『社会的責任』だと感じてるんです。自分が今演じている役割を思うと嬉しくなってくるんですよ」。

・・・(中略)・・・

ミツバチの健康管理には細心の注意を要するわけだが、50年前はそんな風ではなかったと語るのはミネソタ大学で昆虫学を研究するマーラ・スピヴァク氏だ。「かつてはミツバチを飼うのも非常に簡単だったんです。養蜂箱の中に入れておくだけでよかったんです。そうすれば元気に蜂蜜作りに励んでくれたんです。しかし、今ではミツバチの飼育には細心のマネージメントが必要となっています」。

素晴らしいキャラクターの持ち主が何人も登場してくるが、その一例を紹介しておこう。

ヘンリー・シュトルヒ(32歳)は養蜂こそが自分の天職だと感じてこの世界に足を踏み入れた。前職は蹄鉄工。馬に蹄鉄をはかせていた頃の方が収入も多かったという。しかし、5年前に突然天啓が下った。自分なら誰よりもミツバチを立派に育て上げることができるという考えにとりつかれたのである。・・・(略)・・・インタビュー中に一匹のミツバチがシュトルヒの上唇を刺したが、シュトルヒはたいしてたじろぎもしなかった。

シュトルヒによる山中での鍛錬に耐え抜いたミツバチ(「サバイバー」)はまるで野生の牛のようだ。タフでがっちりした体つき。その他のミツバチほど健康管理に気を使う必要もない。「サバイバー」の育成は遺伝子組み換えに頼らないオーガニック食品の栽培に似ている。シュトルヒはそう語る。

いいニュースもある。

蜂群崩壊症候群(CCD)のためにミツバチの大量失踪が相次ぐ中、養蜂家たちは我が子(飼育しているミツバチ)と自らの生活を守り抜くために無我夢中で踏ん張り続けた。

どうやらその努力も報われたようだ。米国農務省が発表した最新のデータによると、養蜂家によって管理されているミツバチのコロニーの数は増加傾向にあり、2014年時点でその数は全米で270万コロニーを数えるまでになっているという。過去20年間で一番の多さだ。

是非とも全文に目を通されたい。ハチの話題は本ブログでも過去に何度も取り上げているので、この問題について俯瞰して考えてみたいという場合は参考にしてもらいたいと思う。

  1. 訳注;原エントリーのタイトルの一部にもなっている「蜂の寓話」(Fable of the Bees)というのはマンデヴィルの本ではなく(本文中でも言及されている)スティーブン・チュンの論文(“The Fable of the Bees: An Economic Investigation”)(pdf)を指している。養蜂家が飼っているミツバチは花の蜜を集めると同時に花の受粉を媒介する役割も果たす。リンゴを例にとると、養蜂家が飼っているミツバチはリンゴの花の受粉を助けることでリンゴの生産にも一役買っていることになるわけである。リンゴ農家にとっては棚からぼたもちなわけだが、経済学の用語を使うとミツバチはリンゴ農家に対して「正の外部性」を及ぼしていることになる。教科書的な議論では、「正の外部性」を備える財ないしサービスの供給は過小気味となり(「市場の失敗」)、政府の介入が要請されることになるわけだが、スティーブン・チュンは件の論文でそのような議論に異を唱えている。当事者間(今の例だと養蜂家とリンゴ農家との間)での自発的な交渉を通じて(ミツバチがリンゴ農家に対して及ぼしている)「正の外部性」の問題が解決される理論的な可能性があり実際にもそうなっている、というのである。その解決方法の一つが本文中でも出てくる送粉代の支払いということになる。 []
  2. 訳注;植物や穀物の受粉を助ける花粉媒介者(ポリネーター)としてのミツバチが提供する「送粉サービス」が売り買いされる市場。「送粉サービス」の享受者である農家から「送粉サービス」の送り手である(ミツバチの持ち主たる)養蜂家に対して送粉代(ミツバチによる「送粉サービス」の代金)が支払われることになる。 []
  3. 訳注;一つのコロニー(群)は1匹の女王蜂に数百匹のオス蜂、そして数万匹の働き蜂から構成されている。 []

タイラー・コーエン 「失業中の象 ~象の失業率は40%!?~」(2016年1月31日)

●Tyler Cowen, “Hysteresis for legally protected ZMP elephants in Myanmar”(Marginal Revolution, January 31, 2016)


「失業の問題は本当に厄介ですね。一体どうすりゃいいんだか」。そう語るのはウー・ソオ・タ・ペイニョ氏。ペイニョ氏が所有する6頭の象は過去2年にわたって仕事がない状態が続いているという。「木が少なくなってるもんですから伐木の仕事もないんです」。

ミャンマーを代表する「象専門家」であるダウ・カイン・ウー・マー氏が語るところによると、今現在失業中の象の数は全部で2500頭に上るのではないかと推計されており、その多くは(タイ国境から2時間半のところにある)ミャンマー東部にあるジャングルを主戦場とする象だという。失業率に換算するとおよそ40%。ちなみに、ミャンマー国内の(人間の)失業率はおよそ4%だ。

カイン・ウー・マー氏は語る。「象たち自身もその多くは何をすればいいのか途方に暮れてる状態ですね。象の持ち主にもかなりの負担がかかっています。象を養うのにはお金がかかりますからね」。

大人の象の体重はおよそ1万ポンド(およそ4500キログラム)にも上り、一日に食べる餌の量は400ポンド(およそ180キログラム)にもなるという話だ。象の主な仕事にはサーカスへの出演や伐木があるが、その他の仕事となると選択肢は限られているという。

伐木の仕事はきつくて大変だが、ミャンマーの象が比較的健康な体を維持できている理由の一つは伐木仕事(重労働)のおかげでもあるのではないかと語る「象専門家」もいる。2008年に実施された調査によると、ミャンマーで伐木に従事している象――「よく働きよく遊ぶ」を日々実践している象――はヨーロッパの動物園にいる象と比べて2倍近く長生きする傾向にあるとの結果が報告されている。ヨーロッパの動物園にいる象の寿命の中央値(メディアン)は19歳1。その一方で、ミャンマーで伐木に従事している象の寿命の中央値(メディアン)は42歳2だというのだ。

全文はこちらだ(このニューヨーク・タイムズ紙の記事はMichelle DawsonおよびOtis Reid経由で知ったもの)。ミャンマーの象は労働法で厳重に守られてもいるらしい。

ミャンマーの歴代の軍事政権はイギリスに統治されていた時代に作られた規則ずくめの労働法を象にも適用し続けてきた。週5日8時間労働(1日の法定労働時間8時間、週休2日制)に定年55歳、産休の義務付け、夏季休暇、そして適切な健康管理。さらには、政府が運営する象のためのマタニティキャンプ(妊娠中の象を一同に集めたキャンプ)に定年退職した象のためのコミュニティまで揃っている。軍事政権による独裁が続いていた間は(人間向けの)基本的な社会保障の仕組みも未整備なままだったわけだが、その間も象向けの労働法は厳重に遵守されていたのだ。

はじめから終わりまで全編を通じて興味深い話題が目白押しだ。ところで、ふとこんな疑問が頭をよぎる。象に対する労働法の適用が緩められたとしたら象の「自然失業率」は一体どのくらいになるんだろうか?

  1. 訳注;19年生きる []
  2. 訳注;42年生きる []

タイラー・コーエン 「『笑顔』は何を物語っているか?」(2007年2月26日)

●Tyler Cowen, “Don’t smile too much”(Marginal Revolution, February 26, 2007)


ジョン・ティアニー(John Tierney)のブログで取り上げられている発言1を二つほど引用しておこう。

「『笑顔』というのはその人の内なる感情(幸せ)が顔に表れたものと捉えられがちですが、それと同時にその人のステータス2に関する情報を伝達する役目も果たしているのではないかと思われます。どういうことかと言うと、ステータスが低い人ほどよく顔に笑みを浮かべる傾向にあるようなのです。笑顔にもいくつか種類がある――幸せな感情が自然と顔に表れた「真の笑顔」(デュシェンヌ・スマイル)だったり、はにかみ笑いだったり――という事実がいくらか関係しているのかもしれません。はにかみ笑いは霊長類の動物同士の間では相手に対する譲歩を意味するものと受け止められる傾向にあります。ジミー・カーター(元大統領)はよく笑顔を浮かべていましたが、ジョージ・ブッシュはカーターに比べると笑うことがずっと少ないですね。(笑顔の多い)カーターは温和でフレンドリーな(親しみやすい)人柄だというのが世間一般の評価ですが、威圧感や力強さがあるとかいう受け止められ方はされていませんね。(笑顔の少ない)ブッシュはそれと逆ですね。カーターに比べると温かみやフレンドリーさは感じられないものの、威圧感や力強さを備えた人柄だと受け止められています。」

もう一丁

「ファッションブランドの広告に写っているモデルの顔を見比べると安価なブランドの広告に起用されたモデルほど笑顔で写真に写っている傾向にあるわけですが、その理由はモデルの笑顔を通じてそのブランドのステータスに関する情報(近づきやすさ、親しみやすさ)を伝えようとしているためだと思われます。笑顔のモデルを広告に載せているのは(モデルのポジティブな感情(嬉しさ、喜び)を伝えることを通じて)広告を目にした顧客に爽やかな気分になってもらいたいからというわけではないと思います。ブランドのステータスイメージを伝えるか、それともモデルの内なる感情を伝えるか。時に広告マンはそのどちらか一方を選ばなければならないことがあります。高級ブランドの広告に写っているモデルが笑っていないのはそのブランドのステータスの高さ(格の高さ)を伝えようとしているのであって、モデルが不愉快であること(モデルのネガティブな感情)を伝えようとしているわけではないと思われます。エルヴィス・プレスリーはみんなから好かれていました。コンサートで壇上にいる彼がせせら笑いを浮かべてもみんな彼のことが好きでした。せせら笑いというのはステータスの高い人物が(己のステータスの高さを誇示するために)よくするものなのです。相手に(せせら笑いをされて)見下されるのはいい気がしないものですが、多くの人はステータスの高い人物には敬服しがちでそばにいたいと感じるものなのです。何とも皮肉めいてはいますが、高級ファッションブランドの広告はネガティブなシグナル(笑顔の封印)を使ってポジティブなイメージ(ステータスの高さ)を生み出そうとしていると言えるわけですね。

  1. 訳注;発言主はティモシー・ケテラー(Timothy Ketelaar)氏。氏も一員として名を連ねている研究チームが行った実験結果を踏まえた上での発言。実験結果の詳しい内容は次の論文にまとめられている。 ●Timothy Ketelaar et al., “Smiles as Signals of Lower Status in Football Players and Fashion Models: Evidence that Smiles are Associated with Lower Dominance and Lower Prestige(pdf)”(Evolutionary Psychology, vol. 10(3), pp. 371-397) []
  2. 訳注;ステータス=社会的地位ないしは組織内での位置づけ、肉体的な強さの優劣等々。 []