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サイモン・レン−ルイス「トランプの財政赤字は問題か?」 (2018年2月16日)

Do Trump’s deficits matter?
(Mainly Macro, Friday, 16 February 2018, by Simon Wren-Lewis)

民主党はトランプと共和党がもたらそうとしている大きな財政赤字に異議を唱えるべきだろうか? あるいは,そうした異議は,2009年の財政刺激を不十分なものとし,それ以後 緊縮をもたらしつづけている共和党の言説のような役割を演じてしまうのだろか?

主流派経済学者の答は簡単だ.不況時に利子率が下限に達してしまった場合は1 赤字を気にせず,赤字を気にする人々を無視すべきだというものだ.財政赤字は,経済を回復させるのに必要ならばどんな大きさであってもかまわない.中央銀行が,(中央銀行の考える)下限より利子率を上げなければと感じるくらいの十分な刺激でなければならない.政治家たちは前回の景気後退時にこのアドバイスに従うことができなかった.

対照的に,経済が不況に陥っていなくて,利子率で完璧に総需要を制御できるような場合に,政府債務を増加させるほどの財政赤字は問題だといえるだろう.さまざまな理由で,不況に陥る可能性が無いときには,政府債務の対GDP比率をごくゆっくりと下げていくような赤字水準が最善である.それ以外の政策を取るには十分な理由がなければならない.

不況でない時に,債務GDP比率を確実に増やしてしまうほどの財政赤字を続けると経済に悪影響を与える理由は数多い.ここではもっとも明らかなものを挙げよう.政府支出の水準を所与とすると,債務に対する利子は結果として税で賄わねばならない.債務が多いほど税も多くなり,これはよろしくない.高い税率は人々の労働意欲をくじくし,世代間格差の観点から不公平になるからである.

この最後の論点は考えてみれば明らかなことである.現在の世代は税を廃止してしまい,すべての支出(債務の利子も含む)を借り入れを増やして支払うことができる.しかし,それを永遠に続けることはできない.どこかの時点でまた増税しなければならない.まるまる一世代が税金の支払いを逃れるが,その代償として将来の世代がさらに多く支払うことになる.

その結果,不況といったとても立派な理由でもない限り2 責任ある政府は債務GDP比を上昇させる財政赤字を続けようとはしない.ただ,問題なのは,政府というものは無責任になる誘惑にかられがちだということだ.現在の米国政府(実質的には富裕層のための金権政治だが)は,他のすべてを差し置いても超富裕層への減税を望んでいる.そして,富裕層減税と同時に他の誰かの税を上げることはせず,そのかわりに財政を赤字にし,それで咎められずにすむと考えている.民主党は,それが無責任だと声を上げるべき十分な理由がある.ただ,もちろん民主党が重点を置くべき主要な論点は,超富裕層こそがもっとも減税してやる必要のない人々だという点だが.

残念なことに責任ある態度というのは退屈でつまらないように見えるらしい.そこでつい話を膨らませて,財政赤字を増やすと何やら大変な災いがくるぞなどと予言したくなるようだ.これはうまい方向とは言えない.単なるオオカミ少年になるだけだ.大きな赤字は食べ過ぎのようなものだ.一度や二度なら切り抜けられる.毎日続けたら早死にする.食べ過ぎとの違いは,自分がひどい目にあうのではなく子供がひどい目にあうというところだけだ.

主流派経済学についてはもう十分だろう.MMTについてはどうだろうか.MMTの帰結として財政赤字は何ら問題ないかのように語られることが多いが?実はこの言い方は不正確だ.MMTが実際に述べているのは,インフレ率があるべき赤字の額を決定するということだ.もしインフレ率がターゲットより下にとどまっているなら赤字を増やすことができるしそうすべきである(そして逆の場合もまた真である)ということなのだ.MMT支持者がそう考える理由は,中央銀行がやっていること,すなわち利子率を変化させてインフレを制御することは時間の無駄である – なぜなら利子率が需要およびインフレ率に与えるインパクトは不確かだから — と彼らが考えているからだ.もしこれが本当なら,インフレ率をターゲットに保つレベルなら赤字がどんなレベルでもかまわないという話に主流派経済学者だって同意するところだが.MMT派と主流派の違いは,中央銀行が時間を無駄にしていると考えるかそうでないかという点である.

重要な点は,どちらの立場を取るにせよ,安定化政策とか長期の財政赤字とかを考えても今回の共和党の減税については単に論点を見えにくくするだけになるということだ.共和党が超富裕層への減税を主として借り入れでま可能としている理由は,それが誰のコストにもならないように見えるからだ.誰の税金も増えないなら — と彼らは論じる — なぜ金持ちがさらに金持ちになるのをそんなに嫌がるのか,と.2つの可能性がある.第一に,もし何かの税金を永久に減税して他の税金を上げたり支出を減らしたりしなくてすむなら,なぜ減税を必要としない〔金持ちの〕人でなく,もっと必要な人に対して減税しないのか.第二の,もっと可能性の高い場合は,そういう減税が持続可能ではないという場合だ.この場合,いずれかの時点で普通の人々が払う税金が,超富裕層への減税を賄うために上がることになる.いずれにせよ,普通の人々が損をする.赤字やインフレに焦点を当ててしまうと基本的な真実から遠ざかってしまう.

  1. 原註[1]: 下限とは,中央銀行が下限と考える水準に達した場合か,利下げの効果が不確かで,したがって政策手段として効果的でなくなってしまった場合である. []
  2. 原註[2]: 自然災害(人災ではなく)も財政を赤字にする立派な理由になるだろう.ハイリターンのインフラへの投資もそうだ. []

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