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アレックス・タバロック「トランプ関税を教科書で取り上げたよ」(2020年11月19日)

[Alex Tabarrok, “International Trade in Modern Principles,” Marginal Revolution, November 19, 2020]

トランプ関税は,スムート・ホーリー関税法以後でいちばん大きな貿易政策の変更だ.トランプ関税の経済的な長短がどうであれ,教科書の執筆者にとっては最高の題材になってくれている.Flaaen, Hortaçsu & Tintelnot のすばらしい論文を参照しつつ最新版の『現代経済学の原理』でとりあげたのも,まさにその一例だ.その箇所の抜粋をみてもらえば,ぼくらが書いた教科書『現代経済学の原理』でとっているアプローチがよくわかるだろう.


さて,需要と供給を使って国際貿易をどう分析したらいいか,みんなはもうおわかりだろう.そこで,2018年1月にトランプ関税が実施されたあとに洗濯機の市場になにが起きたかを見て,この理論がどれくらい検証に耐えるかみてみよう.この関税は2段階で実施された.第1段階では,税率 20% で 120万台の洗濯機が課税され,残る全ての輸入品は税率50% で課税された.関税は3年間にわたって実施され,その間にわずかながら税率が下げられている(2年目に 18% と 45% に下がり,3年目に 16% と 40% に下がった).洗濯機部品にも50%関税がかけられたことで,製造業者が部品を輸入して組み立てだけを合衆国内で行う抜け道もふさがれた.

関税が実施される前には,年間 380万台の洗濯機が輸入されていた.関税がはじまったとたんに,輸入は 120万台減少して,輸入台数は年間およそ 260万台になった.図 X を見てもらうと,合衆国の洗濯用機器の価格指標が示してある.洗濯機と乾燥機の価格は少なくとも 2013年から下がり続けていたけれど,関税が強制されたとたんに,価格は劇的にはねあがっている.(関税率がほどほどに下がった2019年にもわずかながら価格の下落が見られる).

経済学者たちの推計によれば,この関税によって洗濯機価格はおよそ 12% 上がった.実は,これは関税の規模から推測されそうな価格上昇よりも小さい.ただ,乾燥機の価格もやはり約 12% 上がっている.乾燥機は関税の適用外だった.だったら,どうして乾燥機の価格が上がったんだろうか? 洗濯機と乾燥機は,典型的に1セットで購入される.そのため,製造業者たちはそのセット価格に注目して,洗濯機にかかった関税を洗濯機と乾燥機に「うすく伸ばした」わけだ.経済学者たちが数千もの財を調べて推計したところでは,平均で見てトランプ関税はそのままそっくり消費者たちに転嫁されている.単純な供給と需要のモデルから予測されるとおりの結果だ.

供給・需要モデルからは,他にも重要な予測が導かれる.それは,「関税は,国内製・国外製を問わずあらゆる洗濯機の価格を上昇させる」というものだ.最初に関税が実施されたとき,国内の生産者たちは国外の生産者たちよりもコストが低くなる.その結果,販売数が増えて産出が増える.ところが,国内の生産者たちが産出を増やすと,彼らのコストは上がっていき,やがて,国内生産者と国外生産者がふたたび同じ価格で販売する均衡にいたる.実際に,そっくりそのとおりのことが起きている.ワールプール社のような国内生産者は自社製品の価格を少なくとも国外生産者と同じくらい引き上げている.

トランプ関税は,予想外の帰結も1つもたらしている.モデルでは,国内生産者を国内で保有されている企業だと考えるのが自然だ.だが,それは必ずしも事実ではない.洗濯機の国内製造業者であるワールプール社は関税ゆえにたしかに生産を増やしたけれど,それ以外のことも起きた.サムスンや LG といった国外生産者たちは自分たちが合衆国内にもっている工場を拡大したんだ.それは,洗濯機や乾燥機をつくる工場のアメリカ人従業員にとってはいいことだ.けれども,サムスンや LG が工場を拡大したのは,ワールプール社にとってはうれしくない知らせだったろう.ワールプール社は,「関税によって自分たちが国内市場で競争上の優位をえられるだろう」と予想していたかもしれないけれど,実際にはそこまでにはならなかった.

国内で保有されている企業と国外で保有されている企業の両方がアメリカ国内の生産を増やしたことで,およそ 1,800の新規雇用が洗濯機・乾燥機の産業でうまれる結果になった.貿易政策は経済内の雇用総数に影響しないのを思い出そう.洗濯機・乾燥機の産業で雇用が増えた裏では,合衆国の輸出産業の雇用が減っている.だが,自分の政策がもたらした便益として大統領が持ち出せるおかげで,保護された産業の新規雇用は目につきやすいし,政治的にも重要だ.さて,ここで面白い問いが出てくる.いったい,消費者たちはこうした雇用の創出のためにどれくらい支払ったんだろうか?

関税によって,販売された1740万ユニットの1ユニットあたり約 12% または $88 の価格上昇がもたらされた.したがって,消費者が負担したコスト総額は,年間およそ 15億6,000万ドルとなる.政府は関税の税収で $820万ドルを手に入れた.これはプラスとして数える.すると,コスト総額は年間およそ 14億6,000万ドルという計算になる.したがって,創出された雇用1件あたりのコストは,なんと $811,000 だ(14.6億ドル/1,800).洗濯機と乾燥機に追加でお金を払う代わりに,洗濯機産業の新規労働者1人1人に $100,000 払ってすてきな休暇を楽しんでもらった方が,合衆国の消費者たちにはずっとよかったんじゃないだろうか.


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