『アメリカ経済ジャーナル:経済政策』に掲載された Bisschop, Kastoryano, & van deer Klaauw による新論文は,オランダ25都市の売春地域 (tippelzones) に着目して検討している.
本稿の実証研究の結果からは,売春地域が開放されると性的虐待とレイプが減少することが示される.こうした結果をもたらす主な要因となっているのは,売春地域開放後2年間に見られる 30〜40% の減少だ.認可制をとった売春地域については,さらに性的暴行が長期的に減少することと薬物関連犯罪が 25% 減少することもわかった.
Cunningham & Shar による研究でも,ロドス島における屋内売春〔路上での売春と対比されるやつ〕の合法化を調査してこれと非常によく似た結果が得られている.
2003年にロドス島の地方裁判所が屋内売春を突如として合法化したことで,セックス市場・強姦・性感染症の構成に合法化がおよぼす影響について,その因果関係の推定がはじめて可能となった.予想にたがわず,合法化によって屋内売春市場の規模は拡大した.だが,それと同時に,合法化によって力づくでの強姦・淋病の症例数は人口全体で減少した.我々の synthetic control model では,2004年から2009年にかけて,報告された強姦件数が 824件(31パーセント)減少,女性の淋病感染件数が 1,035件(39パーセント)減少しているのが見出されている.
さらに,Riccardo Ciacci & María Micaela Sviatschi によるワーキングペーパーでは,ニューヨークにおける売春を研究して,やはり売春によってレイプのような性犯罪が大幅に減少しているのを見出している:
本稿では,独自のデータセットを用いて屋内売春施設が性犯罪におよぼす影響を検討する.2004年1月1日から2012年6月30日にかけて,警官による性犯罪取り締まりの正確な場所と屋内売春施設の開設日と場所を1日ごとに追跡したパネルを作成した.屋内売春によって性犯罪は減少する一方で,他のタイプの犯罪にはなんら影響が見られない.この性犯罪減少の大半は,性的暴行犯になりえた人々が屋内売春施設の利用客となったことでもたらされていると我々は考える.また,警官数の増加や,こうした施設が登場した地域の潜在的被害者の減少といった他のメカニズムを除外した.さらに,データソースをさまざまに変えたり,警官による取り締まり以外の性犯罪対策を考慮しても,結果は変わらず頑健だった.
「レイプは力の問題であってセックスの問題ではない」という考えは広まっている.なるほどたしかに.だが,一部にはセックスの問題もある.もう一度,Ciacci & Sviatschi を引用しよう:
性犯罪を犯すかもしれない人たちは,実際に性犯罪に手を染めるかわりに屋内売春施設で代替するという事実と証拠は整合している.(…)このメカニズムは,女性からセックスを金で買った男性たちを調査したロンドンでの研究とも合致している.そうした男性のおよそ 54% は,「もし売春が存在していなかったら売春婦でない女性をレイプしていた見込みが大きい」と語っている.明らかにそう信じているある男性は,こんな風にすら語っている:「たまに誰かをレイプしかねなくなることがあるだろ:そしたら,かわりに売春婦のところに行けばいい」(Farley et al., 2009).
ようするに,さまざまな著者たちによる,さまざまな時と場所,さまざまな実験から得られた幅広い証拠から,「売春はレイプを減らす」ということが明快かつ信頼できるかたちで示されている.売春を合理的にどういう風に規制するか考えるとき,この発見は非常に重要となる.