アレックス・タバロック「有機農業による経済危機」(2021年9月7日)

Alex Tabarrok “Organic Disaster Marginal Revolution, September 7, 2021

スリランカの大統領は、有機農業100%を達成しようと今年に入って突如として化学肥料を禁止した。この禁止によって生産量の減少と価格の急騰が起こり、観光業の減少と新型コロナ感染拡大とも相まって経済危機が発生している。

有機農業への転換を率先するためにラジャパクサ大統領が選任した46人の専門家のひとりであり、スリランカの主要な製茶コングロマリットのオーナーであるハーマン・グラナトナによれば、この政策が国にもたらす帰結は想像を絶するとしている。

報道によれば「この禁止によって製茶業は全くの大混乱に陥ってしまいました(略)完全に有機化した場合、私たちは収穫を50%失うことになりますが、それによって価格が50%上昇することはないでしょう」と彼は述べた。

(略)元中央銀行副総裁のW.A.ウィジェワルダナは、この有機農業化計画を「想像を絶する社会、政治、経済的費用を伴った夢」と評したと報じられている。彼は、スリランカの食糧安全保障は「危険にさらされており」、外貨不足で「日に日に悪化している」としている。

スリランカ全土の農家を対象とした調査によれば、90%が農業に化学肥料を使用しており、85%は肥料の使用が不許可となれば収穫が大きく減少すると予想している。更にこの調査によれば、完全有機生産に転換するための知識がある農家は20%しかいないとしている。

また、この調査によれば、44%の農家は収穫の減少を被っており、85%は将来における減少を予想している。

この調査では、スリランカの主要農産物の多くがその栽培において大量の化学肥料の投入に依存しており、依存度の最も高いコメでは94%、次いで茶とゴムでは89%であることが明らかになった。

化学農法から有機農法への転換のため、スリランカは有機肥料と生物肥料を国内で大量に生産する必要がある。しかし、その見通しは暗澹としている。

政府は価格の高騰に対し、政策の撤回ではなく、価格統制を敷いて「買占め屋」を叩き、砂糖などの農産物の在庫を押収するといったいつものやり方で対応している

有機農法は有用だが、うまくやるにはたくさんの人的資本が必要な上、全体としてみれば収穫高が低いのでより多くの土地が必要になる。有機農法は生産物1単位あたりで見れば環境汚染も低いわけじゃない。Annual Review of Resource Economicsに掲載された論文を見てみよう。

有機農業は慣行農法よりも持続的であるとみなされることが多い。我々はこの点について世界全体の観点から既存研究を見直した。環境及び気候変動への影響に関し、有機農法は土地1単位あたりで計測すると汚染は小さいものの、生産物1単位あたりで計測した場合はそうではない。有機農法は現在世界の農地のわずか1%を占めるに過ぎないが、平均してみると収穫高はより低い。有機農法にはより高度な知識が必要となることから、より多くの農家が有機農法へと切り替えた場合、今見られるこの収穫高の格差はさらに広がる可能性もある。有機農業が拡大すれば、自然環境がさらに失われ、生産物の価格の上昇も必然的に伴うことになるため、途上国の貧しい消費者にとって食糧が手の届きづらいものになる。有機農法は持続可能な農業と食糧安全保障のためのパラダイムではないが、有機農法と慣行農法の賢い組合せは世界の農業における持続可能な生産性向上に資する可能性がある。

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