アレックス・タバロック「経済学者版インディー・ジョーンズ?――貿易データから失われた都市をつきとめる」

[Alex Tabarrok, “Indiana Jones, Economist?!” Marginal Revolution, November 7, 2017]

Gojko Barjamovic, Thomas Chaney, Kerem A. Coşar, & Ali Hortaçsu による驚くほど独創的な論文では,貿易の重力モデルを使って,青銅器時代アッシリアの失われた都市がどこにあったかを推理している.いちばん単純な重力モデルでは,さまざまな都市の規模と都市どうしの距離にもとづいて貿易の流れについて予測を立てる.もっとややこしいモデルでは,地理的な障壁にもとづいてコストをとりこむ.著者たちの手元には,こうした都市すべてのあいだで行われていた貿易に関する古代の文献からえられたデータがあり,都市の一部はすでに場所がわかっているし,その地域の地理もわかっている.このデータを用いることで,著者たちは重力モデルを反転させて,既知の都市から三角測量し,モデルにいちばんうまく「はまる」失われた都市の所在地を見つけ出せる.この着想を検証すべく,著者たちは既知の都市の所在地がかりにわからないとした場合を試した.するとモデルはそうした都市の所在地を正確に復元できた.

論文の詳細は次のとおり.各手順そのものがすごい達成だし,最終的な産物は完全に予想外なものとなっている.すごーい!

本研究の第一の貢献は,古代の文献から都市間の商業的つながりに関する体系的な情報を抽出することである.これにあたって,研究対象の古代の記録がラテン文字に転記できるのを利用した.これにより,全文献がデジタル化され,解析可能となった.あらゆる記録を自動的に精査して、少なくとも2つの都市に同時に言及している文字板のみを抽出した。さらに、系統立ててこうした文字板を読み進めた。これには楔形文字とそうした記録が用いているアッカド語の古アッシリア方言の両方に通じている必要がある。個別の文献の文脈を考慮に入れることで、この分析では依拠する記録文書を厳選した。すなわち、都市間の移動にはっきりと言及しているものだけを選り抜き、さらにそれぞれの移動が積荷の移動を目的にしていたのか、帰路なのか、ほかの理由(法的、私的、などの理由)なのかを区別している。

第二の貢献は、古代貿易の構造重力モデルを推定している点である。我々は貿易の単純なリカード的モデルを構築した。さらに2都市間の貿易摩擦は地理的距離のベキ関数としてまとめられると想定し、我々のモデルはさまざまな2都市ペアの取引の数をもとに予測を立てる。取引数はデータで観察されたものである。このモデルの推定のもとになっているのは、2都市間の流量と、少なくとも一部の年の地理的な所在地のみである。

我々の第三の貢献は、構造的重力モデルを用いて,失われた都市の地理的所在地を推定している点である.アッシリアの商人たちが交易を行っていた都市の一部は,これまでに歴史家や考古学者の手によって所在地が判明し発掘されているが,記録で言及されているそれ以外の都市は地図上の場所に明確に結びつけられなかった.記録を精査して都市間の貿易と交易路および周辺の地形の記述を得ることで,こうした失われた都市の所在地候補について,歴史家たちは定性的な推測を発展させてきた.我々は,重力方程式の適合を最大化することにもとづいて,これに代わる定量的方法を提案する.既知の都市と失われた都市との貿易に関するデータが利用できるかぎり,失われた都市に比べて十分に多くの既知の都市があれば,構造的重力モデルは失われた都市の地理的座標の有望な候補を推定できる.我々の枠組みは,たんに失われた都市の所在地を一点のみ推定するのではなく,そうした地点を中心に確信度の度合いのさまざまに異なる地域も提示する.失われた都市の大多数に関して,我々の定量的な推定はこれまで歴史家たちによってもたらされてきた定性的推測と驚くほど類似している.これは,こうした歴史学的モデルと我々の純粋に定量的な手法をともに裏付けるものである.さらに,失われた都市の所在地として有望な候補について歴史家どうしに見解の不一致がある場合には,我々の定量的手法が一方の歴史家たちの推測を支持しつつ他方の推測を却下する.

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