アレックス・タバロック 「『覆面経済学者の逆襲』、『アメリカにおける財産の歴史』、『コマンド&コントロール』 ~お気に入りの3冊~」(2013年12月22日)

●Alex Tabarrok, “A Few Favorite Books from 2013”(Marginal Revolution, December 22, 2013)


トム・ジャクソンが(Sandusky Registerに寄稿する予定の)今年最後のコラムで2013年中に出版された優れた書籍を紹介する予定らしく、何冊か心当たりはないかとコメントを求められた。私はコーエンほど多読ではない。そういうわけでいくらか範囲と数を絞ってピックアップさせてもらうとしよう。2013年中に読んだ社会科学の分野の本の中から個人的なお気に入りを選ぶと以下のようになるだろう。

ティム・ハーフォード(Tim Harford)と言えば物語の語り部(ストーリテラー)としての天賦の才と複雑なアイデアをわかりやすく噛み砕いて説明する才能に恵まれている人物だが、そんな彼が持ち前の才能を携えてマクロ経済学の世界に足を踏み入れているのが今年(2013年に)出版された『Undercover Economist Strikes Back』(「覆面経済学者の逆襲」)である。経済学の分野の(世間一般の人々に向けて経済学の概念をわかりやすく解説することを狙いとした)ポピュラー書ではミクロ経済学の話題――市場やインセンティブ、個別の経済主体(消費者や企業)による意思決定などなど――に焦点が合わせられていることが多い。『ランチタイムの経済学』然り、『ヤバい経済学』然り、『予想どおりに不合理』然り。ハーフォードの旧作である『まっとうな経済学』にしてもそうだ。しかしながら、本作では従来のポピュラー書とは一味違ってずっと珍しい「獣」に狙いが定められている。インフレーションや失業、経済成長、経済危機といったマクロ経済現象を世間一般の人々向けに噛み砕いて解説するガイドブックを作成しようと意気込まれており、その狙いはものの見事に実を結んでいる。経済理論や経済政策についての冴え渡る説明が盛り込まれているだけではなく、刺激的な人生を過ごした経済学者の面々(かつてはそういう経済学者がいくらかはいたのだ!)の魅力溢れるエピソード(物語)が合間合間に挿入されている。その結果として『Undercover Economist Strikes Back』は啓発的な一冊であると同時に非常に愉快な読み物ともなっているのだ。

スチュアート・バナー(Stuart Banner)の『American Property』(「アメリカにおける財産の歴史」)は財産法がテーマの一冊である。「何て退屈そうなんだ」。そう思われるかもしれないが、バナーの手にかかると財産にまつわる歴史も魅惑的な歴史へと様変わりする。一体何が所有権の対象となり得るのか? 個人が何らかの対象を所有できるようになるのはいかにしてか? 何らかの対象が所有権の対象となり得るのはなぜか? こういった一連の疑問に対する答えは裁判官や立法機関が新しいテクノロジーの発達や生活様式の変化にどう対応するかに応じて絶えず変化を遂げてきている。セレブが得ている名声は一体全体誰のものなのか? 自分自身のイメージに対する権利(肖像権)はかつてはどういう扱いだったのだろうか? 法的に保護されていたのだろうか? ベンジャミン・フランクリンの顔をパッケージに載せている商品は数多いが、フランクリンに肖像権の話を聞かせたら鼻で笑ったに違いない。しかしながら、写真の発明とパパラッチと呼ばれる集団の台頭に伴って時代思潮も徐々に変化を遂げ始めることになる。そして時代は下って1990年代初頭。ヴァンナ・ホワイトがサムソンを相手取って裁判を起こす。サムソンの広告に掲載されたロボットの姿(そのロボットは文字が書かれたボードをひっくり返していた)が(クイズ番組である)「ホイール・オブ・フォーチュン」で助手を務めていた彼女の姿に瓜二つだったのである。裁判の結果はヴァンナ・ホワイトの勝訴。サムソンは40万3000ドルの損害賠償の支払いを命じられることになったのであった。『American Property』は学識豊かで文才を備えた学究が専門用語を交えずにアメリカにおける財産の歴史を跡付けている出色の一作である。

1980年6月3日・・・というと、ソ連がアフガニスタンに侵攻してからまだそう日が経っていないタイミングにあたるが、1980年6月3日の午前2時30分のことである。カーター政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めていた人物 [1] 訳注;ズビグネフ・ブレジンスキーのもとに緊急の電話連絡が飛び込んできた。寝起きの耳に伝えられた情報、それはソ連の潜水艦が計220発のミサイルをアメリカに向けて発射した模様というものだった。それからしばらく経って続報が届く。ソ連が発射したミサイルの数は2200発だという。戦略航空軍団(SAC)の隊員らもすかさず行動に移る。爆撃機に素早く乗り込んでエンジンをかける隊員たち。弾道ミサイルのロックを外す隊員たち。アメリカ太平洋軍の空中指令機も反撃の作戦を練るために安全な空中に飛び立つ。早期警戒レーダーには・・・何も捉えられない。ソ連からの攻撃が差し迫っていることを示す証拠は一切見つからない。ソ連が2200発のミサイルをアメリカに向けて発射したとの情報は誤報だったのである。誤報の主は北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)のコンピュータ。NORADのコンピュータは戦略航空軍団(SAC)やペンタゴン(国防総省)のコンピュータと連結されており、ネットワークが正常に機能しているかどうかを確かめるためにNORADのコンピュータからは日夜テストメッセージが送られていた。そのメッセージの内容は(何とも驚いたことに)「アメリカに向けて○○発のミサイルが発射されました」というものであり、ミサイルの発射数を示す欄には0(ゼロ)を並べた数字が送られるはずになっていた。しかしながら、コンピュータチップの欠陥で2という数字が紛れ込むかたちでメッセージが送られてしまったのである。つまりは、コンピュータの不具合によって危うく最終戦争が引き起こされかねなかったわけだ。以上のエピソードはエリック・シュローサー(Eric Schlosser)による戦慄の一冊『Command and Control』(「コマンド&コントロール」)の中ですっぱ抜かれているエピソードだが、このエピソードが唯一のスクープだったとしたら全体の中でもかなり重要な位置付けが与えられていたことだろう。しかしながら、1980年6月3日のエピソードに割り振られている分量は全632ページ中でわずか1ページに過ぎない。本書を紐解けばわかるように、大惨事の瀬戸際や核戦争の一歩手前までいったアクシデントはこれまでに何百件も起きているのだ。本書の中で取り上げられているアクシデントの数のあまりの多さを思うと、米国政府の方がソ連よりもずっと高い頻度で米国市民を核爆発による死の危険性に晒してきたと言わざるを得ないだろう。幸いなことに、アメリカが保有する核弾頭の数は近年に入って減少を続けている。しかしながら、その他の多くの分野においてと同様に、核管理の分野でも意思決定のスピードを速めることが求められる――時に超人的なスピードでの意思決定が求められる――のに伴ってコンピュータへの依存度が高まりつつある。それは同時にコンピュータの脆弱性にますます振り回されることを意味してもいる。シュローサーも本書の中で警告しているように、核兵器の指揮(コマンド)・統制(コントロール)という考えは幻想に過ぎないのだ。米国政府は(大惨事の原因となりかねない)一羽のブラック・スワン(黒い白鳥)のようなものなのであり、米国政府にして仮にそうなのだとしたら北朝鮮やパキスタン、インドといった国々によって管理されている核兵器には一体どのくらい警戒を強めて向き合ったらいいのだろうか?

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