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アレックス・タバロック 「ヒトへの投資 ~所得連動型ローンというアイデア~」(2010年3月9日)

●Alex Tabarrok, “Invest in People with Income Contingent Loans”(Marginal Revolution, March 9, 2010)


「私が今後稼ぐ所得への持ち分(share)を売ります。その持ち分にあなたのお金を出資してくれませんか」。 3人の起業家が手を組んで設立したThrust Fundは、ヒトへの投資を募るオンラインマーケットプレイスである。

発起人の一人であるシェアステン・エリクソン(Kjerstin Erickson)は、スタンフォード大学の大学院に通う26歳の女性で、「FORGE」の設立者。FORGEは、サブサハラ・アフリカ地域で難民支援にあたっている非営利団体だ。エリクソン氏は、自らの所得の6%を見返りとして支払うことと引き換えに、60万ドルの投資を募っている。

もっと詳しい内容についてはこちらを参照してもらいたいが、よくよく考えてみると、このようなやり方は、一人でも多くの人にフィランソロピー(慈善活動)に興味を持ってもらうことを意図した非常に巧みなマーケティングの意味も兼ねていると言えるだろう。ところで、エリクソンは、募ったお金で何をしようと考えているのだろうか? 彼女は次のように語っている

非営利事業の規模を拡大することと引き換えに、自分の所得の一部を手放すなんて馬鹿げていると考える人もいるかもしれません。でも、私にとっては全く理にかなっているように思われるのです。

確かに、エリクソンにとっては「全く理にかなっている」のだろうが、利益を追求する投資家にとっては、そうとは言い難そうだ(エクイティファイナンス1 には二重課税の問題2 が付きまとうが、現在のケースのように、起業家個人の所得の一部を担保として出資する場合は、法人税の控除がないために、税制面で一層不利な面を抱えることになる)。また、たった一人の起業家に出資するというのは、かなりリスキーな(リスクの高い)投資でもある。一人の起業家に全額を投資するのではなく、複数の起業家に分散投資した方が賢明だと言えるだろう。

この話題に関連して、Cheap Talkブログで、ジェフリー・エリー(Jeffrey Ely)がもっと広い視野から次のような疑問を提示している。

どうして学生ローンの代わりに、学生シェア3 を導入しないのだろうか?

実のところ、かなり昔に、とある経済学者が学生シェアと似た提案を行っている。1955年のことだが、ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)が所得連動型ローン(income contingent loan)というアイデアを提唱しているのだ。

教育の分野にこのアイデアを当てはめると、個人の将来所得の一部を株式として「購入する」ということになるだろう。つまり、彼/彼女が将来的に手にする所得の一定割合を借り入れに対する返済に充てることと引き換えに、彼/彼女が学業を修める上で必要な資金を前貸しするというわけだ。この仕組みの下では、卒業後の生活がなかなかうまくいかずにいる個人からは貸し付けた資金を取り戻すことができないとしても、卒業後に比較的成功を収めた個人からは初期投資額以上の金額が返済されることになるため、全体としてみれば割に合う投資ということになるだろう。このような契約は、経済的に見ると、個人の稼得能力に対する持ち分を購入することと等価であり、それゆえ、部分的な奴隷制を意味してもいるが、個人と個人の間でこのような契約を結ぶことは、現在のところ法律で禁じられているようには思われない。

・・・(略)・・・このことを実現する方法の一つは、上で述べたような、ヒトへの株式投資に政府を関与させることである。・・・(略)・・・卒業後の年収がyドルを超えた場合、学生ローンを借り入れた個人は、yドルを上回る所得1000ドルごとにx%の金額を毎年政府に返済するということになるだろう。ローンの返済を所得税の支払いと結び付けることは容易であるため、新たにローンを徴収するための行政費用も最低限に抑えられることになるだろう。ローンの返済基準となる所得額yドルは、特別な教育を受けていない場合に得られると予想される平均所得――あるいは、最頻値所得――と等しい水準に設定されるべきであろう。また、所得の中からローンの返済に充てられる割合x%は、ローン事業の採算が合うような値に設定されるべきであろう。

実際にも、1970年代にイェール大学で(授業料に対する貸与奨学金に関して)所得連動型ローンプログラムが導入されることになったが、その実現に向けて奔走したのが、フリードマンと同じくノーベル経済学賞を受賞した――そして、フリードマンよりもリベラル寄りの――ジェームズ・トービン(James Tobin)であった。しかしながら、残念なことに、このプログラムは打ち切られてしまうことになった。その理由は、このプログラムを通じて奨学金を借り入れた学生の多くが、卒業後に成功を収め、その結果(所得額に連動する)ローンの返済額が多額に上ったためである。にわか成金たちは「こんな多額のローンを返す余裕などない」と口々に語り、デフォルト(債務不履行)という名のレントシーキングに乗り出したのである(こちらも参照のこと)。

しばらく経ってのことだが、ビル・クリントンが大統領時代にこのプログラムを全米規模で導入しようと試みたものの、実際のところはそこまで広く採用されるには至らなかった(クリントンがこのような試みに乗り出したのは、彼自身イェール大学で所得連動型ローンプログラムのお世話になったことと無関係ではないだろう)。

一方で、オーストラリアでは、1989年から所得連動型ローンプログラムの導入が進められている。このプログラムを利用している大学生は、在学中に、大学に対して一銭も支払う必要はないが、卒業後の所得が一定の水準を超えた場合は、所得税の支払いと併せてローンを返済する格好となっている。所得連動型ローンが導入されているのは、オーストラリアだけに限られるわけではなく、それ以外の多くの国でも同様に導入が進んでいる。

  1. 訳注;株式の発行を通じた資金調達 []
  2. 訳注;法人所得と配当所得にそれぞれ税金が課されること。配当は法人税課税後の利益の中から支払われるため、配当にも課税されると2重に課税されることになる。現在のケースのように、起業家個人の所得の一定割合を株式のように見立てて購入する場合でも、やはり起業家の所得とそこからの配当(とは呼ばないが実質的には配当と同じ)に2重に課税されることになる。 []
  3. 訳注;株式という意味での「シェア」 []

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