アレックス・タバロック 「最低賃金を巡る秘話」(2005年10月25日)

●Alex Tabarrok, “The secret history of the minimum wage”(Marginal Revolution, October 25, 2005)


20世紀初頭のアメリカでのことだ。進歩派(progressives)の知識人の面々が、最低賃金を導入せよと訴えた。それだけではない。労働時間や労働条件に対して法的な規制を加えよとも要求したのだ。・・・と聞かされても、何の驚きもないことだろう。進歩派という名にふさわしい振る舞い・・・でしょ? しかし、進歩派の面々がどうしてそうしたのかを知れば驚くかもしれない。その理由とは? ヒント:進歩派の多くは、法律(労働法)の適用対象を「女性、それも女性だけ」(”for women and for women only”)に限定していた。

当時の進歩派の知識人たち――具体的には、リチャード・エリー(Richard Ely)、ルイス・ブランダイス(Louis Brandeis)、フェリックス・フランクファーター(Felix Frankfurter)、イギリスのウェッブ夫妻など――の関心は、女性を擁護することにではなく、男性と人類を擁護することに置かれていた。彼らの目標は、女性を家庭に引き戻すことにあったのである。女性が家庭の中で「人類の母」(“mothers of the race”)としての優生学上の義務(eugenic duties)をよりよく果たせるようにすること、女性が賃金の得られる職をめぐって男性と競い合わないようにすること [1] 訳注;女性が家庭の外で働かないようにする、という意味。。それこそが彼らの目標だったのだ。

今日の進歩派とは違って、当時の進歩派は、働く女性を対象に最低賃金が導入されることになれば、女性は職を失うことになるだろうと理解していた。そして、まさにそれこそが彼らの狙いだったのだ。女性の失業が増えれば増えるほど [2] 訳注;家庭の外で働く女性が減って、家庭の中にとどまる女性が増えるほど、社会にとっては好ましいというのが彼らの考えだったのだ。

最低賃金の導入にまつわる秘話の詳細は、トマス・レオナルド(Thomas Leonard)の論文 “Protecting Family and Race: The Progressive Case for Regulating Women’s Work(pdf)” をご覧あれ。

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1 訳注;女性が家庭の外で働かないようにする、という意味。
2 訳注;家庭の外で働く女性が減って、家庭の中にとどまる女性が増えるほど
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