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エリック・ヒルト, ウェンディ・ラーン 「所有者社会と投票行動」(2018年9月2日)

Eric Hilt, Wendy Rahn, “The ownership society and voting behavior“, (VOX, 02 September 2018)


政治評論家が論じてきたところ、金融資産の所有は家計によるビジネスフレンドリーな政党の支持を誘発するという。本稿では、自由国債 – 第一次世界大戦中に合衆国家計向けに大量販売された – の所有が、 1920年代の投票行動にどのような影響を及ぼしたかを分析してゆく。投票権者はこの国債価格の変動に対し、それが下落した際は現職者を咎め、国債価格が持ち返すとこれに報いるという対応をみせた。自由国債は、 1920年代に共和党の得票差に有意な貢献をしたものの、これが決め手となったわけではなかったようである。

過去半世紀は、アメリカ世帯によるファイナンスの在り方の変容が目撃された時代だった。 1962年にはアメリカ家計のたった 19%しか企業株式を所有していなかったのだが、 1992年までにこの率は37.4%にまで増加、そして 2007年までにはアメリカ家計の優に 65%もが株式所有者となっていた (Poterba and Samwick 1995, McCarthy 2015)。研究者も政治評論家もともに、アメリカ家計の財産的関心にみられる根本的変容は、アメリカ家計をして自らを投資階級と自己規定させるとともに、共和党の支持増化に貢献したと論じてきた (Duca and Saving 2008)。この理論はかなり影響力を持ってきたもので、社会保障の民営化 (privatise) を呼び掛ける、ブッシュ政権の2005年提案も部分的にはこれに触発されたのだった。また株式所有のさらなる拡張をつうじて、民間社会保障勘定が恒常的な共和党マジョリティの創出を後押ししてくれるのではないかとも期待されている (Conlan 2008)。

だが、金融資産の所有を拡大するような公共政策改革の政治効果は、そう単純ではないかもしれない。金融資産の所有は、それが本当に投票権者をして投資階級との自己規定をなさしめるとしても、同時にかれらを金融市場の変動に曝すものでもあるのだ。その様な変動に対応して、金融資産を所有する投票権者は、金融市場が不調の場合には現職者を咎め、高い収益に対してはかれらに報いるといった、回顧的投票行動 (retrospective voting behaviour) モデルと整合的なパターンを示すかもしれない。その様なモデルは、投票権者の選択は政権が現職者の任期中にどれほど良い業績を残したかに関する、バックワード-ルッキングな評価に駆動されると主張する (例: Achen and Bartels 2016, Healy et al. 2017)。ビジネスフレンドリーな政党への支持という単純なことではなく、金融資産の所有は、投票権者に現職者の就任期間中における金融市場パフォーマンスに注目させる誘因となるかもしれないのだ。

我々の最近の論文では、何千万ものアメリカ家計に国債を購入させる誘因となった、第一次世界大戦の自由国債キャンペーンについて、それがもたらした選挙面での帰結を研究している (Hilt and Rahn 2018)。これら自由国債キャンペーンにさきだつ時期、銀行口座以外になんらかの金融資産を保有するアメリカ人は比較的僅かだった。それにもかかわらず自由借款キャンペーンは、大規模に展開されるとともに、可能なかぎり広範囲な参加の誘引がめざされた。それは戦争遂行に対する世論的支持を強化する努力の一環として行われたのである。一般市民はこのキャンペーンに対し異常に高率の引受を以て応えた。そして 1919年までに、自由国債を所有するアメリカ家計の割合は、現代のアメリカ家計のうち株式を所有するものの割合よりも大きくなっていたと見込まれる。

「世界で最も安全な投資 (safest investment in the world)」 として販売された自由国債だったが、その価値はかなり移り気であることが明らかになった。 1919年後半、戦中戦後にみられた信用と物価の成長を制限しようとする努力を皮切りに、連邦準備制度は相当な金利引き上げを繰り返し敢行した。これが自由国債の価格の下落を惹起し、何百万ものアメリカ家計がキャピタルロスを被った。その後 1921年になって連邦準備制度が金利の引き下げを始めると、こちらは自由国債の増加を惹起した。こうした変動は、政府政策により金融資産の保有を誘発された投票権者が、そうした資産の価格の変動にどう対応するかについて検証する機会を与えてくれるものだ。

金融政策の変化に誘発されたヴォラティリティ

下に図示したのは、連邦準備制度の政策変化、そしてそれが自由国債所有者にもたらした帰結である。図 1は連邦準備の割引率を示す。同割引率は 1919年前半をとおして4%に維持されていたが、それは自由国債がその発行時に提示せざるをえなくなるだろう金利を低く抑えるためでもあった。その後、1919年後半から1920年前半になると、連邦準備制度は金利を劇的に引き上げ、割引率は 7%に上昇するが、1970年代になるまで、これほどの水準に至ることは二度となかった。

 割引率 (ニューヨーク連邦準備銀行)

第四自由国債は最も広く保有された自由国債だが、図2はその価格に何が起きたかを示している。これら自由国債の利回りが実勢利率に見合った水準にまで上昇するため、自由国債の価格は引受価格の約 85%にまで下落したうえ、1921年後半をとおしてそれに近い水準に留まった。

 価格 (第四自由借款)

自由国債保有者が獲得した累積リターンを図3に示す。価格低下に由来するキャピタルロスは、自由国債保有者が受領した4.25%の年間利息支払いを遥かに上回っていた。これは、1920年代中頃には自由国債所有者の受領した累積リターンが、名目でみても実質でみても、急激にマイナスになっていたことを意味する。

 累積リターン (第四自由借款)

1921年中頃、産出量の急激な縮減と物価水準の下落を受けた連邦準備制度は、金利緩和に着手した。実勢金利の下落は自由国債価格の回復、そしてその累積リターンの増加につながった。1924年までは、1919-21年に経験された損失の影響も強力なキャピタルゲインにより払拭されていた。

選挙での反動

我々は自由国債引受率に関する郡レベルのデータを活用し、以上の変動が大統領選挙の結果に及ぼした効果を調べた。なお、1920年代は共和党が大統領政治を支配していた時期で、ハーディング、クーリッジ、フーヴァーは、1920年・1924 年・1928年の一般投票・選挙人投票ともに相当の多数派票を勝ち取っている。さて結果だが、1908-1916年期の選挙における投票パターンと比較すると、自由借款の引受率が高い郡ほど1920年と1924年の選挙で反民主党に急速に転じていたことが明らかになった。そしてこれは1920年選挙にさきだつ時期の自由国債の減価 (民主党が大統領職を握っていた時期)、および1920 年代前半における自由国債の増価 (共和党大統領の政権下) に対する反応だったのである。これら結果が示唆するところ、自由国債キャンペーンは幾つかの意図せざる政治的帰結をもたらしたようだ – つまり戦争への支持を高めようとする努力が、その生みの親たる政党に対する選挙での反動に力添えすることになったのである。

無論、自由国債の引受は、歴史的な投票パターンに反映されていない未観測の郡-属性から影響を受けていたかもしれず、それが翻っては1920年代の投票行動に影響を与えていたこともありうる。この可能性に対処するため、我々は1918年インフルエンザ流行に関する地域毎の予測深刻度の測定値を、自由国債引受の操作変数として用いた。この流行の波で最も致命的だったのは 1918年10月に発生したものだったが、これは偶然にも自由借款キャンペーン第四弾と同時期に起きている。インフルエンザ流行の予測深刻度について我々が用いた尺度は、大規模軍事訓練キャンプからの郡の距離にもとづく。これら軍事訓練キャンプは合衆国の民間人口 (civilian population) 内部における流行の発生源である可能性が最も高いのだ。軍事訓練キャンプからの距離の大きさは、第四借款の引受と強く相関しているが、これはインフルエンザの流行自体と、流行拡大を抑制する活動の双方から、自由国債キャンペーンが阻害されたためだ。自由国債所有が民主党の得票率に及ぼした効果に関する我々の操作変数推定値は、郡の自由国債引受率が 1標準偏差上昇すると、大統領選挙における民主党の得票率が1920-32年期の平均で3.3%ポイントの減少につながっていたことを示す。

自由国債が選挙面でもたらした効果が決定的なものかを評価すべく、我々は同じ実証モデルを州レベルのデータを用いて推定した。我々は1920年大統領選挙にフォーカスしている。同選挙で民主党のジェームズ・コックスが勝ち取ったのはたった12州のみだったのに対し、ハーディングは 37州で、選挙人票の総数でみると127対404となっている。1920年大統領選挙での民主党得票率に関して州毎にみた反実仮想推定値が示すところ、自由国債が不在であったならば、民主党はさらに12州を勝ち取っていただろうが、それでもやはり選挙人投票で敗北することになっていたようだ。ここから、本分析において自由国債に帰属させた効果は、共和党の得票差に相当な寄与をしたものの、これが決め手となったとまではいえなさそうであることが覗われる。

結論

家計の所有する資産の構成はその政治行動に影響を与えうること、とはいえそれは必ずしも所有者社会の理論と整合的な形での影響ではないこと。本結果は以上を明朗に示すエビデンスである。我々の文脈に引き付けていえば、国債の所有によって、一般アメリカ家計のファイナンスは、金融市場の変化に対しより敏感になった。それは家計をして、資産価格低下期に就任していた現職者を拒絶し、また財政の安定性と国際価格の上昇をもたらしたと称する政治候補者を支持する方向に導いた。これは回顧的投票行動の 「個人指向的 (pocketbook)」 な見方と整合的である。

さらに本結果は、社会保障を民間勘定群からなる制度に転換しようとするブッシュ政権の 2005年提案が実行されていたとしても、その意図通りの政治的効果がえられなかったかもしれないことを示唆する。自分の社会保障給付を、諸般の金融資産に投資した勘定への貯蓄をつうじてファイナンスするよう誘導されていたのなら、投票権者は金融市場の変動にかなり敏感になったはずである。そうした場合、金融危機と結び付けられる2008年の急激な資産価格下落は、同年の大統領選挙において、共和党に対するこのうえなお強烈な反動に結実していただろうと考えても、不合理ではない。

参考文献

Achen, C H and L Bartels (2016),  Democracy for Realists: Why Elections Do Not Produce Responsive Government, Princeton University Press.

Conlan, T J (2008), “Federalism, the Bush Administration, and the evolution of American politics,” in Morgan and Davies (eds), The Federal Nation: Perspectives on American Federalism , Palgrave MacMillan, 11–25.

Duca, J V and J L Saving (2008), “Stock ownership and congressional elections: The political economy of the mutual fund revolution,” Economic Inquiry 46(3): 454–79.

Healy, A J, M Persson and E Snowberg (2017), “Digging into the pocketbook: Evidence on economic voting from income registry data matched to a voter survey,” American Political Science Review 111(4): 771–785.

Hilt, E and W Rahn (2018), “Financial asset ownership and political partisanship: Liberty Bonds and republican electoral success in the 1920s,” NBER Working paper 24719.

McCarthy, J (2015), “ Little change in the percentage of Americans who own stocks,” Gallup, 22 April.

Poterba, J and A Samwick (1995), “Stock ownership patterns, stock market fluctuations, and consumption,” Brookings Papers on Economic Activity 2: 295–3.

 


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