クルーグマン「アメリカのイカレ具合と階級闘争」/「政府機能停止:混沌の経済と政治」

Paul Krugman, “American Craziness and Class Warfare,” October 3, 2013.

アメリカのイカレ具合と階級闘争(2013年10月3日)

by ポール・クルーグマン

Sakurai/Westdeutsche Allgemeine Zeitung / The New York Times Syndicate
Sakurai/Westdeutsche Allgemeine Zeitung / The New York Times Syndicate

経済学者の Mark Thoma がこの前,『フィスカル・タイムズ』に見事なコラムを書いてる.そのなかで,債務上限をめぐる抗争を,もっと大きな問題につなげてる.その問題とは,極端な格差だ.ここでは,現実は Thoma 氏が示唆しているよりも酷いんじゃないかと示唆したい.

彼はこういう言い方をしてる:「格差が広がり,各人のさらされる経済的リスクに貧富のちがいが生じることで,ある集団は自分たちのことを社会の「創出者」だと考え,それ以外の集団を「たかり屋」だと考えるようになっている.創出者とは他のみんなにいろんなものをもたらし税金の大半を負担してるとされる人たちであり,たかり屋とはありとあらゆる便益を受け取る人たちのことだ.すると,上位階層はこう疑問を抱く.『なんで自分はほぼ何も便益を受け取らないのに,俺たちが社会保険の費用を払わにゃならんのだ?』 そして,これがああいった政府プログラムへの攻撃につながる.」

こういう風に,彼は債務上限をめぐる抗争を富裕層の影響に結びつけている.富裕層が福祉国家を解体したがっているのは,自分たちにとってなんにもならないからであり,また,低税率をもとめているからだ,というわけだ.

ここに1つ付け足せるだろう.すごい格差ができると,お金持ちはふつうの心配事をしなくてすむようになる.すると,お金持ちは権力を増し,彼らが抱いてる反福祉国家の見解がはるかにもっと影響をふるうようになる.

「それじゃあ,Thoma 氏が言ってるよりも事態はいっそう酷いってのはどういうことなのさ?」 なぜって,お金持ちの多くは不運な人たちを政府が助けることに反対するとき,あれこれとえり好みをしてるからだ.彼らはフードスタンプや失業手当みたいなものには反対する.でも――「ウォール街の救済? よっしゃ!」だもの.

いやマジで.バークシャー・ハサウェイの副会長チャーリー・マンガーは2010年にこんな発言をしてる.みんなは銀行救済を「神に感謝」すべきだけど,でも苦しい目に遭ってるふつうの人たちは「自力でどうにか乗り切る」べき,なんですって.それに,AIG の CEO は――救済を受けた企業の CEO ってことだよ!――この前,『ウォールストリート・ジャーナル』でこう語ってる.こうした企業で役員に報酬が払われたことにしのごの文句を言うのは,リンチと同じくらい酷いことだそうだ(これ,ぼくのでっちあげじゃないからね).

要点はこうだ.超お金持ちは〔アイン・ランドの小説に出てくる〕ジョン・ゴールトみたいなことをやってなんかいない――彼らはそう想像してるとしても,実際はちがう.それよりも,純粋な階級優遇福祉国家といった方がずっと近い.特権階級の権利を守り,彼らの特権を維持・拡大する福祉国家だ.

これはアイン・ランドじゃない:旧貴族体制[アンシャン・レジーム]だよ.

© The New York Times News Service


Paul Krugman, “The Government Shutdown: Economics and Politics of Chaos”, October 3, 2013.

政府機能停止:混沌の経済と政治(2013年10月3日)

by ポール・クルーグマン

どうしてこうなった? 興味深いことに,『ワシントン・ポスト』でエズラ・クラインが2つのかなり異なった解釈を提示してる.

第一に,クラインは目下の政治問題とはつまるところこういうものだってことを実にうまく述べてる:「ようするに,お金持ちへの課税を引き上げ,さらにメディケアで低所得アメリカ人が健康保険を購入する助けをするために民間保険会社への助成金を削減する,そういう法律を止めようって話につきる.それがすべてだ.共和党が政府機能停止と債務不履行をするかもしれない理由は,これなんだ.」

そのとおり.この抗争には,はっきりと階級闘争の側面がある.もっと所得の低い家計を敵に回して0.1パーセントの利害を守ろうというわけだからね.でも,現時点で,その 0.1 パーセントは共和党にやめてくれと懇願してる.つまり,たしかに開始時点で階級闘争はあったかもしれないけど,もうずっと前から,この怪物は檻から這い出てしまっているんだ.上位階級の特権の擁護者となったあのカール・ローヴですら,共和党が自分の言うことを聞かないといって嘆いてる始末だ.

それと別の記事で,クライン氏は「見かけ以上に酷い」の著者であるトーマス・マンとノーマン・オーンスタインを引用しながらこの件にそれとなく触れてる:「共和党は,いまやアメリカ政治において,暴れ狂う異常な存在となっている――イデオロギー面では極端であり,妥協をあざ笑い,自らが政治的に対立している相手の正当性を軽視している.」

ここで認識しておくべき大事なことがあると思う.たしかにいまの共和党は急進派に乗っ取られてしまってるように見えるけれど,投票では勝ち取れなかったものを脅迫によって得ようとする手で選挙の敗北に対応する一般的な戦略は合意の上での意思決定で,これは1月にはとっくにできていた.

指導部が自分たちの立場に困惑しているとして――カリフォルニア州選出の共和党議員 Devin Nunes が言う「ダイナマイトを腹に巻いたレミング」の集団を率いるって立場に困ってるとして――それは自業自得でしかない.

この話でキモになってるところは,保守派バブルだとぼくは思う.この保守派バブルが意味することの1つは,右派の多くの人たちは適正価格医療保険法 (Affordable Care Act) について突拍子もなく歪曲した考えを抱いているってことだ.共和党の政治家の相当数は,この法律が共産主義者の陰謀だか道義的にみて奴隷制にひとしいとか,ホントに信じてしまってるかもしれない.

ここで階級闘争にはなしをもどそう:ぼくの当座の仮説としては,お金持ちの人たち個人個人は,これで自分たちの税金は削減され規制がとりのぞかれると正当にも信じつつ急進的な右翼政党を買ったんだけど,やがてその狂気ざたが自らの生命をもって勝手に動き出し,自らのつくりだしたこの怪物が庶民だけでなく自分たち創造主にまで牙を向けるとは,思いも寄らなかったんだろう,と見てる.

そして,事態の収拾がどうなるのか,誰にもわからない.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

「ただいま休業中」

by ショーン・トレイナー

10月1日に,アメリカ政府機関のかなりの割合が機能停止となった.予算措置の継続を行う合意の議決にいたらなかったためだ.連邦政府ではたらくおよそ80万人の人々が,事態の解決まで無給休暇を命じられた.

共和党が支配する下院は,ある条項をつけないかぎりいかなる合意もなされないと要求した.その条項とは,2010年に可決されたオバマ大統領の医療改革法である適正価格医療保険法の実施への予算措置を延期するか停止するというものだ.適正価格医療保険法は,アメリカで保険に加入していない住民のかなりの割合にまで保険適用を拡張すると予想されている.だが,共和党の政策立案者たちは,同法によって課税が増大することになると信じている.

民主党が支配する上院は共和党の要求を却下し,また,オバマ氏は,政策目標を成立させる手段として共和党がアメリカの政府が乗っ取ったり経済を人質にすることは許されてはならないと発言した.

医療改革法は,昨年,アメリカの最高裁判所によって支持された.そして,オバマ氏が大統領に再選されたとき,2014年の完全実施を前にして同党がこの法律を廃止する最後の機会だと多くの評論家が考えていたものを,共和党は失った.ところがこの数ヶ月,共和党のティーパーティー派が議員に圧力を掛け,政府の機能停止を利用し,さらには国の債務不履行の脅威すら利用して,オバマ氏に自らが国内で達成した目玉の成果を撤回するよう強いる動きをとった.共和党議員の多くは,この手は事実上まったく成功の見込みはないと認めていたものの,政府の機能停止は両陣営が合意をとりまとめるまで続くことになる.

目下の状況は,まもなく到来するさらに深刻な対立の前哨戦となりうる:議会がアメリカの債務上限を10月17日に引き上げねば,合衆国は債務不履行を起こすかもしれない.そうなれば,世界中で深刻な金融危機の引き金になりかねない.

© The New York Times News Service

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