クルーグマン「中国なんかこわくない」

Paul Krugman, “Who’s Afraid of China?” Krugman & Co., October 25, 2013.

中国なんかこわくない (2013年10月25日)

by ポール・クルーグマン

HAGEN / The New York Times Syndicate
HAGEN /The New York Times Syndicate

「中国がアメリカへの信用をなくして国債を投げ売りしはじめるかもしれないぞ」と例のお真面目ぶった連中が警告の声を上げているのを,『スレート』のコメンテータをやってるマシュー・イグレシアスが先日取り上げている.今月の上旬にでた記事で,イグレシアス氏は中国の動機に焦点を当てている.有益な文章だ.

ただ,イグレシアス氏は末尾で短く触れるにとどめているけれど,決定的に大事な要点は,中国の動機がどんなものであろうと,中国人が国債を大量放出したところでぼくらが損害を出すことはないってことだ――それどころか,おそらく,国債が大量放出されるのは,合衆国にとっていいことになるだろう.

「でも,それだと金利が上昇してアメリカ経済が落ち込むことになっちゃうんじゃない?」と言う人がいるかもしれない.この論点については,いろんなかたちでたくさん書いてきたけれど,問題にされてる金利上昇の仕組みについて整合性のある説明はいまだに見たことがない.

ちょっと考えてみてね:中国がアメリカ国債を売ったとして,それで短期金利の上昇が駆り立てられることはない.短期金利を設定してるのは連銀だ.そうすると,どうして国債売りで長期金利が上昇するって話になるのかもはっきりしない.だって,長期金利は主に予想短期金利を反映しているんだもの.それに,なんらかのかたちで中国人がもっと満期の長いものを締め付けたとしても,連銀はちょいと量的緩和をさらに進めてそうした国債を買い上げてしまえる.

たしかに,そうした行動はドルの価値を押し下げることになるかもしれない.でも,ドルの下落はアメリカにとっていいことだよ! 日本のアベノミクスを考えてみるといい:アベノミクスがこれまでにあげてる最大の成功は,円の価値を押し下げることだ.円安によって,日本の輸出業者は助けられている.「でもギリシャが」と言うかもしれない.えっとね,ギリシャには自国通貨もないし自国の金融政策もないのよ.たしかにギリシャでは資本が国外に出て行ったら,貨幣供給が減少した.でも,アメリカではそうならない.

中国による信用についてデマをとばす連中がひっきりなしにでてくるのには目を見張るね:こういうデマを,例のお真面目な連中は相変わらず語ってる.文字通りにまったく意味をなさないにも関わらずだ.経済学者のディーン・ベイカーがかつて言ったように,中国がぼくらの頭につきつけられた鉄砲だとしても,そいつは水鉄砲でしかもカラッポなのよ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

薄っぺらなつながり

by ショーン・トレイナー

先日,アメリカ政府は,あと数時間であわや債務不履行という瀬戸際に立った.もし債務不履行になっていれば,全世界的な経済危機の火種を投げ込みかねない出来事だった.10月17日の早朝,それまで何週間にもわたって政治的な行き詰まりに陥ったあと,ようやくオバマ大統領はアメリカの借り入れ能力を拡大する合意に署名した.

期限が差し迫るなかで,アメリカは海外からの厳しい批判に直面した――とりわけ,中国からの批判が大きかった.中国は,最大の外国債権者だ.10月13日,中国の国営メディア組織である新華社は論説で世界が「脱アメリカ化」することを求め,グローバル経済が基軸通貨としてドルを使うのをやめることを提案した.

これへの反応を,外国事情コメンテータのマックス・フィッシャーが『ワシントンポスト』に書いている.フィッシャーの主張では,中国の強硬派はたしかに世界秩序の仕切り直しを欲しているものの,中国エリートの大多数は,アメリカ支配がこのまま継続することが中国の成功にとって必要不可欠だと信じている.「中国経済がこうも急速に成長している理由は,ひとつには,中国が製品をたくさんアメリカ人に売れるからであり,また,アメリカ軍によって,世界貿易の経路の開放が保証されているからでもある」と10月14日付の論説でフィッシャーは記している.「もし,世界が「脱アメリカ化」したとして,そのときには,この2つとも失われてしまい,中国の経済成長は崩壊することになるだろう.そうなれば,政治的不安定につながるだろうと北京は恐れている.(…)彼らは我々を必要としていて,そして,自分たちでもそのことを知っているのだ.」

『スレート』の経済コメンテータをやっているマシュー・イグレシアスによれば,中国によるアメリカ国債の所有は,投資ではなくて,一種の国内経済刺激なのだという.中国経済はアメリカに安く輸出できることに立脚しているため,中国いまドルであふれかえっている.もしも,中国が自国通貨を自由に変動できるようにしたら,中国元はドルに対して値上がりし,中国製品の競争力は弱まってしまう.

「中国政府はいろんな理由から中国の製造業を助成したがっている」とイグレシアス氏は記す.「そこで,中国は〔輸出で〕たっぷりたまっているドルをアメリカへ送り返したがっている.それを達成するには,原則としては,たとえばボーイングの航空機をたくさん買って次々に太平洋に墜落させたってかまわない.(…)けど,彼らはそうするかわりに,アメリカ国債をたっぷり買うことにしたわけだ.中国通貨の評価を抑えるには,お手頃で物静かな方法だよね.」

© The New York Times News Service

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