経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

グズマン,オカンポ,スティグリッツ「経済開発のための実質為替レート」

Martin Guzman, José Antonio Ocampo, Joseph Stiglitz ”Real exchange rates for economic development” VOX.EU, 21 February 2019

経済開発における為替レート政策については,依然として広く議論が行われている。本稿では,競争力のある安定した実質為替レートを確保する政策には理論的基礎があることを主張する。利用可能な一連の政策手段に制約がある場合,伝統的な輸出部門に対する輸出税に加え,競争力のある為替レートを補完的に使用することにより,事実上の複数実質為替レートがもたらされる。競争的のある為替レートを維持し,国外からの資金の流れの景気サイクルや交易条件による為替レートへの影響を弱め,ひいては成長と安定を促進するためには,外国為替介入と資本収支規制の双方を効果的に使用できることが実証的な証拠によって示唆されている。


経済開発における為替レート政策については,依然として広く議論が行われている。為替レート,経常収支,マクロ的安定・成長の間の関係に関する新興国経済についてのマクロ経済学研究においては,為替レート政策に関してふたつの中心的かつ相互に連結した問題がある。

  • 競争力のある安定的な為替レートが経済の多様化を促進するにあたって果たす役割(Ocampo et al. 2009, Rodrik 2007, 2013, Stiglitz and Greenwald 2014)。この見方では,より高度な技術的内容を含む活動へ向かって規模を拡大することが動的な成長への鍵であり,適切な為替レート政策がこれを促進できるとする。東アジアの経験-新たな産業化国の先駆けであり,一番最近では中国のそれ-はそうした多様化の成功例として強調されている。これは,多数の天然資源に依存する経済が自身の生産と輸出構造を多様化させるにあたり直面する困難-その一部はこれらの国々のうちのいくつかが直面している結果的な為替レートの上昇や,さらには「早すぎる脱産業課」にも起因する―とは対照的だ(Rodrik 2016)。
  • 新興国やフロンティア経済への国外からの資金の流れの順景気循環的な振れ及びコモディティ輸出国の交易条件の変動の管理や,反景気循環的なマクロ経済政策の余地を広げるないし制約するにあたり,為替レートレジームと資本収支管理が果たす役割の程度。

これらの問題の双方とも,開放経済における為替レート政策の重要性を強調している。最近の論文において(Guzman et al. 2018),私たちはこのテーマの再検討を行った。より具体的にいえば,実質為替レート(RER)政策が実施される際に利用可能な政策手段を含め,最適なRER政策がどのように実施条件に依存しているかを明らかにすることで,経済開発を促進する上でRER政策がどういった役割を果たしうるかを分析した。RERは内生変数であり,直接的な政策手段ではないものの,それでもRER政策が一連の実際の政策手段ーもちろんながら名目為替レート管理に関連した介入を含むーの管理に依存することを踏まえ,RER政策について議論を行った。

実質為替レート政策と経済開発

少なくとも一部の貿易部門に学習スピルオーバーが存在し,補助金の効果的配分を妨げるレントシーキングのリスクといった深刻な政治経済的問題ないし補助金の実施を阻害する国際規制があるーこうした条件は途上国においてはよく見られるものであるーのためにそうした部門に直接補助金を与えることが不可能である場合には,最善なのは競争力があり安定した実質的な複数RER相場であると私たちは主張する。利用可能な政策手段の最適な適用は,複数為替レートを避けるというIMF加盟国の公式コミットメントを維持しながらも,多様なスピルオーバーを持つ部門ごとに異なったRERをもたらす。

経済の生産要素を大きな学習スピルオーバーのある部門へと再配分しうるいかなる政策も,厚生改善となりえる。そのような部門への補助金や移転は最善の政策対応をなす。しかし,そのような政策が実施可能でないならば,RER政策に次善の選択肢としての鍵となる役割が生じる。

そのような状況下において,より競争的なRERは貿易可能部門の収益性を上昇させる。しかしながら,ひとつの経済に複数の貿易部門があり,そのうちいくつかには学習スピルオーバーがないという場合もある。したがって,正しい部門,すなわちより大きな外部性のある部門へと為替レート政策の恩恵を仕向ける手段として最適なものとしては,学習スピルオーバーがないのに競争力のあるRERから生じる暗黙の補助金を受け取る部門に課税しつつ,学習スピルオーバーのある部門にはそうした政策による恩恵を維持させることが必要となる1 。その結果は事実上の複数為替レート制度だ。

為替レートの水準だけでなく,その安定性も重要である。これは為替レート変動のヘッジが不可能ないしは非常に高くつき,それ以外にも資本市場に不完全性のある新興国においては特に重要となる。実質為替レートの安定性は,新たな貿易部門の投資リスクを低減させるには不可欠だ。

上述の提言にはいくつかの注意事項を付さねばならない。第一に,RER政策をその他の伝統的な産業政策で保管することの望ましさである。RER政策によって拡大を図ろうとしている非天然資源かつ貿易部門が勃興するのに必要なその他の条件,すなわち技術や信用,インフラや人的資本へのアクセス,を欠いている場合,RERに対する総供給弾力性は低くなるだろう。伝統的な産業政策は,為替レートに反応する弾力性を増大させるために使いうる。そうした伝統的政策のひとつには,国家開発銀行による信用の供与があり,この政策手段は主要先進国(特にドイツと日本)だけでなく,いくつかの新興国・途上国でも用いられた(Griffith-Jones and Ocampo 2018)。学習効果のある部門の競争力強化のためのインフラ,教育,研究開発への投資もまた,そうした結果に貢献するだろう。

第二の注意事項は,こうした政策の実施が社会に課すトレードオフである。より「過小評価された」RERは,貿易財と貿易可能サービスの自国通貨建ての価格の上昇を意味する。したがって,競争力のあるRERという政策を追求することは,貿易財で測った購買力の将来における上昇を達成することを目的として,現時点での購買力の低下を伴う。こうしたトレードオフは分配効果を生み出す。すなわち,経済成長の加速を達成するために社会の構成要素すべてが同じ「価格」を支払うわけではなく,またどの構成要素が将来において恩恵を受けるかさえ明らかではない可能性がある。したがって,競争力のあるRER政策の実施には社会主体間の合意が必要となるが,それは達成困難であるかもしれない。

最後の注意事項は,こうした政策の国際面での意味合いである。積極的な為替レート政策の採用は,とりわけそうした政策を採用する国が世界の貿易において大きな影響力を持つ場合には,その他の国へ負の外部性を及ぼす可能性がある。その国の「学習効果のある部門」の拡大は,どこかにおける収縮という犠牲の上でのものとなるかもしれない。また,多くの新興国・途上国がこうした政策を採用した場合,合成効果の誤謬を招くことで,総合的な効果はより少ない国がそうした政策を採用した場合と比べてより限定的なものとなるだろう。

競争力のある実質為替レート政策のための政策手段

資本収支規制と外国為替市場への介入は,競争力のあるRERを保つための手段として使われうる。民間部門の外国資本へのアクセスに影響を与えるあらゆる政策を含む資本収支政策は,RERに対して永続的な効果を及ぼしうる(Jeanne 2012, Montecino 2018)。これらの政策は,外国為替市場への介入政策や,とくに外貨準備の蓄積とくにいった様々な手段によって補完されうる。中国の経験はそうしたメカニズムが働くことを示すものだ。2002年から2008年にかけて中国の貿易部門は急速な成長を経験し,政策介入がなかったならば人民元の増価を招いていた(バラッサ=サミュエルソン効果によって)。しかし,資本収支政策と大規模な外貨準備の蓄積を通じて増価圧力に抵抗したのだ。

多くの国は資本収支規制を用いるよりも外国為替市場への介入に重きを置くことを好む。事実そうした介入は,とりわけ1997年に東アジアに端を発した新興国危機後に多くの新興国・途上国で広く見られるようになった。それによる主要な帰結のひとつとしては,がっちりとしたペッグ制でなくば自由に変動する為替レートといった極端な体制だけが存続可能だろうとする主流派の見解とは対照的に,新興国・途上国では管理された為替レートの柔軟性という中間的な体制が支配的となった(Ilzetzki et al. 2017)。

結局のところ,国外からの資金の流れの景気サイクルにさらされる開放新興国経済におけるベストプラクティスは,外国為替市場における介入と資本収支規制を用いた伝統的なマクロ経済政策の補完的使用であることが証拠によって示唆されている。最近の研究は,こうした介入はマクロ経済を安定化させ成長を促進することを示しており,こうした介入の効果を大部分否定した1980年代の先行研究を覆すものとなっている。

結語

安定した競争力のある実質為替レート(SCRER)政策が経済開発にとって良いものであることは,様々な歴史上の経験が支持している(Rodrik 2008, Razmi et al. 2012)。私たちはそうしたアプローチについて,利用可能な一連の政策手段に特定の制約が存在する場合の最適な政策戦略として理論的基盤があると主張している。そうした介入に反対する主要な主張,すなわちそうした介入は市場の自由な機能の阻害であり,市場はそうした介入がなければ効率性を確保するという主張には2つの根本的な点を見逃している。

  • 中央銀行による介入はすべて,金利の設定を含め,為替レートの価値に影響を与える。このことは実際のところ「純粋な」市場為替レートなどといったものが存在しないことを意味する。
  • あらゆる経済,そしてとりわけても途上国・新興国市場には,学習外部性やマクロ経済的外部性といった市場の不完全があふれている。

様々な政策手段に関する実証上の証拠についての私たちの分析は,競争力のある為替レートを維持し,国外からの資金の流れの景気サイクルや交易条件による為替レートへの影響を弱め,ひいては成長と安定を促進するためには,外国為替介入と資本収支規制の双方を効果的に使用できることを示唆している。

参考文献

●Dasgupta, P and J Stiglitz (1972), “On optimal taxation and public production”, The Review of Economic Studies 39(1): 87-103.
●Dasgupta, P and J Stiglitz (1974), “Benefit-cost analysis and trade policies”, Journal of Political Economy 82(1): 1-33.
●Diamond, P A, and J A Mirrlees (1971), “Optimal taxation and public production I: Production efficiency”, The American Economic Review 61(1): 8-27.
●Griffith-Jones, S and J A Ocampo (eds) (2018), The Future of National Development Banks, Oxford University Press.
●Guzman, M, J A Ocampo and J E Stiglitz (2018), “Real exchange rate policies for economic development”, World Development 110: 51-62.
●Ilzetzki, E, C M Reinhart, and K S Rogoff (2017), “Exchange arrangements entering the 21st century: Which anchor will hold?”, NBER Working Paper No. 23134.
●Jeanne, O (2012), “Capital Account Policies and the Real Exchange Rate”, in NBER International Seminar on Macroeconomics (pp. 7-42), University of Chicago Press.
●Lin, J (2018), “Joseph Stiglitz and China’s Transformation Success”, in M Guzman (ed.), Toward a Just Society: Joseph Stiglitz and XXI Century Economics, Columbia University Press.
●Montecino, J A (2018), “Capital controls and the real exchange rate: Do controls promote disequilibria?” Journal of International Economics 114: 80-95.
●Ocampo, J A, C Rada, and L Taylor (2009), Growth and policy in developing countries: a structuralist approach, Columbia University Press.
●Ocampo, J A (2017), Resetting the International Monetary (Non)System, Oxford University Press and UNU-WIDER.
●Razmi, A, M Rapetti, and P Skott (2012), “The real exchange rate and economic development”, Structural Change and Economic Dynamics 23(2):151-169.
●Rodrik, D (2007), One Economics, Many Recipes: Globalization, Institutions and Economic Growth, Princeton University Press.
●Rodrik, D (2008), “The real exchange rate and economic growth,” Brookings Papers on Economic Activity, Fall: 365-412.
●Rodrik, D (2013), “The Past, Present and Future of Economic Growth,” Working Paper 1, Geneva: Global Citizen Foundation.
●Rodrik, D (2016), “Premature Deindustrialization”, Journal of Economic Growth 21(1) 1-33.
●Stiglitz, J E, and B C Greenwald (2014), Creating a Learning Society: A New Approach to Growth, Development, and Social Progress, Columbia University Press.

  1. 原注:スピルオーバーないし課税に対する制約がない場合には生産に課税することは最適でないことはよく知られているものの,目下の問題においてはスピルオーバーと制約の双方が存在している。 []

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください