経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

サイモン・レンルイス「イングランド銀行は金融政策を引き締めるべきか?」(2021年9月28日)

[Simon Wren-Lewis, “Should the MPC tighten monetary policy?” Mainly Macro, September 28, 2021]

世間では引き締めが予想されているが,それは正しいことだろうか?

8月のインフレ率は 3% を超えていた(総合でもコアでも).イギリスでは,GDP こそパンデミック前の水準を下回っているものの,人々の収入はパンデミック前の水準に戻っていると推定されている.なんらかの引き締め策を Chris Giles は強く推奨している

アメリカとの類推で,引き締めに反対の論を貼りたい誘惑はある.アメリカのインフレ率は 5% 前後で推移しているが,FRB はまだ引き締めに着手していない.イギリスに比べてはるかに強力な財政刺激が打たれているにもかかわらずだ.目下のインフレ率の「向こうを見据えた」論として,こういう説もある――「いまのインフレ率はパンデミック収束にともなく各種の一時的な供給不足に起因するものだ. コアインフレ率の最新データを見ると,インフレ率は下がりはじめているように見える.」

これはイギリスに当てはまる.だが,EU 離脱の影響も考慮に入れなくてはいけない.もっと限定して言えば,コロナウイルス蔓延のさなかにEU の労働者たちがイギリス国外に出て行ってしまい,彼らが戻ってくるのは無理であったり,その意思がなかったりする.また,ガソリン価格が上がっている点も数え入れる必要がある.だが,これらもまた,短期的な結果のはずだ.労働需要が労働供給を上回っている職種の賃金は前よりも上がっていき,これが価格上昇につながるだろう.それにともなって,供給不足が起きている部門では実質賃金が上がる一方で,他のあらゆる部門では実質賃金が下がる.この調整プロセスには,そう長く時間がかからないはずだ.

もちろん,〔賃金が下がっている部門にいる〕他の労働者たちは,実質賃金の低下を受け入れないかもしれない.そうした人たちは,自分たちの名目賃金の要求を上げることでこれを回避しようと試みるかもしれない.すると,それによってスタグフレーションの再来にいたるかもしれない.それは,ありえないわけではない.こちらの記事点の見出しは,それよりももっと穏当なバージョンだ〔「スタグフレーションを語るのは時期尚早な利上げの口実だ」〕.つまり,スタグフレーションについて語るのは馬鹿げている.理由はふたつ.第一に,1970年代には賃金を設定するだけの力が労働者たちにあったのとちがって,いま,彼らのそんな力はない.第二に,インフレ目標をもち信用に足りる中央銀行であれば,インフレ予想のさらなる上昇につながるインフレショックを止める.したがって,永続的なインフレにはいたらない.

よって,「パンデミック収束」インフレショックも,EU離脱インフレショックも,インフレ率の一時的な上昇にしかつながらないはずだ.私見でも,アメリカの政策担当者たちの見解でも,景気回復期においても,すぐれた中央銀行であればそすした一時的なインフレ率上昇を無視するはずだ.だが,イギリスはいまなお景気回復期にあるのだろうか,それとも,景気回復は終わったのだろうか?

最新のイギリスの GDP は低調ではあったものの,いまなお,パンデミック以前のピークを 2%~2.5% 下回っている.「パンデミックによって永続的な打撃が生じて,これが大きなギャップを生み出している」という推定を私は買わない.その点は,「グローバル金融危機によってトレンド GDP は 7% 以上も減少する定めにある」という話を買わないのと同じだ.アメリカの状況を見れば,パンデミックによって永続的な打撃がゼロだったかわずかしか生じていなかったことが,もうすぐ明らかになるだろう.

とはいえ,EU の労働者たちがイギリスから出て行った結果として GDP にいくぶんの打撃は生じるだろう.統計の信頼性が低いため,その打撃の規模は実に不確かだ.労働力利用の ONS 統計は,それよりも信頼できる.

こうした数字にはどれも最近のトレンドがある.そのため,解釈が難しい.だが,どれをとっても,「この初夏にイギリスの労働力が払底した」と示唆するものはない.

求人の総数を一見すると,それとちがった見取り図が思い浮かぶ.だが,IFS がここで述べているように,求人の総数は特定部門の人員不足に強く影響されている.IFS の推定によれば,労働者の大多数にとって,自分に関係のある新規求人の競争は少なくともパンデミック前より 10% 強くなっているという.労働時間もパンデミック前の水準を大きく下回っている.また,自営業で働く人々の数も大幅に減少している(おそらくは最近の判決もその理由の一端とはなっているだろう).

ようするに,EU 離脱を一因とした一時的不足があるという説とデータは整合している一方で,経済全体が〔パンデミック前の〕トレンドに戻っているという説とは整合していない.どうして,イギリスの景気回復は不完全なのだろうか? 重要な要因が二つある.第一に,財政刺激の水準が控えめであり,さらに〔低所得者向けの福祉手当を統合した〕ユニバーサルクレジットの削減や将来の国民健康保険料の値上げといった施策で需要が削がれると見込まれる.第二に,イギリスでは,まだパンデミックは終わっていない.消費者のあいだに,いくぶんの警戒心がまだ残っているかもしれない.

したがって,金融政策の引き締めを支持する論拠はなさそうに思える.

イングランド銀行がやりかねないこととしては,量的緩和プログラムを時期尚早に終わらせることが挙げられる.その直接の影響はゼロだ.また,人々の予想に影響をほとんど及ぼさない程度に,量的緩和は小さい.イングランド銀行が語る言葉の方が重要かもしれない.ここでも,インフレの動向を注意深く監視するといった話は多く語られるだろうと私は予想しているが(その一例),近く利上げがなされるかもしれないとイングランド銀行が示唆したなら,それは失策だろう.「なにかしなければイングランド銀行の信用が落ちる」といった論はゴミだ.「インフレ予想のタガがはずれる」という説と同程度に馬鹿げている.2011年の事例で明らかなように,インフレの一時的な上昇を無視しつつ信用を維持するのは完璧に可能だ.


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください