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サイモン・レン=ルイス「コロナウイルス感染再拡大の政治経済と心理」(2020年8月11日)

[Simon Wren-Lewis, “The political economy and psychology of COVID rebounds,” Mainly Macro, August 11, 2020]

現状は,第二波と呼んでもいいし,第一波のぶり返しと呼んでもいい.どう呼ぶにせよ,ヨーロッパの一部の国々では,新規感染者数がいったん低下ないし安定した期間が長く続いたのちに,いまや,一貫して(ときに急激に)新規感染者数が増加している.

これを「第二波」と呼ばないのにも,もっともな理由がある.そもそも,第一波が沈静化していたわけではないからだ.政府による支援と都市封鎖という助力をえて社会の行動を変えたことで,新規感染者数は急速に減少した.だが,新規感染者数がほぼゼロにまで下がるのを待たずに,政府は都市封鎖を緩和した.そして,国内での感染拡大は低水準で続くことになった.だが,安定しているかに見える期間が続いたあと,この数週間に多くの国々で新規感染者数が増加に転じている理由は,なんだろうか?

この問いに単純極まる答えを返すなら,「当然でしょうに.」 このウイルスは,その性質上,感染者数の爆発的増加をつくりだす.第一波では,集団免疫がつくりだされるにはほど遠かった.それなのに,あたかも集団免疫ができあがったかのように人々がふるまいはじめれば感染急増の第二波がやってくるのは必然の結果というものだ.政府と政府に助言する人々は,こんな風に望んでいたにちがいない――

  • (a) パンデミックによって人々の対人行動は大いに阻害され,以前の行動に戻ることはなく,人々は対人距離の確保を続け,手洗いその他を励行した.
  • (b) 対人行動の変化それ自体も十分に大きく,経済が通常に戻って各種の社会的制限がなくなっても,R を 1 未満に維持し続けるに足りた.
  • (c) イギリスの追跡・検査・隔離 (TTI) の技術は十分にすぐれており,局所的な感染拡大に対処できた.

仮に (b) と (c) が正しかったとしても(確実に正しいとは言えない),(a) が最初のパンデミックからの経過時間の関数である恐れがある.コロナウイルスが自分一人にとってさほど大きな脅威にならない年齢集団にとっては,これはとくにありそうなことだ.それゆえに,以前と同水準の社交消費を再開するのに不安を覚える人々が大勢いるために経済が低調なままになりつつも,同時に,他方では喜んでパンデミックをすっかり忘れ去る人々も大勢いるというのは,おおいにありうる.

新規感染者数が最近になって増えてきたのを説明する要因は他にもある.それは,休暇をとることで生じる人との交わりの増加だ.COVID-19 に感染しながらも症状の出ない人は,ふだん付き合いのある人たちを感染させるばかりか,休日に出会った人たち全員を感染させることがありうる.そうした事例は,その人の地元地域に限定されないために,追跡・検査・隔離で対応しにくいかもしれない.

各国政府が都市封鎖(ロックダウン)をこれほど終わらせたがっているのは,なぜだろうか? ここにある政治経済的な事情は,明白だ.政府は,経済界からの圧力を受けている.また,政府の支援機構に救われないままでいてり大きな不利益を被っている個々人からも,政府は圧力を受けている.社交消費は経済で大きな割合を占めているため,この社交消費部門からの圧力は,厳しいものとなりうる.〔旅行関連などの〕休暇産業について言えば,夏のわずか数ヶ月で1年分の商売が失われかねない.

これに加えて,各国政府は,国民に提供している支援のコストを懸念しはじめている.いまの水準の支援から縮小されるかも知れないとほのめかすだけでも,個人や企業はできるかぎり早期に都市封鎖を緩和するよう政府に圧力をかけはじめるだろう.財務当局も,この圧力に加わるかもしれない.最後に,ネオリベラリズムのイデオロギーもある.このイデオロギーは,そこに暮らす人々よりも経済という単位の方をより上位におきうる.その影響は,イギリスにおいて非常にはっきりしている.(コロナウイルス再拡大に苦しむ国々にイギリスが加わる地点にきているかどうかは,判断しがたい.だが,一部の地域では,おそらく再拡大が起きている.)

いずれかの時点で,一部の国々で,感染者数の増加によって都市封鎖のさまざまな要素を強化せざるをえなくなるかもしれない.とくに,学校が再開されたときにそうなるかもしれない.感染者数が増加しては減少するのにあわせて都市封鎖が強化されては緩和される周期が繰り返され,少なくともワクチンが利用可能になるまで続くおそれがある.これに替わりうる選択肢としては,COVID-19 の抑制からさらに踏み込んでその駆逐を各国政府の目標にする道筋もある.COVID-19 の駆逐を目標にすえている国はほとんどない.例外は,ニュージーランド,スコットランド,北アイルランドの3ヶ国だ.

抑制よりも駆逐の方がよりよい戦略かもしれない理由はなんだろうか? 個々人の真理は,社会的な目標(この場合は政府の目標)によって形成される.大半の政府は,変化(一次導関数)に関心を集中する.すると,人々がこれに続き,典型的にメディアもそうする.感染者数が増加しているなら,使えるあらゆる手段をこの問題に投じる.感染者数が減少しているなら,いかなる都市封鎖も着実に緩和させる.だが,感染者数が安定しているときには(そして政府がそれを許容しているときには),コロナウイルスはニュース報道から姿を消す.このため,政府が駆逐よりも変化に関心を集中しているとき,前述の (a) は失敗しやすい.

かわりに,新規感染の駆逐に関心を集中させれば,初手の都市封鎖は少し長くなるかも知れないが,いくらかのプラスの結果を達成しうるだろう.第一に,短期的なコストはより大きくなるものの,用心深い性質の人々も社交消費を再開しても安全だと知り,経済の回復はいっそう完全に近いものとなる.第二に,救われる人命がより多くなる.第三に,この点は他よりいっそう思弁的だが,〔駆逐を目標としているなかで〕もし新規感染者数が増加しはじめればニュースのヘッドラインでこれが報道され,政府や追跡・検査・隔離リソースの注目を十分に集める(ニュージーランドでのごく最近の事態を参照).だが,ニュージーランドがこの戦略で成功をおさめたのは,海外旅行からの帰国者のい隔離を実施したことによる部分が大きい.同様の措置は,大半の他国ではもっと困難だろう.

多くの欧州諸国で起きているような感染者数の再拡大と同様の事態を避けるのに,駆逐戦略の方がうまくいくかどうか私にはわからない.だが,オーストラリア以外では,この問いをめぐる公共の論議がほとんど見られないのには実に意外だ.各種の戦略がさまざまな国々でそれぞれに追求されているのを踏まえて,医学誌『ランセット』にとどまらず,イギリスでも大いに論議されるべきだ.これほど重要な事柄であれば,歴代の政権であれば,イギリス政府からなんらかの戦略文書が公開されるのが期待されるところだ.

まだ多忙が続いているため,次の記事投稿は,数週間後になりそうだ.


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