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サイモン・レン=ルイス「ヘリコプターマネー・インフレ目標・量的緩和」(2012年6月14日)

[Simon Wren-Lewis, “Helicopter money, Inflation targets and Quantitative Easing,” Mainly Macro, June 14, 2012]

経済学者向け

ヘリコプターマネーについてよく質問を受ける.それに,この政策を実施しようという要請もときおりなされてきた.(最近の例はこちら.) ヘリコプターマネーについてごく基本的な水準で私がどう考えているかを述べるなら,「ヘリコプターマネーは,一時的にインフレ目標を引き上げようという要求と同じことだ」と考えている.

消費と政府しかない経済を考えてみよう.消費者たちはリカード的だ.政府はお金とインフレ連動債を発行し,一括で収められる税で債務の利子を支払う.この経済には2つの期間がある.第二期では物価が弾力的に変化しうる一方で,第一期では物価は粘着的だ.さらに,この経済では需要が不足していて,金利のゼロ下限にある.

この状況設定で,第一期で債券発行で減税をまかなった場合,減税はなんにもならない.なぜなら,第二期で増税がなされて債務の支払いに当てられるからだ.では,お金を発行して減税をまかなった場合には,どうなるだろう? 第二期に必ず物価は上がる.この経済では名目の量があるのはお金だけで,第二期の実質のバランスは変化しないからだ.では第一期はどうだろう? 税は減っているのだから,生涯所得は増えたにちがいないと言いたくなる.だが,減税分のお金はモノを買うのに使わず現金で保持される必要がある.なぜなら,物価が上がって実質のお金の値打ちを薄めるからだ.そこで人々は減税分をお金のままとっておく.(これはリカードの等価定理に似ていると思う.ただ,人々がお金をとっておくのが〔将来の増税に備えるためではなく〕インフレに備えるためなのがちがう.)

ただし,第一期では現実に影響が生じる.なぜなら,名目金利がゼロ下限に達しているため,予想インフレ率が上昇することで実質金利は低下し,これにより消費をいくらか第一期に回すのが理にかなうからだ.このため,いまのごく単純な状況設定においては,ヘリコプターマネーは予想インフレ率を引き上げることで機能するのであって,なんらかの所得効果によって機能するのではない.これは,タイラー・コーエンブラッド・デロングが昔書いていた記事とも合致していると思う.(この問題を論じた論文に,Buiter (NBER 10163) がある.ただ,私の PDF リーダーでは WPMathA フォントがうまく認識されなくて,数式が読めない.誰か助けてくれたら実にありがたいのだが.)

このごく単純な文脈において,ヘリコプターマネーの要請は一時的にインフレ目標を引き上げる要請に等しい.この政策が機能するのはひとえにインフレ率が上昇するからに他ならない.もしも第一期に政府がお金を発行して自らの財・サービスに使ったなら,インフレ効果に加えて,さらに直接的な需要効果も生じるだろう.ただ,この直接的な需要効果が達成されうるのは均衡予算の財政拡大によってであって,お金を発行する必要はない.

もしも政府がお金を発行して減税をまかないつつも,第二期に増税してふたたびマネーストックを減少させた場合,この単純なモデルではなにも起こらない.第一期にお金が増えたという事実はなんにもならず,消費者の状況はよくならない.量的緩和は不完全性やマージンのある現実世界で機能すると考えられているが,このモデルにそうしたものはない.

政府と中央銀行を統合させた場合,量的緩和では一時的に国債とお金が交換される.どうして一時的とわかるのだろうか? 第一に,中央銀行がそう宣言するからだ.だが――こちらの方がいっそう重要なのだが――第二に,中央銀行は全面的にみずからのインフレ目標にしばりつけられていると受け取られるからでもある.インフレ予想に関するデータを見てみると,民間部門もそう信じていることがうかがえる.もしも量的緩和が一時的でないとしたら,ヘリコプターマネーと同等の結果になる.量的緩和の場合には,ヘリコプターマネーの場合とちがって国債のストックは減少するが,国債を発行して減税することでヘリコプターマネーにもどすこともができる.ただ,いまのモデルはリカード的なため,これはなんにもならない.

このように,ヘリコプターマネーの要請は,インフレ目標の一時的な引き上げの要請と同じことであってそれより良くも悪くもないように私には思える.とはいえ,なにか重要なことを見落としているようなら,ぜひご教示いただきたい.


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