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サイモン・レン=ルイス「専門家とエリート」(2018年12月2日)

[Simon Wren-Lewis, “Experts and Elites,” Mainly Macro, December 2, 2018]

まるで2016年をそっくり再演しているかのようだ.前回の事例が多少でも基準になるとすれば,EU離脱シナリオのもとでイギリスがいまよりどれほど貧しくなるかに関する多くの予測は,イギリス国民のおよそ半数によって無視または等閑視されるだろう.おそらく,いったいどんな事態が進行中なのかを我らがイギリスの国会議員たちが理解できるようになるまで,専門家たちによる発言は完全かつ総体として閉ざしてしまうよう訴えた方がいいのかもしれない.

もっと深刻なことを言えば,専門家たちの業界へのこのあからさまな不信はなにに起因しているんだろう? ここでは,エリートというもっと一般的な概念よりももっと狭く専門家たちに関心をしぼりたい.よりいっそう絞り込めば,大学の研究者や大学と直接に関連した場に属す専門家たちのことを考えたい.Will Davies はイギリスで政治家たちへの不信が高まっている多くの理由についてうまく説明しているけれども,彼が言っていることの多くは大学界隈にはあまり当てはまらない.

私に偏りがある点は認めないといけない.「証拠が物語っていることをひとたび社会が無視しはじめてしまえば,荒廃への道を歩むことになってしまう」と私は信じているし,諸科学(社会科学を含めて)には証拠を理解しようと努めるところに存在理由があるとも信じている.その点で,私は完全に偏っている.公平を期していえば,社会の多くはこれを理解している.IPSOS MORI 調査が一貫して示しているように,イギリスでは,大学人(「教授たち」)は人々がもっとも信頼する集団の最上位近辺にたいてい位置している.

さらに,教授や科学者たちへの国民の信頼は時間経過とともに下落するどころか上昇している.同じことは,イギリスにおける社会的信頼にも当てはまる.世間に出回る多くの話と逆になっているわけだ.

こうした結果から,大学人への信頼はなんら低下していないことがうかがえる.だが,この「大学人」を「経済学者」に置き換えると,信頼の低下は急激なものとなる [1].もっともな理由があっての低下だ.おそらく主流メディアで見かける経済学者の大半が言っていることに私が抱いている信頼は非常に低い.なぜなら,メディアに登場する経済学者たちはたいてい学者ではないからだ.彼らは典型的に次の2つのどちらかをやっている.1つは,市場の動きについてお話をつくりあげる仕事(ときにもっともらしいお話だったりするけれど,どちらにしてもなんら確かな証拠に基づいてはいない).2つ目は,マクロ経済の予想を述べる仕事:必要な活動ではあるけれども,その予想はきわめて信頼性が低い.

多くのジャーナリストたちには,こうしたメディア経済学者たちの立てる予想(「無条件」の予想)と,EU離脱の経済的な影響について提示されたような分析(「条件付き」の分析)の区別がついていない.私はよくこんな具合に類推して考えている――一方では,医者がキミにこう告げる:「あまり脂肪を取り過ぎているようだと,心不全で死にやすくなりますよ」(「条件付き」の予測).もう一方では,医者は心不全がおきる正確な日時を予測しようとする(「無条件」の予測).いま言っているのはこの2つの区別だ.この2つのちがいが理解できないでいることこそ,「EU離脱は生活水準を低下させる」と言う学者たちがしかるべき信頼を得ていない第一の大きな理由だ.これは主に,経済学者みずからの失敗ではなくてメディアの失敗だ.

ただ,私はたまに疑問に思うことがある.もしかすると,一部のジャーナリストや政治家たちは,無知でいる方が都合がいいゆえにこの2つのちがいをあえて理解しないことを選んでいるのではなかろうか? これが,EU離脱をめぐって大学の経済学者たちが無視されたり等閑視されたりするかもしれない第二の理由につながる.その理由とは,一部のエリートたちは無知でいることが利害にからんでいる,という点だ.ここで,イングランド銀行が EU離脱の分析を公表した後にマーク・カーニー総裁についてジェイコブ・リース=モッグが述べた論評にスチュアート・ウッドが反応している.

もちろん,イングランド銀行の分析にまったく批判の余地がないわけではない [2].だが,EU離脱派のエリートたちによる攻撃はかなり意図的に,経済学的なものではなく政治的な性格のものになっていた:リース=モッグの主張によれば,カーニーは二流の政治家(二流の外国人政治家!)であり,カーニーの予測は政治的な帰結をもたらすよう仕組まれているのだという(「プロジェクト・ヒステリア」).こうした発言で暗示されているのは,「こうした予想は専門家による警告と受け止めるべきではなく,政治的な行動だと見るべきだ」ということだ.ここでも,べつに「専門家たち自身の利害がどのようなものか考えるべきではない」と言いたいわけではない.ただ,こういう利害を問題にする考え方をリース=モッグ式の極端なバージョンにまでもっていってしまうと,イデオロギーに基づいていないあらゆる専門知識を台無しにすることになる.そして,それこそがリース=モッグがやりたがっていることだ.

大学の経済学者たちの圧倒的多数が言う「EU離脱は有害だ」という見解が多くの人たちに無視される第二の理由がこれだと私は思う.サッチャー女史と〔その政策を批判した〕364名の経済学者たちの時代いらい,ネオリベラルの右派は,経済学の専門知識の信用をおとしめつつ学術的な経済学のかわりに「シティ」(金融業界)経済学者たちを影響力ある立場にすえることに関心を抱いてきた.(たいていのジャーナリストたちが語っていることとちがって,例の364名の経済学者たちが言っていた「財政政策の引き締めが景気回復を遅らせる」という主張は正しかった.) IEA〔経済問題研究所〕のような右派系のシンクタンクはとくにこの点で役立っている.ひとつには,独立の学者たちとシンクタンクに雇われている人物の区別をメディアがつけていない場合が多いから,という部分がある.メディアがどのようにして気候変動を論争扱いしはじめたが見てみるといい,.

「でも,そこには背理がありはしないか? 学者と比べて政治家をほぼ信頼していない国民たちが,政治家やその支援者たちが学者を攻撃するときには連中の言うことを信じるというのはいったいどういうわけなんだ?」 EU離脱の場合も,そしておそらくは緊縮のような他の問題でも,こうしたエリートたちには有利な点が2つある.1つ目はアクセスだ.出版メディアの支配をとおして,右派系エリートは誤解を誘うものだろうと単純に虚偽の情報だろうとメッセージを世間に届けられる.「労働党のばらまき財政が記録的な財政赤字を引き起こした」という話を思い出してほしい.一目瞭然の嘘であるにも関わらず,国民の半数がこれを事実だと思っている.大半のジャーナリストたちは EU離脱とその予測についてみんなにどんなことを語るだろうか? 私の推測では,予測を述べている人たちは EU離脱がすぐにもたらす影響を大きく間違って考えていた.彼らがすぐにも起きると予想していたことはもっと緩慢に起きたという現実をとらえていなかった.どうしてジャーナリストたちはこういうことを間違ってとらえてしまうのだろう? なぜなら,右派系新聞が伝える失敗した予測についてはメッセージを繰り返し読む一方で,EU離脱の結果として GDP が現在 2.5% ほど低くなり実質賃金もいまだ低いままになっている事情についてはろくに読まないからだ.

右派系エリートたちの有利な点の2つ目は,物事の仕組みの単純な理解を利用しつつ,自分たちに都合がいいときにはもっと複雑な話を無視してすませるところだ.移民が入ってくると希少な公共リソースをめぐる競争は「当然」厳しさを増す〔と世間の人たちは単純に考える〕,なぜなら,移民たちが直接的にであれ税金をとおしてであれ公共サービスに寄与する分をおうおうにして人々は考慮に入れ損ねるからだ.消費者がサイフのヒモを引き締めねばならなくなっているときには政府も「当然」財布の紐を引き締めるべきだ〔と世間の人たちは単純に考える〕,などなど.EU離脱の経済的な影響の場合には,EU への支払いがなくなることでお金の節約になるのは〔世間の人たちにとって〕当たり前だった.他方で,他のことはなにもかも不確実で,いったい誰が予想なんか信じるものか云々と言われていた.

さっき引き合いに出したサッチャー女史の件からうかがえるように,エリートたちによる専門家への攻撃には共通のパターンがある:きまってネオリベラルの右派から攻撃がくるのだ.ブレア/ブラウン時代もネオリベラルと呼びたいなら,右派と左派の区別をつけなくてはいけない.ブレア/ブラウン時代は学者全般,とくに大学の経済学者たちが政府におよぼす影響が高まった時代だった.ここで述べたように,イラクは例外ではなくいつもどおりの展開だった.その理由ははっきりしている.エリートたちによる専門家への攻撃は政治的左派ではなく右派から来ている.それもとくにネオリベラル右派だ.なぜ彼らかと言えば,売り回るべきイデオロギーが彼らにはあるからなのだ.


原註 [1] こちらの YouGove の世論調査を参照.これを教えてくれた John Appleby に感謝.
原註 [2] たとえば,EU離脱の合意がもたらす影響に関するもっと標準的な予測とともに公表された銀行のストレステストのために用意された「最悪の場合」の合意なき離脱シナリオは,この前者の予測をただ誤解させるものとなっている.


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