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サイモン・レン=ルイス「左派はこうして労働者階級の政党であることをやめた」(2018年10月6日)

[Simon Wren-Lewis, “How the left stopped being a party of the working class,” Mainly Macro, October 6, 2018]

トマ・ピケティが最近出した論文について,そのうち書こう書こうと思っていた.ピケティ論文は,第二次世界大戦後のフランス・イギリス・アメリカでどんな特徴が有権者が左派または右派への投票行動に影響したのかを検討している.(サイモン・クーパーがうまいタイトルの記事〔「2つのエリート層の対立:持てる者とヨット持てる者の闘い」〕でこの研究をうまくまとめている.) 下のグラフを見てもらうと,第二次世界大戦後に教育水準の高い有権者たちが右派に投票しがちになっていたのがいまや左派に投票しがちになっている様子がわかる(所得・年齢その他で統制したあとでもこの傾向は変わらない――ボックス内を参照)

〔▼ 教育水準の上位10%有権者の左派政党投票率と,下位90%有権者の左派投票率の差がどう推移してきたかを示す〕

[1956年に,左派政党(SFIO-PS, PC, Rad., etc.) が獲得したスコアは,フランスの有権者のうち教育水準の下位90パーセントに比べて教育ある有権者上位10パーセントの有権者の方が14ポイント低かった.2012年では,そのスコアは上位10パーセント有権者の方が13ポイント高くなっている(年齢・性別・所得・財産・父親の職業で統制したあとの数値).事態の推移はイギリス労働党・アメリカ民主党でも同様.]

3ヶ国いずれでも,教育ある有権者の人数は増えている.これには,より高技能な従業員が求められている事情が反映している部分がある.

これと対照的に(ごく最近のフランス・アメリカでの選挙を除外すれば),所得別でみた投票行動は時代が変わっても大して変わっていない:つまり,より貧しい有権者はより裕福な有権者に比べて左派に投票しがちで,とくに教育水準で統制した場合にはその傾向は強まる(ただし,貧しい有権者ほど投票しなくなる傾向はある).だから,教育ある有権者のあいだで投票行動のパターンが変化していることには説明が必要だし,興味深い含意もある.

残念ながらピケティ論文はこの問いに関心を注ぎ込んではいないものの,こんな提案はしている――どんな説明がなされるにせよ,教育ある有権者ほど総じてよりリベラルな態度をとる傾向があり,とくに移民に関してはよりリベラルな態度をとる傾向があるという事実(一例はこちらを参照)がその説明には反映されるのではないか.社会的なリベラル化と教育のあいだに正の相関があることは証拠がたくさんある(たとえば [1] を参照).また,EU離脱の国民投票を見てもそれは明らかだ.

さらに,他の要因もありそうだと私は見ている.人的資本(と経済学者が呼ぶもの)をもつ人の利害は企業や金融資本の利害,あるいは資本ゼロの人々の利害とは異なると考えられそうな理由がある.たとえば,所得で教育が買える制度よりも実力主義的な制度の方が人的資本には適している.このため,人的資本の持ち主たちは国による教育制度をより強く支持しやすい(それどころか,みずからその一部になるかもしれない).また,そうした人たちは国が助成する文化を消費しがちでもあるだろう.もっと一般的に言えば,伝統的な階級にもとづくネットワークをうちこわして,もっと実力主義的な構造に置き換えたいという願望があるかもしれない.他方で,人的資本は所得の源泉になるため,労働者に比べて税にもとづく再分配にあまり熱心ではないだろう.こうしたことから,教育の「亀裂」とでも呼べそうなものが生じるかもしれない.

左派政党にとっては,こんな含意が出てくる――党員はますます労働者階級ではなく教育ある中間階級の出身者が占めるようになり,これがしだいに左派政党の構造・支持基盤・指導者を変化させてきている.伝統的な労組の地位低下とあわせて,この変化にともない,労働者階級がかつてほどはっきりと代表されなくなっているのではないか.ピケティはこれを「バラモン左翼」エリートの台頭と言っている.このエリート層は,右派の「商業」エリートと類比できる.

その帰結として,周知のとおりピケティが他の著作で論じたようにかつて労働者階級を優遇し1980年以前まで富の格差を縮める助けをし続けた各種の再分配政策に,政治エリート全体があまり関心をもたなくなっているのかもしれない.すると今度は,その関心の低下によって右派は労働者階級の票の一部をとりやすくなる.とくに,そうした有権者が社会的保守の考えの持ち主の場合は右派にとって票になりやすい.Mark Bovens と Anchrit Willie による新著は,こうした変化について実に暗い見通しを述べている.

こうした状況について,それほど悲観的でない見方もある.右派政党がますます社会的保守/権威主義的/反マイノリティの政策を押し立てて票を獲得する頼みとするようになった一方で,これに財産/所得の保護が組み合わさった連合は対立陣営にとって打ち負かしがたいものとなっていると左派政党は見ている.(ヨーロッパ各地で多くの中道左派政党が勢力を弱めている説明の一端はここにありそうだ.) この連合を打ち負かす唯一の方法は,労働者階級を助ける経済政策の再発見しかない.

ピケティの長大な論文には,他にも興味を引く結果が示されている.イギリスと同じくフランスでも,時とともに移民に対する国民の敵対的な態度はじょじょに弱まってきている.また,ピケティによれば,右派が社会的保守に転回したことが一助となって,イギリス・フランスではムスリムの,アメリカでは黒人の, ほぼ完全な左派支持は維持されている.さらに,宗派的な関心,これは Torsten Bell がこのところ強調している論点だ.

ピケティによれば,2017年の調査ではイギリスの若者のあいだの左派支持は前例のない水準であるばかりかアメリカ・フランスに比べてもかつてなく高くなっているという.もしかすると,これは1997年からつづく傾向の延長なのかもしれないが,EU離脱ゆえの例外かもしれない.EU離脱はつまるところ年配者が若者から機会を奪い去るものだったからだ.

原註 [1] 「権威主義-リバタリアンの価値対立における教育による集団アイデンティティと帰属意識」(Education-based group identity and consciousness in the authoritarian-libertarian value conflict.) / Stubager, Rune. In: European Journal of Political Research, Vol. 48, No. 2, 2009.


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