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サイモン・レン=ルイス「金融政策と財政政策の協調:経済状態に応じて政策割り当てを切り替えるべき理由」(2020年1月14日)

[Sinon Wren-Lewis, “Monetary and fiscal cooperation: the case for a state dependent assignment,” Mainly Macro, January 14, 2020]

去年の12月にマーク・カーニー〔イングランド銀行総裁〕はこう発言した

世界的な流動性の罠において,中央銀行のみが「なすべきことはなんでもやる」政策担当者となることはありえません.他の政策,とくに財政政策との協調から明確に得られるものはあります.


私ももちろん賛成だ.大学にいるたいていのマクロ経済学者はそうだろう.見識のある財政政策担当者も同様のはずだ.ただ,周知のとおり,グローバル金融危機にあたって,2010年以降にそんな協調がなされなかった主要経済大国もある.イギリスもそのひとつだ.

これまでに,アメリカの連銀や欧州中央銀行の総裁たちが同様の発言をしてきた.カーニーの発言は,それに連なるものだ.そして,この発言は,私がいう「共通見解の政策割り当て」に反することを言っている.共通見解の政策割り当てでは,金融政策が総需要とインフレの安定化を担当し,財政当局は政府債務に対応する.イギリスでは,メディアが政策について考える方法にこの共通見解は深く根付いている.

2009年に,ジョージ・オズボーンは演説でこう発言した:

「[ニューケインジアンの]この種のモデルは,マクロ経済政策枠組み全体の基礎をなしています――とくに,金融政策が需要を管理しインフレを制御することで失業率を低くおさえ安定させられるという考えにとっての基礎となっています.また,ディヴィッド・キャメロンと私が昨秋に推進した主張もこれにもとづいています.すなわち,需要刺激の責務は金融政策が負うべきとの主張です.

これも,共通見解の政策割り当てを述べた発言だ.この発言の皮肉なところは,その直後にイギリスの短期金利が下限に達したという点だ.

短期金利が下限に達したあともなお,この共通見解の政策割り当てこそ最善の政策だろうか? 2010年に,少なくともヨーロッパとイギリスでは,中央銀行はあたかもこれが最善であるかのようにふるまった.それどころか,財政政策の当局に緊縮を進めるよう助言するところまで踏み込んだ.今回のカーニー発言は,そうした国々の中央銀行が間違ったことをしたのを暗黙に認めている.

〔短期金利が下限に達した状況で試みられる〕非伝統的金融政策の難点は,べつに,それが機能しないことではない.機能はするが信頼しにくいのが難点だ.2010年にはスキャンダルがあった.イングランド銀行は,表向きには非伝統的金融政策が伝統的な金利政策を代替できると主張しておきながら,現実には非伝統的金融政策でなにか変化させたときにどれくらいの効果が出るかほとんどわかっていなかったんどあ.よりよい手段が利用できるとき,予測しにくく信頼しにくい手段は政策レジームのよい基礎にはならない.マイナス金利も,この信頼しにくい手段の範疇に入ると私は思う.単純に,自明な理由から,線形性を仮定できないからだ.

では,次に景気後退が生じたときに,財政政策当局が2010年のまちがいをぜったいに繰り返さないようにするには,どうすればいいのだろう? 最善なのは,もっといい財政政策担当者がいてくれることだが,あいにく,そんなことがいつでも可能なわけではない.ありうる選択肢として広く議論されているものは3つある.

一つ目は,MMT〔現代金融理論/現代貨幣理論〕だ.MMT はようするに伝統的な政策割り当てを逆転させるもので,世の中の状況がどうなっていても,一貫して,需要とインフレの安定化を財政政策が担当する.そうなった場合,政府債務はなるようになる.私は MMT を支持しない.独立した中央銀行はインフレ制御を非常にうまくやってきた一方で,財政政策を用いる政府はそこまでうまくやらないだろうと思うからだ.

二つ目はヘリコプターマネーだ.ヘリコプターマネー(ヘリマネ)を「金融政策」と呼ぶのにやぶさかでないなら,中央銀行に新しいツールを与えることで共通見解の政策割り当てを維持できる.ヘリマネの方が,非伝統的金融政策よりも信頼できる.なぜなら,ヘリマネは減税とまったく同様で,減税が消費者におよぼす影響についてならデータがたくさんあるからだ.

HM が可能なのは,政府がこれに合意しているときにかぎられる.できれば,ヘリマネが必要になるずっと前から合意している方がのぞましい.合意すべき点は2つある.第一に,分配の仕組み.なかには,〔一人頭いくらで国民にお金を渡す〕逆人頭税以外の方法を好む政府も出てくるだろう.第二に,中央銀行を支援するという合意.支援するとはどんなことかと言うと,経済が回復したときに,ヘリマネの少なくとも一部を中央銀行が回収するのに必要とする資産を〔政府が〕供給するということだ.国債発行でまかなう財政拡張とヘリマネが異なる点はただひとつで,〔ヘリマネでは〕経済が回復したあとまで国債発行の一部または全部が遅延される点がちがう.

「中央銀行を支援するという約束を政府が反故にするのではないか」と世の中の中央銀行は懸念する.これに対して私なりに答えるなら,中央銀行がインフレを抑えられるようにこれを支援するのを拒む政府は,独立した中央銀行を廃止する用意のある政府のはずだから,この懸念は気にしなくていい.また,「たいていの人たちの目にはヘリマネは財政政策のように映る,中央銀行としては財政政策をやるわけにいかない」と中央銀行は懸念しているのではないかとも思う.

ヘリマネについて,さらにもう一点付け加えよう.景気後退時に,「赤字の虚偽」と私が呼ぶものを用いて,あたかも赤字が大きすぎて支出削減が必要であるかのように政府が偽るかもしれない.そうやって人々を脅して,そうでもしなければ国民が受け入れないほどの規模に政府を小さくするのが,そうした虚偽の狙いだ.ヘリマネの場合,政府がそうした手段に出るのは止められない.政府が財政を縮小させたとして,ヘリマネなら,財政縮小が需要に及ぼす効果を中央銀行が相殺して,経済の産出に影響が出るのは回避されるだろう.だが,〔財政が危機的だと脅されていない〕平時に国民が支持する範囲を超えて国家の規模を縮小させるのは,ほぼ確実に最適水準を下回り,経済的にも政治的にも破滅的な帰結をもたらしうる.ここイギリスで起きたような事態が起こるだろう.「ヘリマネはこれを後押ししてしまうのではないか」という言い分はありうる.

第三に,そしていちばんありそうな選択肢は,中央銀行による助言だ.景気後退が近くにまで迫っていて,しかも金利がすでに下限に達していると中央銀行が考えた場合,「なんらかの財政拡張が必要だ」と財政当局に助言する選択肢がある.こうした問題にまったく無知な財政当局に対処する場合には,この選択肢は悪くない.また,債務を恐れ,これを〔国債発行で〕まかなうのを懸念している財政当局を中央銀行が説得する方法としては,たとえば,必要な財政拡張に対応する規模の量的緩和 (QE) を実施することでその分をまなかう合意をしておいたり,もっと単純に,民間の主体によるいかなる失敗も債務購入によって相殺する合意をしておいたりする手がある.

ここで私が懸念するのは,政府が「助言ありがとうね,でも,ウチとしては支出削減によって赤字を減らすことに傾注したいんで」と言い出すことだ.中央銀行は,〔財政当局に向けた〕助言を公開する用意があるだろうか? 今度は逆に財政当局が中央銀行に「こうすべき」と指図しはじめると予想されるなら,中央銀行は公開で助言はしないかもしれない.こう考えると,この戦略は無効か,ことによると,中央銀行の独立性をおびやかすことにもなるかもしれない.

では,景気後退時に,積み上がる債務を〔国民の脅迫に〕利用して国家規模の縮小をはかろうとする政府を,どうやったら止められるだろう? もちろん,止めようはない.それでも,そうしないように最大限の政治的圧力がかかる条件をつくりだそうと試みることならできる.さきほど述べたように,ヘリマネではこれに失敗するし,中央銀行から助言するのもやはり有望ではない.

それよりもっと効果的なのは,マクロ経済学者と中央銀行が,共通見解の政策割り当てについてもっと正直になることだ.最適に近い政策レジームとして,この割り当ては死んでいる.これに代えて,〔財政当局がやるかどうかにかかっているという意味で〕「国家しだいの割り当て」(state dependent assignment) とでも呼べそうなものをマクロ経済学者は提案している.世界の大半の国家では,中央銀行はマクロ経済安定化を担当し,現にそうしている.ただ,十分に大きな規模の経済下降(ここでいう「十分に」は定義が必要だが)においては,この割り当ては逆転し,財政政策の当局が安定化を受け持つ.専門的でない言い方をするなら,景気後退に対処するのは政府の役目になるのだ.

これは,大学にいるマクロ経済学者の大半と一部の中央銀行家たちがすでに暗黙裏に受け入れつつも,そうと明言してはいない考えだと私は思う.〔明言しないのは〕学をてらっている部分もあるのだろう.もちろん,国家しだいの割り当てでも,中央銀行は景気後退に際して需要を刺激しようと金利を低いまま維持するといった対応をやめてしまうわけではない.だが,この部分で政府が背負う責任を際立たせるのには,納得できる政治経済的な理由がある.

財政信認ルールに関するジョナサンと私の論文をよく知っている人なら,国家しだいの割り当てを発動する条件に,金利が下限に達したときのノックアウトがあるのを理解しているだろう.だが,これは理想的な仕組みではない.なぜなら,割り当てを切り替えるかどうかは,事象の予測に応じて判断されるべきだからだ.他にも,IPPR や Resolution Foundation などが提案した方式も,国家しだいの割り当てに括れる.最良の仕組みをつきとめるには多大な労力が必要となるし,切り替え(オン・オフ両方)を発動するべき時を決める権限は誰がもつのかについても,実効的な経済刺激パッケージについて政府に助言する役割を中央銀行および/あるいは財政当局が担うのかどうかについても,多大な労力を割いて考える必要がある.

まとめよう.顕著な景気下降局面では財政刺激が必要となることを,各国の中央銀行は認識するようになってきている.これはグローバル金融危機のときとは対照的だ.当時,多くの財政政策担当者たちは緊縮を実施した.彼らが緊縮を実施できた理由はさまざまだが,そのひとつに,伝統的な政策割り当てが国民のあいだで支配的な考えだったことが挙げられる.これを二度と繰り返さないためになにより効果的な方法は,国家しだいの割り当てを新しい共通見解の政策割り当てにすることだ.


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