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ジャネット・イエレン 「中央銀行のコミュニケーション戦略における革命と進化」(2012年11月13日)

●Janet L. Yellen, “Revolution and Evolution in Central Bank Communications”(Speech at the Haas School of Business, University of California, Berkeley, Berkeley, California, November 13, 2012)


ご紹介いただきありがとうございます。こちらのハース・ビジネススクールは私がキャリアの多くの時間を過ごした故郷だと胸を張って呼べる場所ですが、その故郷にこうして再び戻ってくることができて嬉しく思います。講演の手筈を整えてくださいましたディーン・ライオンズ(Dean Lyons)氏にも感謝したいと思います1

本日の講演のテーマを一言でまとめると、中央銀行のコミュニケーション戦略における近時の革命と今なお続くその進化ということになります。皆さんもご存知のように、現在私たちはコミュニケーションの分野を舞台とした革命的な進歩の時代の真っ只中に生きています。本日の講演でこの場にいる皆さんの興味を引く発言が少しでも飛び出すようなら、私がこの壇上を後にするよりも前にその発言はネット上に投稿され、あるいはtwitter(ツイッター)でつぶやかれ、あるいはブログで論評の対象になるかもしれません。そういった現実を踏まえると、Fedもまたコミュニケーションのあり方をめぐってこれまで以上に工夫を凝らそうと努力していると聞いても何の驚きも感じられないかもしれません。

しかしながら、中央銀行のコミュニケーション戦略における革命はテクノロジーの進歩によって引き起こされたわけではありません。その原動力は金融政策の効果をできるだけ高めるための手法をめぐる理解の進歩(知識の深まり)に求められます。明確なコミュニケーションはそれ自体として金融政策の効果と信頼性の向上に貢献する貴重なツールだということがこれまでに積み重ねられた数多くの研究と長年の経験を通じて明らかになってきているのです。それだけではありません。このたびの金融危機の勃発に伴って私たちは数多くの難題を背負い込むことになりましたが、そのような状況に追い込まれた結果として明確なコミュニケーションの重要性がこれまでになく高まることになったという事情もあります。本日の講演ではまずはじめに「中央銀行の透明性」をめぐるこれまでの議論の軌跡を振り返り、その論調に生じた革命的な変化について論じることにします。そしてそれに次いで金融危機によって引き起こされた異例の事態にFedがどう対応したかを取り上げることにします。Fedのこれまでの対応を振り返りながら、コミュニケーション戦略の分野で極めて重要な前進が見られた事実を明らかにしたいと思います。コミュニケーション戦略の分野でこれまでに勝ち取られた大きな成果が現状の厳しい状況が過ぎ去った後もなお手放されることなくずっと先の未来まで受け継がれていってほしいというのが私の願いですが、前回(2012年9月)のFOMCの決定もその願いに沿うものだと言えます。以下でその内容について簡単に触れておくことにしましょう。

皆さんもご存知のように、現在Fedは景気回復のペースを速めるために懸命な努力を続けている最中です。しかしながら、Fedの目の前には厄介な障害が立ちはだかっています。金融政策における伝統的な政策手段であるフェデラル・ファンド金利がほぼゼロ%に達しており、もうこれ以上引き下げることができないのです。このような異例の状況に直面しながらも雇用の創出や経済成長を促すためにはどうしたらよいかという問題に立ち向かう中でFedが目を付けたのが次の2つの非伝統的な手段です。1つ目の手段は「大規模資産購入プログラム」であり、量的緩和と呼ばれることもあります。そして2つ目の手段は金融政策の先行き(将来の方向性)に関するコミュニケーションの活用であり、「フォワードガイダンス」という名で知れ渡っています。

去る(2012年の)9月に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)――Fedが実施する主要な金融政策の内容を決定する機関――の会合では大規模資産購入プログラムの再導入(いわゆる「第三弾の量的緩和」(QE3)の実施;訳者による註)が決定されましたが、それは同時に上記の2つの非伝統的な手段が再び顔を揃えることをも意味しています。この会合では住宅ローン担保証券(MBS)の購入を柱とする新たな大規模資産購入プログラムの導入が決定されるとともに、フォワードガイダンスについても新たな変更が加えられました。まず第一に、「労働市場の見通しに大幅な改善が見込まれるまで」新たに導入された大規模資産購入プログラムを継続する旨が言明されました2。そして第二に、「景気回復がその勢いを強めた後もなおしばらくの間は」現状の極めて緩和的な金融政策のスタンスを維持することが適切であると言明されました。そして最後に、「少なくとも2015年半ばまでは」フェデラル・ファンド金利を現状の極めて低い水準に据え置く予定であると修正が加えられました――これまでは「少なくとも2014年終盤まで」という表現でしたので、フェデラル・ファンド金利を据え置く予定期間が1年近く先延ばしされたことになります――。

このように2012年9月に開催されたFOMCではフォワードガイダンスについても3つの点で新たな変更が加えられることになったわけですが、フォワードガイダンスなる政策手段は20年前であれば考えられもしなかったでしょうし、10年前でも大きな驚きをもって迎えられたことでしょう。しかしながら、今やフォワードガイダンスは金融政策を支える中心的な存在となるに至ったというのが私の考えです。フォワードガイダンスに対する私の考えについては、FOMCの現状の基本姿勢や金融政策の分野におけるコミュニケーションの役割といった話題と絡めつつ先のところで立ち入って論じるつもりです。たった今FOMCの基本姿勢と言いましたが、その姿勢を明らかにする上で重要な一歩を画することになったのが2012年1月に発表された「金融政策の長期的な目標と戦略」と題された声明です3。この声明では金融政策の長期的な目標とその目標を達成するための戦略に関するFOMCの考えが簡潔に述べられていますが、この声明が現状の金融政策に対してどういった意味を持つかについても私なりの見解を詳しく述べさせていただきたいと思います。大きな試練に立たされている現状ではありますが、そのような現状において金融政策の効果をさらに高めるためにはコミュニケーション戦略の分野においてさらなる改善を図る必要があると思われます。FOMC内部での議論も紹介しながらそのような改善を可能とする術についても論じるつもりです。あらかじめ断っておきますが、本日の講演で表明される意見は私の個人的な見解を反映したものであり、FRBでともに働くその他の同僚の見解を反映したものでは必ずしもありません。この点、ご留意いただきたいと思います。

「中央銀行の透明性」をめぐる議論の軌跡

つい最近になって中央銀行のコミュニケーション戦略に生じた革命的な変化とはどのようなものであり、そのことが現状の金融政策に対してどのような意味を持つかを深く踏み込んで理解するには、長きにわたって中央銀行の世界を支配してきたこの話題をめぐる通念をおさらいしておくのが何かと便利でしょう。これまでの通念を一言でまとめるとこうなります。「中央銀行の目標や行動については秘密のベールに包んでおくべきであり、そうした方が金融政策の効果も高まる」。私がFRBで初めて仕事をする機会を得たのは1977年のことですが(最初のポストは国際金融局のスタッフ・エコノミストでした)、その当時の中央銀行の世界では「金融政策の分野における決定については秘密にしておくのが最善の策だ」というのが揺ぎない信条となっていました。政策上の個々の決定が議論の対象となることなどほとんどなく、その決定が何を意図してなされたのかという問題となるとなおさらそうでした。当時においても既にFedには「物価の安定」と「雇用の最大化」という二重の責務(デュアル・マンデート)が法律によって課せられていましたが、当時のFedの関係者たちはどういう手段を使って二重の責務を達成するつもりなのか幅広く論じることを敬遠していました。時代が下って1990年代半ばになってもまだ次のような状況が続いていました。1994年のニューヨーク・タイムズ紙の記事にこうあります。セントラルバンカーの前で「雇用の最大化」という言葉を口にすることは「セントラルバンカーの目に釘を突き刺す」に等しい行為だ、と4

民主主義下の政府には自らが下した決定について国民に向けて情報を広く公開することが求められますが、金融政策の世界を覆っていた秘密主義はそのような方向性と真っ向から対立するものでした。Fedの決定はアメリカ国民一人ひとりの生活に影響を及ぼすことを考えると、なおさらこの問題は見逃すことができません。この問題を見過ごさずに金融政策の世界を覆う秘密主義に対して随分早い段階で異を唱えていた経済学者もいます。その代表はジェームズ・トービン(James Tobin)とミルトン・フリードマン(Milton Friedman)です。両名ともにノーベル経済学賞受賞者ですが、この二人は金融政策のほとんどあらゆる側面について意見が一致せず言い争いをしたものです。しかしながら、金融政策の世界を覆う秘密主義の問題については互いに手を取り合ってこう主張したのです。民主主義国家における中央銀行が自らの下す決定に正当性を得るためには金融政策の意思決定プロセスの透明性を確保することが何よりも欠かせない(透明性なくして正当性なし)、と5。秘密主義の伝統を擁護できるのはそのことに利害を持つごく少数の強力な社会勢力くらいのものでしょう。その証拠にこういうエピソードがあります。1975年に市民の一人が金融政策の意思決定過程の透明性の向上を求めてFOMCを相手取る裁判を起こしました。その当時はFOMCの会合で金融市場調節方針(ディレクティブ)の内容が決定されてもそれが世間に公表されるまでに若干の時間を要していたのですが、その市民は「内容が決定され次第即座に世間に向けて公表すべきだ」とディレクティブの即時公表を求めたのです。1981年に下された判決の結果はというと市民側の敗訴。これまで通りにディレクティブの決定から公表まで時間が空いても構わないというのが裁判所の下した判断だったわけです6

皮肉なことにと言いますか、この裁判が非常にゆっくりとしたペースで進行しているその間に、ロバート・ルーカス(Robert Lucas)をはじめとする一連の経済学者たちがその後にいくつものノーベル経済学賞の対象ともなり、そしてゆくゆくはそれまでの通念(「金融政策の分野における決定については秘密にしておくのが最善の策だ」)をひっくり返すことにもなる研究を次々と発表し出していました7。この一連の研究のキーとなる洞察をまとめるとこうなるでしょう。金融政策が雇用や所得、インフレに影響を及ぼすとすれば、その大なる部分は金融政策の先行き(将来の方向性)に関する国民の予想に対する影響を介してであるということです。例えば、住宅を購入したり工場設備を拡張するためにお金を借り入れるべきかどうかという決定は長期金利の水準に影響を受けるわけですが、長期金利の水準は住宅ローンや設備投資のために借り入れたローンの返済が終わるまでの間に短期金利の先行きがどうなりそうかという予想と密接に結び付いています。言い換えるとこういうことです。金融政策が現時点の経済に及ぼす効果は、フェデラル・ファンド金利の誘導目標が現在どの水準に設定され、Fedがバランスシート上で保有する資産残高が現在どれだけの額に上るかといった要因だけに依存して決まってくるわけでもなく、もっぱらこの要因だけに依存して決まってくるというわけでもありません。それに加えて、フェデラル・ファンド金利やFedがバランスシート上で保有する資産残高の先行きに関する国民の予想にも依存して決まってくるのです。国民が金融政策の将来の方向性をどう予想するかによって長期金利や資産価格の水準ばかりか今後の所得やインフレの見通しにも違いが生まれることになるのです。

この点を例証する格好の事例としてはオイルショックをめぐるエピソードを挙げることができるでしょう。1970年代に発生した2度にわたる強烈なオイルショックは物価全般の急速な上昇をもたらすことになりましたが、Fedはインフレの抑制に向けてすぐには対応に移らずにしばらく静観の姿勢を保ちました。Fedによるそのような対応の遅れを目にした国民は「果たしてFedはインフレの抑制に取り組む気があるのだろうか?」と疑いを抱くようになり、それに伴って長期的なインフレ予想がじわじわと上昇を始めることになります。最終的にはFedもインフレの抑制に向けて重い腰を上げることになりましたが、2桁台にまで達したインフレを沈静化するためには金融政策の手綱をかなり強く引き締める必要があり、その影響で1981年と1982年に深刻な景気後退が引き起こされる結果となりました。

インフレの抑制に向けた政策転換(金融引き締めへの移行)は厳しい景気後退を伴ったわけですが、しかしながらそれと同時に国民が抱く予想を転換する効果も持っていました。「Fedは本気で物価の安定に取り組むつもりだ」との予想が国民の間で広まることになったのです。 こうして予想の転換が生じた結果として長期的なインフレ予想も徐々に低下し始め、最終的には現状の低い水準で安定を保つに至ったのでした。2005年に原油価格が急騰したにもかかわらず、物価や長期的なインフレ予想はこれといって上昇することはありませんでしたが、その理由は「Fedは本気で物価の安定に取り組むつもりだ」との予想が国民の間で根付いていており、それゆえ「原油価格高騰の影響が物価全般に及ぶことをFedは許しはしないだろう」とのまっとうな判断が国民の総意となっていたからだろうと考えられます。1970年代の2度にわたるオイルショック時とは異なり、インフレの抑制に向けて急激な金融引き締めに動く必要に迫られることがなかったのも「Fedは本気で物価の安定に取り組むつもりだ」との予想が国民の間で根付いていており、そのために長期的なインフレ予想が低い水準で安定を保っていたからこそなのです。1970年代の2度にわたるオイルショックを経て以降の(2000年代半ばに至るまでの)約四半世紀は金融政策の予測可能性が大きく高まることになった時代であり、国民は(原油価格の突然の高騰をはじめとした)予想外のショックに対するFedの反応(Fedは予想外のショックに対してどう反応しそうか)をかなり正確に予測することが可能となったのです。

しかしながら、あいにくなことに、このたびの金融危機が勃発してからというもの、金融政策の先行きを予測するのがますます難しくなってきています。金融危機とそれに引き続く大不況(グレート・リセッション)は経済に深い傷を負わせ、その傷はそう簡単には癒えそうにないとの悲観的なムードが醸成されることになりました。そのような事態を前にしてFedには異例の対応が求められることになりました。金融危機が勃発してから間もないうちにFedはフェデラル・ファンド金利をゼロ%に近いところまで引き下げ、金融システムの崩壊を食いとどめるために一連のプログラムの導入を通じて流動性の供給や一時的な信用(ローン)の供与に乗り出しました。しかしながら、そのような積極果敢な対応も景気の収縮を完全に食いとどめるには不十分であり、大恐慌(グレート・デプレッション)の再現を回避するためにはさらにもう一歩踏み込んだ対応に出る必要がありました。そこで登場するのが大規模資産購入プログラムです。Fedは長期国債や政府機関債、住宅ローン担保証券の購入を通じてバランスシートの拡大に乗り出し、長期金利の引き下げ(ひいては景気の刺激)を図ったのです。

こうしてフェデラル・ファンド金利はゼロ%付近に張り付き、さらには大規模資産購入プログラムというこれまでにない手段に手が付けられることになったわけですが、それに伴って厄介な事態が引き起こされることになりました。金融政策の先行き――FOMCはこの先どのような行動に乗り出しそうか、金融政策は経済にどのような影響を及ぼしそうか、金融政策のスタンスは経済情勢の変化に応じてどのように調整されそうか――が極めて予測しづらくなったのです。実のところ、Fedがフォワードガイダンスを通じてフェデラル・ファンド金利の先行きや資産の売買をめぐる今後の方針に関する情報の提供に乗り出したのもそのような事態を踏まえてのことでした8。しかしながら、フォワードガイダンスがその効果を最大限に発揮するためには、まずもってその内容が国民に広く理解され、さらにはその内容が空約束ではないと信頼されねばなりません。そうなってはじめて国民はフォワードガイダンスを将来に関する頼りになる情報源の一つであると同時に、資金の借り入れや支出をめぐる決定を下す際の頼りになる情報源の一つと見なすようになるのです9。そしてそのためにはどうすればよいかという話になると、Fedが何を目標にしているのか(何を意図しているのか)が国民に明確に理解されないようではフォワードガイダンスがそのような(将来に関する頼りになる情報源の一つとしての)地位を獲得することなどできないというのが私の考えです。

金融危機以降に持ち上がってきたコミュニケーション戦略をめぐる課題:「長期的な目標」の明確化に向けて

2010年にFOMC内にコミュニケーションのあり方を検討する小委員会が新たに設けられ10、この私がその小委員会の議長を務めることになりました。そしてこの小委員会ではバーナンキ議長からのお達しもあって「Fedの目標の明確化」という課題に取り組むことになりました。「中央銀行の透明性」という問題については個人的に長年にわたって大きな関心を払い続けてきましたが、それはバーナンキ議長にとっても同様でした。バーナンキ議長は学者時代の専門的な研究の中においてだけではなくFedの理事を務められていた時分にも「中央銀行の透明性」を確保する必要性を他の誰よりも強く訴えていらっしゃいました。バーナンキ議長が現在の地位に就任されてから今日に至るまでの間にFedの透明性を高める上でいくつかの重要な前進が見られましたが、その代表的な例としてはFOMCに参加するメンバーそれぞれの経済見通し(SEP)の公表を挙げることができるでしょう。SEPは四半期ごとに公表されていますが、その中ではFOMC参加メンバーそれぞれの経済見通し(銘々が適切だと考える政策オプションが採用されたと想定した場合に経済の先行きがどうなりそうかという予測)だけではなく、潜在GDP成長率や「標準的な(正常な)」失業率に関する参加メンバーそれぞれの予測、そして最適なインフレ率(長期的に見て望ましいインフレ率はどの程度だと考えるか)に関する参加メンバーそれぞれの見解も明らかにされています。

「雇用の最大化」と「物価の安定」という二重の責務(デュアル・マンデート)が示唆するFedの「長期的な目標」は何なのか? この点についてFOMCなりの解釈を真っ先にはっきりさせるべきだというのがバーナンキ議長のお考えでした。つい先ほども触れたように、このたびの金融危機に先立つ期間においてもSEPの公表をはじめとして(透明性を高める上で)いくつかの前進は見られはしましたが、FOMCが委員会の総意というかたちで「長期的な目標」についてはっきりと(例えば数値のかたちで)意見を表明したことは一度としてありませんでした。せいぜい二重の責務に言及するくらいのものでした。Fedの「長期的な目標」を明確化することは透明性を高めたり説明責任を果たすことにつながり、そう意味でも重要です。しかしそれだけにとどまりません。金融危機の余波に苦しめられる中でFedはフォワードガイダンスにかつてないほど頼らざるを得なくなっていますが、「長期的な目標」を明確化することはフォワードガイダンスを含めた金融政策の効果を高める上でも極めて重要な意味を持っていると考えられるのです。

金融危機が勃発して以降、失業が高止まりを続ける期間が長引き、「この調子だとインフレ率が2%を下回るのではないか」――FOMCがそう明言したことはありませんが、2%のインフレ率はFedの「暗黙の目標」と多くの人々に見なされていました――との懸念が次第に高まりを見せることになりました。インフレ率が2%を下回るどころかデフレに突入し、そのために景気がさらに落ち込む恐れさえあるという声も聞かれました。そのような中、経済予測を生業とする人々や国民の間で次のようなもっともな疑問の声が沸き起こることになりました。FOMCが時折言及する「雇用の最大化」だとか「物価の安定」だとかいう文言は具体的には何を意味しているのか?、と。

FOMCにとってはそのような疑問への答えとして「インフレ目標」を採用するという選択もあり得ました。ここでは「インフレ目標」というのはあくまでもインフレに関してだけ具体的な(例えば数値のかたちで)目標を掲げ、雇用に関しては黙して語らずの姿勢を貫く政策枠組みの意味で使っていますが、そのようなかたちの「インフレ目標」は1990年代以降になって多くの中央銀行が採用するところとなりました。FOMCでも1990年代半ば以降に何度か折に触れて「インフレ目標」の採用の是非をめぐって議論がなされましたが、インフレに関してだけ具体的な目標を設定することになれば二重の責務(デュアル・マンデート)の片割れである「雇用の最大化」 が蔑ろにされてしまう恐れがあると異を唱える声が聞かれました。現実の話としても、インフレに関してだけ目標を課されている中央銀行の中にはインフレに関する目標と「経済成長」や「金融システムの安定」といったその他の(あり得る)目標との間にどのように折り合いをつけたらよいのか、そして最終的にどのようなかたちで折り合いがつけられたかについてマーケットや国民に対してどうやって説明したらよいかに苦労している向きもあるようです11

金融政策の長期的な目標:「コンセンサス声明」の読解

2012年1月に二重の責務(デュアル・マンデート)に関するFOMCの解釈を明確にする上で重要な一歩が踏み出されることになりました。その重要な一歩というのは冒頭でも触れた「金融政策の長期的な目標と戦略」と題された声明のことを指しています。FOMCの会合が終了するとその直後に声明が発表される決まりになっていますが、通常の声明は次回の会合までしかその効力は持たず、古い声明は新たに声明が発表されるたびに取って代わられることになっています。しかしながら、2012年1月に発表された声明はFOMCが考える金融政策の目標とその目標を達成するための戦略を公に示すものであり、そういった事情もあって通常の声明よりも息の長い声明という性質を付与されています。つまりは、経済見通しに変化が生じたとしても今後しばらくの間は声明の中で明らかにされている原則はそのまま有効であり続けるものと見なして差し支えないということです。そういった特殊な事情もあり、2012年1月の声明はFOMCに参加する全メンバー(FRBの理事全員および地区連銀総裁12名)の同意を得た上で発表されることになりました(通常の声明はFOMCで議決権(投票権)を持つメンバー(FRBの理事全員および議決権を持つ地区連銀総裁5名)の同意を得た上で発表されています)。この「コンセンサス声明」(FOMCに参加する全メンバーの同意が取り付けられた声明)は来年以降も1月がやってくるたびに内容が再確認される予定になっています。その際には細かい修正が施されることはあっても核となる原則に変更が加えられることはおそらくないと思われます。

2012年1月に発表された「コンセンサス声明」の具体的な内容に目を向けると、インフレに関する長期的な目標が数値のかたちで特定されている点――「2%のインフレ率」をFedの長期的な目標とする――はとりわけ重要だと言えるでしょう。言い換えると、(二重の責務の一つである)「物価の安定」に関するFOMCの解釈が明らかにされたわけですが、それに加えて「雇用の最大化」についても具体的な数値のかたちで目標が明らかにされており、この点もまた重要です。この声明の中では、「雇用の最大化」に関するFOMCの解釈の一つとして、長期的に見て標準的(正常)だと考えられる失業率に関するFOMC参加メンバーそれぞれの予測が要約されるかたちで紹介されています。そしてもう1点だけ指摘しておくと、「現実のインフレ率が長期的な目標と乖離したり、現実の雇用量がFOMCの評価(予測)する実現可能な最大限の雇用量と乖離したりする場合、FOMCとしてはその乖離の縮小を目指して努力する意向」であり、その際には「バランスのとれたアプローチ」に立つ旨も明らかにされています12

FOMCはインフレに関する長期的な目標として「2%のインフレ率」――具体的には、個人消費支出価格指数(PCEデフレータ)で測って年率2%のインフレ率――を選んだわけですが、そのような判断が下されるまでには慎重な議論が再三にわたって交わされました。PCEデフレータが選ばれたのは家計にとってかかわりの深い財・サービスの価格動向を測る上で最も頼りになる指標だからという判断がありましたが、「2%」という数字が選ばれるまでには次の2つの問題の間でバランスをどうとるかという疑問と取り組む必要がありました。まず1つ目の問題は、物価の変動は将来に向けた計画を困難にし、経済に歪みをもたらすということです。インフレ率(物価上昇率)の具体的な値がどうであれ――プラスの値であれマイナスの値であれ――、物価の変動は社会に何らかのコストを課すことになるわけです。この議論からはゼロ%のインフレ率が望ましいという結論が導き出されることになりますが、ここで登場してくるのが2つ目の問題です。物価変動に伴うコストを抑えるためにFedにはゼロ%のインフレ率の達成が目標として課されており、Fedがその責務を見事に果たしているとしましょう。そのような状況の中、突如として大規模なショックが発生し、総需要が大きく落ち込んだとしましょう。金融政策を通じて景気を下支えしたいところですが、Fedの前には厄介な障害が待ち構えています。インフレ率がゼロ%だと名目金利をゼロ%まで引き下げても実質金利はゼロ%以下(マイナスの値)にはなり得ないのです。一方で、インフレ率がプラスの値にとどまっていれば、実質金利をゼロ%以下に引き下げることは可能です13。インフレ率がゼロ%をほんの少しだけ下回る程度であったとしても、そのような(マイルドなデフレの)状況がしばらく続くようだと、経済成長の減速や失業の高止まりといったかたちで極めて大きなコストがもたらされる。これまでの歴史はそう物語っています14。雇用の最大化を図るという目標と物価変動に伴うコストをできるだけ抑えるという目標とを見比べた末にFOMCが辿り着いた結論、それが「2%」のインフレ率を長期的な目標とするというものでした。「2%」のインフレ率であれば、物価変動に伴うコストを可能な限り抑えつつ、デフレに陥るリスクを回避するための十分なバッファー(余地、糊代)が確保できることにもなるだろう。FOMCはそう判断したわけです。

インフレの長期的な趨勢がどうなるかは金融政策次第のところがあります。そのことを踏まえると、(金融政策を司る)中央銀行はインフレ率の長期的な目標を定める能力を備えており、またその役目を果たして当然だとも言えるでしょう。それとは対照的に、中央銀行は「実現可能な最大限の雇用量」に影響を及ぼす能力は大して備えていません。というのも、「実現可能な最大限の雇用量」は労働市場の構造やそのダイナミクスといった中央銀行のコントロールの範囲外にある要因によって左右されるからです。とは言え、FOMCとしては経済がどういった状況にある時に(二重の責務の一つである)「雇用の最大化」が達成されたと言えるのかについても数値のかたちで何らかの解釈を示しておく必要があるとの思いを痛切に感じていました。そうしておかなければ「物価の安定」を「雇用の最大化」よりも優先しているかのように受け取られかねないと感じたのです。(2012年1月の)「コンセンサス声明」の中でインフレに関する長期的な目標だけではなく雇用に関する長期的な目標についても言及がなされ、「実現可能な最大限の雇用量」(あるいは「雇用の最大化」)が達成されているかどうかを評価するにあたっては幅広い指標に着目すると留意しながらも、「長期的に見て標準的(正常)だと考えられる失業率」にあえて言及されている背景にはこのような事情があったのです。しかし、厄介な問題はまだ残っています。「長期的に見て標準的(正常)だと考えられる失業率」はどの程度か? という問題がそれです。そしてこの問題の答えについては経済学者の間においてだけではなくFOMC内部でも意見に大きな相違が見られるのです。さらには、「長期的に見て標準的(正常)だと考えられる失業率」は時とともに変化する可能性もあります。そういった事情もあり、 「コンセンサス声明」ではFOMC参加メンバーそれぞれが予測する「長期的に見て標準的(正常)だと考えられる失業率」が要約されるかたちで紹介されており、2012年1月段階ではその値は中心傾向で測って5.2%~6.0%の範囲にあると述べられています。「コンセンサス声明」は来年以降も1月がやってくるたびに内容が再確認される予定だということは先にも触れましたが、「長期的に見て標準的(正常)だと考えられる失業率」の予測値についてもその都度再検討が加えられることでしょう。

金融政策が担う2つの任務:長期的な目標の設定と短期的な景気変動の抑制

二重の責務(デュアル・マンデート)に関するFOMCの解釈を明確にするという課題に一区切り付けるためにはインフレと雇用に関する長期的な目標を公にするだけではまだ十分ではありません。その長期的な目標をどうやって達成するつもりなのか(長期的な目標を達成するための戦略)についても態度をはっきりさせる必要があります。経済に予想外のショックが発生するとインフレや失業が(FOMCが掲げる)長期的な目標から逸れてしまう(現実と目標との間に乖離が生まれる)可能性があるわけですが、その際には目標との乖離を埋め合わせるために政策を調整していかねばなりません。つまりは、金融政策を担当する責任者は2つの任務を背負い込んでいるわけです。金融政策の長期的な目標を設定するというのが1つ目の任務です。そして2つ目の任務は経済に予想外のショックが発生した場合に政策の調整を通じてインフレや雇用の短期的な変動を和らげ、長期的な目標との乖離の埋め合わせを図るというのがそれです。

長期的な目標を明確なかたちで公にすることそれ自体も(インフレや雇用の)短期的な変動を和らげる上で一役買う可能性があります。ここでは予想が果たす重要な役割が関わってくるわけですが、この点について2012年1月の「コンセンサス声明」では次のように述べられています。「インフレに関する長期的な目標を国民に対して明確なかたちで伝えることにより、長期的なインフレ予想の安定化が促されることが期待されます。長期的なインフレ予想が(インフレに関する)長期的な目標に引き寄せられるようにして安定を保てば、物価や長期金利の安定化が促されるだけではなく、経済に大きな撹乱が生じた際に金融政策を通じて雇用の最大化を図る能力が強化されることにもなるでしょう」15

つまりは、FOMCがインフレに関する長期的な目標の明確化に踏み出した目的はインフレ予想の安定化を促すことにあったというわけです。インフレに関する長期的な目標がインフレ予想をつなぎとめる錨の役割を果たし、その結果としてインフレ予想が長期的な目標とそう変わらない水準で安定することになれば、実体経済の短期的な変動を和らげる上でFedはこれまで以上に積極的かつ効果的な役割を果たすことができるようになるでしょう。どうしてそう言えるかというと、雇用の安定化を図るためにインフレが一時的に長期的な目標を上回ったり下回ったりするようなことがあったとしても、インフレに関する長期的な目標がはっきりとしたかたちで公にされているおかげで、国民から「Fedはこれまでよりも高い(あるいは低い)インフレを目標に据える腹積もりなのではないか」と変な誤解を抱かれるおそれがなく、それゆえインフレ予想に動揺をきたす可能性を気にかける必要がないからです。長期的なインフレ予想をつなぎとめる錨役が欠けており、それゆえ長期的なインフレ予想が不安定極まりない場合にどんな困難が待ち受けているかは1970年代に発生したオイルショックがまざまざと知らしめています――原油価格の高騰に伴ってインフレの加速、インフレ予想の動揺、雇用の大きな落ち込みといった事態が発生しましたが、そのような事態が引き起こされた理由は長期的なインフレ予想が安定していなかったためでした――。

(インフレや雇用の)短期的な変動を和らげ、長期的な目標との乖離の埋め合わせを図るためには、「物価の安定」や「雇用の最大化」の達成を妨げるようなショックが発生した場合にそれにどう対応するつもりなのか態度をはっきりとさせておく必要があります。インフレに関する長期的な目標(「物価の安定」)と雇用に関する長期的な目標(「雇用の最大化」)とは時として補い合う関係にあります。つまりは、一方の目標を達成するためにはもう一方の目標の達成を犠牲にせざるを得ないとは必ずしも言えません。しかしながら、この2つの目標が対立する可能性もあり得ます。例えば、インフレに関する長期的な目標を達成するためには金融引き締めが求められる一方で、雇用に関する長期的な目標を達成するためには金融緩和が求められるといった状況がそうです。2012年1月の「コンセンサス声明」ではこの問題についても考慮されており、長期的な目標との乖離の程度(インフレや雇用がそれぞれ長期的な目標からどの程度乖離しているか)や乖離の埋め合わせに要するタイムスパンの違い(それぞれの乖離を埋め合わせるためにどの程度の時間を要するか)を勘案しつつ、それぞれの乖離の縮小に向けて「バランスのとれたアプローチ」を試みる旨が明らかにされています。この「バランスのとれたアプローチ」というのは、「雇用の最大化」と「物価の安定」は金融政策の目標として対等な地位にあるという立場を別様に表現したものだと言えるでしょう。

あくまでも私個人の考えですが、「コンセンサス声明」で宣言されている「バランスのとれたアプローチ」は強調に値する2つの特色を備えていると思われます。まず1つ目の特色は目標値の解釈に関わるものですが、長期的な目標からの乖離の縮小に向けて最善が尽くされるようであれば、現実の値(インフレ率や失業率)が目標値を上回る頻度(可能性)も下回る頻度(可能性)も同程度になることでしょう。例えば、「コンセンサス声明」ではインフレに関する長期的な目標は「2%のインフレ率」と語られていますが、この2%というのは上限値とは見なし得ないでしょう。上限値だとすると現実のインフレ率が2%を下回ることはままあっても上回ることはそうないということになるでしょうし、そうなったら「雇用の最大化」というもう一方の目標の達成が危ぶまれる可能性も出てくるでしょう。現実のインフレ率が2%を上回る可能性も下回る可能性も同程度になるようにするためには、2%という目標値は(現実のインフレがそこを中心として上下動を繰り返す)中心傾向のようなものとして解釈すべきということになるでしょう。雇用に関する長期的な目標値についても同様のことが言えるでしょう。

2つ目の特色は「バランスのとれたアプローチ」の本質を表すものだと個人的には思っているのですが、一方の側の乖離を縮小するためには時として他方の側の乖離の拡大を許容せねばならないということです。例えば、インフレを目標値まで引き下げるためには失業率が一時的に目標値を上回ろうとも金融引き締めに乗り出さざるを得ないといった場面があるかもしれません。あるいは、失業率を目標値まで引き下げるためにはインフレ率が一時的に目標値を上回ろうとも金融緩和に乗り出さざるを得ないといった場面もあることでしょう。

最適金融政策の模索:原則から行動計画へ

「コンセンサス声明」の中で語られている金融政策の長期的な目標と(その目標を達成するための)戦略に関する諸原則を目の前にある経済問題に対処するための具体的な行動計画に落とし込むにはどうしたらよいでしょうか? そして幸いにも具体的な行動計画が作成できた暁にはそれを国民やマーケットに伝える必要がありますが、その内容が誰にでもすんなりと理解できるようにするにはどうすればよいでしょうか? 以下では最善の行動計画を練り上げるための私なりの手法を一例として解説してみることにします。そしてその後にFOMCが金融政策の方針について国民やマーケットとの間でどのようにコミュニケーションを図っているのかその現状を説明し、コミュニケーション戦略の分野でさらなる改善を果たすためにはどうすればよいかについても論じることにしましょう。

どういった政策を採用すべきかといった問題を具体的に論じるためには政策目標が何かをはっきりと特定する必要がありますが、それだけでは十分ではありません。比較対象となる経済見通し(ベースライン見通し)を特定し、さらには現実のデータとのあてはまりがよいマクロ計量モデルの助けを借りて代替的な政策手段が目標として掲げられている変数――インフレ率や失業率――の先行きにどういった影響を及ぼす可能性があるかをシミュレーションしてみる必要もあります。図1にはベースライン見通しの一つが黒色の実線で表されています。これはプライマリー・ディーラーに指定されている金融機関への聞き取り調査をもとにして作成されたもの(聞き取り調査は前回(2012年9月)のFOMCが開催される直前に実施)です。上部の2つのグラフでは失業率とインフレ率の先行きに関する見通しが描かれていますが、2015年までに関してはプライマリー・ディーラーから寄せられた回答の中央値(メディアン)がとられています。そして2015年以降の見通しに関しては次のような想定を置いています。失業率に関してはプライマリー・ディーラーたちが予測する「長期的に見て標準的(正常)だと考えられる失業率」の中央値(メディアン)である6%――2012年1月の「コンセンサス声明」で明らかにされている「長期的に見て標準的(正常)だと考えられる失業率」の予測レンジの上限値と同じ水準――に徐々に接近していき、インフレ率に関してはプライマリー・ディーラーたちが予測する長期的なインフレ率の中央値(メディアン)であり、またFedの長期的な目標でもある2%に徐々に落ち着いていくとの想定を置いています。

図1 政策シミュレーションの結果

図1の下部のグラフではフェデラル・ファンド金利の先行きに関するプライマリー・ディーラーの予測が黒色の実線で描かれています。2015年いっぱいまでに関してはプライマリー・ディーラーたちの予測の中央値(メディアン)がとられていますが、フェデラル・ファンド金利は2015年の上半期までは現状のほぼゼロ%の水準に据え置かれるとの予測結果となっています。聞き取り調査が実施された直後(2012年9月)に開催されたFOMCではフォワードガイダンスに修正が加えられて「少なくとも2015年半ばまではフェデラル・ファンド金利を現状の極めて低い水準に据え置く予定である」との方針が明らかにされましたが、プライマリー・ディーラーの予測はその修正を先読みしていたわけです。一方で、2015年以降に関してはフェデラル・ファンド金利はプライマリー・ディーラーの大半(プラスFOMCに参加するメンバーの大半)が長期的な均衡値と考える4%に向けて徐々に上昇を続け、最終的に4%に落ち着くまでには4年を要するとの想定を置いています16

プライマリー・ディーラーが予測するフェデラル・ファンド金利の先行き(フェデラル・ファンド金利に関するベースライン見通し)は「コンセンサス声明」の中で語られている「バランスのとれたアプローチ」から示唆されるフェデラル・ファンド金利の先行きと果たして一致するでしょうか? これから先はこの問題に取り組んでみたいと思います。先ほども指摘したように、「バランスのとれたアプローチ」ではインフレや失業が時として一時的に長期的な目標から乖離する可能性を許容しつつも、その乖離の縮小に向けて政策を調整していくことに主眼が置かれます。「バランスのとれたアプローチ」からはフェデラル・ファンド金利の先行きについてどのような示唆が導き出されるでしょうか? この疑問に取り組むためにはマクロ計量モデルの助けを借りる必要がありますが、ここではFedでも広く利用されているFRB/USモデルを利用することにしましょう。フェデラル・ファンド金利の先行きについて考え得るありとあらゆるシナリオを想定した上で失業率やインフレ率の先行きについて(実現可能な結果のうちで)最善の結果をもたらすシナリオがどれであるかをFRB/USモデルを使って探り当てるわけです。シミュレーションの具体的な結果(数値結果)はFRB/USモデルの特性に依存する面がありますが、シミュレーションの結果に備わる広く一般的に妥当する定性的な特徴についてもコメントを加えることにしましょう。

「バランスのとれたアプローチ」に則って金融政策を運営するとした場合にフェデラル・ファンド金利の先行きに関してどのようなシナリオが最善と言えるかを検討するにあたっては次のような想定を置くことにします。インフレに関する長期的な目標は2%のインフレ率であり、雇用に関する長期的な目標は6%の失業率とした上で、金融政策は2つの乖離――インフレ率とその長期的な目標との乖離、失業率とその長期的な目標との乖離――の最小化を目的として運営されるものとします17。その際、どちらの乖離に対しても同じ大きさのウェイトを置くことにします。フェデラル・ファンド金利に関する最善のシナリオは「最適金融政策」とも呼び得るわけですが、国民はフェデラル・ファンド金利が「最適金融政策」に沿って設定されると予想した上で意思決定を行い、「最適金融政策」が経済にどういった効果を及ぼすかについても自分の頭で判断できるという想定も置くことにします18

FRB/USモデルを使ってシミュレーションを行い、その結果として見出された「最適金融政策」を描写したのが図1の三角マーク(△)を伴う青線です。下部のグラフにあるように、「バランスのとれたアプローチ」の立場からすると、フェデラル・ファンド金利は2016年初頭までは現状のほぼゼロ%の水準に据え置くのが望ましい(そうするのが最善(最適)だ)ということであり、ベースライン見通し(黒色の実線)と比べるとフェデラル・ファンド金利の引き上げはおよそ2四半期だけ遅れる(後ろにずれる)格好になっています。さらには、ゼロ金利解除に踏み切った後もしばらくの間は(2018年までは)フェデラル・ファンド金利をベースライン見通しよりも低い水準に設定し続けるべきだという結果にもなっています。上部の2つのグラフにあるように、「バランスのとれたアプローチ」から示唆されるこのような極めて緩和的な政策スタンスが採用される結果として、失業率はベースライン見通しよりも速いペースで低下する一方、インフレ率は長期的な目標である2%を若干上回る期間が数年にわたって続くという推計結果が得られています。

図1の上部の2つのグラフに表されている失業率とインフレ率の動きは「バランスのとれたアプローチ」(の下での最適金融政策)に備わるキーとなる特徴の一つをうまく描き出しています。失業率が(長期的な目標である)6%に向けて低下するというのはベネフィット(便益)であり、インフレ率が(長期的な目標である)2%を上回るというのはコストと見なすことができるわけですが、長期的なインフレ予想が安定している限りはフェデラル・ファンド金利の水準はそのようなベネフィットとコストを見比べた上で(大小を比較した上で)決めるべきだという姿勢が描き出されているのです(今回のシミュレーションでは、失業率の低下ペースを速めることの対価としてインフレ率が一時的に2%を若干上回るという格好になっています)。「最適金融政策」に従ってフェデラル・ファンド金利が設定される場合には失業率はベースライン見通しよりも速いペースで低下するという推計結果が得られているわけですが、そうなる理由は一言で言うと総需要が喚起されるからですが、もっと細かく言うと(フェデラル・ファンド金利がプライマリー・ディーラーの予測に沿うようにして設定される場合と比べて)名目金利や実質金利が低く抑えられ、資産価格の上昇がもたらされるだけではなく、「雇用や所得が将来的にもっと速いペースで伸びる(増える)のではないか」という予想が生み出されるためです19

マクロ計量モデルを使って最適な金融政策(フェデラル・ファンド金利の先行きに関する最善のシナリオ)を探り当てる作業というのは複雑極まりないものであり、その内容を国民に伝えるためにはかなり骨を折らざるを得ません。シミュレーションを行う上では経済見通しやマクロ経済の構造ついて数多くの想定を置く必要もあります。それとは対照的に、フェデラル・ファンド金利の設定を政策ルールに委ねるというやり方はずっとシンプルな方法だと言えます。そのような政策ルールの例としてはテイラー・ルールが有名ですが、通常の状況――時折ショックに見舞われることがあるにしても、このたびの金融危機のような大規模なショックには晒されないでいる状況――においてはシンプルな政策ルールは最適な金融政策と極めて近い答え(フェデラル・ファンド金利の先行きに関する最善のシナリオ)を弾き出す傾向にあることがこれまでに積み重ねられた数多くの研究によって示されています。さらには、(ジョン・テイラーが1993年に提唱した)オリジナルのテイラー・ルールにちょっとした修正を施した「修正版テイラー・ルール」は1980年代後半から金融危機直前までのFedの実際の行動をかなりうまく説明できることが実証研究によって示されてもいます。マーケット(金融マーケット)を根城とする投資家らはFedの過去の行動や(テイラー・ルールを代表とする)シンプルな政策ルールに精通していることでしょうが、そうだとすると政策ルールに従ってフェデラル・ファンド金利の先行きを決定する方法を選んだほうが金融政策の将来の方向性について国民やマーケットとの間でコミュニケーションを図る上では都合がいいかもしれません20。金融政策の決定はコンピューターに丸投げしてしまえばよいとまではさすがに言いませんが、フェデラル・ファンド金利を政策ルールに委ねて決定するという可能性を真剣に検討してみてもよさそうなものです。 しかしながら、そうすべきではないというのが私の意見です。

なぜそう考えるかというと、今の現状は決して通常の状況とは言えないからです。シンプルな政策ルールは通常の状況においては確かに抜群の成果を誇ってはいますが、通常の状況とは決して言えない現状――景気の足を引っ張る逆風がしぶとく吹き続けており、フェデラル・ファンド金利がゼロ%の下限に達してしまっている現状――においても同様の成果を上げ得るかというと疑問なのです。この点についてはマクロ計量モデルを使ったシミュレーションで証拠立てることができます。図1の四角マーク(□)を伴う赤色の点線は「修正版テイラー・ルール」に従ってフェデラル・ファンド金利が設定された場合の(インフレ率や失業率の先行きに関する)予測結果を表したものです。「修正版テイラー・ルール」はオリジナルのテイラー・ルールとほぼ同じものと見て構いませんが、産出量ギャップ(GDPギャップ)に対してオリジナルよりも強めに反応する(フェデラル・ファンド金利の調整幅が大きい)仕様になっています。

図1にあるように、「修正版テイラー・ルール」に従ってフェデラル・ファンド金利が設定される場合には「最適金融政策」(「バランスのとれたアプローチ」)のケース(三角マークを伴う青線)よりもずっと早い段階でゼロ金利解除に踏み切られ、その結果として失業率が「長期的に見て標準的(正常)だと考えられる」水準(6%)を上回る期間が長引くという結果が得られています。インフレ率を長期的な目標である2%に保つ上でも目覚しい成果が上げられるわけでもありません。つまりは、「最適金融政策」は「修正版テイラー・ルール」(に従ってフェデラル・ファンド金利が設定される場合)よりも良好な結果をもたらす可能性が高いわけです。フェデラル・ファンド金利がゼロ%の下限に達しており、景気の足を引っ張る強烈な逆風がいつになくしぶとく吹き続けている現状においては、「修正版テイラー・ルール」が示唆するよりも長い期間にわたってフェデラル・ファンド金利を低い水準に抑え込む――景気回復に向けた動きが定着した後もなお金融緩和スタンスを維持する――必要があり、そのようなかたちで(景気の低迷が続いているもかかわらずゼロ%の下限に達してしまっているために)フェデラル・ファンド金利を引き下げたくとも引き下げられないでいる時期の埋め合わせを図るのが「最適金融政策」だと言えるでしょう21

コミュニケーション戦略の未来

現状においてはシンプルな政策ルールは金融政策に対する指針を提供する上でかつてほど(通常の状況においてほど)には有用ではない可能性があるわけですが、そうなりますと国民やマーケットとの間でコミュニケーションを図る上で大きな難題を背負い込むことを意味することになります。(金融政策の行く末の予測を仕事とする)民間のFedウォッチャーはFOMCの決定を理解したり、フェデラル・ファンド金利の今後の行方を予測する上で政策ルールを頼りにすることが多いことを考えると、なおさらそう言えるでしょう22。従来の経済見通しの見直しを迫るような新たなニュースが明らかになると、フェデラル・ファンド金利の先行きに関する予想も見直す必要が出てきますが、Fedウォッチャーたちはその際に政策ルールを頼りにすることが多いのです。

しかしながら、今の現状においては政策ルールから弾き出されるところとはかけ離れた水準にフェデラル・ファンド金利を定める必要があるやもしれず、そのような状態が今後数年間にわたって続く可能性があります。さらには、前回(2012年9月)のFOMCでは新たな大規模資産購入プログラムの導入が決定されましたが、資産の購入総額を前もって定めないオープン・エンド型という従来にない特徴を備えています。つまりは、Fedがこの新たな手段を今後どのように行使していくつもりであるのかその先行きを予想する上で頼りとすべき前例がない状態なのです。Fedウォッチーたちは経済見通しの変更に伴って金融政策の先行きに関する予想をどう見直していったらよいのかといつになく頭を悩ましており、金融政策の先行きを見通す上で頼りとなる情報をFedの側から提供していくことが極めて重要となっているのが現状なわけです。金融政策の長期的な目標やその目標を達成するための戦略を明確にすることはそのためにも重要でありまた欠かせない任務だと言えますが、先ほど紹介したシミュレーションを思い返していただければわかるように、(金融政策の長期的な目標や戦略に関するFedの立場が明記されている)「コンセンサス声明」から具体的な行動計画(フェデラル・ファンド金利の先行きに関する最善のシナリオ)を導き出すためには数々の想定を置いたり別種の情報を追加的に入手する必要があるのです。

今後しばらくの間はフェデラル・ファンド金利がゼロ%の下限にとどまったままの状態が続き、経済成長の加速を促すための手段としてオープン・エンド型の大規模資産購入プログラムが積極的に活用されることになるでしょう。そういった状況の中で政策意図を効果的に伝えていくためにはどうしたらよいか? これこそがFedが現在抱えている課題ですが、その課題に対する取り組みはもう既に始まっていると言えるでしょう。FOMCの会合後に発表される声明を例に挙げると、FOMCはゼロ金利解除(フェデラル・ファンド金利の引き上げ)の検討をはじめる日時として早くて2015年半ばあたりが妥当だと考えるという立場を明らかにしています。先ほどのシミュレーションをご覧いただければわかるように、少なくとも2015年半ばまでフェデラル・ファンド金利を現状のほぼゼロ%に据え置くという話になると、「修正版テイラー・ルール」のケースよりもゼロ金利解除の時期は遅れる(後ろにずれる)ことになり、「最適金融政策」のケースと非常に近い結果ということになります。「修正版テイラー・ルール」に従ってフェデラル・ファンド金利を設定する場合よりもゼロ金利解除の時期を遅らせるということは声明文の表現を借りると「景気回復がその勢いを強めた後もなおしばらくの間は現状の極めて緩和的な金融政策のスタンスを維持することが適切である」というようにも読み替えることができるでしょう23。ゼロ金利解除に踏み切った後にフェデラル・ファンド金利をどのようなペースで引き上げていくべきかという話についてもついでに言及しておきましょう。シミュレーションの結果ではしばらくの間はフェデラル・ファンド金利は「修正版テイラー・ルール」のケースを下回る水準にとどめておくのが望ましいという結論が得られています。さらに、FOMCの声明では大規模資産購入プログラムの先行きに関しても立場が明らかにされています。資産の購入がもたらす効果とコストの双方を絶えず勘案しつつも、「労働市場の見通しに大幅な改善が見込まれるまで(ただし、物価の安定を損なわない限りにおいて)」資産の購入を続ける予定であるというのがそれです。前回(2012年9月)のFOMCで新たに導入が決まった大規模資産購入プログラムは資産の購入総額を前もって定めないオープン・エンド型であり、「雇用の最大化」という目標の達成状況に応じて資産の購入総額が変わり得るという重要な特徴(目標志向のアプローチ)を備えています。

コミュニケーションのさらなる強化を図ることは可能でしょうか? 図1のようなかたちでFOMCも独自の予測を明らかにするというのはこれまでの流れから自然と出てくる強化策の候補の一つだと言えるでしょう。その時々の経済見通しを踏まえた上で、フェデラル・ファンド金利やバランスシートの先行きに関してFOMCなりに最善と判断するシナリオを明らかにし、仮にそのシナリオ通りに金融政策が運営されたとしたらインフレ率や失業率が今後どのような推移を辿ると予測されるかを公にするのです。経済見通しの見直しを迫るような新たなニュースが明らかになったり、FOMCが政策スタンスの転換に踏み切る決定を下すのに応じて予測の内容にも修正が加えられることになるでしょう。「インフレ目標」を採用している国の中にはそのような予測を既に発表しているところもあります――例えば、スウェーデンやノルウェーがそうです――。そのような予測が発表されることになれば極めて有用な情報源となる可能性がありますが、FOMCでも図1のようなかたちで予測を明らかにすることが可能かどうかをめぐって検討が続けられている最中です。とは言え、FOMCは総勢で19名のメンバーを抱える大所帯であり、マクロ経済の構造や望ましい政策スタンスについてそれぞれのメンバーの間で意見に違いがあっても驚くにはあたりません。しかし、そのことを踏まえるとFOMCの参加メンバー全員が一致して同意するような詳細な予測を練り上げるのは極めて困難だと考えられます。その代わりとして、メンバー個人ごとの予測――SEPの中で明らかにされているメンバー個人ごとのマクロ経済予測や望ましい政策スタンスに関する見解をそのまま利用できるでしょう――がFOMC全体の判断(決定)に及ぼす影響を辿ることを可能とするような何らかの情報を提供することはできるかもしれません。FOMCではこの線に沿った(コミュニケーションの)強化策を取り入れることができるかどうかをめぐって熱い議論が交わされている最中です24

その他にも真剣な考慮に値する強化策の候補はあります。現在のところはフェデラル・ファンド金利の先行きは具体的な日時と結び付けられるかたちで語られていますが――フェデラル・ファンド金利は「少なくとも2015年半ばまでは」現状のほぼゼロ%の水準に据え置く――、ゼロ金利解除に踏み切るとされる日時と経済見通しとがどう関係するのかわかりやすく説明するというのは一考に値するでしょう。さらにもう一歩踏み込んで、フェデラル・ファンド金利の先行きを具体的な日時と結び付けるのはもう辞めにして、その代わりにどういった条件が満たされればゼロ金利解除に踏み切るのが妥当だと考えられるかを明らかにするという方法もあり得ます。FOMCのメンバーの間からはそのような線に沿った提案が既にちらほらと語られていますが、私も個人的にはそのような提案には大いに賛成です。失業率やインフレ率がどの程度の水準に達したらゼロ金利解除に踏み切るのが妥当だと考えられるかを具体的な数値(閾値)のかたちで明示するという話になるわけですが、例えばシカゴ連銀の総裁を務めるチャールズ・エバンズ(Charles Evans)は次のように提案しています。中期的なインフレ率が3%を下回っている限りは失業率が少なくとも7%を下回るまではフェデラル・ファンド金利を現状のほぼゼロ%の水準に据え置くべきだ、と。また、ミネアポリス連銀の総裁を務めるナラヤナ・コチャラコタ(Narayana Kocherlakota)も同様の提案を行っており、中期的なインフレ見通しが2.25%を下回っている限りは失業率が少なくとも5.5%を下回るまではフェデラル・ファンド金利を現状のほぼゼロ%の水準に据え置くべきだと語っています。 ただし、注意しておくべきはインフレ率や失業率が閾値に達したからといって自動的にゼロ金利が解除されるわけではなく、ゼロ金利を解除すべきかどうかをめぐってはFOMC内部での慎重な検討を待つ必要があるでしょう。

仮にこのようにしてゼロ金利解除の条件(閾値)が明示されるようになれば、従来の経済見通しの見直しを迫るような新たなニュースが明らかになったとしても、国民はゼロ金利解除のタイミングがいつになりそうかを容易に見直すことができるようになることでしょう。私がこの種の提案に賛成するのもそのためです。ゼロ金利解除の条件(閾値)が明示されるようになると経済の中に一種の自動安定化装置が埋め込まれることにもなります。経済見通しの下方修正を迫るようなニュースが届いた場合には国民はゼロ金利解除の時期は遠のくと予想するでしょうし、その反対に経済見通しの上方修正を迫るようなニュースが届いた場合には国民はゼロ金利解除の時期は早まると予想することでしょう。このように予想の自動的な調整が促されると期待されるのです。

インフレ率や失業率に関する閾値が設定される(ゼロ金利解除の条件が明示される)ことにはさらに重要な意味合いもあります。(仮にフェデラル・ファンド金利の先行きがこれまでと同様に具体的な日時と結び付けられるかたちで語られるままだとして)FOMCがゼロ金利解除に踏み切る日時を変更した場合、その理由はFOMCが経済見通しを見直したためなのか、それともFOMCが望ましい政策スタンスに関する見方を変えたためなのかということになりますが、インフレ率や失業率に関する閾値が設定されることになればどちらの理由でそうなったのか国民としても区別しやすくなる可能性があるのです。中央銀行がどのような(経済情勢の変化に対する中央銀行のシステマティックな反応を記述する)政策反応関数に従っており、国民がそれをどう認識しているかによって金融政策の効果が大きく左右されることを考えると、この区別をはっきりさせることは極めて重要です25

結び

これまでの数年の間にFedによるコミュニケーション戦略の分野ではいくつかの重要な変化が見られました。そのような変化――イノベーション(革新)とも表現できるでしょうが――はFedが国民に対して説明責任を果たす上で大きな後ろ盾となることでしょう。しかしながら、コミュニケーション戦略の分野において改善が果たされることにはそれ以上の意味があります。金融政策の伝統的な手段であるフェデラル・ファンド金利がゼロ%の下限に達し、それゆえ金融政策を通じて景気を下支えする能力に制約が課されてしまっている。そのような状況において金融政策の効果を高めるにはどうすればよいか? コミュニケーションの改善を図るというのがその答えの一つだと私には思われるのです。これまでにもコミュニケーション戦略の分野では前進が遂げられてきてはいるものの、まだまだやるべき仕事は多い。私はそう考えています。

  1. 原注1;今回の講演を準備するにあたり、FRBのスタッフであるJon FaustとThomas Laubach、そしてJohn Maggsより貴重なサポートを頂戴しました。 []
  2. 原注2;大規模資産購入プログラムの詳細(資産の購入額や購入ペースはどうするか、どの資産を購入対象に含めるか)は資産の購入がもたらす効果とコストの双方を勘案した上で決定される旨も明らかにされています。詳しくは会合後に発表された声明(Board of Governors of the Federal Reserve System (2012), “Federal Reserve Issues FOMC Statement“, 9月13日発表)をご覧ください。 []
  3. 原注3;Board of Governors of the Federal Reserve System (2012), “Federal Reserve Issues FOMC Statement of Longer-Run Goals and Policy Strategy” (1月25日発表)。2012年1月の声明はFOMC内部で1990年代初頭から続けられてきた長い議論が結実したものだと言えます。2003年にバーナンキ議長(当時は理事でした)も次の講演の中で金融政策の長期的な目標に関して個人的な提案を行っています。Ben S. Bernanke (2003), “Panel Discussion” (speech delivered at the 28th Annual Policy Conference: Inflation Targeting Prospects and Problems, Federal Reserve Bank of St. Louis, St. Louis, Missouri, October 17)。この問題についての私自身の考えは時とともに徐々に形作られました。例えば、2006年初頭段階における私自身の考えについては次の講演を参照してください。Janet L. Yellen (2006), “Enhancing Fed Credibility“(speech delivered at the Annual Washington Policy Conference Sponsored by the National Association for Business Economics, Washington, March 13) []
  4. 原注4;Keith Bradsher (1994), “Tough-Decision Time for the Federal Reserve; New Vice Chairman Stirs the Board’s Pot,” New York Times, September 26. []
  5. 原注5;Milton Friedman (1962), “Should There Be an Independent Monetary Authority?” (in Leland B. Yeager, ed., In Search of a Monetary Constitution (Cambridge, Mass.: Harvard University Press), pp.219-43)、James Tobin (1992), “Prepared Statement”(in The Monetary Policy Reform Act of 1991, hearing before the Subcommittee on International Finance and Monetary Policy of the Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs, U.S. Senate, November 13, 1991, S.1611, 102 Cong. (Washington: Government Printing Office), pp. 25-33) []
  6. 原注6;David R. Merrill and others v. Federal Open Market Committee of the Federal Reserve System, U.S. District Court of the District of Columbia, 443 U.S. 340 (1979). 当時はディレクティブは次回のFOMCが開催されるまで公表されずにいました。つまりは、新たなディレクティブが纏められた後に前回のディレクティブが公表されるというかたちになっていたわけであり、ディレクティブは効力を失った後に公表されていたわけです。 []
  7. 原注7;ルーカスが主たる分析の対象としたモデルでは金融政策における「予想外の行動(決定)」だけが実体経済に影響を及ぼすことが示されていますが、ここでの問題関心に引き寄せた上でルーカスの研究が投げ掛ける重要な洞察は何かということになれば次のように言えるでしょう。金融政策における個々の決定――あらかじめ予想されていたものであれ、予想外のものであれ――が持つ効果は金融政策がどんなルールに従って運営されているか(それもそのルールがどんなものであると国民が認識している(信じ込んでいる)か)によって大きく左右されるということです。 []
  8. 原注8;FOMCは2011年6月の会合で「出口戦略」についても検討しており、その内容は議事要旨でも読むことができます(Board of Governors of the Federal Reserve System (2011), Minutes of the Federal Open Market Committee, June 21-22)。議事要旨によると、Fedのバランスシートの(規模およびその内訳をめぐる)正常化は政府機関債の売却を通じて進めていく方針とのことであり、フェデラル・ファンド金利の誘導目標が引き上げられた後に政府機関債をゆっくりとしたペースで徐々に売却していく予定とのことです。 []
  9. 原注9;理論的な話をすると、Fedのバランスシートの先行き――最終的にどれだけの額の資産がバランスシート上で保有されそうか、一旦購入された資産が売却されずにいる(バランスシート上で保有され続ける)期間はどのくらいの長さになりそうか――に関して国民がどのような予想を抱くかによって現時点の長期金利や(長期金利の構成要素である)タームプレミアムの水準に違いが生まれる可能性があります。その効果の大きさを推計した実証研究としては例えば次の論文をご覧ください。Canlin Li and Min Wei (2012), “Term Structure Modeling with Supply Factors and the Federal Reserve’s Large Scale Asset Purchase Programs,” Finance and Economics Discussion Series 2012-37 (Washington: Board of Governors of the Federal Reserve System, May). []
  10. 原注10;1990年代初頭に設置された同様の小委員会ではFOMCの議事録や議事要旨の公表をめぐる問題が話し合われました。現在ではFOMCの会合が終わるとその直後に声明が発表されるようになっていますが、そのような慣行を生むきっかけとなったのは1999年に設置された小委員会です。2006年に設置された小委員会(当時の副議長であるドナルド・コーン(Donald Kohn)がこの小委員会を率いました)ではインフレに関する数値目標の導入の是非が争点となりました。2006年の小委員会で提案されたコミュニケーション戦略の強化策はその後SEPの中に取り込まれるに至っています。 []
  11. 原注11;この点については例えば次の2つの論文をご覧ください。Lars E.O. Svensson (1999), “Inflation Targeting as a Monetary Policy Rule“(Journal of Monetary Economics, vol. 43 (June), pp. 607-54)、Jon Faust and Dale W. Henderson (2004), “Is Inflation Targeting Best-Practice Monetary Policy?“(Federal Reserve Bank of St. Louis Review, vol. 86 (July/August), pp. 117-44) []
  12. 原注12;Board of Governors (2012), “FOMC Statement of Longer-Run Goals and Policy Strategy“(1月25日発表) []
  13. 原注13;消費者物価(ないしは生活費)の計測を目的として作成されている指数としてはPCEデフレータ以外にもいくつかありますが、PCEデフレータも含めていずれも上方バイアス(実態よりも数値が高く出る)の問題を抱えていることが知られています。上方バイアスの問題を考慮すると、ゼロ%のインフレ率というのはPCEデフレータで測って若干プラスの値――おそらくプラス0.5%程度――に相当することになるでしょう。 []
  14. 原注14;予想外のデフレがいかに有害な効果を伴うかについてはバーナンキ議長がまだ(FRBの)理事を務められていた時代(2002年)に行った次の講演をご覧ください。Ben S. Bernanke (2002), “Deflation: Making Sure ‘It’ Doesn’t Happen Here,” speech delivered at the National Economists Club, Washington, November 21.) []
  15. 原注15;Board of Governors (2012), “FOMC Statement of Longer-Run Goals and Policy Strategy“(1月25日発表) []
  16. 原注16;新たな大規模資産購入プログラムの導入が決定されたのはプライマリー・ディーラーに対する聞き取り調査が実施された直後の(2012年9月に開催された)FOMCの会合においてだったわけですが、(プライマリー・ディーラーに対する聞き取り調査をもとにして作成された)ベースライン見通しの中には資産購入プログラムの多少の効果が前もって織り込まれている可能性があることは指摘しておくべきかもしれません。聞き取り調査ではFOMCが新たな大規模資産購入プログラムの導入に踏み切る可能性をどの程度と見積もるかについても問われており、2012年9月の会合で導入される確率についてはプライマリー・ディーラーたちの予測の中央値(メディアン)は55%となっており、1年以内に導入される確率についてはプライマリー・ディーラーたちの予測の中央値(メディアン)は70%という結果になっています。また、新たに大規模資産購入プログラムが導入された場合に資産の購入額はどの程度に上ると予想するかについても問われていますが、プライマリー・ディーラーたちの予測の中央値(メディアン)はおよそ5000億ドルという結果になっています。現在Fedは景気を下支えするために(フェデラル・ファンド金利の先行きに関する指針を提供する)フォワードガイダンスと(大規模資産購入プログラムを通じた)バランスシートの拡大という2つの手段を行使していますが、これから紹介するシミュレーションではバランスシートの規模はベースライン見通しのケースと同じで変わらず、フェデラル・ファンド金利の先行きに関するシナリオだけを変化させてその効果を検証しています。 []
  17. 原注17;中央銀行は「損失関数」の最小化を目的として金融政策を運営するものと見なされるわけですが、「損失関数」は正確には次の3つの項の和として表現されることになります。まず第1項はインフレ率とその長期的な目標との乖離を表すものであり、現在から将来にわたる現実のインフレ率と目標インフレ率(2%)との乖離(差)の2乗の割引現在価値の合計として表現されることになります。第2項は失業率とその長期的な目標との乖離を表すものであり、現在から将来にわたる現実の失業率と長期的な均衡失業率(6%)との乖離(差)の2乗の割引現在価値の合計として表現されることになります。そして第3項にはフェデラル・ファンド金利の四半期ごとの変動幅を表す式が入ることになります。「損失関数」の中にフェデラル・ファンド金利の四半期ごとの変動幅を表す式が含まれる理由は、「最適金融政策」においてフェデラル・ファンド金利が短期間の間にあり得ないほど大幅に変動する可能性を排除するためです。 []
  18. 原注18;今回のシミュレーションでは資産の購入を通じたFedのバランスシートの拡大規模についてはベースライン見通しのケースと同じ想定を置いています。新たな大規模資産購入プログラムが導入された場合に資産の購入額がどのくらいに上ると予想されるかという問いに対してプライマリー・ディーラーたちの事前の予測の中央値は5000億ドルという結果になっており、その予測はベースライン見通しの中にも既に織り込まれていると考えられます。FRB/USモデルを使って最適化問題を解く際には、フェデラル・ファンド金利の先行きだけではなく、バランスシートの先行き(資産の購入規模や購入ペース)も同時に選択肢に含めることは原則としては可能ではありますが、 そのシミュレーションの結果は資産購入がもたらすコスト――Fedによる資産の購入が金融市場に歪みをもたらす可能性など――についてどのような想定を置くかによって大きく左右される可能性があります。 []
  19. 原注19;2011年6月にFOMCは「出口戦略に関する原則」の採用を決めましたが、バランスシートの正常化はゼロ金利が解除された後に着手され、バランスシートの正常化を進める過程では政府機関債をゆっくりとしたペースで徐々に売却していく予定であることが述べられています。今回のシミュレーションではFedは「出口戦略に関する原則」と同様の手続きに従って資産の売却を進めていくものと想定しています。「最適金融政策」においてはフェデラル・ファンド金利は相当長い期間にわたってほぼゼロ%の水準に据え置かれ、ゼロ金利解除後もゆっくりとしたペースでしか上昇しませんが、その理由の一つは「出口戦略に関する原則」と同様の手続きに従ってバランスシートの正常化が進められるとの想定が置かれているためです。 []
  20. 原注20;「修正版テイラー・ルール」を式のかたちで表すと次のようになります。Rt = 2 + pt + 0.5(pt – 2) + 1.0Yt. R はフェデラル・ファンド金利、p はインフレ率(ヘッドラインPCEデフレータの前年同期比で測った変化率)、Y は産出量ギャップ(GDPギャップ)です。産出量ギャップ(GDPギャップ)の近似的な値は次の「オークンの法則」を使って求めることができます。Yt = 2.0 (6 – Ut). 2.0というのはオークン係数の推定値、6というのはNAIRU(非インフレ加速的失業率)の推定値、U は失業率です。つい最近の講演(Janet L. Yellen (2012), “The Economic Outlook and Monetary Policy,” speech delivered at the Money Marketeers of New York University, New York, April 11)では「修正版テイラー・ルール」のことを”Taylor (1999)”と呼びましたが、その理由はジョン・テイラーが1999年に発表した次の論文の中でこのように定式化しているためです。John B. Taylor (1999), “A Historical Analysis of Monetary Policy Rules,” in John B. Taylor, ed., Monetary Policy Rules (Chicago: University of Chicago Press), pp. 319-41. テイラー自身は彼が1993年に初めて定式化したオリジナルのテイラー・ルールのほうがお気に入りのようですので、そのことを踏まえてここでは1999年版のテイラー・ルールを「『修正版』テイラー・ルール」と名付けることにしました。 []
  21. 原注21;オリジナルのテイラー・ルール――「修正版テイラー・ルール」と比べると産出量ギャップ(GPギャップ)に対して半分の大きさのウェイトしか与えられていません――に従ってフェデラル・ファンド金利が設定される場合にはゼロ金利解除の時期はもっと早まり、そのため図1に掲げられているいずれのケースよりも散々な結果が待ち受けていることでしょう。 []
  22. 原註22;ベースライン見通し――2015年いっぱいまでの予測に関してはプライマリー・ディーラーに対する聞き取り調査をもとにして作成されています――では「修正版テイラー・ルール」に従ってフェデラル・ファンド金利が設定される場合よりも若干金融緩和寄りのスタンスが採用される格好となっていますが、そのような次第になっているのはFOMCによるコミュニケーションの努力の甲斐あって金融緩和を継続することの必要性が幾分か受け入れられた証拠だと言えるかもしれません。 []
  23. 原注23;Board of Governors (2012), “Federal Reserve Issues FOMC Statement“(9月13日発表) []
  24. 原注24;SEPでは二重の責務(デュアル・マンデート)を達成する上で適切だと考えられる政策スタンスについてメンバーごとの見解が明らかにされており、仮に自分が適切だと考える政策が採用されたとしたら失業率や実質GDP成長率、インフレ率が今後どのような推移を辿ると予測するかについても記載されています。しかしながら、SEPをご覧いただければ一目瞭然ですが、それぞれのメンバーの間ではゼロ金利解除のタイミングやゼロ金利解除後のフェデラル・ファンド金利の引き上げペースといった話題をめぐって意見に大きな違いが見られます。さらには、SEPでは今後数年間にわたるインフレ率や実質GDP成長率、フェデラル・ファンド金利の先行きに関するメンバー間の予測の分布状況がぞれぞればらばらにまとめられており、多変量予測のかたちでその情報が要約されているわけではありません。そのため、例えば2015年にインフレ率が高まるという予測を一目見ても、その予測が経済の潜在的な供給力について悲観的な見方をしている(潜在的な供給力の弱々しさを反映して実体経済の低迷が続くことを予想している)メンバーによってなされたものなのか、それとも(「最適金融政策」のシナリオに肯定的な立場から)失業率の低下ペースを速めるためにインフレが今後しばらくの間は若干高くなっても構わないと考えている(力強い景気回復に伴ってインフレ率が高まると予想している)メンバーによってなされたものなのかが判別できない状態になっています。 []
  25. 原注25;大規模資産プログラムに関しても閾値を設定する(どういった条件が満たされれば資産の購入を終了するか、あるいはバランスシートの縮小に乗り出すかを明示する)ことは可能ではあります。しかしながら、資産購入の終了やバランスシートの縮小をめぐる決定は資産の購入がもたらす効果とコストをFOMCがどう評価するかにも依存することでしょう。その評価については今もなお手探りが続いている段階です。 []

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