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タイラー・コーエン「ポール・サミュエルソンのマクロ経済学はどれくらいよかったんだろう?」(2021年8月13日)

[Tyler Cowen “How good was Paul Samuelson’s macroeconomics?” Marginal Revolution, August 13, 2021]

ニコラス・ウォプショットの新著クルーグマンの書評 (NYT) を読んでみて,ちょっとばかり楽観的すぎるように思えた.そこで,マクロ経済学者としてのポール・サミュエルソンをあらためて考えてみた.残念ながら,いいお知らせは報告できない.というか,サミュエルソンはマクロ経済学者としてまるっきりお粗末だった――なんなら酷いと言ってもいい.

たとえば,1970年代序盤に,ニクソン大統領の賃金・物価統制をめぐる論争があった.サミュエルソンが実際にとっていた立場については,見解の相違が多少ある.ウォプショットの主張では,サミュエルソンはニクソンによる賃金・物価統制に反対していたそうだけれど (p.152),事実とはちがっているようだ.たとえば,Los Angels Times では,サミュエルソンがこんな意見を表明していたと伝えられている: 「賃金・物価制御によって,彼[ニクソン]はより急速な短期的な経済回復を確実にし,1972年選挙の圧勝を確保した.」 もしかすると,全面的に支持していたわけではないのかもしれない.でも,1971年8月17日に ABC Evening News でサミュエルソンがこう発言しているのを考えてみよう: 「90日間の〔賃金・物価〕凍結でインフレ問題が解決されるとは,思いませんね.ただ,なんらかの所得政策への第一歩ではあるでしょう.穏やかに黙殺しても,うまくはいきませんでした.大統領が指導力を発揮するときです(…).先週の金曜よりも,この月曜の方がマシになっています.金曜の状況は支持できるものではありませんでした.」 [1]

本当に?

サミュエルソンや当時の多くのケインジアンたちにとって,〔当時のインフレの〕大半は賃金プッシュ型インフレだった.さて,ぼくだったら当時どう言ったでしょう?――「賃金・物価統制はミクロ経済政策としてもマクロ経済政策としてもよくない.」 サミュエルソンは,これにいくらかでも似てる発言をしなかった.1971年10月に,サミュエルソンはこう主張している――ドルの金兌換停止と賃金・物価統制を含むニクソンの NEP[New Economic Policy; 新経済政策]は「必要」だったし,賃金・物価統制は予想よりもうまくいっている.[2]

1971年10月に,サミュエルソンはこうも主張している――FRB はマネーサプライの増加が続くにまかせるべきだ.そうすることで,ベトナム戦争にえんえんとアメリカが関与することで誘発される流動性危機のリスクをどうにか回避するべきだ(なんですと?? ブレトンウッズ体制崩壊を恐れていたんだったら,発行するお金を減らすべきでしょ.ブレトンウッズ体制を終わらせるのがいいと考えていたのなら話は別だけど).大統領による「指標」で物価インフレ率を4パーセントから3パーセントに下げるのがのぞましいと,サミュエルソンは言った.他方,明示的な賃金・物価統制は,好まなかった.そこまでの「急を要する」状況ではないというのが,その理由だった.賃金・物価統制にサミュエルソンが反対していたと言っても,この程度だ――よくいっても生ぬるいし,原則として反対しているわけではない.これは,かつての立場と矛盾している.それに,もっと広範に貨幣経済学の理解がおそまつなのも露呈している.景気拡大期にマネーサプライ増加を継続しつつ大統領による「指標」を示して物価インフレ率を下げようっていうのは,単純に間違った見解だ.

1974年に書かれた文章でも,かつてと同じようにサミュエルソンはこう主張している――当時のインフレはコストプッシュ型インフレであってマネーサプライに後押しされたものではなかった.さらに,完全雇用と物価安定は両立しないとも断定している(証拠もなしに).1971年の文章では,完全に間違った刮目すべき断定をしている: 「(…)アメリカの人口と生産性が伸びているなかで,失業率を一定して高い水準に維持するには4パーセントの実質成長率が必要だ.」[3]

本当に?

つまり,サミュエルソンのモデルはすっかり間違っていたわけだ.もっと一般的に言えば,Newsweek に連載された当時のサミュエルソンのコラムでは,基礎になっているモデルが健全なわけでもないのに,大して謙虚にもならず,繰り返し,教条的かつ恣意的にマクロ経済の各種変数をくさしている.

たしかにミルトン・フリードマンはマネーサプライについて過度に単純化しすぎた見解をもっていた.それは,多くの人たちが批判しているとおりだし,スコット・サムナーも追認してくれるだろう.でも,マクロ経済学者としてのフリードマンは,ポール・サミュエルソンよりも,はるかに,はるかに先を行っていた.

フリードマンが登場する前のマクロがどれほどダメだったか,お忘れなく.


[1] Los Angeles Times については,Hiltzi (1994) 参照.また,右も参照されたい: “Questions and Answers: Paul A. Samuelson,” Newsweek, October 4, 1971. また,ABC News での発言は,Nelson (2020, volume 2, p.267) を参照.

[2] “Questions and Answers: Paul A. Samuelson,” Newsweek, October 4, 1971 を参照.

[3] Paul Samuelson, “Coping with Stagflation” Newsweek, August 19, 1974 を参照.また,1971年の発言は右を参照: “How the Slump Looks to Three Experts” Newsweek, Oct.18, 1971. 4パーセントの主張については,Paul A. Samuelson, “Nixon Economics,” Newsweek, August 2, 1971 を参照.


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